氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

15.故郷と居場所と友達

「あれ……?」

いつの間に眠っていたのだろう。 
ゆっくり身体を起こす。
しかし、思ったように体が動かせない。
体が重い。
身体中に鎖が巻き付いているような……。
ちらりと自分の体を見る。
実際に鎖が巻き付いている。
それに、どうやらまだ幼いらしいが。
どうやら牢に入っているようだ。
こつ…こつ…。とブーツが床を打つ音が聞こえてきた。

「ルティーエス・ロガーツか。」

エレミヤ……否、ルティーエスは顔を上げる。
そこには、何故かいつもより若い王様がいた。

「何故ここにいるか、分かるな?」

分からないよ。なぜ、僕はここに居るの…?

「お前は人質だ。それを自覚して行動をしろ。ルティーエス。」

エレミヤじゃない、エレミヤと同じ声が、ルティーエスから漏れる。

「嫌だ、嫌だよ!帰してよ!父様のところに帰してよ!」

王様はルティーエスを見る。
その目はひどく冷たく、矢のように鋭かった。

(知らない…。僕の知る王様は暖かくて、優しくて、穏やかだった…。)

「黙れ。犬みたいに吠えるな。鬱陶しい。」

ルティーエスの身体が震えた。

「私は…私は…。」

知らずのうちに涙が流れる。

「騒がないのなら大層なもてなしはしてやる。」

王様はそう言うとクル、と踵を返す。
そして王様ご見えなくなり、足音も聞こえなくなったとき…。
ルティーエスは独り言のように言う。

「聞いているか?私に宿りし者よ。」

エレミヤは驚きつつ

「なんだ?ルティーエス。」

と答えた。なんとなく答えなければいけない気がしたのだ。
ルティーエスはそっと己の胸に手を当てた。

「君の前の人生はどうであったか?」

エレミヤはえっ…と言ったあと正直に答えた。

「僕は…ずっといじめられてて、病弱で……。女子の幼馴染に守ってもらうようなひ弱な男だった……。」

ルティーエスは薄く笑い、言った。

「そうか………。お前は私のような人生は生きるなよ。人に裏切られ、裏切り…。そんな苦しい人生は生きる価値はない。私の体で楽しく生きてくれ。私のせいで色々波乱はあるかもしれないが。このときは私を恨め。お前にはそのような権利はある。」

エレミヤは目を見開いた。
この人は僕と似ている。
それは
顔も、昔と似ているらしい。性格も…。
しかし、エレミヤと違うのは考え方だろう。
エレミヤは己を守る考え方を持つ。ルティーエスは己を犠牲にする考え方を持つ。

❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅

エレミヤは絞り出すように呟く。

「…お前は…凄いよ。どうしてそんな考え方ができるのかわからないよ……。僕はやっぱり醜いやつなのかな…。」

しかし、ルティーエスはエレミヤと同じ声で優しく語りかける。

「そんなことない。エレミヤは優しい人だ。この世の中には平気で人を傷つけるものもいるんだ。彼らと比べたら、君はいい人だ。」

ルティーエスはニッコリ笑う。

「それに、私はエレミヤが好きだ。優しいのにそれが当然だと思ってる君が。大切なもののために全力を尽くす君が。だからさ、自身持ってよ。」

エレミヤはうつむく。
肩を落とし、ポロポロと涙を流す。
ルティーエスはそれに気づき、エレミヤと共有している右手で涙を優しく拭う。

「僕は、前世でもそうだった。君の体に入る前から卑怯だった。いつも病弱を良いことにしてみぃ…深色に押し付けていた。みぃに守ってもらってたのに…。馬鹿だよな、僕って。どうして、どうして………。」

