氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

7.怒りのエレミヤ

エレミヤとゴルゴ達は開門前の学校の中にある闘技場で対峙していた。
侵入…したのではない。安心してほしい。
きちんと学長から許可はもらっている。

(いや〜、師匠と学長が知り合いで良かった!)

と思いつつ、 

「…では、始めましょうか。」

とゴルゴ達に言う。

「へ、負けたらここから去るんだぞ!俺様を怒らせた罰だ!」
「まぁ、良いでしょう。」 

エレミヤは頷きながらあえて相手が負けた場合の罰を考えずにいた。 

「ところで…」
「あん?」

エレミヤは薄く笑う。 

「シノハナに入隊したいということは、異能力者で間違いないですね?」
「あぁ!俺はな。しかしバローク達もな、必ず将来、異能力者になる!なにせ、俺の弟子だからな!」
「ふうん…」

エレミヤは氷蓮に話しかけた。

【皆は異能力、持ってないものなの?】
『うん!15歳で異能力者になるって事は、ほぼ事例はないぞ!ある人も稀にいるよ。エレミヤみたいにね。でも、普通は早くても25歳くらいかな。というか、普通の人には異能力なんて授けないよ!』
【へぇ…】

なら自分は強運であったのか、そう思った。
エレミヤは氷蓮にうなずきながら貴族様に顔を向ける。

「では、そちらからどうぞ。」

貴族らは剣を抜き、

「なめやがってぇぇぇぇ!」

と叫びながらビグローレが走ってきた。
(ほう、1人か。3人で来てもいいのに…) 

エレミヤは剣を抜かずにステップを踏み、避ける。そしてすれ違うと同時に剣を抜きつつ、剣の柄でビグローレの脇腹を突く。

「がっ!」

ビグローレは唸り、地面に倒れ、悶える。

「骨の一本くらいは折れたかもしれませんね。」

そしてエレミヤは残っている二人を見て、手招きする。

「…来ていいですよ。二人がかりでも歓迎します。」

額に青筋を浮かべる貴族達。

「それごときで僕を倒せると思わないでください。僕はまだまだですけど、あなた方はそれ以下です。それごときで異能力者になる?無理ですよ。最低、僕に勝てるようにならないと。」

余裕のていで語りかけるエレミヤにゴルゴ達は怒りを覚える。ゴルゴがエレミヤを睨みつけながら

「貴っ様ぁ…。」

と唸ったあと、

「バローク。能力を使うぞ!離れてろ!」
「え?!は、はい!」

慌てて後ろに飛んだバローク。
エレミヤはジリアスをちらと見る。
ジリアスは深くうなずいている。

「とうぞ。ご自由に。」

異能力はこの世界で最強の能力である。
それを使うとなると、大抵の人は怯え、逃げる。
しかし、エレミヤはそういう恐怖を感じなかった。
なぜなら、異能力者との戦いは日常茶飯事であり、慣れているからである。

「では、こちらも使わせてもらいますが。」
「なっ…。ま、まさかお前も…」

エレミヤは薄く笑った。

「えぇ。異能力者です。」

異能力者どうしの戦い。
これはこの場所が死地であるということを指す。
ゴルゴがにやりと笑い、手を掲げると、手のひらからバチバチと静電気が溢れる。
雷。それが彼の異能か。
エレミヤは無から水を呼び出す。
ゴルゴは水がエレミヤの能力であると考えただろう。
こういうふうに騙せるのが氷のいいところだ。
氷は水から出来ている。
それは常識だろう。
だが、この世界では、そのような常識は通用しない。
この世界では、と考えられているのだ。
エレミヤが地に薄く水を張る。
ついでにいうと、エレミヤの呼び出す水は高純度精製水。電気を通さない水である。
まぁ、その水を凍らせるのでその意味はないが。
そして、ゴルゴは遠慮なくエレミヤに雷を落とす。

「うらぁ!焼け死ねぇ!」

どぉん!と巨大な雷が晴れた空の雲から落ちた。それがエレミヤに直撃した。

「やったか!」
「さ、流石師匠っす!」

完全に人が耐えられない電流。その塊が雷である。
なので、ゴルゴ達は有頂天になっていた。
これで、やった、と。
しかし、

「あの〜…。焼け死ねって恐ろしいことを口にするのはやめましょうよ。」

雷が落ちて大爆発が起き、もうもうと埃が舞っている中、死んだはずの少年が出てきた。

「うっそぉ…。」

白い髪に青の目。
その華奢な体には傷一つ付いていなく、またその周りには、水ではなく、氷の破片が飛び散っていた。 

「こ…氷っ…!」

なんでだ。水ではなったのか。水からなぜ氷になるのだ!
それに…氷を使う魔獣など…一匹しか、いない!

