氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

16.刺客の再来

某国にて。

「何?!ルティーエス・ロガーツが、生きていただと?!」

暗闇の中でたった二本の蝋燭を灯している部屋で怒鳴り声が聞こえる。

「はっ!しかし、私どもとしても死亡していることは何度も確認しましたのですが、何故か生きているようです………。」
「くっ…私自身も確認した……。仕方ない、追手を指し向けろ!ルティーエスは動きが鈍い。今度こそれ。」
「「はっ!!」」

その瞬間、蝋燭の明かりが消えた。
そして2つの気配が南へ向かって飛んでいく。

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誘拐され、何日か経ったエレミヤとミイロは王宮を抜け出して路地裏を疾駆していた。

「ちょっと、まっくん、まずいよ……。これは…。」
「大丈夫だ。みぃは安心して。」
「で、でも………。」

ミイロはエレミヤを見た。
その額には汗が滲んでいる。
そしてエレミヤは草原に出たときに足を止めた。

「…よし!ここだ!」

エレミヤが上を見た。
そして頭上を指差す。

「…ほら。」

ミイロは首を傾げつつ、上を見る。

「わ、わぁ!何これ、何これ!宝石の欠片が散らばってるみたい!」

星。
エレミヤも異世界に来るまではこんなにたくさんの星を見たことはなかった。

「すっっごく綺麗……。」

エレミヤは頷く。
そして二人はながい間空を見上げていた。

「この他にも目的はあるんだけど……。」

険しい顔になるエレミヤ。
ミイロはエレミヤの顔を覗き込む。

「まっくん?どしたの?」

エレミヤは後ろに冷たい視線を投げかけた。
そこには一つの気配がある。

「僕、ここを見つけてからずっとここに通ってたけど、…いつも付いてくるんだ。あいつ。」

ミイロは優しく笑った。

「護衛の人じゃないの?考え過ぎだよ。」

しかし、エレミヤは苦々しく笑う。
「でもね、その護衛の騎士がなかなか帰ってこないんだって。だから捜索したんだけどね、全員大怪我の状態で発見されたんだ。何者かに襲撃されたらしくて。」

ミイロは警戒心を顕にし始めた。

「………だから、まっくんがその襲撃者の討伐を頼まれたの?」
「あぁ。」

エレミヤは立ち上がり、叫ぶ。

「ちょっと鬱憤溜まってるから最初から本気出していくよ。」

と。
エレミヤはうっすら笑った。

「行くよ、氷蓮!」
【うん!】

しかし、ミイロがエレミヤの腕の裾を握った。

「駄目だよ、まっくん!」

ミイロは泣きそうに言う。

「何で仮にも王子のまっくんがこんな危険な仕事をしなきゃいけないの?王様って表では孫好きを演じてるけど、裏ではやばい人かもしれないんだよ、私、あの人信用できない!」

エレミヤはミイロに頷いた。

「そうだね…。でもさ、僕も早く師匠のところに帰りたいんだ。だから言うことを聞いておく。こうしたほうが帰れる確率上がるでしょ?」

ミイロはまた何か言おうとしたが、ぐっと口をつぐむ。

「分かった。なら、私もやる。」

と言いながらミイロは呟く。

「おいで。」

するとミイロの手の中に美麗な弓と矢が現れた。 
聖弓せいきゅうレジュリアート。
主を己の意思で定め、強い力を与えるというトンデモな武器だ。
勇者になるにあたって、ガーフマインと共にもらった伝説の武器。

「…分かった。」

エレミヤはミイロの弓使いとしての腕前は一番知っているつもりだ。
なので安心して背中を任せることができる。
エレミヤは薄ら笑いを浮かべながら刺客を見る。
その目は驚きと混乱に揺れている。

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(なんでだ……。)

刺客は震えていた。

(本当にあのルティーエスなのか…?雰囲気と、殺気が全然違うぞ………。)

目の前の少年は手を掲げた。
そして笑みを深める。

「何怖じ気づいてるのですか?僕を狙っているのならきちんと戦ってくださいよ。僕は今、物凄く怒ってます。なので容赦はしませんのでそのつもりで。」

少年が、嫌味を言ってくるが、

(いや、落ち着け。俺。)

刺客は落ち着きを取り戻していた。

(あれから10年も経ってるんだ。子供なんて性格の一つや2つは変わるものだ。)

少年は、ナイフを抜き取りつつ構えた刺客を見て頷いた。

「行きますよ。」

そう言う少年。
しかし、その少年の手には何も握られていない。
刺客はその様子に目を細めた。
(武器を持たない、だと?馬鹿にしやがって。)
しかし、刺客はその後に起きた出来事に目を丸くすることになる。
少年は手のひらに氷で作られた球を出現させたのだ。
刺客は息を呑む。

(異能力…だと?!そんな…そんな化け物に俺が勝てるわけ無い!)

