【コミカライズ】寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「悪い子にはキスできないな」4
明日会社で問い詰めを受けるつもりでいた伊川は、今この場に晴久が現れたことで戸惑いを隠せない。
しかし、彼への反抗心もあり、強気な態度は崩さなかった。
バーの外へ出ると何人か酔っぱらいが歩いており、酔いつぶれている雪乃は目立たない。
しかしこれから決闘でも始めるかのような剣幕の男ふたりには、通行人から視線が注がれている。
「伊川」
「なんすか。別にまだなにもしてませんよ」
伊川が無意識に使った〝まだ〟という言葉に、晴久の纏う空気は余計に張りつめる。
「俺になにか恨みでもあるのか」
しかしこの言葉に、今度は伊川が顔を歪める。
「恨み……?  そんなもん、自分の胸に聞いてみたらどうだよ!  俺の仕事の足ばっかり引っ張りやがって!  正当に評価されない俺の身にもなってみろ!」
ついに敬語を捨てて思いの丈をぶちまけても、晴久は彼には動じない。
その代わり、怖い顔をしたまま、腕の中に抱いている雪乃に話しかけた。
「雪乃。起きて」
「……ん、んん……」
雪乃はうっすらと目を開ける。
「どうしてこんなところにいた。知らない男について行ったのはなぜ」
彼の冷たい質問に、彼女は意識が朦朧としながらもじわりと涙を浮かべた。
「伊川さん、が……私に、相談が、ある、って……晴久さんの、こと、で……ファミレスに、行くはずで……でも、ここに……」
「分かった」
晴久はまた鋭い視線を向ける。ばつが悪くなった伊川は拗ねた顔を背けた。
「伊川」
「なんだよ」
真面目に釈明などする気のない伊川は悪態をつき続ける。
しかし晴久は手を伸ばしてもう一度彼の胸ぐらを掴むと、鬼のような顔で睨み付けた。
そしてどす黒い声で呪文のように、伊川の顔に言い聞かせる。
「いいか伊川。お前は雪乃に嘘をついた。この子の親切心を利用してバーに連れ込んで酔い潰したんだ」
「だからなんだよ」
「お前はいつもそうだ。人の好意を道具のように扱い、用がなくなったら捨てる。契約が欲しいがために平気で嘘をつき、その後についてはまったくフォローをしない」
「だから、そんな感情論は営業に必要ないだろ!」
通行人が振り向き、ザワザワと噂をする。晴久はため息をつき、胸ぐらを離すと、声のトーンを落とした。
「……伊川の担当先のトーワシステムズだが。一度お前に商品の改良について相談をしたが返事がなく、その間にフォローの手厚い他社へ契約変更する予定が立っているらしい」
「はあ!?  えっ、えっ?」
「さっき社長から俺に直接連絡があった。社内から契約変更をしたいと申し入れをされていて、あとは社長が承認すれば完了するそうだ」
伊川の顔はみるみるうちに青くなり、その場にしゃがみこんだ。
トーワシステムズは重要取引先で、収益に大きく貢献している。伊川のせいで契約が打ち切られるような事態になれば、責任追及は免れない。
「そ、そんなっ……やばい……トーワシステムズを失うようなことは、絶対……どうしよう……どうしたら……」
「分かったか。真摯に対応しなければ人は離れていく。その場限りの振る舞いを改めろ」
「そんな……」
伊川はうなだれ、力が抜けた体は歩道に倒れこんでしまいそうだった。挑発的だった態度は絶望的なものへと変わる。
伊川は雪乃の言葉を思い出した。
『晴久さんは、ずるい手を使って誰かを貶めるような人ではありません』
ずるい手を使い続けていたのは自分で、晴久にはそれを見抜かれていた。雪乃のことも騙して腹いせのために利用した。
それは仕事においてもそうだったのだ、と伊川は初めて自覚した。
「伊川」
呼ばれるまま力なく顔を上げ、晴久を見た。
「トーワシステムズの社長には変更を保留してもらうよう俺から頼んでおいた。社長もそのつもりで連絡してきたようだからな」
「えっ!?」
「明日、直接謝罪しに行くぞ。俺も帯同する。心配するな、今後このようなことはないと約束すれば、契約変更にはならないだろう」
伊川の表情には一筋の光が差し、地べたに手をついて「本当に……?」と立ち上がる。晴久がうなずくと、彼は救世主でも見るかのような視線に変わっていった。