ルティーエスはエレミヤを抱きしめるように己の体に腕を巻きつける。

「全く、お前って奴は…とことん自分に自信がないんだな。」

この言葉にエレミヤは涙ぐみながら頷く。

「そう…かな…。僕は最低な人間だからさ、自分を過信しちゃってもっと堕ちるのが嫌なのかもね。」
「まったくもう。私の慰めが全く効かないとは。」

そう言い、ため息をつくルティーエス。
そしてそっと胸に手を当て、目を瞑る。

「あぁ、もうそろそろ起きる時間だ。現実を見ろ。そして見極めろ。お前がいるべき場所を…な。」
「居るべき…場所…。待って、どういう事!」

ルティーエスはエレミヤと同じ顔で笑う。
なのにその目からはエレミヤが流している涙があった。
エレミヤがどんどんルティーエスから引き剥がされるような感覚に陥った。

「じゃあね。エレミヤ。私によろしく。」

エレミヤは必死にルティーエスに手を伸ばす。

「まっ……、ルティーエス!」

最後の叫びがやけに生々しく響いたことに驚き、エレミヤは目を開ける。
その目には涙が浮かび、流れていく。

「ここは…。」

周りを見渡す。
隣に人の感触。ミイロだ。

「あ…れ…?」

知らない場所。
エレミヤの部屋でもない、シノハナの休憩室でもない、学校の救護室でもない。
ここは…。
混乱するエレミヤに話しかけた人がいた。

「起きましたか。」

そこにいる人を見、エレミヤは目を見開く。

「ニーガンさん…。何が……あ!」

思い出した。
今日、エレミヤと学校に行くのが初めて(記憶の中では)のミイロは学校を満喫して帰ろうとしたのだ。
その時だった。

「エレミヤ・ロガーツさんですか?」

楽しそうに学校の話題で盛り上がるエレミヤとミイロに声をかけた人がいた。
その人がニーガンだった。

「はい。そうですけど…。ってあれ、異能力者筆頭のニーガンさん…あ、会ったことあったっけ…?」

すれ違っただけだっけ?
真剣に悩んでいるエレミヤの後ろに気配が現れる。反射的に避けようとしたが、改めて思い直してミイロに覆いかぶさるように庇ったのだ。
そして、ぴりっと首筋に痛みが走った直後、そのまま、意識が…。

「ニーガンさん。異能力者筆頭であるあなたが人攫いとは。笑えない冗談ですよ。」

するとニーガンは眉を上げ、意外そうにエレミヤを見る。

「本当に記憶喪失なのですねぇ。」

エレミヤはニーガンをにらみつける。

「…何が言いたいのです?」

ニーガンはニヤリと笑う。

「ご自分で確かめられては?殿。」

エレミヤはニーガンを睨みつけながら唸る。

「殿下…ですって?僕が?ありえない。冗談もほどほどにしてくださいよ。………氷漬けにされたくなければ。」

ニーガンは何が面白いのかピュウと口笛を鳴らした。

「それが、本当なんですよ。…では陛下、お入りください。」

その時だった。
ガン!という爆音とともにドアが開いた。

「ニーガン!この私を待たせるとはどういうことだ!」

白髪のお爺さんだ。服はすごく豪華だし、頭にはごってごての王冠をつけている。
どうやらぷりぷり怒っているらしい。
ゴロゴロと雷鳴のような声を高ぶらせ、嵐真っ只中の空模様のようだ。
録音して流せば大抵の人は雷鳴だと思うのではないか。
目を丸くしているエレミヤを見ておじさん…いや、王様はふわり、と笑う。

(え?!)

「ルティーエスーっ!我が孫よーっ!」
「え、えぇっ?!」

エレミヤは混乱し、エレミヤの中のルティーエスがため息をつく。

〔ごめんね、この人、僕の爺様。僕は爺様って呼んでるんだけど。重度の孫好き。ここは記憶がない、で通したほうがいいよ。〕

わ、わかった…。っていうか、王族なのかよ、ルティーエス!
心の中でそう返しながらエレミヤは自然体そのままで通す。

「す、すみませんが、どちら様で…?僕とあなたはどのような関係なのですか?」

そう聞くと、王様はパチパチと目を瞬かせたあと、精神的ショックを受けたらしく崩れ落ちる。

「ふぁっ?!」

エレミヤが驚きで変な声を出すと同時に王様は蚊の鳴く声で呟く。

「…孫に忘れられてる………。」

エレミヤは慌ててフォローした。

「ぼ、僕は5歳以前の記憶が無いんです!」

と。そうしたら王様が目を剥き、

「なんだと?!誰だ、誰にやられたのだ?!トゥーリス王国の奴か?くそ、こうなったらトゥーリス王国に戦争仕掛け……」
「わぁーっ!だ、駄目です!」

そしてそこでエレミヤは大切なことに気づく。
というか、ここ、どこ?

