氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

26.アーシリアと大闘祭

外では王女の誕生日だとかでたくさんの店が値引きをしていた。
その中でひときわ目立つのは武具店である。

「へい、いらっしゃいいらっしゃぁい!今ならなんと、6000ガント引きだよぉ!」

ガントとはこの世界の硬貨の名前である。
1ガントは日本円でいうと10円である。
そして普通の武器は約9000ガントである。
つまり、だ。
半額以上である!!
これはこれは物凄い特価である!

さあさあ、みんな!トゥーリス王国に寄っといでー!
今ならとってもいい武器が安く買えるチャンス!
異世界人も大歓迎!
さぁ、この機会にやばいくらいかっちょいい武器を手に入れてみては?

「まぁ、僕にはが【彼女】がいるからいいんだけどね…。」

エレミヤは誰にも聞かれずにこう呟いた。
彼の膝の上には小さい氷蓮がいて、エレミヤに撫でられている。

『くぅぅ……。』

氷蓮はあまりの気持ちよさにウトウトし始め、犬の様な声さえ漏らした。

『ねぇ、エレミヤ。エレミヤには【彼女】がいるからこんなところからサッサとおさらばできるのになんでしないのさ?ふぁぁぁあ…。』

エレミヤは、その疑問にちょっと首を傾げた。
そして

「だって…。逃げるためにここ壊したら修理代請求されるかもしれないし。」

至極真っ当な答えを言った。

「それに、師匠のこともあったからね。ここから逃げ出す気力がなくなったのさ。」

エレミヤは氷蓮を撫でる手を止めた。

『エレミヤ…。』

氷蓮は口では心配そうに言っているが、体ではもっと撫でて!と言っている様に尾でエレミヤの腕をぺしぺしと叩いている。

〔はーあ。ばーかばーか。エレミヤのばぁーーか。〕

突然ルティーエスのため息が聞こえたかと思えば、猛烈な馬鹿コールを食らったエレミヤはむすっと明らかに不機嫌になった。

「むっ。なにか言いたいことがあるなら、"馬鹿"じゃなくてもっと多くの単語を使って話してよ。」
〔なら、馬鹿。アホ。間抜け。クソ野郎。う○こ。〕
「むぅっ!王子様はそんなことを口にしちゃいけません!特に最後のは!」
〔なんでさ?クソ野郎。〕
「……もう絶交。」
〔ふふふ、エレミヤの反応は面白いなぁ!〕

エレミヤをからかいながら面白がってるルティーエス。

「…ルティーエスってさ、実は性格悪いよね?否定は許さないよ。」
〔ははは!酷ーい!〕

エレミヤは氷蓮以外誰もいないのにふん、と顔を逸らす。
周りから見たら変な子だろう。おまけに独り言ばかりつぶやいているし。

「ルティーエスの馬鹿。嫌い。」
〔私は好きだぞ?〕
「…………………………………………あそ。」
〔はははははははは!〕

大笑いのルティーエスともっと不機嫌になったエレミヤ。

その時だった。
外から大声が聞こえてきたのだ。

「セファリア王女殿下誕生日パーティーの醍醐味!大闘祭っだぁぁぁぁぁあ!」

その大声にエレミヤは飛び上がった。

「だ、大闘会?!なにそれ!」

その答えは氷蓮とルティーエスが持っていた。

『あれれ?エレミヤ知らない?大闘祭。文字通り戦う大会だよ。』
〔異世界風体育祭の様なものだ。〕
 「へぇ…。」
〔『…ねぇ、出ようとしてる?』〕

エレミヤは窓から外をまじまじと眺めた。
珍しく争いに関心を持ち始めたエレミヤに氷蓮とルティーエスは聞く。

「うっ…。」

図星のようだ。
エレミヤは不貞腐れたように顔を逸した。

「だって、その方が脱出できる可能性が上がるでしょ?決してずっとここに居て退屈だとか、鬱憤を晴らしたいとかそういう事じゃないから!」
〔『……はぁ…。』〕

エレミヤは早口でそう言い、氷蓮とルティーエスはため息をつく。

二人はため息を付きつつ、小さく笑う。

『でもまぁ、いいんじゃない?』
〔うん。聞いてみたら?〕

エレミヤはうん。と頷き、
ゆっくり立ち上がり、外を見る。

「優勝者にはあの!この、祓魔剣アーシリアが贈呈されます!」

ピク、とエレミヤの眉が上がった。
エレミヤの内にあるアーシリアが反応する。

その司会者が言う祓魔剣アーシリアとはアーシリアの姉妹剣である魔剣ダリアであるのだ。

エレミヤの目が据わる。

(大丈夫だよ、アーシリア。君のダリアをあんなやつに渡さないから)

すると、アーシリアは収まった。

ふぅ、とエレミアは肩を落とし、ダリアを見る。

彼女は見るからになんの変哲もない大剣だが、エレミヤから見るにとても焦っているように見え、姉に訴えているように見えた。

(助けて、お姉ちゃん!)

