【本編完結】ボクっ娘ロリババア吸血鬼とイチャイチャする話

田島はる

夢の続き

 エレナをベッドに押し倒すと、軽く唇を合わせる。

 ついばむように触れただけで、普段の余裕は消え去り、乙女のように頬を染める。

 こちらを見つめる眼差しには、期待と情愛に満ちており、テルミットの心に火をつけた。

「テル……」

 せつなげに瞳が潤む。熱病に犯されたように火照った顔を見つめるだけで、自分の中の欲望が刺激される。

 ブラウスのボタンを外すと、白いブラが顕になる。布越しにマシュマロのような感触を味わいながら、唇を貪る。

 圧倒的な力を持ち、騎士たちを圧倒した吸血鬼の面影は見る影もない。今の彼女はなす術もなくテルミットの手の中で踊らされている、ただの少女にすぎないのだ。

 そんな万能感に酔いながら、エレナのスカートに手をかけた。

 もはや、僅かな理性も残ってはいない。

 目の前の女性にありったけの欲望をぶつけて、彼女は自分の物だと世界中に宣言するのだ──





「──はっ」

 気がつくと、いつもの自室に一人で寝ていた。

 もちろん、傍らにエレナの姿は見当たらない。

「夢、だったのか……」

 残念なような、ホッとしたような、不思議な気分。

 あのままエレナに手を出していたら。想像しようとしたところで、頭の中から振り払う。

 起き上がろうとして、下半身に違和感を感じた。起床直後にありがちな、主より早起きな半身の方ではなく、もっと別な。

 生々しくも、べたつくような不快感。テルミットの脳内に最悪の想像が浮かんだ。

 布団をめくり、ズボンの中を確認する。予想通りな光景に、落胆のため息が漏れた。





 朝食の前に着替えと片付けを軽く済ませ、朝食のに臨む。

「おはよう、テル」

「おはようございます。エレナさん」

 エレナに会うまで気が付かなかったが、ニオイでバレてしまわないだろうか。

 水浴びでもすれば良かったと軽く後悔。

 エレナの作ってくれた朝食を食べながら、今日の夢について考えた。

 エレナの話によれば、吸血鬼はいろいろな力を持っているという。眷属を作る能力や、使い魔を操る能力。血界と呼ばれる自分に有利な空間を作り出す能力まであるという。

 であれば、この夢も吸血鬼の能力によるもので、エレナが見せた夢なのではないだろうか。

 何度も彼女の策略に引っ掛かっている身としては、どうしても警戒してしまう。

 チラリと彼女の顔を伺う。目が合うと、エレナが微笑んだ。

 かわいい。──じゃなくて!

 意識を思考に集中させる。

 あの夢を見せたのは、エレナの仕業なのだろうか。

 本人に尋ねようにも、「今日僕にエッチな夢を見せましたか?」などと尋ねられるわけがない。

 それでも、何かしら話していれば、糸口が見つかるかもしれない。微かな期待を胸に、それとなく口を開く。

「吸血鬼って、いろいろな能力があるんですよね」

「そうだね。主な力はだいたい見せたと思うよ」

 テルミットと話しながら、エレナが指を折って数える。

「他には何か能力ってあるんですか? 例えば、夢を操る能力、とか」

 エレナが笑った。

「まさか。サキュバスじゃあるまいし、そんな力は持ち合わせていないよ」

「あはは……そ、そうですよね」

 エレナの否定で、テルミットの仮説は崩壊した。では、あれは本当に……。

 顔が熱くなっていくテルミットに、エレナがニタリと笑った。

「そんな質問をするということは、何かおかしな夢でも見たのかい?」

 言い当てられて、思わずスープを噴き出してしまった。正面にいたエレナの顔にかかる。

「な、ななな、なんで、そんな、エレナさんが知ってるんですか!」

「おや、図星だったか。大方、何かえっちな夢でも見たのだろう」

 顔を拭きながら、口の端をペロリと舐める。夢の中であれほど堪能した小さな舌が、何とも艶めかしい。

「な、なななな、何を根拠に、そんな……」

「わかるさ。初めて一緒にお風呂に入った時と、同じニオイがするからね」

 テルミットの頭が一瞬で沸騰した。

 それは、つまり、あの時のテルミットの失態のことを指しているわけで。

「さぁ、どんな夢を見たのか、白状して貰おうじゃないか」

 ずいっと詰め寄るエレナの目は、真剣そのものだった。緋色の瞳がまっすぐにテルミットを居抜き、逃そうとしない。

 テルミットには素直にすべてを話す以外の選択肢が残されていなかった。

 テルミットの夢を聞いたエレナが、満足そうに顔を綻ばせる。

「嬉しいなぁ、テルの夢に出られるなんて」

「そ、そうなんですか?」

「だって、テルが夢の中でボクを登場させてしまうほど、ボクのことで頭が一杯ということだろう?」

 エレナに指摘され、顔が熱くなる。

 事の真相は、エレナのせいではなかった。ただ単に、テルミットが四六時中エレナの事を考えていたがために、そういう夢を見てしまったにすぎないのだ。

 それを邪推してしまい、エレナを疑ってしまった。そして、あろうことかエレナに指摘され、夢の内容まで話す羽目になるとは。

 恥ずかしさのあまり、ここから逃げ出したい衝動に駆られる。

 そんなテルミットの心理を見抜いていたのか、テルミットの隣まで移動すると、しっかりと腕を絡めて動きを封じていた。

 こんな状況だというのに、鼓動が早くなる。ささやかな膨らみを押し付けられた腕に、意識を持っていかれそうになる。

 エレナがイタズラを思いついたような顔で、テルミットにささやいた。

「でも、この代償は高くつくよ」

 耳に当たった吐息がくすぐったい。
 代償とは何なのか。尋ねようとしたところで、エレナが答える。

「出演料を払ってもらおう」

「出演料、ですか?」

 以前申し付けられた、薪割りが頭に浮かんだ。あのときは身体で払うことになったが、まさか今回も肉体労働をさせられるのだろうか。

 それならそれで構わないとたかを括っていたテルミットに、予想もしない条件が提示された。

「夢の中でボクにしたことと同じことをしてくれ」

「えっ!?」

「簡単なことさ。夢の再現をしてくれればいいんだ。もちろん、ボクも協力は惜しまないよ。詳しいシナリオを教えてくれれば、ちゃんと演技するからね」

「いや、でも、それはですね……」

 エレナは簡単に言っているが、テルミットにとっては恥の上塗りでしかない。

 何を好き好んで、エッチな夢を見てしまった相手と、夢の再現をしようというのか。これでは、自分の欲望や願望を披露しているのとまるで変わらないではないか。

 とはいえ、テルミットに拒否権はない。朝食を食べてすぐに、自室のベッドへ連行されることになるのであった。





 一通り夢の再現が終わると、上体を起こして無理矢理エレナから離れる。

「これで夢は終わりです! ここで目が覚めましたから!」

「テルは、ここで終わりでいいのかい?」

「え?」

 一瞬、エレナが何を言っているのか、理解できなかった。終わりでいいも何も、本当にここで目が覚めたのだが。

「これだけ素晴らしい夢なのに、こんなところで終わらせるなんてもったいない」

 細い指が、テルミットの頬を撫でる。くすぐったくも、なぜか気持ちが落ちついていくのがわかった。

「さぁ、夢の続きを見ようじゃないか」

 夢の中で見た、夢よりも美しい緋色の瞳がテルミットを射抜いた。

 ごくりと生唾を飲み込む。

 もはや、テルミットには抗うだけの気力は残されてはいなかった。

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