【本編完結】ボクっ娘ロリババア吸血鬼とイチャイチャする話

田島はる

2-6 迎撃

 エレナの計らいで、今日の手伝いは休みとなった。やることがなくなったからといって、今さら一人で過ごす気にはなれない。

 自然と食堂にやってくると、エレナも同じように食堂にいた。

 目が合うと、二人して恥ずかしそうに苦笑した。お互い考えることは同じだった。

「待ってくれ。今酒を出そう」

 先日テルミットが買ってきた酒は、飲み物に料理にと大活躍をしていた。ただ、それも酒の消費方法について日夜考えているエレナの頑張りあってのものだ。

 そのおかげか、飲み物を出す際は必ずと言っていいほど酒が出る。

 グラスに注がれると、芳醇なブドウの香りが漂った。

 つまみにと出されたチーズを一口。口の中一杯に旨味が広がった。

「チーズってこんなにおいしいものなんですね」

「おや、テルはチーズを食べたことがなかったかい?」

「はい。実はこれが初めてで」

 一人で冒険者をやっていた頃は、その日その日を生きることに必死だった。食事は腹に入ればなんでも良かったし、寝床も雨風をしのげればそれで良かった。

 だから、エレナの料理を食べた時は、こんなにおいしいものがあるのかと驚いたものだ。

「それは光栄だね。テルの初めてを奪ってしまったよ」

「な、何言ってるんですか!」

「テルこそ、何を想像したのかな?」

 テルミットの顔が赤くなる。パクパクと金魚のように口が動く。

「……エレナさんイジワルです」

「テルがかわいいから、ついいじめたくなるのさ」

 穏やかな口調で、エレナがからかう。

 エレナにからかわれるのは、悪い気はしない。

 テルミットに気を許しているからこそ、からかってくれるのだろうし、何よりこの距離感が心地いい。

 それでも、やはりカッコイイ冒険者を目指す身としては、威厳のようなものも持ちたいわけで、少し複雑だ。

 少し考え事をしてしまったからだろうか。うつらうつらと舟をこぐ。

 急速に瞼が重くなり、頭の動きが鈍くなる。

(飲み過ぎた、かな……)

 気を失うように、その場で眠ってしまった。

「テル?」

 エレナが呼びかけるも、反応がない。

 肩を揺さぶり、頬を叩くも、反応はない。

 完全に眠ったのを確認すると、呑気に眠るテルミットに毛布をかけつつ、エレナは意識を別のものに移した。

 森の至るところに配置させた、使い魔の小鳥の視界を確認する。

 冒険者が6人。この屋敷へ向かってきていた。普通の冒険者であれば、結界を張って身を隠すことも検討したが、彼らの様子は普通のそれとは違った。

 持っている装備は小型で軽量。森の中で使うことを想定しているのか、小回りの効くものばかりだ。それだけならば、小型のモンスターを狩るものかと思うが、それにしては足取りに迷いがない。

 普通は警戒されないように慎重に行動し、微かな痕跡を頼りにモンスターを狩るものではないのか。

 そして、何より気にかかるのは、彼らが真っ直ぐにここを目指していることだ。

 それこそ、テルミットが迷い混んだ時のように、偶然迷い混んだのならまだしも、こんな山奥まで、何の確信もなく来れるものではない。

 彼らの目的は何だろうか。場合によっては、迎撃をしなくてはならないかもしれない。

 屋敷を出て正門へ向かう。

 丁度正門を潜ろうとしていた連中と遭遇した。感覚を共有している使い魔の視界越しに見た連中と同じ姿だ。

 相手は冒険者6人。見たところ、いずれも腕が立つものばかりのようだった。

 冒険者の一人が口を開く。

「あんたがエレナか?」

 一瞬、エレナが顔を歪めた。

「レディに対してずいぶんなご挨拶だね。まずは自分から名乗るものだと教わらなかったのかい? ……おっと、冒険者に礼儀を求めるのは酷だったね。これは失礼した」

 軽口を叩きながら、全力で思考を巡らせる。

 相手は何故自分の名前を知っている。考えられることは、町へ行っている間にテルミットが口を滑らせたことだ。

 ではなぜそこから襲撃に繋がる? テルミットが誰かから恨みを買うことをしただろうか。直近で思いつくものと言えば、ライラとかいう小娘のことだが。彼らはその関係者だとでもいうのだろうか。

