異世界クロスロード ゆっくり強く、逞しく

アナザー

第6話 初めての激闘

・「マジか、どうしよう。
サクサク話が進むから忘れてた。」

トリナ村からギルドが用意した馬車に乗り、いち早くオルドラ王国に帰って来たライオットは早速困っていた。

・「死活問題だよなぁ。」

そう呟くライオット、、、
彼は今、途方に暮れていた。
彼はお金を持っていなかったのだ。
よって、宿も取れなければ飯も食べられない。

オーク殲滅戦後の後処理の為、ギルド長セリスと総務サリスがまだオルドラに戻って来ていない。
通常業務には支障が無いのだが冒険者新規登録となると総務とギルド長の承認が必要となる。
まだ未登録のライオットはギルドの依頼を受けられないのである。

・「これは困ったそ、マジでどうしよう。
わからない事もあるし、聞きたいけどセリスさんもリーシュさんも居ないし。」

ステータス
ライオット レベル1
筋力8  知力20☆ 敏捷性14
スキル
自動マーカー、マップ、精神自動回復、順応力
魔法
癒しの波動
技能
剣術レベル1           
杖術レベル1  
盾術レベル1

トリナ村から帰る馬車の中で、何度も見たステータスを確認して相変わらず考え込むライオット。

・「あれだけ敵を倒してレベルがまだ1なのは何故?直接倒さないと上がらないのか?
それに、知力の横に星マークが着いたんだけど、
あれって何だろ?
わからない事ばかりだ。
そして、お腹空いた。」

途方に暮れるライオット。
どうする?
頼れる人が居ない今、俺にできる事は何だ?
知らない人に依頼が無いが聞きまくるか?
路上で依頼が無いがビラでも配るか?
どちらにしても勝手にやって良いか分からない。
違反して捕まるのも嫌だし。
お腹空いたし、、、
地面を弄りながら座り込み、考える事30分。
不意に声をかけられた。

・???
「お兄ちゃん、どうしたの?
お腹痛いの?
大丈夫?」

ふと顔を上げると小さな女の子が心配そうにコチラを覗き込んでいた。

・「大丈夫だよ、ありがとう。」

とりあえずお礼を言う俺。
心配してくれるんだ、良い子だなぁ。

・少女
「お腹が痛い時はね、
教会に行ってお祈りすると良いんだよ?」

ニッコリ笑いながら教えてくれる

・「そうなんだ、教会に行くと治るんだね。
教えてくれてありがとう!
優しいんだね」

・少女
「えへへ〜」

ニコニコしながら笑いかけてくる女の子。
遠くからその子を呼ぶ声がすると振り返り走って行く、母親らしき人物がコチラを睨んでいる。
俺は堪らず頭を下げた。
不審者を見るような眼で見られつつ、女の子に何か話した後去っていった。

・「知らない人に声を掛けちゃいけませんって言ってるんだろうなぁ。」

ちょっと心にダメージを受ける俺に、先程の女の子が母親に気付かれない様にコッチを見て小さく手を振ってくれた。

・「良い子だなぁ。
母親も良い人なんだろうなぁ、、、
まてよ、、、教会か、そうだネネさんが居る!」

今、この王国に頼れそうな人物は一人しかいない
そしてそれに気付いたライオット。
教会の位置はわからないが、人に聞いて行けば辿り着くだろう。

・「よし、早速行動だ。
あ、すみませーん。」

知らない人に教会までの道のりを聞く。
一途の望みを託し、教会に向かって駆け出した。

・ネネ
「あら、おかえりなさい。」

ネネさんだ!
優しい笑顔で声を掛けてくれた。

・「ただ今戻りました!」

・ネネ
「リーシュとは一緒じゃ無いの?
オークを倒しにトリナ村へ行ったのよね?」

・「リーシュさんは後処理があるからって村に残っているはずですよ。」

・ネネ
「そう、あの子も頑張ってるのね。
今日は何か御用かしら?」

・「実は、、、」

まず、名前がライオットと言う事、それからお金が無い事や、ギルド登録がまだなので依頼を受けられない事、更にギルド新規登録も出来ない事を話し、何でもするのでご飯をくださいと、異世界に来て何度目かの土下座を決めた。

