戦場の悪魔

5話 戦争 2

澄み切った青空の下、平原には張り詰めた空気が流れていた。
 遠くには敵兵たちの姿。緊張感が最高潮まで達しているのがひしひしと感じられる。

 ――暑い。

 太陽に照らされ、首筋を汗が流れる。
 喉の渇きを我慢するように、俺は手に持った剣を握りなおした。


 《職業》を持っているとその分野の感覚が他の人よりも優れているが、人間練習をすれば大概のことはできるようになる。
 軍に入って全員が受ける訓練では、槍の使い方を教わったりもした。
 新兵たちは最前線で槍を使い、突撃してきた騎兵などを迎え撃つのが基本である。

 しかし……弓や剣などの《職業》を持っている者たちは数も多く、初めから優先的にそれらの部隊に回される。

 現代では、これが効果的に軍隊を強くする方法の一つとされているそうだ。
 《両手剣使い》の俺やレルトが配属された初日、バルト少尉が教えてくださった。



 空を切り裂くように一羽の鳥が飛んだ。

 それが合図だったのだろうか、大将? 中将? とにかく今現在ここにいる最も偉いお方が声を上げた。



「――突撃――ッ!!」



 かなり遠いはずなのに、はっきりと響いてきた声。
 それに反応し、俺たちは自分を鼓舞するため、相手を怯ませるために大声で叫ぶ。


「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」


 聖国軍も叫び声をあげているのだろうか、突撃を開始してきた。
 俺たちの距離は吸い寄せられるように近づき、前線の槍兵たちが――敵の騎兵とぶつかった。

 槍で馬や兵士を狙う。
 突き刺さり。
 血と叫びが広がった。

 だが。

 大部分の槍兵は散らされ、敵は勢いよく突き進んでくる。
 その間にも騎兵たちは長剣や槍を振り回し、人が殺されていった。


 帝国軍も作戦のもと騎兵が突撃し、ついには歩兵同士もぶつかり合う。
 そして俺の場所まで騎兵や歩兵が攻めてきて――――隣にいた男が死んだ。
 馬が通り過ぎる瞬間、ついでのように切り捨てられ地面に伏したのだ。

 ぱっと見るが、レルトではない。

 あいつはビビりながらも無理やり笑って、声高らかに叫び敵を倒している。
 良かったと安心したと同時に、この場での命の軽さを実感した。

 俺に帝国に対する愛国心なんて全くないし、金のために働いているだけだ。
 でも、逃げるわけにはいかない。
 生きて帰れば成り上がれる。
 負けないためには倒すんだ。

 生と死が入り乱れ、敵を倒した奴が次の瞬間には斬られている。

 やってられるかと逃げださず、俺はやってやるよと叫んだ。
 剣を握り、自分を鼓舞するために。



「うぉおおおおおおおお!!」



 人の血で蒸し暑くなった平原。
 血と脳が飛び散り続けるこの場所で、俺は生き残る。


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