【コミカライズ】寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「今夜は絶対、キミを抱かない」2
比較的新しい住宅が並ぶ区画で雪乃が案内を開始し、五分ほどで二階建ての白い家に到着した。
備え付けられた三台置ける駐車場にはすでに車が二台ある。
空いている残りひとつに、雪乃の両親が手を振って立っていた。
会釈をしながら車を入れ、オーライの指示に従いバックで停める。
車を降りてきた晴久に、彼女の母親は腰を折って会釈をした。
「遠いところまで来てくださってありがとうございます」
「はじめまして、高杉晴久です。よろしくお願いします」
にこやかな垂れ目で、長い髪をひとつに結っている母親と、笑顔ながら緊張気味の父親。
ふたりの顔はよく似ており、あたたかい雰囲気の彼らに晴久はホッとした。
雪乃は「お盆ぶりだね」と両親との再会を喜びながら、自然に晴久と腕を組もうとした。
「……晴久さん?」
反射的に雪乃の手を避ける。
まだ挨拶が済んでいないのに彼氏ぶるわけにはいかないという硬派な姿勢を崩さず、「なんでもない」とつぶやいて、代わりに彼女の背中にポンと触れた。
家の中へ案内され、数年前にリフォームしたというリビングに通される。
向かい合ったソファに座り、斜め上の壁に見える時計は午後三時を指していた。
着席すると父親はリラックスしたのか、想像していたより数倍も男前の娘の彼氏を前にしてやっと朗らかな表情を向ける。
「雪乃から聞いて驚きましたよ。東京で恋人ができたって。めったに都会に出ないので心配してたんですが、こんなに真面目そうな方だとは」
「ええ、雪乃さんとお付き合いさせていただいています。ご報告が遅れてすみません」
「いやいや、挨拶に来てくれるなんて今どき珍しいですよ。うちの娘がこんな感じで気が利かないもんだから、気を遣ってくださったんでしょう?」
「ちょっとお父さんっ」
余計なことを喋らないでとむくれる雪乃は、母親がキッチンから運んできたお茶を盆から受け取り、晴久の前へ差し出した。
「気が利かないわけじゃないんですよ、晴久さんっ。  お父さんの言うこと信じないでくださいね」
「はは、うん」
仲のよいやりとりをするふたりに、父と母はポカンとした。
「あら雪乃、高杉さんと敬語でお話ししてるの?」
母が先に疑問を口にした。
「あ、うん。晴久さんは六つ年上だし、会社では上司だから」
するっと簡単に説明した雪乃に、晴久はギクッとしながら、父親の顔色をうかがった。
「上司……?」
父親の眉はピクリと動く。
これはまずい、と彼の戸惑いを察知した晴久は口を挟んだ。
「あー、あの。雪乃さんとはたしかに同じ会社ですが、部署が違うので知り合いではありませんでした。出会ったのは別の場所でして」
「別の場所?」
「そうなの。朝の電車が同じでね、夜道が怖くて困っていたところを晴久さんが声をかけてくれたの」
「夜道で……」
「うん。初対面なのに、そのまま家に泊めてくれたんだよ。すごく親切でしょ」
「雪乃っ」
晴久は慌てて雪乃の肩を掴んだ。
「あらま」と顔を赤くする母親の隣で、父親は険しい顔で晴久を凝視している。
ひきつった顔で笑うしかない晴久は、頭の中では言い訳が駆け巡っていた。
「ほほう……初対面で、家に?」
「いや、えっと、それは………」
「晴久くんは娘と付き合ってどれくらいなのかな?」
「……二か月、になります。もうすぐ」
「……二か月?」
晴久を萎縮させるほど低い父親の声がずんと響き、母親は「まあまあお父さん」と肩を叩く。
「それで、雪乃たちはこれからどうする?  お夕飯はいつもの『七宝』を予約してあるから、皆で食べに行きましょ。私たちとずっと一緒じゃ疲れちゃうでしょうから、それまで高杉さんとお出かけしてきたら?」
