【本編完結】ボクっ娘ロリババア吸血鬼とイチャイチャする話

田島はる

4-3 盲目な日々

 食堂に降りてくると、目の不自由なエレナに代わって朝食を準備する。幸いなことに、既にスープが用意されており、温めるだけで食べられるようになっていた。

 エレナの用意の良さに、心の中で感謝する。

 料理には自信がなかったので、正直助かった。

 夕食までに簡単な料理だけでもエレナに聞いておこう。

 そんなことを考えていると、すぐにスープが煮え立った。

 器によそうと、パンと一緒にエレナの元へ運んだ。

 エレナの前に置き、ふと考える。

 目が見えないのなら、食事も手伝った方が良いのではないだろうか。

 念の為エレナに尋ねると、是非そうしてくれとのことだったので、食事も手伝うことになった。

 スープを一口分すくう。
 ふぅふぅ、と息を吹きかけ、適温に冷ましてエレナの口へ運ぶ。しかし当の本人はポカンとしていた。

「え、エレナさん、口を開けてください」

 そこまで言われて、ようやく状況を把握したらしい。

 そしてイタズラを思いついた子供のように、にやりと口元を歪めた。

「こういう時には、もっとふさわしい言葉があると思うんだけどね」

 エレナの催促するところに気づき、テルミットが赤面した。

 エレナは、あの言葉を言えと言ってるのか。

 それでは、まるで恋人のようではないか。

「お腹が減ってしまったよ。早く食べさせておくれ」

 赤くなるテルミットをよそに、露骨にエレナが催促をする。

 そう来られると、テルミットとしては従わざるを得ない。たとえそれがエレナの策略であったとしても。

 意を決して、その言葉を告げた。

「あ、あーん」

 ぎこちなく口元へスプーンを運ぶ。

「あーん」

 噛み締めるように、ゆっくりと咀嚼する。やがて、エレナの小さな喉がこくりと動いた。

「不思議だね。テルに食べさせてもらうと、ただのスープなのに格別のご馳走に感じられるよ」

 微笑むエレナを見ていると、身体が熱くなる。

 テルミットが運んだスプーンをぎこちなく口の中に収め、小さな顎で味わうように咀嚼する。

 口の端からはわずかに汁が溢れそうになり、彫刻かと見まごう細やかな指先で拭う。

 その様子がどこか艶かしくて、目を奪われてしまう。

 ただエレナが食事をしているだけだというのに、不思議と鼓動が速くなる。

「……テル?」

 テルミットからの反応がなかったせいか、エレナが不安そうに声を漏らした。

「す、すみません。はい、あーん」

 我に帰ると、エレナの食事の手伝いを続けた。

 エレナの食事が終わると、今度はテルミットの食事を済ませなければならない。

 おかげで、朝食を終えるだけで、丸々午前中使ってしまった。それでも、エレナはどこかご機嫌な様子であった。





 夕食の準備を始める。夕食までの間にエレナから簡単な料理を教わった。
 とはいえ、初めてのことだ。どうしても不安は残る。

 テルミットの不安を察したのか、エレナが包丁を手にとった。

「こう見えて、包丁捌きには自信があるんだ。目が見えなくたって、問題ないよ」

 刃がキラリと輝く。テルミットはエレナが得意気に見せつけた包丁を取り上げた。

「危ないじゃないですか! 僕がやりますから、エレナさんは休んでいてください!」

 珍しく声を荒らげるテルミットに、一瞬面食らう。それでも、すぐにいつもの様子に戻り、

「心配いらないよ。ケガをしても、すぐに治るからね」

「そういう問題じゃありません! エレナさんが傷つくところは見たくありませんから!」

 普段とは打って変わってしっかりと主張する。頑なに包丁を渡そうとしないテルミットに、とうとうエレナは根負けした様子で両手を上げた。

「……わかったよ。そこまで言うのなら、テルに任せよう」

「ありがとうございます!」

「ところで、テルには口頭で料理を教えただけだけど、うまくできるのかい?」

「大丈夫です。できると信じていますから!」

 テルミットの言葉に一抹の不安を覚えながら、エレナは食事を待つことになった。

 そして、その不安は的中することとなる。

「どうぞ」

 テルミットが自作したスープをエレナの口へ運ぶ。

 口の中に入れた瞬間、エレナの顔が歪んだ。

「ど、どうでしょうか」

 テルミットが期待に満ちた声で尋ねる。

「…………」

 口に入れた瞬間に、エグみが広がる。味付けに問題があるような気もするし、それ以前の問題なのかもしれない。そして、おそらくはエレナが食べやすいようにと念入りに刻まれたであろう野菜には、触感というものがほとんど残っておらず、ペースト状に変化したそれは、食事というよりは──