〔ここはログラーツ王国。この国のお偉いさんと他国の凄い偉い人しか知らない正式名称は聖ロガーツ王国。…僕の祖国だ。位置はトゥーリス王国の下。つまり、南方にある。〕

エレミヤはその補足を聞いて、目を見開く。
だと?
ならば僕(本当はルティーエスだけど)がこの国出身、というか王族ってことがバレバレではないか!

(師匠は、僕が嫌いだったの…?)

エレミヤは絶望に駆られた。

(師匠は僕を手放したかったの?本当の僕の国に追い返したかったの?)

エレミヤは下を見る。目を見開き、震えているそんなエレミヤに王様は言う。

「ルティーエス?どうした?具合でも悪いか?」

その言葉にエレミヤは首を横に振る。

「ちょっと色々あって驚いちゃって。…一人にしてもらえませんか?」

王様はゆっくり頷いた。
そして去ろうとする王様に声をかける。

「あの!」

王様は首をこちらに向ける。

「…僕、エレミヤです。ルティーエスって名前じゃありません。」

王様は瞬きしたあと、深く頷いた。

「ルティーエスとはお前の真の名だ。しかし、お前が我らに馴染むまではエレミヤと呼ぼう。」

エレミヤは小さく頷いた。
隣ではミイロがスースー眠っている。
朝に弱いミイロはこういうときでも眠れるらしい。
パタン、とドアが締まり、足音が遠ざかっていく。

「僕は…僕は…。エレミヤ・……ロガーツ。師匠が…僕にくれた、大事な…名…前…。」
〔…エレミヤ…。〕

ルティーエスが気遣いの気持ちがこもった言葉を発する。

「な…のに……。僕…の名前…は………師匠から僕を…引き剥がした……。僕は…僕は…。シノハナ隊員、氷のエレミヤ。エレミヤ・ロガーツ……。エレミヤ……ロ…ロガー……。」 

そこまで考えたあとエレミヤは震えだすと同時に頭を抱え、絶叫した。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

自分の居場所がどんどん崩れ落ちていく感覚に陥り、思わずベッドをを強く握りしめる。
そして、エレミヤはミイロの隣の枕に顔を押し当て、涙が枯れるまで泣き続けた。

❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅

トゥーリス王国某酒屋にて。

「なんだと?!エレミヤがログラーツに誘拐された?!」

ジリアスはがん、とテーブルを殴り立ち上がる。
その前には王の側近、フェニシア・ファナーウェルがいた。

「落ち着いてください。ミスターガルゴス。我々はエレミヤ・ロガーツ奪還作戦をすでに開始しています。」
「落ち着いてらんねぇよ!エレミヤは王の孫だ。酷い待遇は受けないはずだ。だが…エレミヤがもし、敵側に回ったら?……何らかの方法で己の名字の意味を知ってしまったら?!」

御免だ。
あのエレミヤと戦うなんて、俺はできねぇっ!何なら俺は死を選ぶ!

