【コミカライズ】寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「今夜は絶対、キミを抱かない」1
◇◇◇◇◇◇◇◇
二週間後の土曜日。
ふたりは午後から、約束どおりに雪乃の実家へと向かっていた。
雪乃が助手席に乗り、晴久が運転するセダンの車内には、昼過ぎにホットサンドショップでドライブスルーしたコーヒーが残っている。
ふたりはここまで数時間のドライブを楽しんできた。
千葉への県境に差し掛かると、彼女はワクワクした様子で窓の外を眺める。
「雪乃のご両親はどんな人?」
ふと晴久が尋ねた。
「父は町役場の職員です。母も結婚してすぐ退職するまでは、同じだったみたいで」
「職場内結婚ってこと?」
「そうです。寿退社してからはしばらくスーパーのパートに出ていましたけど」
両親も職場内の恋愛だったと知り、安堵する晴久。ついでに「じゃあさ」と質問を続けた。
「お父さんとお母さん、年齢差はあるの?」
「え?  いえ、同い年です」
(年の差はないのか……)
いくつかの不安うちのひとつに、雪乃との六歳の年の差がある。そこを理解してもらえるか、不安がよぎった。
寒々とした田舎道に入ってからは晴久は緊張気味になり口数が減った。これから恋人の両親に会うのだから当然だろう。
引き換え、雪乃は余裕のある表情で心を弾ませている。
(お母さんもお父さんも、晴久さんを連れてきたら喜ぶだろうな)
硬い表情の晴久をよそに彼女がここまで楽観的でいられるのは、すでに電話でよい手応えを感じていたからだ。
雪乃は二週間前の母との会話を思い出した。
『今なんて言ったの?  雪乃』
電話の向こうの母はの優しげな声は驚きで揺れていた。
『……だから。お付き合いしてる人がいるんだけど、うちにご招待したいの。いい?』
『えー!?  雪乃が恋人?  本当に?  ちょっとお父さん!  お父さん来てってば!』
『やっ、お母さん、お父さんは呼んでこなくていいよ!  伝えておいてくれれば!』
この電話をしているとき、晴久は横でクスクス笑っており、恥ずかしくなった雪乃は『もう……』とスマホの向こうにため息をつく。
『おい母さんから聞いたぞ。恋人連れてくるんだって?』
父親の低い声に切り替わった。同様した雪乃は『うん』と小さく返事だけをする。
『そうか……。ぜひ来てもらいなさい。いつでも歓迎するよ。よかったな、雪乃。よかった』
(……あのときのお父さん、少し泣いてたな)
鼻声の父の言葉を思い出しながら、雪乃は微笑んだ。
十年前のトラウマを引きずっていた彼女を、両親はずっと心配していた。
異常なまでの男性への恐怖も仕方のないことだと。おそらくこの子には一生恋人などできないだろう、そう覚悟していたのだ。
(大丈夫だよお父さん。素敵な人と出会えたから)
運転に夢中になっている晴久を、晴れ晴れとした気持ちで見つめる。
「どうかした?  雪乃」
横目だけの視線を返した晴久に、雪乃はまた微笑んだ。
「ふふ、晴久さんのこと大好きだなあって思っただけですよ」
彼女の笑顔にキュンときた晴久は、フロントガラスに目を戻す。付き合い始めてから今までの期間で雪乃はまっすぐに愛を伝えるようになり、うれしくも晴久の心臓には悪い。
「今日は手が出せないんだから、あんまりかわいいこと言わないでくれる」
「えっ」
予定では雪乃の実家に一泊することになっているが、もちろんそこでコトを始める勇気はない。
雪乃の隣で寝ていて我慢できた試しがないため、今夜は厳しい戦いとなるだろう。それが分かっている晴久は、今から気持ちを落ち着けようと必死だった。
「だ、だって本当のことだから……」
「ありがとう。でも今日だけは好き禁止ね」
雪乃はむくれる。
「難しいです……。晴久さんを好きじゃなくなるなんて……」
「えっ!?  いや、好きじゃなくなられたら困るよ。そういう意味じゃなくて」
慌ててかすかにハンドルがぶれた晴久に、雪乃はクスクスと笑う。
「雪乃、わざとでしょ」
「ふふふ」
「参ったな」
晴久は前髪をかきあげ、可憐に微笑む彼女をちらりと見た。
車は枯れた田んぼと住宅地が混ざった道に入り、雪乃の顔つきは懐かしむものへと変わっていく。