 無粋な感想を追い出し、口の中のそれを飲み込む。

 ここは、正直に答えた方がよいのだろうか。
 だが、せっかくテルミットが作ってくれた料理だ。どうして不味いと言えようか。

 本人のためを思えば、率直な感想を述べた方が良いのかもしれない。
 しかし、期待に満ちた彼を裏切るようなことはできない。

 迷った末、エレナは精一杯の作り笑いを浮かべた。

「……うん、とても美味しいよ。実にツウ好みの味だね」

「それは良かったです! おかわりはまだまだありますから、遠慮なく食べてくださいね!」

 次々と口へ運ばれる料理を咀嚼する。

 心を無にしながら、目が治ったらまともな料理が作れるようなるまで鍛えようと固く誓った。





 食事を終えたら、風呂の時間だ。

 風呂の用意を終え、脱衣場でエレナと向かい合う。

 エレナが無防備に両手を広げ、すべてを受け入れる聖女のように優しく微笑んだ。

「それじゃあ、服を脱がせておくれ」

「わ、わかりました」

 服を着せる時に、だいたいの流れや洋服の構造は掴んだつもりだが、いざ脱がせるとなると、やはり緊張してしまう。

 不用意に触れてしまわないように、注意深く服に手をかける。

 袖のボタンを外す。布越しに伝わる仄かな体温。思わず抱き締めたい衝動に駆られてしまう。

 煩悩を振り払うべく、固く目を瞑り、できるだけエレナから身体を離した。

 理性と欲望が戦いながら脱がせているせいか、まるで作業が進まない。

 エレナが心配そうに声を漏らした。

「大丈夫かい? うまくいっていないようだけど」

「だ、大丈夫です。見てませんから!」

「目の見えないボクのお世話をするのがキミの役目なのに、キミまで目を瞑ってどうするんだい」

 呆れた様子で呟くエレナ。

 ブラウスのボタンをすべて外すことに成功すると、服を脱がせた。

 辺りに甘い香りが漂い、テルミットの鼻腔をくすぐる。

 エレナが恥ずかしそうに身体をくねらせた。

「すまない。少し汗をかいてしまったから、臭いかもしれない」

「いえいえいえ! そんなことありませんよ! どちらかというと、すごくいい匂いですよ!」

 全力で否定するテルミットに押され、エレナがわずかに期待が篭った目で見つめた。

「……本当かい?」

「もうずっと嗅いでいたいくらいですよ!」

「……ありがとう」

 頬を染め、もじもじとうつむく。

「……でも、恥ずかしいから、あまり嗅がないでくれると嬉しいな」

 珍しく羞恥に顔を染めるエレナ。身を守るように、自分の身体を抱き締めた。

 これ以上エレナを困らせるわけにはいかない。

 胸一杯に深呼吸したい衝動を堪え、ブラウスを脱がせる。

 ライトブルーのブラを身に着けただけの上半身に、普段通りスカートとタイツを履いた下半身。

 普段は見ることのできない姿に、背徳的な気分にさせられてしまう。

「そ、それじゃあ、次は上を脱がしますね」

 ブラを脱がせるとは言えず、どうしても迂遠な言い方になってしまう。

 エレナを抱き締めるような形で背中に腕を回してホックを外そうとして、ふと気がついてしまった。

 ホックを外すだけなら、わざわざ抱き締める必要などなかったのではないだらろうか。

 一度意識してしまうと、全身の感覚に意識が奪われてしまう。

 薄い布越しに伝わる柔らかな感触。理性を蝕む甘い香り。見た目は子供のような身体なのに、中身は一人前の女性のものであると思い知らされる。

 自分の鼓動が早くなっていくのがわかる。おそらく、密着しているエレナにも自分の鼓動は伝わっているだろう。

 テルミットの胸に顔を埋め、耳の先まで赤くしたエレナがぽつりと漏らした。

「……そんなにボクを抱き締めたいなら、後でいくらでも抱き締めさせてあげるから」

 わかっているのかいないのか、エレナの発言でさらに理性が追い詰められる。

 残された力を振り絞り、どうにかエレナを引き剥がすことに成功した。

「おや、もういいのかい?」

 言葉とは裏腹に、どこか残念そうに唇を尖らせる。

 これ以上見つめては、いよいよ抑えが効かなくなりそうだ。

 明後日の方向を向き、どうにか心を落ちつかせる。

 タイツを脱がせ、次はスカートを脱がせることにした。

 ゆっくりとスカートを降ろす。白い肌と共に、ライトブルーの三角の布が目に入る。

(この奥に、エレナさんのが……)

