世界実験開始 

クロム

序章.実験の目的

 人間の歴史とは、戦いの歴史である。
 それぞれが掲げる正義を通すため。自らの望む世界のため。成し遂げたい野望のため。
 人間は命を燃やし、互いに殺し合ってきた。
 彼らは信じているのだ。自らの命を捧げたその先に、栄光の未来があるのだと。
 そして彼らは、その未来を生きることなく死ぬ。
 積み重ねられた屍の道を踏みしめて進むのは、彼らを戦いへと導いた一部の人間のみ。
 殺し合いによって生まれた傷は心を蝕み、暗く冷たい絶望の影を落とす。
 彼らは知らないのだ。持てる全てを捧げた戦いも、蓋を開ければ一個人同士の口喧嘩に過ぎないことを。
 全ては、初めから仕組まれていたことなのだと。
 ─果たして、彼らは生きていたのだろうか。
 仕組まれた世界に生を受けたその時から、定められし道しか歩めないというのに。
 自分では、何も決められないというのに。
 それは生きるといえるのだろうか。
 生きるとは、何なのだろうか。
 こうして、この世界は始まったのだ。

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