異世界クロスロード 勇者と呼ばれた者

アナザー

第16話 魔族の強さ

目の前ではガイストとマードックの変身が繰り広げられている。

・「変身中に斬り伏せたい所だが、、、
何か聞きたいことがあるんだろ?ビルド。」
 
・ビルド
「いつから、セイナ様が魔物だと分かった?」
 
・「誤解するな、魔物と分かってたわけじゃない。
ただ、避難所でのやり取りで違和感を感じてな。
スパイだと考えたときにその違和感が真実だと思えただけだ。
お前がハナと最後の調整をしている時にラッタと話してな、スパイの人数と誰が敵側なのか当たりを付けていた。
そこを逆に利用したってわけだ。」
 
・ビルド
「なんと、僅かしか会っていないのにそこまで。
恐ろしい男だ、、、所でラッタ、
いつから話せるように戻った?
最初の襲撃から話せなくなった筈。」
 
・ラッタ
「作戦実行前、裕樹さんと二人になった時ですね。
最初に村を攻撃された時に受けた呪いを、裕樹さんが魔法で解除してくれました。」
 
・ビルド
「そんな魔法まで使えるのか?
呪い解除など、教会の司祭しか出来ない筈なのに、
裕樹殿は教会関係者か?」
 
・「ちがう、そういう魔法が使えるだけだ。
さて、そろそろお喋りの時間は終わりだな。」
 
裕樹は敵の方を指さす。
そこには変身し終わったガイストが居た。
 
・ガイスト
「話は終わったか?わざわざ変身に付き合ってくれるとは思わなかったぞ。」
 
そういうとガイストの周りに展開していた魔力が消える、どうやら罠を張っていたらしい。
 
・「俺の国にはな、『変身中は手を出すな!』っていう漢のルールがあるんだよ。」
 
昔の特撮ヒーローとかでもそうだしな、何となく手が出しずらかった、、、
 
・ガイスト
「ほほぅ、お前は獣人国出身なのか?
妙なルールだが、共感できる所はある。
貴様の漢気、見せてもらったぞ!
全力で行かせてもらおう、死ぬがよい。」
 
あれま、無駄にやる気にさせたか?
獣人国にも特撮ヒーロー特有の暗黙の漢気ルールがあるのか。
案外馬鹿にできないルールなんだな。
等ど馬鹿な事を考えている間に敵の魔力は膨れ上がっていく。
 
・ビルド
「これ程とは、、、裕樹殿。
やはりガイストに人数を割くべきでは?」
 
・「いや、ガイストは俺が引き受けよう。
ラッタは合体マードック討伐にチェンジだ。
みんなの援護射撃を頼む。
お前たちは作戦通り合体マードックを倒してくれ。
では、頼んだぞ!」
 
・ハナ
「そんな、、、一人は無謀すぎる私も行くわ。」
 
・「いや、弱い方を全力で潰して援護の来てもらった方が勝率は上がる。
適当に時間を稼いでおくから、焦らずマードックを倒してくれ。
急ぎ過ぎて無茶するなよ?」
 
その一言を発した瞬間、俺は走り出す。
出来れば敵を寸断したいところだ、、、
ちょっと試してみるか。
 
・「ガイスト、お前の相手は俺だ。
向こうの広い所で戦わないか?先に行ってるぞ。」
 
相手の返事を待つことなくガイストの右側を抜ける。攻撃態勢に入っていたガイストだったが、俺の言葉に乗ったらしい。
 
・ガイスト
「一人で我と闘うというのか?
良いだろう、貴様の策に付き合ってやる。
どのみち、全員殺すのだからな。」
 
そう言いながら付いて来てくれた。
案外話の分かるやつだな、自信の表れか?
とにかくこれで敵の連携は潰せたな。
後は俺次第って事になる、まずは奴の癖を見抜かなきゃな、暫く走り、近くの平原まで来た。
 
・「この辺で良いかな?
付いて来た事には礼を言うぜ。」
 
俺の言葉に一瞬の戸惑いを見せるガイスト。
 
・ガイスト
「魔族の私にお礼とはな、変な人間だ。
変身中に襲ってこなかった人間はお前が初めてだ。
妙な気分だが、こちらからも礼で返してやろう。
裕樹と言ったな、初めから全力で行くぞ。」
 