 ごくりと生唾を飲み飲む。

 エレナの助けをするという大義名分はある。だが、それでも超えてはならないものがある。

 固く目を瞑り、ショーツに手をかけ、そのままゆっくりと降ろす。

「んっ……!」

 テルミットの吐息がかかったのか、エレナが身をよじらせた。

 決壊しそうな理性を必死に押しとどめる。

 神秘のベールに包まれた秘部の匂いを嗅いでしまわないように、息を止める。

 ふと漏れた鼻息が、エレナの秘部をくすぐる。

「ぁ……ん」

 くぐもった声が艶めかしい。

「す、すみません!」

「あ、あんまり大きな声を出さないでほしい……。その、響くから」

 どこに響くというのだろうか。だが、それを質問できるだけの精神力は残されていない。

 テルミットは小さく「わかりました」とだけ返事をした。





 どうにか服を脱がせることに成功すると、エレナの手を引いて浴室へやってきた。

 できるだけ彼女の裸体を視界に入れないようにしながら、いつもの席へエスコートする。

「どうぞ、こちらです」

「ありがとう」

 テルミットの手を借りて、エレナのお気に入りの席に座る。

 その立ち居振る舞いは、まるで夜会に参加している淑女のように鮮麗されていた。

 完成された淑女としての振る舞いと、生まれたままの姿を晒しているというミスマッチさが、テルミットの興奮に拍車をかける。

 煩悩を追い払い、まずは頭を洗う。

 銀細工のような髪が指に絡む。くすぐったさと気持ちよさが同居した、不思議な感覚。

 心地よさを感じているのは、テルミットだけではないらしい。

 エレナの方も、ブラッシングされるネコのように気持ちよさそうに目を細めていた。

「人に頭を洗ってもらうというのは、こんなにも気持ちのいいものなんだね。これなら、目が治ってからも毎日お願いしたいくらいだよ」

「それって、僕と一緒にお風呂に入るのを習慣にしたいってことですか?」

 いつもからかわれているお返しとばかりに、テルミットがからかう。

「もちろん。テルさえ良ければね」

「なっ……!」

 テルミットの顔が真っ赤に染まる。

「ボクをからかうのは、百年早かったようだね」

 テルミットの反応から、エレナが勝利を宣言する。

「うう……」

「まあ、テルがボクをからかい返せるようになるまで、気長に待つとするよ。なにせ時間はいくらでもあるからね。百年だって、千年だって待つよ」

(それって……)

 テルミットの胸の奥で熱いものがこみあげて来る。

 それだけ待つということは、エレナは百年でも千年でも共にいると言ってくれているに等しい。エレナからの好意が温かく、妙にこそばゆくなってしまう。

 それと同時に、エレナの期待がプレッシャーとなって、テルミットの肩に重くのしかかる。

 果たして、エレナに相応しい男になれる日が来るのだろうか。

 頭を洗い終わり、次は身体を洗う。

 タオルに石鹸を擦り泡を作ると、ふといつものエレナを思い出した。

 たしか、身体を洗うときはタオルではなく手で優しく洗っていたはずだ。

 エレナの身体に視線を落とす。細く、柔らかそうな身体。陶器のように白い肌に、頭を洗った時の泡が腰や太ももに残雪する様は、どこか扇情的だ。

「…………」

 これを洗うのか。自分が。

 両手を泡まみれにしながら、呆然と佇む。

 エレナの無垢な肢体に指を這わせて、洗えというのか。

 エレナに視線を送るも、何も答えない。目が見えないのだから、当然と言えば当然なのだが、今は藁にでもすがりたい気分だった。

 意を決して、手を伸ばす。

「それじゃあ、洗いますね」

「うん」

 まずは、エレナの右手から洗う。細くて柔らかい。泡で滑るのと相まって、いつまでも触っていたい気分にさせられる。

 テルミットに身体を任せていたエレナが、くすぐったそうに声を漏らした。

「ボクが手で洗っていたと、よく覚えていたね。……それとも、普段からボクが身体を洗うのを見ていたのかな?」

「なっ!?」

 エレナに言い当てられ、思わず同様してしまう。震える声で、精一杯の抵抗をする。

「…………ノーコメントです」

「それって、もう答えを言ってるようなものじゃないかい?」

 両腕、背中を洗うと、今度は脚を洗うことにした。エレナに足を伸ばしてもらい、丹念に洗う。

 スラリとした綺麗な脚。テルミットの指が抵抗なく滑る。

 かかとからつま先まで、靴磨き職人のように丁寧に洗う。好きな人の足を丹念に洗っているだけだというのに、自分のすべてを捧げて心から服従しているような、不思議な気分だ。そして、さらに不思議なことに、悪い気はしていない自分がいる。