「いや、結構威力あったね。ちょっと驚いた。氷蓮の氷でも、もうちょっと薄かったら砕けてたかも。」

独り言のように呟かれたそれは、ゴルゴ達に聞こえていた。

「でも、また雷使われちゃ困るから、ちょっと痛い目見せてあげましょう。」
「な…、な…や、やめろ!やめろ!!お、俺は男爵家、ジニア家の長男だぞ!」

必死の命乞いにエレミヤは困った顔をする。

「…いくら僕でも、同級生となるかもしれない人は殺せませんし…。あと、僕には権威とか、身分とかどうでもいいんです。愚者は位が高かろうが愚者。賢者は位が低ろうが賢者です。僕が賢者だとは言いませんが、あなた方は確実に愚者ですよ。」
「や、やめろ…。そ、そうだ!金、金ならいくらでもやるから!頼む…。見逃してくれぇ…。」

しかし、憤怒しているエレミヤは誰にも止められない。

「金なら十分に保有していますので要りませんし。…さぁ。行いきますよ。」
「ひ、ひぃ…!」

ゴルゴが異能力を使わないのは、いくら足掻いても無駄であると分かっているからであろう。

氷海ひょうかい…。ばく!」

すると、一斉に地に張っていた水が凍り、足の自由を奪う。
ドスンと尻もちをついたゴルゴとまだ呻いているビグローレ、そして後ろで呆然としていたバロークを、飛び出してきた氷の蔓でぐるぐる巻にされる。

「つ、強えぇ…」

エレミヤは笑顔で近寄ってきてゴルゴの前にしゃがんだ。

「どうです?のシノハナ隊員とやってみた感想は?」

「ほ…本物…の…?って言うことは…まさか…!」

エレミヤは笑顔で頷いた。

「僕は、もうシノハナで戦闘員として戦っていますよ。」

「え…。えぇぇぇぇぇぇえ?!?!」

間近で発生した思わぬ絶叫にエレミヤは思わず尻もちをつき、ジリアスはこうなるだろうと予測はしていたためすぐに耳を塞ぐことに成功した。

その時だった。
まるでその絶叫が合図とでもいうように門が開いた。
エレミヤは続々と入って来る受験生を見、氷の拘束を解いた。

「僕のことは決して口外しないように。いいですね?」

「「「は、はい!」」」

そしてエレミヤは全てを元通りにし、(闘技場のクレーターの件はどうしようもできなかった)素知らぬ顔で受験会場へ向かった。


「はぁー…。師匠、疲れました。」

帰りの馬車でゴトゴト揺られているエレミヤ達。
久しぶりに受験を経験したエレミヤはなんとも言えない疲労感を感じていた。

「お疲れさん。まぁ、お前のことだから受かってるとは思うが、受かってなかったら俺が推薦状出してやっから。」
「…受かっていなかったらもういいですよ…。今日みたいなことはもうゴメンです…。」
「いや、あれが普通じゃないから。あそこは俺の母校だぞ?」
「…そうなんですね。」
「あぁ。」

エレミヤはそこで口を閉ざし、馬車の外を見る。
外では貴族らしききれいに着飾っている男女が笑い合っている。

「…貴族…か…。」

ジリアス・ガルゴスは貴族だ。
しかし、その弟子、エレミヤ・ロガーツは平民である。
なぜ…師匠は自分と同じ名字を名乗ることを許してくれなかったのだろう。
まるで、ここは本当のお前の居場所ではないと言われている気がした。
しかし、それと同時にこの体の前の持ち主は誰なのか、どういう身分だったのか。
この体を返すべきでは、と思ったりもした。
だから…。
僕は…どうすればいいの…?
この身体の元の持ち主の記憶が覗ければそれより良いことはない。
しかし、出来ない。

この身体として生まれた少年はどういう子だったのだろうか。
なぜ…亡くなったのだろうか。

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