氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

14.ロガーツの意味

「おらーっ、敵ぃーっ!」

ジリアスはものすごいスピードで、敵に詰め寄り、戦いが始まった。と、思われたが……。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

ジリアスは逃走していた。
それも全力で。
彼の後を追いかけていたのは…。

「待て!ジリアスーっ!」

説明しよう。
実は襲撃者と思しき人はトゥーリス国の異能力者のトップであった、ということだったのだ!
その恐ろしい訳とは…。

「よくも年齢偽ってたなーっ!貴様!」
「バレたぁーっ!」

二人はあちこち駆け回り、終いには生徒たちが勉強している校舎の中に入ってきた。
そして、
ドタバタドタバタ。ガッシャーン、パリーン。シーン…。
かけっこを続けていたジリアスたちは高級花瓶に手を当ててしまい、花瓶は落下。
ジリアスたちはあまりの惨劇に呆けてしまった。
そして二人は証拠隠滅のため、そそくさと帰っていった。
エレミヤは後に敵と思しき方の正体とその訳、そして花瓶を壊してしまった、という事実を聞いてそれはそれは鬼神のように怒り、ジリアスを氷漬けにしたという。
しかし、その当日は最強異能力者の雷は落ちず、代わりに凄腕執事の雷が落ちたのだった。

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「ただいま、みぃ!」
エレミヤはなんか色々ありすぎた学校から家に戻っていた。

(師匠帰ってこなかったし。急いで帰ってきたら何故か師匠いるし。全く…。断酒一ヶ月伸ばそうかな…?)

エレミヤの部屋のベッドにはすっかり顔色良くした眼帯姿のミイロがいた。

「あ、まっくんだ!おかえり〜。」

にっこり微笑むミイロ。
エレミヤも笑い返し、

「どうだった?学校。」

エレミヤは苦笑いを浮かべる。

「……色々あって面白かったよ………。」

なんか突然ティナが現れたり、師匠が乱入してきたり、敵が突入してきたり。
ちなみにその敵さんはジリアスがやっつけたらしい(後に聞かされたが、それは嘘である)。
ミイロもクスッと笑い、 

「そうなんだ…。まぁ、日本の学校とは違う学校生活を楽しんでね。」
「あぁ!」

エレミヤはミイロを眺める。
もう会えないと思っていた幼馴染。

(やっぱり僕は、死んでよかったのかな…。)

真龍の魂はエレミヤの体の中でそう思った。

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「まっくん!明日は私も学校行くからね!」 

ミイロは学校を楽しみにしているようだ。
エレミヤは小さく頷く。 

「まっくんの友達に早く会いたいなぁ。」

と言いながらベッドから降りるミイロ。

「それに、私の記憶の中に学校の記憶、ないからね。」

エレミヤはうん、と頷く。
そしてミイロはエレミヤの手を握る。

「もうそろそろご飯だよ!ロンガットさんのご飯って美味しいよね!」

エレミヤの手を引き、下へ降りて行こうとする。が、エレミヤは一階で起きている嵐に気づいているため、その手を止める。

「そうだね!でも、今は行かないほうがいいよ!」
「なんで?」

キョトンとするミイロにエレミヤは懇切丁寧に説明する。

「今日、師匠がやらかしてね、お仕置き中。」

ミイロはあぁ…と声を出し、

「そっか……。」

ミイロは居候先の主を助ける選択より、安全な場所でやり過ごす選択をした。

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「ほぅ…。エレミヤ・ロガーツか。」

某国にて。
王宮の謁見の間に雷が轟くような低い声が流れた。
その声の持ち主は王。
そして、その前に彼に跪くものが一人。
ニーガン・フェルスタイン。
トゥーリス王国の異能力者筆頭。
そして…トゥーリス王国に派遣されたスパイ。

「これは…調べる必要があるな。」

王の声がまた発せられた。
王は玉座から立ち上がり、高い天井を見上げる。
そこにはこの世界の地図が描かれている。
その大半を占める大国、トゥーリス王国。
その南方に二番目に大きな国土を誇る国が一つ。
その王国の名は…ログラーツ王国。
誰も知らない真の国名を……。
聖ロガーツ王国である。