・ネネ
「フフフ、本当に面白い方ね。」

ネネさんに笑われた。
でも構わないのです。

・「お願いします、何か食べさせて下さい!」

・ネネ
「わかりました。
質素な物しかありませんが何か作ります。
その代わり、後で一つお願いして良いかしら?」

・「ありがとうございます!
何でもします。
あ、出来る事なら何でもします。
出来なかったらごめんなさい。
でも頑張るので!」

・ネネ
「フフフ、大丈夫。
簡単な事だから。
じゃあ少し待っていて下さい。」

そう言ってネネさんは奥に消えていった。
安堵した俺はこれからの事を考えた。

・「さて、これからどうしようかな。
先ずはギルド登録だろ。
依頼でお金が貰えるかの確認。
報酬が物の場合、どうやってお金に変えるか。
後は他のお金の貯め方をリサーチせねば。
そして拠点となる宿を探す。
宿の相場や通貨の事も知らなきゃだな。
それから武器や防具の調達。
その後に本腰を入れてレベルを上げる。
技能スキルも上げていきたいな。
おっと、レベルの上げ方も聞かなきゃだった。
どうしたら上がるのか。
やはり直接自分で倒すのが1番有力かな?
ん〜、やる事がいっぱい。
一つ一つゆっくりこなして行くか。
焦る必要も無いしね。」

そんな風にガッツリ考え込んでいたら、奥からネネさんが戻って来た。

・ネネ
「難しい顔してどうかしたの?」

その手にはスープらしき物が。

・ネネ
「とりあえず簡単なスープを作って来たわ、
そちらに座って。」


・「ありがとうございます!」

俺は全力で椅子に座る。
手を合わせてから食べ始めた。

・ネネ
「余程お腹が空いてたのね。
おかわりもあるからゆっくり食べて良いのよ。」

ありがてぇ、ありがてぇ、
一心不乱にスープを流し込む。
熱いのだが、止まらない。
質素だがしっかりした旨味がある。

・「美味いっす、これ美味いっす。
ネネさん、これ美味いっす
こんな美味いの初めてっす」

美味いを連呼して食べる俺。
飢餓状態が1番のスパイスだと感じた瞬間だった。
余りにも美味しいそうに食べる俺を見てネネさんは思案する。
 
・ネネ
「(ポポ草とホリ芋の簡単なスープなんだけど、この子あまり良い暮らしをしていなかったのかしら?
そう言えばお金も持ってないし、ひょっとして人には言えない事情があるのかも知れないわね)」

そんな事を思われているとはつゆ知らず、
スープをおかわりして食べ続ける。

・「美味いっす、美味いっす。」

そんな俺をネネさんは優しく見守るのであった。

・「うはぁ、美味しかった。
ネネさん、本当にありがとうございました。
そしてご馳走様でした。」

・ネネ
「お粗末様でした。」

そう言って食器を片付けに奥に行くネネさん。
何だか実家にいる気分だ。
母さん、、、懐かしいな。
母さんが生きてたらこんな感じなのかな?
元の世界の記憶が少しずつ曖昧になって来てるのは名前を決めてこっちで生きると決めた事と関係があるのかな?
少し昔の事を思い出して涙するライオット。
まだ幼き頃の思い出の中の母親とネネを重ね、
幸せだった懐かしき日々を思い出す。

・「その内この記憶も消えてしまうのだろうか?
それは少し嫌だな。」

複雑な感情の中にいるライオットの元にネネが戻って来た。

・ネネ
「お願いの事なんだけどお話ししても良いかな?」

・「はい、何なりとお申し付けください!」

・ネネ
「実はね、裏手に畑があるんだけど最近になってリトルボアが出没する様になったの。
それで畑が荒らされてしまう事があるから、出来たらリトルボアの討伐をお願いしたくて。」

リトルボア?
名前からして小さいイノシシみたいなものか?
瓜坊ってところか。
街の周りは塀で囲まれてるのに魔物がでるのか?

・ネネ
「リトルボアは魔物でもあるけど、食用の家畜として飼育もしているのよ。
たまに逃げ出して今回の様な事になるの。
本当ならギルドに依頼して討伐して貰うんだけど、ギルド料もバカにならないのよね。」

成る程、食用の家畜ね。
なら俺でも倒せそう。
食用なら討伐後は持って帰ってきた方が良いか。

・「わかりました、お任せください!
一食のご恩は必ず返します。」

・ネネ
「無理しないようにね。
こちらの用件はいつでも良いので、手が空いた時にでも宜しくお願いします。」

・「今から言って来ますよ、他にやる事ないし。
では、行ってきます。」

ネネさんに一礼をして部屋から出た。
俺はその足で裏の畑に向かった。

・「この畑か、、、
思ったより立派な畑だな。
さて、どうやって探すかな。」

リトルボア、
名前はわかるが見たことない。
ネネさんに一度聞いてくるか?
何かすぐに戻るのはかっこ悪いな。
さて、どうするか、、
とりあえずマップのマーカーを確認する。

・む、赤点が1つ。
これがリトルボアって事になるか?
違ったらどうしよう、、、
少し迷って思いつく。
自動マーカーに標的をセットとか出来ないかな?