明るい声で空気は和らぎ、なにも気付かない雪乃だけは「うんそうする」と満面の笑顔で答えた。
「行きましょう、晴久さん」
「う、うん」
一度外したコートとマフラーをふたりとも再度身に付け、雪乃の両親が玄関まで見送る中、くつを履く。
背後に父親の鋭い視線を感じながら、晴久は雪乃の後について「では行ってきます」と外へと出た。 
備え付けられた三台置ける駐車場にはすでに車が二台ある。
空いている残りひとつに、雪乃の両親が手を振って立っていた。
会釈をしながら車を入れ、オーライの指示に従いバックで停める。
車を降りてきた晴久に、彼女の母親は腰を折って会釈をした。
「遠いところまで来てくださってありがとうございます」
「はじめまして、高杉晴久です。よろしくお願いします」
にこやかな垂れ目で、長い髪をひとつに結っている母親と、笑顔ながら緊張気味の父親。
ふたりの顔はよく似ており、あたたかい雰囲気の彼らに晴久はホッとした。
雪乃は「お盆ぶりだね」と両親との再会を喜びながら、自然に晴久と腕を組もうとした。
「……晴久さん?」
反射的に雪乃の手を避ける。
まだ挨拶が済んでいないのに彼氏ぶるわけにはいかないという硬派な姿勢を崩さず、「なんでもない」とつぶやいて、代わりに彼女の背中にポンと触れた。
家の中へ案内され、数年前にリフォームしたというリビングに通される。
向かい合ったソファに座り、斜め上の壁に見える時計は午後三時を指していた。
着席すると父親はリラックスしたのか、想像していたより数倍も男前の娘の彼氏を前にしてやっと朗らかな表情を向ける。
「雪乃から聞いて驚きましたよ。東京で恋人ができたって。めったに都会に出ないので心配してたんですが、こんなに真面目そうな方だとは」
「ええ、雪乃さんとお付き合いさせていただいています。ご報告が遅れてすみません」
「いやいや、挨拶に来てくれるなんて今どき珍しいですよ。うちの娘がこんな感じで気が利かないもんだから、気を遣ってくださったんでしょう?」
「ちょっとお父さんっ」
余計なことを喋らないでとむくれる雪乃は、母親がキッチンから運んできたお茶を盆から受け取り、晴久の前へ差し出した。
「気が利かないわけじゃないんですよ、晴久さんっ。  お父さんの言うこと信じないでくださいね」
「はは、うん」
仲のよいやりとりをするふたりに、父と母はポカンとした。
「あら雪乃、高杉さんと敬語でお話ししてるの?」
母が先に疑問を口にした。
「あ、うん。晴久さんは六つ年上だし、会社では上司だから」
するっと簡単に説明した雪乃に、晴久はギクッとしながら、父親の顔色をうかがった。
「上司……?」
父親の眉はピクリと動く。
これはまずい、と彼の戸惑いを察知した晴久は口を挟んだ。
「あー、あの。雪乃さんとはたしかに同じ会社ですが、部署が違うので知り合いではありませんでした。出会ったのは別の場所でして」
「別の場所?」
「そうなの。朝の電車が同じでね、夜道が怖くて困っていたところを晴久さんが声をかけてくれたの」
「夜道で……」
「うん。初対面なのに、そのまま家に泊めてくれたんだよ。すごく親切でしょ」
「雪乃っ」
晴久は慌てて雪乃の肩を掴んだ。
「あらま」と顔を赤くする母親の隣で、父親は険しい顔で晴久を凝視している。
ひきつった顔で笑うしかない晴久は、頭の中では言い訳が駆け巡っていた。
「ほほう……初対面で、家に?」
「いや、えっと、それは………」
「晴久くんは娘と付き合ってどれくらいなのかな?」
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晴久を萎縮させるほど低い父親の声がずんと響き、母親は「まあまあお父さん」と肩を叩く。
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