ガイストの魔力が高まる、、、、
おっと、これやべぇな。
 
・「あんたスゲエな、こりゃ強いわけだ。
だがな、簡単にやられてやるわけにはいかん。」
 
俺も魔力を高める、魔力総量では向こうが上だな
さすがは魔族、だが付け入る隙ならあるはず、、、
 
・ガイスト
「いくぞ!」
 
『ダーク・フレイム』
 
黒い炎が地面から吹き上がり、
俺目掛けて迫ってくる。
 
・「黒い炎、闇属性の炎か?」
 
分析しつつ炎を避ける、追尾機能は無さそうだ。
不意に背後に殺気を感じ確認する前に横に飛ぶ。
その瞬間、妙な爆発音が襲ってくる。
 
・「うほぉ!」
 
横に避けた瞬間だった。
後ろから黒い炎の球が飛んできて着弾、
高威力だったのに炸裂しないで地面に穴が開く。
 
・「貫通性能を極端に上げた魔法の火球かな?
派手な魔法で気を引いて後ろから撃ち抜くか、成る程頭のキレるやつだ。」
 
・ガイスト
「今の攻撃を躱した事は褒めてやろう。
だが、次はどうかな?」
 
若干嬉しそうに話しながら魔法を放ってくる。
こりゃ厄介な敵だ、想像以上に強い。
だが、想定外ではない、
時間を稼ぎつつ避けながら分析だ。
 
・「なかなか厳しい攻めをしてくれやがって、指揮官は伊達じゃないて事か。」
 
俺は出来るだけ敵に話しかけつつ躱す。
少しだけ褒めるような発言を繰り返すんだ。
大きく褒めるな、違和感が出る。
小さく小さく、積み重ねろ。
怒涛の魔法を避けながら小さく褒める、、、
暫くはそんな攻防が続く。
 
・ガイスト
「良い動きだ、褒めてやろう。
では、これならどうだ!」
 
一瞬、魔法が途切れる。
大きい魔法が来る?
上手く立ち回れ!
 
・ガイスト
「消し飛ぶがいい!
死ね、裕樹。」
 
ご丁寧に俺の名まで読んでくれたな。
少しずつ褒めた甲斐があったってもんだ。
「消し飛べ」と言ったな、爆発系の魔法とみていいか?最初の魔法の火球と同じだが威力分配を爆発性能に振り分けた攻撃が来ると見た。
魔力コントロールが恐ろしいな、、、」
 
『ダーク・インフェルノ』
 
最初とは比べ物にならない程の魔力を感じる。
スピードは少し遅いが、想像以上に破壊力がありそうだ。やばい、避けるだけじゃだめだ離れろ!
しかし、炎の巨弾は追尾してくる。
 
・「あの魔力量で追尾機能ってマジかよ!
クッソやべぇ、逃げろぉぉ」
 
・ガイスト
「どんどん行くぞ!」
 
『ダーク・フレイム』
 
逃げる間も魔法攻撃が飛んでくる。
貫通火球も死角から襲い掛かってくる、
あいつ、魔力枯渇とか無いのかよ!
 
・ガイスト
「なかなかしぶとい奴だ。
ここまで我の攻撃を避け続けるとはな。
だが、ここまでだ!」
 
なんだ?
またガイストの魔力がまた高まっていく?
おいおい、マジかよ!
 
・ガイスト
「死ねぇぇぇぇ」
 
『ダーク・インフェルノ』
 
まさかの2発目の魔法が飛んで来る。
一発目が未だに俺を追いかけているってのに。
本格的にヤバイ、やばいやばいやばい!
 
・「くっそ、やるしかねぇ」
 
俺は剣気でインフェルノを斬り裂く、
しかしすぐに元に戻る。
 
・ガイスト
「ほぅ、斬撃を飛ばせるのか?
凄まじい剣技だな、しかしもう貴様は詰んだ。
ここまで魔法を出させた事、褒めてやるぞ!」
 
肩で息をしているガイストが俺に向けて叫ぶ。
完全に勝利宣言だ。
勝った気でいるな?当たり前か、この状況なら。
俺は逃げる方向を工夫してインフェルノ同士がぶつかる様に動く、しかし2つのインフェルノがぶつかって相殺するかと思ったら合体しやがった。
どういう仕組みだコラ!
 
・ガイスト
「色々と考えてるみたいだが無駄な事だ。
さぁ、これで終わりとしよう。」
 
さっきまで肩で息をしていたガイストにまた魔力が、、、まさか、、、
 
『ダーク、、、、インフェルノぉぉぉぉ』
 
3発目のインフェルノを放つ。
放った後、膝から崩れ落ちるガイスト。
流石に魔力が底をついたか?
なんて言ってる場合じゃない。
めちゃくちゃ焦る俺だったが、3発目のインフェルノは俺に飛んでこなかった。
 
・「くっそ、これだから策士ってのは嫌いだよ!」
 
3発目のインフェルノは俺の手前で着弾。
爆風で動けなくなった俺に2発分のインフェルノが襲い掛かる。
 
ドゴォォォン
 
、、、、、、
 
・ガイスト
「はぁはぁはぁ、
て、、手こずらせおって。
流石に、休まねば動けぬ、、、
村ではマードックが雑魚共を片づけている頃だろう、少し休んでから戻るか。」
 
しっかりと地面に座って休むガイスト
しかし、僅かな殺気を感じてその場を移動する。
刹那、3本の矢が地面に突き刺さる。
 
・ラッタ
「くっ、勘のいい奴。」
 
信じられない事に村にいた人間どもが目の前にいる、マードックがやられた?
 