しかし、晴久はもう一度だけ伊川の胸ぐらを掴みあげた。
「いいか覚えておけ。仕事ではどれだけ俺に不満を言おうと構わない。……だが、もし次に雪乃を巻き込んだら、俺はお前を許さない」
本気の目つきにゾッと恐怖を感じながら、伊川はうなずいた。
「……すみません、でした」
彼を乱暴に解放した晴久は雪乃を抱きしめ、タクシーを停めた。
しかし、彼への反抗心もあり、強気な態度は崩さなかった。
バーの外へ出ると何人か酔っぱらいが歩いており、酔いつぶれている雪乃は目立たない。
しかしこれから決闘でも始めるかのような剣幕の男ふたりには、通行人から視線が注がれている。
「伊川」
「なんすか。別にまだなにもしてませんよ」
伊川が無意識に使った〝まだ〟という言葉に、晴久の纏う空気は余計に張りつめる。
「俺になにか恨みでもあるのか」
しかしこの言葉に、今度は伊川が顔を歪める。
「恨み……?  そんなもん、自分の胸に聞いてみたらどうだよ!  俺の仕事の足ばっかり引っ張りやがって!  正当に評価されない俺の身にもなってみろ!」
ついに敬語を捨てて思いの丈をぶちまけても、晴久は彼には動じない。
その代わり、怖い顔をしたまま、腕の中に抱いている雪乃に話しかけた。
「雪乃。起きて」
「……ん、んん……」
雪乃はうっすらと目を開ける。
「どうしてこんなところにいた。知らない男について行ったのはなぜ」
彼の冷たい質問に、彼女は意識が朦朧としながらもじわりと涙を浮かべた。
「伊川さん、が……私に、相談が、ある、って……晴久さんの、こと、で……ファミレスに、行くはずで……でも、ここに……」
「分かった」
晴久はまた鋭い視線を向ける。ばつが悪くなった伊川は拗ねた顔を背けた。
「伊川」
「なんだよ」
真面目に釈明などする気のない伊川は悪態をつき続ける。
しかし晴久は手を伸ばしてもう一度彼の胸ぐらを掴むと、鬼のような顔で睨み付けた。
そしてどす黒い声で呪文のように、伊川の顔に言い聞かせる。
「いいか伊川。お前は雪乃に嘘をついた。この子の親切心を利用してバーに連れ込んで酔い潰したんだ」
「だからなんだよ」
「お前はいつもそうだ。人の好意を道具のように扱い、用がなくなったら捨てる。契約が欲しいがために平気で嘘をつき、その後についてはまったくフォローをしない」
「だから、そんな感情論は営業に必要ないだろ!」
通行人が振り向き、ザワザワと噂をする。晴久はため息をつき、胸ぐらを離すと、声のトーンを落とした。
「……伊川の担当先のトーワシステムズだが。一度お前に商品の改良について相談をしたが返事がなく、その間にフォローの手厚い他社へ契約変更する予定が立っているらしい」
「はあ!?  えっ、えっ?」
「さっき社長から俺に直接連絡があった。社内から契約変更をしたいと申し入れをされていて、あとは社長が承認すれば完了するそうだ」
伊川の顔はみるみるうちに青くなり、その場にしゃがみこんだ。
トーワシステムズは重要取引先で、収益に大きく貢献している。伊川のせいで契約が打ち切られるような事態になれば、責任追及は免れない。
「そ、そんなっ……やばい……トーワシステムズを失うようなことは、絶対……どうしよう……どうしたら……」
「分かったか。真摯に対応しなければ人は離れていく。その場限りの振る舞いを改めろ」
「そんな……」
伊川はうなだれ、力が抜けた体は歩道に倒れこんでしまいそうだった。挑発的だった態度は絶望的なものへと変わる。
伊川は雪乃の言葉を思い出した。
『晴久さんは、ずるい手を使って誰かを貶めるような人ではありません』
ずるい手を使い続けていたのは自分で、晴久にはそれを見抜かれていた。雪乃のことも騙して腹いせのために利用した。
それは仕事においてもそうだったのだ、と伊川は初めて自覚した。
「伊川」
呼ばれるまま力なく顔を上げ、晴久を見た。
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「えっ!?」
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