ここからは、彼女の故郷の町である。
二週間後の土曜日。
ふたりは午後から、約束どおりに雪乃の実家へと向かっていた。
雪乃が助手席に乗り、晴久が運転するセダンの車内には、昼過ぎにホットサンドショップでドライブスルーしたコーヒーが残っている。
ふたりはここまで数時間のドライブを楽しんできた。
千葉への県境に差し掛かると、彼女はワクワクした様子で窓の外を眺める。
「雪乃のご両親はどんな人?」
ふと晴久が尋ねた。
「父は町役場の職員です。母も結婚してすぐ退職するまでは、同じだったみたいで」
「職場内結婚ってこと?」
「そうです。寿退社してからはしばらくスーパーのパートに出ていましたけど」
両親も職場内の恋愛だったと知り、安堵する晴久。ついでに「じゃあさ」と質問を続けた。
「お父さんとお母さん、年齢差はあるの?」
「え?  いえ、同い年です」
(年の差はないのか……)
いくつかの不安うちのひとつに、雪乃との六歳の年の差がある。そこを理解してもらえるか、不安がよぎった。
寒々とした田舎道に入ってからは晴久は緊張気味になり口数が減った。これから恋人の両親に会うのだから当然だろう。
引き換え、雪乃は余裕のある表情で心を弾ませている。
(お母さんもお父さんも、晴久さんを連れてきたら喜ぶだろうな)
硬い表情の晴久をよそに彼女がここまで楽観的でいられるのは、すでに電話でよい手応えを感じていたからだ。
雪乃は二週間前の母との会話を思い出した。
『今なんて言ったの?  雪乃』
電話の向こうの母はの優しげな声は驚きで揺れていた。
『……だから。お付き合いしてる人がいるんだけど、うちにご招待したいの。いい?』
『えー!?  雪乃が恋人?  本当に?  ちょっとお父さん!  お父さん来てってば!』
『やっ、お母さん、お父さんは呼んでこなくていいよ!  伝えておいてくれれば!』
この電話をしているとき、晴久は横でクスクス笑っており、恥ずかしくなった雪乃は『もう……』とスマホの向こうにため息をつく。
『おい母さんから聞いたぞ。恋人連れてくるんだって?』
父親の低い声に切り替わった。同様した雪乃は『うん』と小さく返事だけをする。
『そうか……。ぜひ来てもらいなさい。いつでも歓迎するよ。よかったな、雪乃。よかった』
(……あのときのお父さん、少し泣いてたな)
鼻声の父の言葉を思い出しながら、雪乃は微笑んだ。
十年前のトラウマを引きずっていた彼女を、両親はずっと心配していた。
異常なまでの男性への恐怖も仕方のないことだと。おそらくこの子には一生恋人などできないだろう、そう覚悟していたのだ。
(大丈夫だよお父さん。素敵な人と出会えたから)
運転に夢中になっている晴久を、晴れ晴れとした気持ちで見つめる。
「どうかした?  雪乃」
横目だけの視線を返した晴久に、雪乃はまた微笑んだ。
「ふふ、晴久さんのこと大好きだなあって思っただけですよ」
彼女の笑顔にキュンときた晴久は、フロントガラスに目を戻す。付き合い始めてから今までの期間で雪乃はまっすぐに愛を伝えるようになり、うれしくも晴久の心臓には悪い。
「今日は手が出せないんだから、あんまりかわいいこと言わないでくれる」
「えっ」
予定では雪乃の実家に一泊することになっているが、もちろんそこでコトを始める勇気はない。
雪乃の隣で寝ていて我慢できた試しがないため、今夜は厳しい戦いとなるだろう。それが分かっている晴久は、今から気持ちを落ち着けようと必死だった。
「だ、だって本当のことだから……」
「ありがとう。でも今日だけは好き禁止ね」
雪乃はむくれる。
「難しいです……。晴久さんを好きじゃなくなるなんて……」
「えっ!?  いや、好きじゃなくなられたら困るよ。そういう意味じゃなくて」
慌ててかすかにハンドルがぶれた晴久に、雪乃はクスクスと笑う。
「雪乃、わざとでしょ」
「ふふふ」
「参ったな」
晴久は前髪をかきあげ、可憐に微笑む彼女をちらりと見た。
車は枯れた田んぼと住宅地が混ざった道に入り、雪乃の顔つきは懐かしむものへと変わっていく。
ここからは、彼女の故郷の町である。
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