氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

23.決心

エレミヤはトゥーリス王国にいた。
彼は王宮の一室にて監禁されていた。

「元気にしてるかな…皆…。」

トゥーリス王国によるログラーツ王国への襲撃から約3週間が経っていた。
エレミヤはあれから外へ一度も出ていない。
少し寂しいが、致し方ない。
ジリアスとも全然会っていないし、それに彼と会うのは少し怖い。
それに、面談も要求してこない。
ジリアスに関してはもう半分諦めている部分がある。
エレミヤはため息をつく。
そして異能力を封印する首輪を触れる。
そしてわざわざ声に出しながら言う。

「氷蓮、ごめんね。辛い思いさせちゃって。」
『い、いいのだ!気にしなくていいのだよ!エレミヤが決めたことは正しいことであるからな!』 

氷蓮は明るく振る舞っているが、力を抑制されているせいで声に疲労が見える。

『しかし、エレミヤも偉くなったな!初めて会った頃はもっと覇気が少なかったからね!こんなひ弱な少年でびっくりしたのだ!』
「何だそれは。まるで僕が弱っちかったと言ってるみたいじゃないか。」
『言ってるみたいじゃなくて、言ってるの。』
「でも、あの頃よりは勇敢になったんじゃないか?僕。」
『さーねー。』
「…はぁ、つまんなーい。なんならフィボナッチ数列1000個覚えたほうが楽だわ。」
『ふぃぼ…ち……?なんだそれは。異世界のものか?』

氷蓮が本当に混乱し、この質問に答えたのはルティーエスだった。

〔そうだよ、ヒョウレン。フィボナッチ数列とは前の2項を足したら、次の項になる数列のことだよ。〕
『?意味がわかんないぞ、ルティーエス。』
〔ヒョウレンは数字は知ってる?〕
『…我を馬鹿にないでほしいな。数字くらい、知ってるよ!1、2、3、4、5、6、7、8、9、10』
〔ははは。ごめんね。じゃあ、数列って知ってるかい?〕
『……………。』
〔はい、知らないね。数列っていうのは、文字通り数字の列のこと。フィボナッチ数列というのは自然界によく出てくる数列なんだよ。主に21, 34, 55の3つが出てくるね。初めから1,1,2,3、5、8…って続くんだけど、この数列は前の数字とその前の数字を足した数字が次の数字になるんだ。〕
『ふむ。ならば、その後、13、21、34と続くわけか?』
〔そう!当たりだよ!さっすが最強の魔獣!〕
『ふふん、簡単だね!』
〔数列も分かんなかったくせに。〕
『う、うるさい!氷漬けにするぞ!ルティーエス!』
〔え?私を氷漬けにするということはエレミヤを氷漬けにするってことかい?〕
『………っ!お、覚えてろーっ!』
〔はっはー!いくら最強の龍といえど、主への思いに勝るものはないんだな。〕
『それはエレミヤのことであって、お前のことじゃないんだからな!』
「こらこら。やめな、二人とも。」

エレミヤは苦笑いしながら二人を諌める。

『そうだ!エレミヤはどっちの味方なのか?』
〔当然、私の味方だよな!な、エレミヤ!〕
「え?え?!」

突然の問いにエレミヤは困る。
だって、エレミヤは両方の味方なのだ。
氷蓮はかけがえのないパートナーだし、ルティーエスはかけがえのない友達だ。

エレミヤは周りからみたら独り言を言っているように見えるだろうが、口に出しての会話をやめなかった。

「僕は二人の味方だよ。これしか答えはないなぁ。」

そういうと二人は不満そうな声を出したが、すぐため息をついた。

『全く、エレミヤはいつもこうであるよな。』
〔たまには本音を出してほしいなぁ。〕

エレミヤは彼らの言葉に苦笑いする。
なぜなら、これは紛れもない、本音だったからだ。
そしてエレミヤは不意に窓から外を眺める。

「ありがとう。二人のおかげで、寂しさで泣かずに済むよ。」

煌々と光る太陽の近くに不思議な色をした月があった。
それは今、水色の光を放っていた。

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「本っ当に、ごめんなさい!」

ログラーツ王国にて。
バラックはミイロとユユリアに頭を下げていた。
ジュリバークは今、取り憑かれたように稽古に励んでいる。

「バ、バラックくん、大丈夫だよ!バラックくんのせいじゃないよ!」
「みーねーちゃんの言うとおり!バラックにーちゃんは悪くないの!元々はお兄ちゃんを拉致したトゥーリス王国が悪いんだから!」
「でも、でも!俺が抱きついてでもあいつを止めていれば……。くそっ!」
「バラックくん…。」

ミイロとユユリアはバラックに顔を上げてもらおうと必死になっていたが、バラックは悔しそうに顔を歪め、頭を上げようとしない。

「バラックおにーちゃん!頭上げなきゃ頭踏むよ!」

ユユリアがバラックに一喝した。
バラックはゆっくりと頭を上げた。
その前には仁王立ちしたユユリアがいる。
その目は真剣そのものでまだ幼女のものではないように見えた。

「ユユリア殿…。でも…。でも…!」

バラックは拳を握る。
ユユリアはバラックのおでこに全力のデコピンを食らわせる。

「ったぁ?!」

ユユリアはふん、と鼻息を吐くとこう叫んだ。

「仮にも王子だろ、しっかりしろーっ!」

ユユリアは尻尾を鞭のようにピシリ、と床に叩きつける。

「……。でも、王子として出来ることが、俺には分からない…!」

ユユリアは、はぁぁぁと大きく息を吐いたあと、

「バラックにーちゃんは何がしたいの?お兄ちゃんが連れ去られて、どうしたいの!」

ユユリアはバラックに問いかける。
バラックはユユリアの問いに即答する。

「そ、そりゃ、助けたいさ!」

ユユリアはニッコリと笑い、バラックの視線に己の視線を合わせる。

「ならさ、助けようよ!みんなでさ、パパも合わせて!パパはね、お兄ちゃんを助けるために訓練してるんだから!」

バラックは驚きに目を広げる。

(助ける…なんて簡単に行くわけない。相手は王族…。俺の父上だぞ?!)

しかし、ユユリアの目は決心に満ちていて、轟々と燃えていた。
ミイロも当然のように頷く。
バラックは彼女たちの目に導かれるように立ち上がる。

(確かに、助けるなんて、簡単に行くわけない。でも!こう悩んでいたら、いつまでも助けられない…。あいつが不幸になっちまう!)

バラックは小さく息を吐く。

「よし……。助けよう。俺とミイロ殿、ユユリア殿、そしてジュリバーク殿の4人で!」

拳を作り、叫ぶバラックにミイロとユユリアは嬉しそうに笑う。

「「おう!」」

その声は訓練するジュリバークまで聞こえており、ジュリバークは薄く笑う。

「おう!」

彼は一人で叫ぶように言う。

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