【コミカライズ】寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「連絡を取るのは控えましょう」3
◇◇◇◇◇◇◇◇
晴久は営業部と総務部の中間地点にあるフリースペースでコンビニの昼食をとり、フロアへ戻った。
ポケットには、その短い昼食中に女性社員から渡された手紙が入っている。
その人の想いが込もっていることを頭では理解しているつもりだが、拭いきれない嫌悪感が付きまとっていた。
「さっきの見ちゃいましたよ、高杉課長」
廊下で背後から声をかけてきたのは、彼の部下の小山。
晴久のひとつ年下の主任職で、課長の晴久を慕い子分のように付き従えている。
おそらく学生時代はハジけていたのではと予想できる、陽が当たるとキラキラとする茶髪が特徴的だ。
彼は晴久の懐を指差し、ニヤニヤと寄ってきた。
「なんだ小山」
面倒なやつに見られた、と晴久は顔を歪める。
「さっき手紙渡されてましたよね。確かあれは総務の岩瀬さん」
「知ってるのか」
「そりゃ知ってますよ。めちゃくちゃ美人で有名じゃないですか。そうかー、岩瀬さんも課長狙いでしたかー。ははーん」
小山は悔しそうな表情を作るが、なぜだが誇らしげである。
晴久は一応名前を覚えた。
渡されただけでまだ読んでいないが、渡してきたときの岩瀬の様子を思い出すと書かれている内容は容易に予想がつく。
その上で読む気が起きないのだ。
小山は試しに「見せてくださいよ」とお願いしてみるが、晴久はすぐに「ダメだ」と断った。
「課長、岩瀬さんでもナシなんですか?」
「誰でも、だ。社内でこういうことをする気はない。これだって受け取るつもりはなかったんだが、押し付けて行ってしまったから仕方なく持っているだけだ」
「もったいないなぁ……。課長のそれって、まだあの事件のこと気にしているんですか?  五年くらい前でしたっけ、課長が社内の女につけ回されて家まで入られたってやつ」
軽く掘り返してきた小山に、晴久は眉をひそめた。
小山はさらに続ける。
「女が全員そんなことするわけじゃないんですから、付き合ってみたらいいのに」
軽い言葉に一瞬カッと喉まで怒りが込み上げた晴久だが、この小山には全く悪気がないことは分かっており、腹を立てても仕方ないとため息をついた。
「……簡単に言うな」
今でも彼はふとしたときにフラッシュバックに悩まされている。
五年前、晴久が女性社員につけ回された事件。
『高杉さんすごいです。私も見習いますね』
『教えてくださりありがとうございます。さすが、高杉さんですね』
『高杉さん。私頑張りますから、これからもよろしくお願いします』
晴久にとっては普通の後輩だった。優秀で、話しやすく、仕事も頑張っていると目をかけていた。
しかし事件は突然起こった。
帰宅すると、部屋の中に彼女がいたのである。
『お帰りなさい高杉さん。合い鍵、作ったので入っちゃいました』
『どうして怒るんですか?  私たち付き合ってますよね?  高杉さん?』
『どうしてそんなひどいこと言うんです?  全部高杉さんのせいですよ』
そのときの後輩の狂った顔が、晴久の記憶にこびりついて離れない。
(なぜあんなことになったんだ……。俺はなにか間違っていたのか?)
すでにその社員は退職していて社内では事件も風化しているが、晴久にとってはトラウマとして残っている。
そのせいか、男性が苦手だという雪乃の気持ちもよく分かった。
「課長、大丈夫っすか?」
「うるさい」
睨まれて焦った小山は「ごめんなさーい!」とすり寄るが、晴久はほどよく無視をして歩き出す。
晴久は営業部と総務部の中間地点にあるフリースペースでコンビニの昼食をとり、フロアへ戻った。
ポケットには、その短い昼食中に女性社員から渡された手紙が入っている。
その人の想いが込もっていることを頭では理解しているつもりだが、拭いきれない嫌悪感が付きまとっていた。
「さっきの見ちゃいましたよ、高杉課長」
廊下で背後から声をかけてきたのは、彼の部下の小山。
晴久のひとつ年下の主任職で、課長の晴久を慕い子分のように付き従えている。
おそらく学生時代はハジけていたのではと予想できる、陽が当たるとキラキラとする茶髪が特徴的だ。
彼は晴久の懐を指差し、ニヤニヤと寄ってきた。
「なんだ小山」
面倒なやつに見られた、と晴久は顔を歪める。
「さっき手紙渡されてましたよね。確かあれは総務の岩瀬さん」
「知ってるのか」
「そりゃ知ってますよ。めちゃくちゃ美人で有名じゃないですか。そうかー、岩瀬さんも課長狙いでしたかー。ははーん」
小山は悔しそうな表情を作るが、なぜだが誇らしげである。
晴久は一応名前を覚えた。
渡されただけでまだ読んでいないが、渡してきたときの岩瀬の様子を思い出すと書かれている内容は容易に予想がつく。
その上で読む気が起きないのだ。
小山は試しに「見せてくださいよ」とお願いしてみるが、晴久はすぐに「ダメだ」と断った。
「課長、岩瀬さんでもナシなんですか?」
「誰でも、だ。社内でこういうことをする気はない。これだって受け取るつもりはなかったんだが、押し付けて行ってしまったから仕方なく持っているだけだ」
「もったいないなぁ……。課長のそれって、まだあの事件のこと気にしているんですか?  五年くらい前でしたっけ、課長が社内の女につけ回されて家まで入られたってやつ」
軽く掘り返してきた小山に、晴久は眉をひそめた。
小山はさらに続ける。
「女が全員そんなことするわけじゃないんですから、付き合ってみたらいいのに」
軽い言葉に一瞬カッと喉まで怒りが込み上げた晴久だが、この小山には全く悪気がないことは分かっており、腹を立てても仕方ないとため息をついた。
「……簡単に言うな」
今でも彼はふとしたときにフラッシュバックに悩まされている。
五年前、晴久が女性社員につけ回された事件。
『高杉さんすごいです。私も見習いますね』
『教えてくださりありがとうございます。さすが、高杉さんですね』
『高杉さん。私頑張りますから、これからもよろしくお願いします』
晴久にとっては普通の後輩だった。優秀で、話しやすく、仕事も頑張っていると目をかけていた。
しかし事件は突然起こった。
帰宅すると、部屋の中に彼女がいたのである。
『お帰りなさい高杉さん。合い鍵、作ったので入っちゃいました』
『どうして怒るんですか?  私たち付き合ってますよね?  高杉さん?』
『どうしてそんなひどいこと言うんです?  全部高杉さんのせいですよ』
そのときの後輩の狂った顔が、晴久の記憶にこびりついて離れない。
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