と。

エレミヤはゆっくり立ち上がると、突然アーシリアを生み出した。
氷蓮は彼女を見て息を呑んだ。

〘いつ見てもアーシリアは美しいな…。〙

よそが聞いたら告白の言葉に聞こえそうなセリフを氷蓮は思った。

しかし、確かにアーシリアは美しい。
片手でしか持てないような長さの柄の先端にはサファイアのように青いリボンがたなびいており、その鍔はあまりいくつか宝石がついているだけで、あまり飾りはない。
その巨大な刃は露骨であるが、紙のように薄い。

エレミヤは窓を開けたと思ったらそんなアーシリアを突然窓に向かって放り投げた。

『はぁ?!エレミヤぁ?!』
〔ヴァカ!何やってんだ、エレミヤのBAKA!〕

二人の抗議をエレミヤはサラリと受け流す。

「馬鹿にも色んなバリエーションがあるんだな。ルティーエス。」

そして当然、同じ剣が頭上から降ってきたのを見て観客達は目をみはる。 

「?なんだ?アーシリアが、二振り?」
「どっから降ってきた?」

そして、それを来賓席にいるジリアスも見た。

(エレミヤのバカ野郎、なぁに剣ぶん投げてんだ!)

ジリアスは心の中で頭を抱える。

もちろん、エレミヤは己の師匠であるジリアスのことなぞ知る由もなく。
エレミヤは窓から飛び降りた。

「ふぅ。久々の外の空気はやっぱり美味し……くもないか。ココ、汗臭いし。」

エレミヤは呟く。
そして来賓席にいる王様とジリアスを見る。

「鉄格子嵌めてでもしなきゃ僕は監禁できませんよ。だって、あの部屋から地面の距離なんて、訓練のときのより短いですからね。」

エレミヤは勝ち誇ったように笑う。

観客達はまた降ってきたものを見て目を瞬かせ、同時に上を見る。

そこには窓の開いてる様子が見えた。
それは6階。
普通の人間なら自殺に用いることもできる高さである。

「僕も参戦したいです。良いですよね?」

エレミヤは二人に確認をとった。
ふっ、と笑い、王様は呆れたように言う。

「駄目だ、と言っても強行手段に出るのが君だろ?」

エレミヤは当然のように頷いた。

「はい。鬱憤溜まってるので。」

エレミヤは自分でさっき否定した理由を今度は肯定した。

王は困った。 
なぜなら、この国は温和な国として人気がある。
なので、そんな国で人質が囚われているとしたら困るからだ。
先程、エレミヤは"監禁"とはっきり言ってしまった。
なので、言い訳の種類は限られる…。
よし!
エレミヤの中に咄嗟に入った氷蓮がエレミヤの自白の言葉に笑い転げ、ルティーエスがうるさい!と言いながらエレミヤの中で氷蓮の首を絞めてるとはいざ知らず、王様は司会者にこう言った。

「彼は我が国で預かってる他の国のものでね。ちょうどいいから彼も混ぜてやってくれ。」

なるほど。つまり人質か。
可哀想に…。
どこの国だ? 
あの髪の色なんて見たことないぞ。
イケメンねぇ。どっかの国の王子様なのかしら?
パパー。私、あの子と結婚したーい!

ガヤガヤと観客の中から声が漏れる。

お分かりいただけただろうか。
この国、トゥーリス王国の王は言い訳が破滅的に下手なのだ。

氷蓮が更に爆笑し始め、笑いを必死にこらえているルティーエスが氷蓮のことを責められなくなっている。

そして戸惑いながらも大闘祭が始まった。
エレミヤは遠いの国からの来客人質なので、来賓席で丁重に扱わなければ逃げられないように見張らなければならなくなった。

来賓席に入ると、

「エレミヤぁー!この、バカチン!」

ジリアスの叫び声と拳が降ってきた。 
 
「わぁぁ!」

とっさに体が動き、避けるエレミヤ。

「なんですか!それ、遠い国からの人質来客にすることですか、師匠!」
「なぁにが来客だ!おめーが俺を師匠って呼んでる時点で来客な訳がないんだよ!」
「なんですとぉ!まずは僕を攫ったこの国が悪いんでしょう!そうしなければ、僕と師匠は出会うことはなかったのですから!」
「うおっほん。」

ギャンギャン昔のような言い合いをしていると、後ろから懐かしい咳払いが聞こえた。

「ロンガットさん!」

ロンガットは優しく笑う。

「お久しぶりです。エレミヤさま。ご無事で何よりです。」

エレミヤは嬉しそうに走りだそうとしたが、周りの警備の兵士が緊張し始めた。
エレミヤがロンガットに襲わないか模索しているのだろう。
エレミヤはその緊張を感じ取り、足を止めた。

「えっと、またお会いできて、光栄です!」

なるべくこの国の人に近づかないようにしよう。
エレミヤはそう決めた。

するとロンガットが歩き出し、彼からエレミヤに近づいてきた。 
そして、優しくエレミヤを腕に包み込んだ。

「ロ、ロンガット殿!あやつはログラーツのものですぞ!そうたやすく触るなど…。」
「黙れ。」

ロンガットは例を見ないほど鋭く言い放った。

「し、しかし…。」

ロンガットは兵士に冷たい瞳を向けた。
ビクッと、震え上がった兵士を見るとエレミヤを見る。
その瞳はエレミヤを見た瞬間、優しくほころんだ。

「エレミヤさまはそんなことをしない。例え敵でも、情けをかけるお方だ。それに…。エレミヤさまはログラーツの王子である前にシノハナの『氷花の鬼神』であらされるお方だからな。」

エレミヤは何故か目頭が熱くなるのを感じた。

(あ…れ…?何か、目から液体が…。)

そう現実逃避してみたが、それは紛れもない涙であった。

(全く、なんて最近の僕は涙脆いんだろう…。)

エレミヤはロンガットの胸の中で啜り泣いた。

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