世界実験開始 

クロム

第一章 その2

 圭佑がその場で高く飛び上がると同時に、涼河と時雨は速度を上げ、一気に敵陣へと接近する。
「はあぁぁぁぁ……」
 圭佑は意識を右肩に集中させる。
 ──すると、右肩が大きく隆起しながら変形を始め、巨大なガトリング砲が生み出された。
「奴らだ! 奴らが来たよ!」
 一人の兵士が叫び、敵軍が涼河達を視認する。
「させるかよ!」
 敵の迎撃の瞬間、圭佑は自身の落下と同時に銃撃を開始した。
「────」
 兵士達の頭上に無数の弾丸が降り注ぎ、断末魔が響き渡る。
 事態の異常を察知した敵兵士達は狼狽し、整った陣形を自ら崩していく。
「今だ!」
 その隙を逃さず、涼河と時雨は弾丸の生み出した粉塵に紛れ、敵陣に突入した。
「「はあぁぁぁぁぁ……」」
 涼河は右手に、時雨は左足に意識を集中させ、それぞれ刀と鎌に変形させる。
 そして勢いそのままに、白兵戦へと持ち込んだ。
「────」
 数秒前まで周辺を支配していた緊張感は一瞬にして消え失せ、戦場は凄まじい闘気の渦に飲み込まれる。
 命達は散り際に鮮血の花を咲かせ、宿主いに失った肉体は容赦なくその場に叩き伏せられていく。
 だがその全ては、共同国軍の兵士達のものだ。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 涼河達の持つ驚異的な身体能力と空間把握能力は、圧倒的な兵力差のある状況にあってこそその真価を発揮する。
 イシュターク部隊は、個人の有する戦力が他の部隊に比べ異常に高い。
 そのため、他の部隊との連携が難しく、むしろ邪魔ですらある。
 ──四面楚歌──。
 これこそが、イシュターク部隊の全力を引き出す最高の環境なのだ。
「無理だ! 勝てるわけない!」
「嫌だ……死にたくない!」
 数人の兵士が戦線を離脱。その臆病は次々と他の兵士に伝染し、僅か数分で敵の第二戦線は崩壊した。
「逃げられると思うなぁ!」
 追い打ちをかけるように、再び圭佑のガトリング砲が火を吹いた。
 放たれた無数の弾丸は逃亡する兵士達の肉を穿ち、残存する敵兵力もろとも殲滅していく。
「もういい圭佑!」
「どうしてだ! まだ敵は──!
「──これ以上の殺害行為は戦闘じゃない! ただの虐殺だ!」
「……了解」
 だが涼河の怒号が響いた時には、すでに敵戦力はほぼ全滅していた。
 涼河は周囲を見渡す。
「────」
 この二年間の戦いで何回も見てきた、死体が大量に横たわるこの光景。
 涼河は、未だこの血生臭い匂いに慣れないでいた。
「勝ったな。俺達」
 圭佑はそう言いながら、ガトリング砲を元の右肩に戻した。
「…………」
「何でそんな顔してんだよ。俺達は勝ったんだ。これは喜ぶべきことだろ」
「涼河、圭佑。二人とも無事?」
 自身の戦闘を終え、時雨も合流した。
「俺は大丈夫だぜ」
「……僕も、大丈夫」
「なら良かった。私も大丈夫」
 第二戦線崩壊の報は、皇国軍にとってこれ以上ない吉報になるだろう。残された敵軍は包囲するだけでいい。降伏は時間の問題だ。
「任務完了。撤退しよう。さっきと同じ道で──」
 ──その時、涼河の視界に気になるものが映った。

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