・ガイスト
「少し、甘く見ていたみたいだな、、、
マードックはやられたのか?」
 
・ビルド
「ああ、倒してやった。
流石に苦戦したがな、、、
戦力をこちらに集中した裕樹の作戦勝ちだ」
 
・ハナ
「裕樹はどこ?」
 
・ガイスト
「そうか、マードックがやられたか。
素直に誉めてやろう。
しかし、我の力を見余った事には違いない。
残念だが、裕樹は跡形もなく消滅したぞ。」
 
巨大なクレーターを指さすガイスト。
ハナが走ってクレーターに向かう。
、、、何も残っていない。
 
・ハナ
「そんな、、、、裕樹。」
 
・ガイスト
「ここまで魔法を使わされるとは思わなかった。
裕樹か、、、覚えておこう。」
 
・ハンダ
「逃がすと思うか?
魔力を使い果たしたお前など我々が倒してやる。
裕樹殿の弔い合戦だ!」
 
武器を抜くハンダ、エイト、ラッタの3人。
ハナはクレーターを見つめて泣き崩れている。
 
・ガイスト
「マードックを倒したお前たちと、今の状態で戦うのは愚策。悪いが引かせてもらう」
 
ガイストが懐から拳大の水晶を取り出す。
そして握りつぶす。
すると水晶から煙があふれ出しガイストを包む。
 
・ガイスト
「人間、今回は我の負けを認めよう。
久しぶりに楽しい戦いであった。
褒美に教えてやろう。
『風穴同』の奥地に人質を隠した、我をここまで追い込んだ裕樹に感謝するんだな。
次は必ず手に入れて見せるぞ『魔神器・風殺弓』」
 
ラッタは矢を放つが、、、
既にそこにガイストの姿はなかった。
 
・ビルド
「くそ、逃げられた。
なんだあのアイテムは、消えやがったぞ。」
 
・ハンダ
「ビルドさん、今回は敵を退けたという事を喜びましょう。魔族が居たんだ、全員死んでいてもおかしくなかった。」
 
・エイト
「『風穴同』か、確か村の北にある洞窟だ。
人質と言ったな、急いで救出に向かう。
ハンダ、悪いが一緒に来てくれ。」
 
・ハンダ
「おう!じゃあビルドさん、こっちは任せた」
 
2人は走っていった。
 
・ハナ
「裕樹、、、、、裕樹、、、」
 
・ラッタ
「ハナさん、、、」
 
・ビルド
「裕樹殿、あなたはこうなると分かってて一人に?
我々の為に、自らを犠牲に、、、」
 
涙が止まらないハナ、慰めようとするラッタ。
裕樹の尊い犠牲を目の前に、ビルドも涙する。
 
・ビルド
「魔族をたった一人で退けたのだ、、、
彼こそ英雄、、、勇者だ!
私は忘れないぞ、裕樹殿」
 
・「おい、勝手に殺すな、、」
 
振り向くビルド、そこにはボロボロの裕樹が居た
 
・「いてててて、死ぬかと思った。」
 
裕樹が登場するや否や、ハナがもの凄い勢いで抱き着いてくる。
 
・ハナ
「裕樹!」
 
いつもの状態なら受け止められるのだが、
満身創痍な状態の今では受け止められず、
丁度タックルを食らったように吹っ飛ぶ。
そのまま2人はゴロゴロと地面を転がり、やがて
 
・ハナ
「死んじゃったかと思ったじゃない!バカっ!」
 
・「確かにやばかったが、死ぬわけないだろ。
こんな所でくたばってる訳にはいかないからな。」
 
ハナは裕樹にしがみ付いて暫く泣いていた。
裕樹は少し申し訳なさそうにハナに謝る。
ラッタもビルドも裕樹の無事を喜んでいた。
 
・ビルド
「しかし、魔族はお前が死んだと言っていたぞ?
どうなってるんだ?」
 
・「なに、簡単な事だよ。
あいつの魔法の威力を殺して受け止めただけだ。」
 
・ビルド
「受け止めた?」
 
・「ああ、丁度魔法で俺が死角になった時に内側の部分を斬りまくって消滅させたんだよ。
手数で細切れにしてやったが、、、
どうもデカすぎてね。
威力は殺せたが全部消し去れなくて、残りを見事に食らったというわけだ。」
 
・ラッタ
「魔法を切ったのですか?
そんな事出来るのですか?」
 
・「一回半分に斬ったら元に戻ったんだ、
だけど少しだけ魔力が減った気がしたから、やるだけやってみた。
そしたら修復するたびに魔力が減っていったからいけるかな?と思ってな。」
 
・ハナ
「無事で、本当に良かった、、、」
 
力強く裕樹に抱き着くハナ、
安堵のため息をするビルド。
 
・「正直、魔族を甘く見てた。
あれほど強いとはな、、、今の俺では勝てない。
逃げてくれたのは本当にラッキーだった。」
 
裕樹は魔族の強さに恐怖すら覚えていた。
今のままでは勝てない、その事だけは理解できた。
 
・「死なずに敵の力量を感じられたのは収穫だな。
もっと強くならなければ、、、」
 
裕樹は強く決心する。
自身を強くする目標を一番に考えて行動する事となる、この時から裕樹は強さを追い求めていく。
自分を守るため、愛する人を守るため。 
強さが必要だと胸に刻み込んだ。

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