刺客は完全に逃げ腰になった。
しかし、ぐっと歯を食いしばった。

(でも…俺は名誉ある騎士団の一人。ここで逃げるわけには行かない!)

少年は強張った顔をしているコチラとは正反対に穏やかな笑みを浮かべてる。
そして手にもった氷の球を軽くポンポン上に投げてからこちらに無言で投げつけた。

(ぐっ……!速い!)

なんとか避けることに成功した刺客。
彼はあのとき自分が殺したはずの少年を見て冷や汗を流した。
少年はこちらを見て口を開く。

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エレミヤは試しに投げつけた氷球ひょうきゅうを慌てて避けた刺客を見て眉を動かした。

(へぇ、やるな。この人…。)

自分の投げた球を避けられたのはこれで4回目だ。
エレミヤはすぅと息を吸い、口を開く。

「みぃ。」

一言。
するとエレミヤの後ろから矢が神速のスピードで放たれた。
その矢はエレミヤの耳の横のすれすれの場所を通り、刺客の肩を貫いた。

「ぐあっ!」

呻く刺客にエレミヤは追撃するため、氷蓮にこう命じる。

氷海ひょうかい……。」

さぁぁぁと水が敷かれ、エレミヤと刺客の脚を濡らす。
そしてエレミヤは高らかに叫ぶ。

ばく!」

氷の蔓が刺客を捕らえようとする。
しかし、
パリン……と儚い音を立て氷が砕け散った。
刺客は腕に何か仕込んでいたのだろうか、彼がぶんと振り回した腕はやけに重たく、あまり割れることのないエレミヤの氷を破壊したのだ。
刺客は微笑んでる。
エレミ刺客はヤは少し驚いた様子で目を少し見開いている。
そして初めて口を開け、声を出す。

「……反撃かい……っっグッ?!」

反撃開始と言いたかったのだろうか。
破壊された氷の蔓はすぐに修復され、刺客の身体を捕えた。

「な…!!」

刺客は傷ついた体でなんとかナイフを握り直し、破壊しようと試みる。
が、その氷は先程の石ころのような硬さが嘘のように鉄、またはそれ以上の硬さになっていた。
藻掻く彼にエレミヤは近寄っていく。

「あなた、なかなか筋がありますね。どうです?僕のところに来ません?」

こう言いながら。
刺客はその魅力的な言葉に目を泳がせたが、すぐ思い直してエレミヤを睨みつけた。

「誰が貴様なんかの…ぐぁっ!」
エレミヤのすぐ横をまた何本か矢が通った。
その矢は四肢や肺に突き刺さる。

「まっくんの悪口を言うなら私を倒してからにして。」

エレミヤは後ろを見た。ミイロが刺客を睨みつけている。
相当怒ってる。
勇者である彼女の力は凄まじい。
なので、その華奢な身体から溢れる勇者としての威厳と射手としての残酷さ、そして一人の女の子としての深く底が見えない愛情が感じられた。
エレミヤは男としては長い白の髪の毛を払う。
ミイロはエレミヤをうっとりと眺めていた。

「なら仕方ありません。王宮に連れて帰ります。」

刺客は悔しそうに顔を歪めていたがぎゅっと目を硬く瞑り、深呼吸した後、目を開いた。
刺客はニヤリと笑うとこちらを睨みつけ、かと思うと大声でこう叫ぶ。

「神よ、血に塗れるこの男に死という祝福を!!!」

エレミヤは彼がしようとしている事を知り、目を見開き、刺客に向かって手を伸ばす。
刺客はその口に仕込んでいたの隠しナイフで己のなんとか届く距離にあった右手首を斬り飛ばした。
血が噴水のように吹き出て、地面を濡らす。
エレミヤは咄嗟にミイロの元へ戻り、その光景から隠すように彼女を覆う。

そして顔を真っ青にしているミイロの体を抱きながらエレミヤは悔しそうに顔を歪めた。

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