氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

13.模擬戦

模擬戦が始まった。
模擬戦と言ってもいわゆる練習試合である。
なので木剣を使った戦いである。
トーナメント戦で次々と勝ち上がる人もいればすぐ負ける人も居る。
で、エレミヤはというと…。

「…最初にあんたとやるとはな。」 
「…あぁ。こうなるとはね…。」

エレミヤとティナはお互いに対峙して、不安な心を語り合う。

((大丈夫かな…。))

二人が心配しているのは実力がバレることである。

(下手に大技出したらバレるよね…。一応、曲がりなりにもシノハナ隊員だし。)

なかなか始めないエレミヤ達にジリアスはニヤニヤ顔で叫ぶ。

「おい!エレミヤ、ティナ!早く始めろ!」

二人はその上から目線のセリフにカチンと来たみたいで、一斉にジリアスを睨みつけ、

「「あなたが原因なんです!」」

と叫ぶ。
その言葉にジリアスはそっぽ向き、口笛を鳴らす。

「あんの…クソジジィ…。後悔させてやる。」
「師匠……。断酒一ヶ月延長ですね、これは。」

二人は頷き合い、敵ながらもお互いの手を握りしめ、ジリアスへの復讐を誓った。

「よし、そうと決まれば…。行くぞ!エレミヤぁ!」
「来い、ティナ!」

なんか燃えてんなー。とバラックが思うなか、二人は地を蹴る。
一般的な速度。そこに振るわれる剣戟も普通の速度である。
しかし、エレミヤとティナはその剣戟の中でありえない技術を使っていた。
つまり、"お手本通り過ぎる戦い"である。
剣の握り方、振る角度、速度。
すべてがお手本とされる一番有効な剣戟戦である。
バラックはその様子に目を見開き、呆然と眺める。
恐らく、このことに気付いたのはバラックだけであろう。

(エレミヤ…ティナ…。お前たちは…何者なんだ!)

エレミヤ達はその途中から笑みを浮かべていた。
エレミヤとティナはシノハナに入隊したときからともに訓練してきた仲である。
なので、この技術を用いての戦いは随分昔だったのだ。

(ティナ…。)
(エレミヤ…。)

二人は笑い合いながら剣を振り続ける。

((強くなったな!))

二人は鍔迫り合いに突入した。

「今度こそ…負けない…ぞ!」
「今回も…勝つよ!」

いつも負けてばっかりだったティナが不敵な笑みを浮かべ、足を払ってくる。
エレミヤは瞬時に気づき、ジャンプすることで回避した。
エレミヤはふぅ、と息を吐き、

「あっぶなかった…。」

そしてティナは吹き抜けの天井を見上げることで外を見る。まだ明るさに隠れている星を見、時間を読む。気づけばもう30分が経過していた。

(こりゃ、どう足掻いても俺が負けるな。)

ティナはそう確信した。
そしてエレミヤに笑いかけるとこう言う。

「やべ、もう時間だ。…お前が決めろ。エレミヤ。」

ティナはエレミヤに言う。
エレミヤは笑い、

「分かったよ。じゃ、行くぞ!」
「おう!」

二人は再び地を蹴る。

「りゃぁぁぁぁぁ!」

ティナが叫び、

「ふっ!」

エレミヤが鋭く言い放つ。
がん!と木剣がティナの手から離れ、エレミヤの木剣がティナの頭に落ちる前に軌道をずらされ、ティナの頭を逸れ、その勢いが急激に減速し、ティナの首元でピッタリ停止した。
ティナは手を上げ、笑う。

「負けました。」

エレミヤも頷き、会釈をする。 

「ありがとうございました。」

二人は笑い合い、顔を流れ落ちる汗を拭った。
ジリアスを見ると彼は頷き、拍手した。

「素晴らしい戦いだったぞ。エレミヤ、ティナ。」

二人はお互いの顔を見合わせ、嬉しそうに笑う。
しかし、その顔もすぐ凍りついた。

「な…んだ!これ!」

エレミヤが不意に叫んだ。 
みんながエレミヤの突然の大声に不思議に思う中、ティナもやっと気づいた。ジリアスはとっくに気づいていた。

「あぁ。なにか、巨大な殺気がこちらに近づいてくる。」

さっと生徒たちが青ざめる。
ジリアスはチラリと、その方向を見たあと、

「ちと、見てくっから待ってろ。」

と生徒たちに言った。
エレミヤはついて行こうとしたが、

「エレミヤも待ってろー。」

と言われた。エレミヤは何か反論しようとしたが、すごすご引き下がった。

「…絶対帰ってきてくださいよ。」

エレミヤが不満一杯という顔で言ってきた。

「あぁ。」

ジリアスはひらりと手を振りつつ歩き出す。
どんどん遠ざかっていく大きな背中を見てエレミヤは下を向いた。

「師匠のバカ………。」

小さく呟いた。

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「さぁて。どこのどいつだぁ?」

ジリアスは校門前に立っていた。
周りを見渡してみる。
殺気はここ周辺から出てる。間違いない。
だが…。

「わざと…か?」

殺気をわざと放出しているのか?となると、奴等の目的が気になるな…。
目的…。それらしいものは5つほど考えられる。
1つ、ジリアス・ガルゴスの抹殺。
2つ、エレミヤ・ロガーツの抹殺。
3つ、ティナ・ラウサークの抹殺。
この三人は世間から二つ名を頂いているほど強く、有名であるから有り得る。
炎の番人ジリアス”、"氷花の鬼神エレミヤ"、"風神の舞姫ティナ"。
この三人は世界の中でもやっていけるほどの力を持つ。

4つ、トゥーリス学園の壊滅
5つ、シノハナの壊滅
この2つはなんとしてでも避けなければならない。
このトゥーリス学園とシノハナはエレミヤが自分の居場所と認めている数少ない場所であるから。

「やってやろうじゃないか…。」

ジリアスは唇を歪ませ、笑みを作る。

「おし、弟子に模擬戦であんなもん見せられたんだ。俺だって師匠として負けてらんないよなぁ!」

ジリアスは殺気の出所に向かって疾走した。

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「師匠…。」

エレミヤは下を向いて肩を落としている。
ティナはエレミヤの肩を手を置き、

「大丈夫よ、エレミヤ。あのジリアス・ガルゴスよ。負けるわけないわ。」

ティナが女の子口調で語りかけた。
エレミヤは小さく頷くも、心配そうにしている。

「まだ模擬戦、終わってないんだから早く帰ってきてくださいよ…。」

エレミヤはさらに俯き、下唇を噛んだ。

「…………まだまだだな…僕。もっと強くならなきゃ…。」

エレミヤは空を見る。
その明るさの奥では真っ赤な炎の色の星がチカチカと輝き、寿命を迎えようとしていた。

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