氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

11.36/50

その日の夕方。

「おぅ、エレ!次、戦闘訓練だからはやく更衣室行こーぜー!」

元気にバラックがエレミヤに話しかけてきた。

「あ、うん!ちょっと待ってて…」 

と言いながらエレミヤは着替えを持ち上げ、早足でバラックのもとへと向かう。
着くとバラックはエレミヤにこう問いかけてきた。

「お前ってさ、試験、何番で通ったの?」

このトゥーリス学園では順位が発表されるのだ。
ちなみに最下位は50位。
エレミヤはうーん…と唸り、
実順位から30位も下げて答えた。

「36。」

試験では全然本気でやっていなく、筆記試験もわざと間違ったりしていたのだが、結局6位になってしまった。
その結果を見てエレミヤは頭を抱えたのだが。
バラックはエレミヤの答えを聞いて

「俺、38位!近いな!」
「あ、うん…そうだね…。」

嘘を言っているのでなんだか申し訳ない気持ちになる。

「なら、俺とお前って結構実力が近いってことでしょ?ならさ、今日の訓練、俺と組んでよ。」
「うん。もち…」

ろん、と言おうとしたが、後ろに何か威圧的なものを感じた。
後ろには……ティナがいた。
つまり、私と組めという、無言の威圧である。

「どした?エレ。」
「えと…その…。」
「?」

冷や汗をかくエレミヤに疑問の目を向ける。

「そ、そのー…。えと…。………。」 

口籠るエレミヤ。
彼の後からティナがしびれを切らしたように走ってきてエレミヤの肩に手を置く。

「ごめんなさい。バラックくん。エレミヤは私と組むの。そういう風に世界の規則がなってるのよ。」 
「君はどこまで自分が誇り高いの?」
「あら。悪い?」
「……。いつもといろいろ全然違うから落ち着かない。」

するとティナはエレミヤの耳に口をを近づけ、そう呟く。

「…また殴られたいか?エレミヤ。俺は相当我慢してるぞ。」
「…また口調戻…。なんでもない。」

さりげなく拳を握りしめるティナにエレミヤは前言撤回する。
ティナの拳の重さはジリアスお墨付きだ。
なので拳回避するためにエレミヤは咳払いし、言う。

「で、でもさ、今日はミイロが居ないんだし、どうせ奇数じゃん?だからさ、3人で組めばいいよ!」

その時だった。バラックもティナも首を傾げ、こう聞いてきた。

「「キスウ?」」

と。
今度はエレミヤが首を傾げているとルティーエスが教えてくれた。

〔この世界には硬貨の数え方はあっても算数や数学なんてないよ。私は君と一方的に記憶を共有している。だから私は分かるが。奇数が無いのなら偶数もなく、割り算、掛け算もない。気をつけろ。〕

え…そうなの?色々面倒だなぁ…。

〔面倒と思うのはお前しかいないさ。〕
あ、そう?

〔そうだとも。〕

ふぅん…。
ルティーエスと一通り話したあと、エレミヤは思案顔の二人を見た。

「キスウ……。人の名前かしら?」
「いや…そうしたら話が合わないな。」
「そうね…。」

あーでもないこーでもないと話している二人にエレミヤは話しかける。

「あのさ…。ティナ、バラック。」
「「何?」」

実はこの二人、気が合うのではないか。
そう思い始めるとともにエレミヤは話し出す。

「えと…。どうせなら3人で組まないか?って言いたかったんだ。深い意味はないよ。」
「「あぁ。そうなのか…。」」

やっぱり気が合うな。
エレミヤは友達ふたりが仲良くなってくれたことに嬉しさを感じた。
そしてエレミヤたちは和気あいあいと3人で更衣室へ向かい、男女で別れて着替えた。

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エレミヤとバラックは男子更衣室で着替えていた。

「なぁ。エレミヤ。」
「ん?なんだ?」

バラックは真顔でエレミヤにこう問いかけた。

「…お前、ルティーエスって名前に聞き覚えはないか?」

エレミヤは一瞬目を見開いたが、すぐ真顔へ戻った。
そしていつものように笑う。

「なぜ?僕は知らないよ。」

バラックはふぅんと頷き、

「……ルティーエスは俺の親友なんだ。でも、消えちゃったんだ。…お前は彼にすごく良く似ていた。…でも、雰囲気は全然違うけど。」

エレミヤはルティーエスの顔でこう言った。

「そうなんだ。誰かは知らないけど、ラックの親友なら良い人なんだろうな。」

バラックは嬉しそうに笑った。
エレミヤも笑い返し、戦闘服に腕を通した。

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「お、全員揃ったな。じゃ、始めるぞー。」
「「「「はーい!」」」」

楽しそうな声。
ティナは戦闘服を眺めてふん、とつまらなそうに鼻で笑った。
バラックはワクワクしたような様子で目をキラキラさせている。
エレミヤはバラックの様子を見て嬉しそうに笑う。

「あー…。みんなそんな期待の目で見ないでくれ。今日はお前らが期待している様な訓練はできないぞ。なぜなら全員まだヒョロヒョロだからな。」

皆がお互いの体をまじまじと眺め、女子は嫌そうに体を腕で覆った。
エレミヤの体をバラックは見て少し目を見開いた。
細見の体には引き締まった筋肉がついている。
制服を着てると一見華奢だが、この体の線が見えるその戦闘服ではその隠し持っていた筋肉はすぐ気づくものなのだ。
そのことにも気づかないエレミヤは非常に周りの目に鈍感なのだろう。
当にエレミヤはこちらを眺めているバラックを見て笑顔で首を傾げた。
そこに、バラックの後に一つの人影が。

「よぉ、従兄弟。」

バローク・ナルマン。
バラックは目を細めた。
嫌味を行ってくるつもりだろうか。

「…バローク。」

バラックがバロークの名前を呼ぶとバロークが目を釣り上げ、叫ぶ。

「バロークだろ!」

バロークはバラックを踏みつけようとする。
すると、バラックの前から氷のような殺気が放たれた。

「またあなたですか。もっと痛い目を見させないと駄目ですか?」

バロークはその声が聞こえた方向を見て顔を盛大に引つらせた。

「……………。ぃぇ。」
「なんですか?聞こえません。」
「いえ!もう十分ですっ!では!」

ひゅぅー、と音が付きそうな速さで走り去っていくバローク。
………何あったのだろうか。
バラックは考え込み、唸る。

なんで試験順位36位に18位が怖がるんだ?

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