「舐めた口ききやがって!」

「大人の男の恐ろしさってのを、わからせてやるしかないようだな」

 男たちがエレナを取り囲もうと、にじりにじりと広がり始める。

 時間は昼間。日傘があるとはいえ、日中の活動はやはり制限される。時間がかかるだけ、こちらが不利となるだろう。

「キミたちの目的は何だい?」

 男の一人がニタリといやらしく笑った。

「あんたの彼氏に聞いてみな」

 彼氏? 一瞬考えてしまったが、すぐにテルミットのことだとわかった。どうやら町ではエレナのことを彼女ということにしているらしい。

(かわいいことをするじゃないか)

 後で盛大にからかってあげよう。

 などと考えているうちに、男たちがエレナを取り囲む。

 ふと、エレナが口を開いた。

「そうだ、キミたちに言っておかなくてはならないことがあった」

 男たちの関心をわざと自分の言葉に向けさせた。その隙に、すかさず魔法を発動させた。

 使ったのは土魔法だ。植物の生育を助けることもできる、非常に優秀な魔法だが、応用すれば地面を液状化させることもできる。

 男たちの身体が地面に沈む。突然足場が水を張った落とし穴のようになり、男たちは困惑した。

「お、おい!」

「なんだよこれ……」

 エレナに抗議するも、時既に遅し。

 土魔法によって液体のようになってしまった土から、逃れる術はない。

 もがけばもがくほど身体は沈み、首まで埋まってしまったところで、液状化を解除した。

 沈むのが収まり、男たちが落ち着きを取り戻し始める。

「た、助かった、のか……?」

 エレナが男の一人に歩み寄る。首から上だけが地上に出ている男の髪を引っ張り、わざと高圧的に口を開く。

「キミたちは誰に依頼されてここに来たんだい?」

 高圧的な態度に男が強がりを見せる。

「へっ、そんなの言うわけ……」

 言いかけたところで、エレナが男の瞼に手をあて、魔法を発動させる。

「あっ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」

 雷魔法を発動させ、瞼ごと奥にある瞳を焼く。眼球から水分が蒸発し、血の涙が流れた。

 目の前で行われる凄惨な光景に、仲間の冒険者が思わず息を飲む。

「まだ自分の立場というものがわかっていないようだね。キミたちを生かすも殺すもボクの気分次第なんだ」

 命をおもちゃのように弄ぶ、圧倒的強者の前に、己の生殺与奪権が彼女の手にあるのだと思い知らされる。

「もし死にたいのなら抗ってくれてかまわないんだよ。キミたちのうち一人でも口が訊ければ、それで十分だからね」

 冷たく言い放つエレナに冒険者たちが戦慄した。コイツなら本当にやりかねない、と。

 ある男は青ざめた顔でガタガタ震え、ある男は虚勢を張ろうとしたのか難しい顔を作り、ある男はその場で失禁をしてしまった。

「自分の命が惜しいのなら、全力で媚びへつらって、ボクの機嫌を取るんだ。それが、キミたちが生き残る唯一の方法だ」

 目の前に差し出された救いの糸に、冒険者たちは我先にと依頼人の名を喋った。仕事だから仕方がなかったのだと釈明し、自分たちを凌駕する力を持つ彼女に対し赦しを乞うた。

 もっとも、この場所を知られた以上、エレナには冒険者たちを生きて帰すつもりはさらさらなかったのだが。





 翌朝。町ではちょっとした騒ぎが起こっていた。

 町の冒険者の首6つが、広場に晒されていたのだ。

 弔われることなく、その場に転がされた首が、絶命の瞬間を切り取ったような形相で町の住民を睨んでいた。

 いずれも町では名の通っていた者たちで、誰がやったのか。どうやってこんなことをしたのか。

 今、町ではその話題でもちきりとなっていた。

 冒険者の首にはメッセージが残されていたということも、噂に拍車をかけた。血がこびりついて黒く変色した髪の毛と、顔に刻まれた数字。

 6人の冒険者に対し、一人ずつ7、6、5、4、3、2と顔のどこかに刻まれている。

 メッセージの意味を、町中の人間が考察して、噂が噂を読んでいた。

 その噂を聞きつけ、広場の様子を遠目から眺めたライラが、思わず悲鳴を上げた。

 自分の雇った冒険者が無残な死体となって発見され、メッセージとして残された血のついた髪と一つ欠けた数字。

 これは、『次はお前だ』と暗に示しているのではないだろうか。

 いや、そうに違いない。

 大変なことをしてしまった。

 このままでは時間の問題で、やつが自分を殺しに来るのも、そう遠くないかもしれない。

 どこかへ逃げなければ。でもどこへ。どこまで逃げればいい。

 確実に自分をかくまってくれそうなところ。加えて、大きな組織がいい。冒険者ギルドか。いや、冒険者の中には自分に恨みを持つ者もいるし、あの少年は冒険者だ。

 考えた末、ライラは教会に庇護を求めることにした。

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