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「ほら、みぃ!学校遅れるよ!」
「うーん…。にゃ。」

エレミヤはミイロを必死に起こしていた。
ミイロは朝に弱い。
学校も遅刻、又はギリギリセーフ登校常連客であった。
それで生徒につけられたあだ名は、

最後の一人ラスト・ワン!」

エレミヤがその名を叫ぶとミイロはガバッと起き上がり、日本語で叫ぶ。

「それはやめてーっ!」

エレミヤは起きたミイロにこう呼びかける。

「学校!!!!」

ミイロは寝ぼけているのか

「はっ!そうだった!今日私日直だ!」

と言い始めた。

異世界ここに日直なんて制度はないから!」
「そうだっけー?」

寝癖の付いている頭が左に傾げられた。
エレミヤはミイロに外を見せた。
もちろん、そこは普通の日常だ。
しかし、日本人にとってはあり得ないものばかりだ。なのでこれで気づくはず……。
ミイロはしばらくその様子を眺めていたが、ハッと目が覚めた。

「そうだった!ここ、異世界だった!」

 そしてミイロはエレミヤをエレミヤの部屋の外に追い出し、着替え始めた。

(ここ、僕の部屋なんだけどな…。)

エレミヤはそう思ったが、エレミヤとしてもミイロと一緒に居れるのは嬉しい限り……。

(待て待て、変なことじゃないぞ!そんなことじゃないからな!)

心の中で一人で言い訳をしつつ、ミイロを待つ。
そして5分が、過ぎた時だった。

「終わったよ!」

そこに戦闘服のような制服を着たミイロがドアを開けてきた。
エレミヤは以前、壊れたミイロの制服姿を見ていた。
しかし、顔とかは全く同じなのに普通のミイロの方が、よっぽど可愛い。
エレミヤは嬉しそうに笑って正直に言う。

「可愛い。」

するとミイロは嬉しそうに笑った。

「うん!」

そして二人は手を繋ぎ、一階へ降りていった。

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「おはよ、エレミヤ!」
「おはよう、ティナ。」

エレミヤとミイロの二人は学校の前に居た。
そこにティナが話しかけてきた。
ミイロはもじもじしながら軽くお辞儀した。
ティナは眼帯をつけているミイロを見て、首を傾げる。

「ミイロ・オノハラだっけ?その目、どした?」

ミイロはははは…と笑い、エレミヤが代わりに答えた。

「事故があったんだ。」

テレビやラジオがないこの世界。
みんなが知らないことがどこで起こっていても不思議ではない。
そのため、ティナはすぐ納得した。

「ふぅん。なるほどね。…大丈夫?」

ティナは珍しく心配そうにミイロを見た。
ミイロははにかみながら頷く。

「…なんか、入学式の時と雰囲気違うわね…。」

ティナが呟く。
エレミヤはティナの言葉に苦笑いをする。

「色々あったんで…。」

エレミヤの言葉にティナは、疑いの目を向ける。

「色々…ねぇ。あんた、オノハラに何か、変なこと、してないでしょうねぇ?」

エレミヤは顔を真っ赤にして

「するわけ無いだろ、ティナの馬鹿!」

ティナは疑いの目を向けている。
ミイロは慌ててエレミヤの仲裁に入る。

「本当に何もされてませんから!大丈夫です、ティナさん!」

ティナはミイロの言葉を聞いて、

「…分かったわ。本人が言ってるんだもの。ここは信じるわ。でも…」

ティナはエレミヤの耳に口を寄せ、呟く。

「他の女に手ぇ出したら許さねぇからな。」

エレミヤは顔を真っ青にした。
そしてティナはミイロの肩を押す。

「さぁ。早く行くよ!このままじゃ遅れるわ。」
「は、はい!」

エレミヤは彼女たちの後を追った。

(女性は男性より強い………。この理論はどの世界にも通用することだったのか!)
そう考えながら。

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ジリアス・ガルゴスは昨夜、執事に夜遅くまで怒られたのでこの日はすごい遅くまで寝ていた。
そこに風が吹く。
窓べりに人が一人。
その人はジリアスに向かってナイフを振り上げ…。
しかし、寝ているはずのジリアスはこの瞬間、目を開けた。

「おいおい、刺客さんよ。その程度の気配隠蔽で俺を暗殺できると思ったか?」

刺客はくっと呻き、窓べりから飛び降りた。
ジリアスはゆっくり立ち上がり、目を細めた。

「ログラーツの紋章…か。」

ジリアスは刺客の逃げるときちらりとに見えた手袋の紋章を思い浮かべていた。

「狙いはエレミヤだろうな…。いや、ルティーエス・ロガーツ…といったほうがいいか。」

ルティーエス・ロガーツ。
聖ロガーツ王国の第四王子。
わざわざジリアスがエレミヤにロガーツの名を与えたのはこの為であった。
捕虜になっていたルティーエス・ロガーツ。
彼の身柄は未だにこちらにあると示すため。
ジリアスはその目に苦しそうな色を浮かべた。

「エレミヤ………。お前が真実を知ったら…敵同士になるのか…?」
ジリアスは苦しそうに顔を歪めた。

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