「っていうか、どこで情報が出回った!外では情報統制を敷いていたのだ!ありえん…。」

フェニシアは淡々とその答えを言った。

「…内通者がいる、ということですね。」

ジリアスは顔を歪める。

「考えたくはないが、それが一番最適だろう。」

シーンとジリアスたち以外誰もいない店に一人少年が入ってきた。

「ジリアス殿!エレミヤが攫われたとはどういうことだ!」
「バラック…いや、ジュレーク様…。」

ジリアスが彼の名を呼ぶ。
彼の後ろにはバラックの従兄弟であったはずのバロークが居る。その腰には剣が下がっている。

「…第2王子様。落ち着いてください。」

フェニシアがバラック、又は第2王子ジュレーク・トゥーリスは血相を変えて怒鳴る。

「また友達をなくすなんて嫌だ、ルティー…、ルティーエスが消えて、今度はエレが消えちゃうなんて!」

それに!とエレミヤは拳を握りしめる。

「あいつ…エレミヤが氷花の鬼神ってどういうことだよ?!なんで俺に教えてくれなかったのさ!」

その事にはジリアスは黙るしかない。
バラックはギリッと歯を食いしばり、手を強く握る。

「エレミヤっ…ルティーエス……。」

バラックは唸るようにいい、
くるりと足をドアの方に向け、歩き出す。

「殿下…まさか、ログラーツ王国にっ…!エレミヤがあそこを選ぶ可能性は高すぎる。行っても無駄足ですぞ!」

ジリアスが叫ぶ。
バラックは怒鳴り返す。

「なんで!そんなことが分かるんだよ!エレミヤにとって俺はただの友達だ、だから師匠がであるお前のほうが分かるっていうのか!」

ジリアスは食いかかる。

「いえ、そんなことは申していません!確かにルティーエス様のことをこの国で一番理解しているのはあなたでしょう!しかし、彼はエレミヤです!ルティーエス様とは似ても似つかぬ性格の持ち主のエレミヤですぞ!エレミヤは常に己の居場所を探しています。その彼が!本当の家族を見つけたらそこを自分の居場所と定めるに決まってるでしょう!」

バラックは泣きそうになりながら聞いていた。
ルティーエスはエレミヤじゃない。エレミヤはルティーエスじゃない。分かってる…分かってる…。

「そんなこと、分かってる…だったら!友達だからでいいじゃないか!友達だから会いに来ましたって、そう言えばいいじゃないか!俺はあいつが好きだ、いっつもくよくよ迷ってばっかりで他人思いすぎて失うことを何より恐れてるあいつだけど!俺は、エレミヤの友達なんだ!ルティーエスも、エレミヤも!俺の友達なんだ!」

バラックは走り出す。

「ジュレーク様!」

バロークが追いかけてくる。
酒屋に残ったジリアスとフェニシアはお互い顔を見合わせ、

「………俺の負けだな。」

とジリアスが呟く。
フェニシアは珍しく笑顔を浮かべ、

「あなたの負けですね。ミスターガルゴス。」

ジリアスは清々しく笑う。

❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅

「はぁ…はぁ…。」

バラックは実家、つまり王宮の前に居た。
そして少し見渡したあと門番に気づかれぬよう入っていく。
バロークもそれに習う。

(本当にいいんですか、ジュレーク様!忍び込んじゃって!)

バラックはつん、とそっけない口調でコソコソと呟く。

(いいし。俺の家だし。)

そして二人はさっと茂みに入る。
すると門番2人がお互い顔を見合わせ、くすりと笑う。 

(ジュレーク様か。)
(あぁ。バローク殿もいらっしゃったな。)
(まぁ、報告面倒だし。)
(このままにしとくか。)

門番が、こんな会話をしているとも知らずバラックは木に上ったり、塀の上を伝って歩いたりとなかなか手慣れた様子で3階にある自分の部屋へ戻った。
そこでバラックはバロークに命令する。

「お前もここで寝ろ。俺が許可する。」
「はっ!」

とバロークが返事をし、床で寝ようとする。
バラックは

「こら!せめてソファで寝ろ!」

と声を上げる。
バロークは心配そうにしながらも頷き、ソファに上がる。
そしてバラックはベッドに寝転がる。

「おやすみ。」
「はい。おやすみなさいませ。」

バロークが挨拶を返す。
そして、目を閉じる。

ヒュウヒュウと風の鳴る音がする。
バラックはその音により目覚めた。
そしてバラックは目を見開く。

「うわ!なんだ、ここは!」

バラックは叫んだ。
そこは砂漠であった。
風が吹くと砂が舞い上がる。

「ごほ、ごほっ!」

バラックは反射的に袖で口を覆い、目に入ってくる砂を涙で流しながら歩き出す。
すると、声が聞こえた。

『力を求める少年よ…。我と契約しろ…』
「え…?」

すると目の前の砂の山がバッと舞い上がり、その中から茶色の狼が現れた。
そしてその砂がバラックにダイレクトにかかった。

「ぶっ……。」
『ん?あ、悪い悪い。かかってしもうた。』

バラックは砂まみれで狼を睨みつける。

「…で、俺と契約ってどういうことさ。誘拐犯?」

狼はショックを受けたらしく、裏返った声で否定する。

『誘拐じゃない!吾輩わがはいは大地の魔獣、茶狼さろうだ。』

バラックは目を見開いた。
魔獣。
茶狼。
茶狼とは大地を操る魔獣で、氷竜と肩を並べる強さを持つ狼のことだ。
それが…俺と…!

