世界実験開始 

クロム

第一章 その6

「どうしてそんなことを聞く?」
「理由は……ありません……」
「……………………」
「……………………」
 しばらくの沈黙。その間も、真門の視線は鋭いままだ。
 時雨と圭佑も状況を察し、声をかけてこようとはしなかった。
「……………………」
「……そうか」
 その均衡がついに破られ、真門が口を開いた。
 だが──、
「──理由もなく質問をするな。戦場では状況は常に変化する。無駄なく、目的を持って行動しろ」
「……申し訳ございません」
「涼河、行くぞ」
 涼河は振り向き、三人は会議所を出た。
「涼河……どうしたんでしょうか」
「心配ない。あいつらは確実に成長している。その過程だ」
 真門の言葉の真意は、科学者である上泉にはわからなかった。


「涼河、あの質問の意味は何だ?」
 会議所を抜けると、すかさず圭介が問いただした。
「…………ずっと考えてたんだ」
 涼河は、ゆっくりと口を開く。
「──僕は、どうして戦ってるんだろうって」
「…………」
「涼河……」
 数秒の沈黙の後、圭佑が笑いながら答えた。
「そんなことかよ。神妙な顔で話すからもっと重大なことだと思ったぜ。決まってんだろ。俺達は戦闘用ミュータントなんだぜ? 戦わなかったら、一体何のために俺達は生まれてきたんだよ」
「圭佑は気にならないの? 自分がここにいる理由とか、人を殺す理由とか」
「そんなの気にしたことねぇな。敵を殺すのに、理由なんていらねぇだろ」
「いくら敵でも、相手は人だよ? 僕達が守らなくちゃいけないのは、人の命でしょ?」
「俺達が守らなくちゃいけないのはこの日本だ。涼河は考えすぎなんだよ」
 圭佑には、良くも悪くも迷いがない。ネガティブ思考な涼河にとっては、実に羨ましい性格だ。
「時雨、お前はどう思う?」
 圭佑が、沈黙を守っていた時雨に話を振る。
「……私も、涼河みたいに考えたことはないかな。ただ……」
 ──一瞬、時雨の目が涼河を捉えた気がした。
「早く戦争が終わって欲しい、とは思ったことがある」
「「………………」」
 そう答える時雨の表情はどこか物悲しく、涼河と圭佑は言葉を返せなかった。
「……あ、ごめん。そういう話じゃないね」
「謝らなくていいよ。時雨が言ってることは、間違いじゃないし」
「そう……」
「…………」
 自然と、この話はここで中断になった。

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