 しかし、それも考えてみれば当然かもしれない。自分は既に、エレナに惹かれてしまっていて、心から共に居たいと思ってしまっているのだから。

 いよいよ本丸だ。

 なるべく肌と肌が触れ合ってしまわないように、エレナの身体の正面まで腕を回す。

「それじゃあ、失礼しますね」

 エレナの胸に、手が触れる。

「んっ……」

「す、すみません!」

 エレナから漏れた湿っぽい声に、テルミットが跳ねるように離れた。

「いや、いいんだ気にしないでくれ。今度はなるべく声を出してしまわないように心がけるから」

 エレナの小さな胸を、両手で包むようにして丹念に洗う。マシュマロのような触感。吸い付くような肌触り。

 テルミットの頭が沸騰する。どうにかなってしまいそうだ。

 そんなテルミットの葛藤を知ってか知らずか、エレナから僅かに声が漏れる。

「ん……ふ……んんっ……!」

 手を口に当て、必死に声を堪えてるようだが、意味があるようには見えない。時折、肩がピクリと跳ねる。

「…………」

 湯船に浸かっていないというのに、身体が熱くなる。

 テルミットの半身が、己の戦場を見つけたとばかりに、雄々しく立ち上がる。

 肌と肌が触れ合わないようにしていたはずが、いつの間にかがっつり後ろから抱き締めるようにエレナと密着してしまっていた。

 そそり立つそれが、エレナのお尻に触れてしまう。

「っ!」

 腰だけ浮かせるように離しながら、洗うのを続行する。

 柔らかさと、吸い付くような肌触り。先端の固さに、心が奪われてしまう。この時間が、永遠に続けばいいのにと思ってしまう。

 それでも、終わりの刻は訪れる。テルミットは心を押し殺し、彼女の胸から手を放した。既に、エレナはぐったりした様子で、テルミットに身体を預けている。

 彼女の重さを心地よく感じながら、手を下へずらしていく。

「そ、それじゃあ、下も洗いますね」

 エレナの秘部に触れると、優しくこねくり回すように指を走らせる。

「ひゃっ……」

 エレナの肩がピクリと跳ねる。それと同時に、脚を閉じられてしまい、テルミットの手が拘束されてしまった。

「えっ、エレナさんっ!?」

 キツく閉じられた太ももから、ダイレクトにエレナの体温が伝わる。

 エレナに包まれていると思っただけで、不思議と安らぎを感じてしまう。
 胸を触っていた時とは別の安心感に、身を委ねてしまいたくなる。

「す、すまない……。びっくりして、つい脚を閉じてしまったよ……」

 ゆっくりと脚が開かれていく。一抹の寂しさを感じながら、作業を再開した。





 一通り洗い、泡を流そうとしたところで、エレナの手がテルミットの身体に触れた。

「すっかり冷えてしまってるじゃないか。すぐに身体を洗って、湯船につかろう」

「はい」

「すぐにテルの身体を洗える、とっておきの方法があるんだけど、どうする?」

 エレナがイタズラを思いついた子供のようにニヤリと笑う。

 なんとなく、エレナの考えがわかった気がした。だが断る理由はない。それどころか、テルミットとしても望ましいものだろう。

「だ、ダメですよ、そんな……」

「なぜだい?」

「い、今だって我慢してるんですから、あまり刺激が強いと、その、どうにかなってしまいそうで……」

「ボクは構わないよ」

「で、でも、そんな、その……」

 テルミットの言葉が尻すぼみとなって消えていく。

 拒絶されないのを都合よく受け取ったのか、エレナが正面に向き直ると、そのままテルミットに抱きついた。

 エレナの胸が、手が、足が、体が、全身が当たる。

 テルミットの胸に、何やら柔らかい物が押し付けられる。いや、柔らかいだけではない。固くなった二つの点が、テルミットの乳首に当たる。

「あっ……」

「おや、ボクの胸とテルの胸とキスをしてしまったね」

 驚いた様子もなく、むしろ積極的に押し付けてくる。

「ボクらも負けてられないね」

 エレナの顔が近づく。

 目の前の甘美な誘惑に抵抗する気も起きず、ただ目を閉じて受け入れる。

 エレナの舌を味わいながら、ふと思い出した。そういえば、今日が祭りの当日ではなかったか。

 本当ならエレナとあちこち見て回りたかったが、今では二人だけで静かに過ごすのも悪くないと思っている自分がいる。

 エレナと心の距離が縮まったからか、眷属となり悠久の時を得たからはわからない。ただ、少なくとも自分はこの変化を好ましく感じていて、エレナの色に染められていくことに心地よさを感じている。そんな気がした。

 エレナから唇を離すと、熱の篭った緋色の瞳に目を奪われる。ふと、遠くで花火の音が聞こえた気がした。

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