「待て、と言うことはエレミヤに自慢でき…いや、エレミヤと同じ力を持つことができるのか?!」
『左様。』

茶狼は嬉しそうに肯定する。
なのでバラックは先程の質問に即答する。

「わかった、契約する!俺にとっての不利は無いからな。俺はジュ…いや、バラックだ!よろしくな。」

バラックはわざと偽名を名乗った。
それは目の前にいる狼が不信なのでは無く、単にバラックと呼ばれたいだけである。
すると突然、茶狼は嬉しそうに咆哮する。
バラックは少し驚いたが、笑う。
すると茶狼はバラックの顔を見るなり、彼の前にお座りしてもじもじする。

(喜怒哀楽が激しいやつだ。)

とバラックは内心ため息をつく。

『あのだな、バラック。そ、その…な…な…。』

口籠る狼にバラックは首を傾げる。

『名前を…つけてほしいのだよ。』

バラックは驚いた。
魔獣とは基本的に名を嫌う。
名は力を与えるが人間に飼われているといった感情を持つからである。
しかし…茶狼はそっぽ向き、

『親友の氷龍がな、ヒョウレンって名を与えられたことにものすごく自慢してくるのだ。吾輩も…ヒョウレンに自慢したい………。』

駄目?と言う感情の乗った目でこちらを見てくる茶狼をバラックは暫く呆れ、眺めたあとふつふつとお腹の奥から笑いがこみ上げてきた。

「ははははははははは!!そ、そうかそうか!よし、いいだろう!」

突然笑い出したバラックに茶狼は驚いた様子だったが、後半を聞いて嬉しそうに飛び跳ね、遠吠えを上げたりした。
バラックは茶狼をよしよしと撫でながら考える。

「うーん……。なにがいっかな…。エレミヤならすぐ考えつきそうなんだけどな…。」

そしていろいろなものを脳裏に浮かべる。
茶色…砂…大地…。
うーん…。
大地…世界そのもの…。支えるもの…。踏みしめるもの…。大事なもの…。大事なものといえば…友達…。友達は…エレミヤ、ルティーエス…。
あ!そうだ!

「エスヤ、どうだ!俺の友達のエレミヤとルティーエスの最後の文字からとった名前だ。」

茶狼は嬉しそうにぴょんぴょん兎のように飛び跳ねた。

『吾輩はエスヤであーるっ!!ガオーっ!』 

あまりの喜びようにバラックは面白そうに笑った。


そして、

「…ん?あ、そっか……」

バラックは起きた。
ふっかふかなベッドで寝転がってたバラック。

「バロークは…もう起きてるか。」

ソファで寝ていたバロークが居ない。
もう戻ったのか…?
そう考えた時だった。

『おはようございます!吾輩、今朝も元気ーっ!』

とバラックの中から大声が聞こえた。
その声にバラックは驚き、ふらつく。

「お、おはよ…エスヤ。」
『うむ!ご機嫌麗しゅう、バラック!』
「あぁ。」
『後だな、吾輩と話すときは吾輩がいる所を脳裏に浮かべて話すのだ。出来るか?』
「え、え〜と…。」

バラックは悪戦苦闘した。

【こ、これでいいかい?あー、あー。きーこーえーてーるー?】
『き、聞こえておるからそんなに騒がないで…。』
【あ、御免。】

そしめバラックとエスヤはともに笑いあった。

こうしてバラックも異能力者となった。
後に世界に名を轟かせることになるバラック・ラーノルド。
そして彼は王となる。

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