世界実験開始
第二章 その3
次の日、涼河は朝から咲奈の集落に向かっていた。
東京に帰還するまでの間、兵士達にはある程度の自由が与えられた。
もちろん最低限の訓練内容は上層部から決められており、イシュターク部隊も特別な訓練内容が定められているのだが、涼河は朝礼が終わるとすぐに訓練を終わらせ、集落へと出発したのだった。
これには時雨に気づかれないように立ち回る意味もあったのだが、やはり出る時は苛立った視線を視線を向けられてしまった。
帰るのはなるべく早い方がいいかもしれない。
そう考えていると、遠くに集落の入り口が見えてきた。
ここを抜けて少し歩けば、咲奈の家に着くだろう。
「ん?」
その時、涼河は異変に気づく。
それは朝の森に広がった濃霧の中、自然のカーテンに遮られた入り口に見える、黒いシルエットだ。
──誰かいる。
そのシルエットは、涼河が見る限り人間の形そのものだった。
シルエットは形を崩さず、じっと佇んでいる。
「咲奈さんですか?」
「…………」
返事はなく、代わりに音に反応した虫や
動物が、あたりの草木を揺らしながら森の奥へと動いていった。
静寂の間、涼河の脳裏にある言葉が浮かんだ。
──心霊現象──。
涼河の背筋に冷たい汗が流れる。
まさか。いやまさか。
「ふぅ…………」
涼河は息を殺して腰を落とすと、足を高く上げながら静かに歩き出した。
この体勢なら足音はしないし、もし何か起こったらすぐに走り出せるはずだ。
『いや待てよ。もし本当に幽霊だったら、どんなに早く走っても関係ないんじゃ? いやいやいくらなんでもそんな……で、でもでも──』
──その時、
「あなたが──」
「──うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
意識を向けていなかったこともあり、涼河はまるで漫才師のようなポーズで驚き、そのまま固まってしまった。
「…………」
「…………へ?」
だが、そこにいたのは血みどろの女でもなければ、白い仮面をつけた大男でもない。
視線の先にいたのは、一人の女性だった。
毛先を少し巻いたような姿はとてもきれいで、少し垂れ目な顔立ちからは、どこかおっとりとした印象を受ける。
彼女はふくよかな胸元に両手を当てながら、驚いた様子で涼河を観察していた。
「……あの」
「は、はい!」
「あなたが、りょうがさん、ですか?」
「え? そ、そうですけど……」
どうやら彼女は涼河を知っているようだ。
意思の疎通ができたことで、涼河はようやく漫才師のポーズを解き、冷静に答えた。
すると彼女は、安心したように腕を下ろして言った。
「驚いてごめんなさい。流石に早すぎたと思ったのに、こんなに朝早くから来られると思わなかったからびっくりしちゃって」
その声や話す時の仕草、なにより彼女の雰囲気に、涼河は既視感を感じた。
そしてその感覚を裏付けるように、彼女はこう言った。
「初めまして。咲奈の母で、小峰詩織と申します」
東京に帰還するまでの間、兵士達にはある程度の自由が与えられた。
もちろん最低限の訓練内容は上層部から決められており、イシュターク部隊も特別な訓練内容が定められているのだが、涼河は朝礼が終わるとすぐに訓練を終わらせ、集落へと出発したのだった。
これには時雨に気づかれないように立ち回る意味もあったのだが、やはり出る時は苛立った視線を視線を向けられてしまった。
帰るのはなるべく早い方がいいかもしれない。
そう考えていると、遠くに集落の入り口が見えてきた。
ここを抜けて少し歩けば、咲奈の家に着くだろう。
「ん?」
その時、涼河は異変に気づく。
それは朝の森に広がった濃霧の中、自然のカーテンに遮られた入り口に見える、黒いシルエットだ。
──誰かいる。
そのシルエットは、涼河が見る限り人間の形そのものだった。
シルエットは形を崩さず、じっと佇んでいる。
「咲奈さんですか?」
「…………」
返事はなく、代わりに音に反応した虫や
動物が、あたりの草木を揺らしながら森の奥へと動いていった。
静寂の間、涼河の脳裏にある言葉が浮かんだ。
──心霊現象──。
涼河の背筋に冷たい汗が流れる。
まさか。いやまさか。
「ふぅ…………」
涼河は息を殺して腰を落とすと、足を高く上げながら静かに歩き出した。
この体勢なら足音はしないし、もし何か起こったらすぐに走り出せるはずだ。
『いや待てよ。もし本当に幽霊だったら、どんなに早く走っても関係ないんじゃ? いやいやいくらなんでもそんな……で、でもでも──』
──その時、
「あなたが──」
「──うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
意識を向けていなかったこともあり、涼河はまるで漫才師のようなポーズで驚き、そのまま固まってしまった。
「…………」
「…………へ?」
だが、そこにいたのは血みどろの女でもなければ、白い仮面をつけた大男でもない。
視線の先にいたのは、一人の女性だった。
毛先を少し巻いたような姿はとてもきれいで、少し垂れ目な顔立ちからは、どこかおっとりとした印象を受ける。
彼女はふくよかな胸元に両手を当てながら、驚いた様子で涼河を観察していた。
「……あの」
「は、はい!」
「あなたが、りょうがさん、ですか?」
「え? そ、そうですけど……」
どうやら彼女は涼河を知っているようだ。
意思の疎通ができたことで、涼河はようやく漫才師のポーズを解き、冷静に答えた。
すると彼女は、安心したように腕を下ろして言った。
「驚いてごめんなさい。流石に早すぎたと思ったのに、こんなに朝早くから来られると思わなかったからびっくりしちゃって」
その声や話す時の仕草、なにより彼女の雰囲気に、涼河は既視感を感じた。
そしてその感覚を裏付けるように、彼女はこう言った。
「初めまして。咲奈の母で、小峰詩織と申します」
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