・「自動マーカー、
セット、リトルボア。」

とりあえず言ってみる。
無反応。

・「リトルボアにセット。
唸れ、俺の自動マーカー」

やはり無反応。

・「我、スキル自動マーカーに命ず
リトルボアまで案内しろ」

無反応。

ちょっと泣きそうだ。
何気なくマーカーの赤点を触ってみると、

・分析、
対象、リトルボア
追跡しますか?

無機質のアナウンスが流れた。

・「来たー!
ってか触れば良かったのか。
盛大に無駄な独り言を言ってしまったわ!」

少しの後悔と羞恥心に耐えながら、
次の行動に移す。

・「追跡する」

すると目の前に透き通った矢印が出てきた。
この通りに進めば辿り着くって事ね。
やはり、自動マーカーとマップは超便利。
暫く矢印に従って移動する。

畑の裏の林の中を抜けて、
山道を登って、降って、
さて、この坂を登り切れば居るはずだ。
居るはずなんだが、、、

・「、、、ねえ、
リトルボアって言ってたよね。」

俺は自分に問いかける。

・「これ、全然リトルじゃないよ?
寧ろビックなイノシシだよ?
命名した奴ちょっと出て来いよ。
小一時間説教してやりたい。」

目の前には俺と同じ位、若しくは俺よりもデカい、体格が良い立派なイノシシらしき生き物が居た。

・「想像よりも一回りも二回りも大きいのですが。
む〜、とは言え、
お腹いっぱい食べさせてくれたネネさんに、お礼もしないで逃げ出すなんて。
今の俺に、そんな選択肢はないぜ!」

勇しく叫んで突っ込んで行く俺、
睨み返してくるリトルボア、
こうして決戦の火蓋が切って落とされた。

・「あ、武器持ってないや。」

勇しく突っ込んで行ったものの、
武器がない事に今さら気付く。
どうしようも無いのでとりあえず殴る事にした。
右側に踏み込んで、右フック。
よし、入った!
横っ面にクリティカルヒットだぜ。

・体術スキルを獲得。

アナウンスが流れる。
体術スキル?
今の俺に一番欲しい技能じゃないか!
ヒャッハー、最高だぜ。
気分良く蹴りを入れようとした瞬間。

・「ゲフッ」

リトルボアの体当たり。
それなりに吹っ飛ばされる。

・「右フックが効いてない?
当たり前か、、、魔物だもんな。」

この世界で味わう初めての物理ダメージ。
ガクガク震える膝を支えながら立ち上がる。
リトルボアはこちらを睨みながら地面を蹴る。

・「来る!」

とっさに横っ飛びでリトルボアの体当たりを回避

・「どうする?
武器もない、魔法もない。
頼れるのは体術スキルのみ。
手数で勝負するしかないか?」

しかし、考える事をリトルボアは許さない。
再び突進して来る。

・「落ち着け、相手は直線的な攻撃が多い、、、
と思われる。
落ち着いて躱して攻撃を入れれば倒せる、、、
と思いたい。」

と、考えながらも2度目の突進を躱す。
次!いけるか?
3度目の突進で躱して攻撃を試みる。

・「グッ」

しかし、その際、僅かに掠ってしまった。
痛い、やはり攻撃を喰らうのは不味い。
攻撃を当てるよりも躱す事を優先にしろ
集中!集中!

・「はっ!」

躱す、

・「ふっ!」

何度も避ける。
2回に1回程度に攻撃を当てる。
何度も何度も繰り返す。
だが、リトルボアは止まらない。
攻撃が効いていないのではないか?
雑念が入る。
隙が生まれる。

・「ぐぉ。」

戦い始めて2度目の体当たり直撃。
かなり吹き飛ばされてしまった。
まずい、くそ、まずい。
早く立て、次の体当たりがくるぞ。

・体術スキルが5になりました。
ステータスに補正がかかります

アナウンスが流れる。
すると、今までとは違い、リトルボアの動きが若干遅く感じた。

・「おぁぁぁ、」

四つん這いの格好から横にダイブ。
何とか体当たりを躱して立ち上がる。
何だ?スキルが上がった?
補正ステータス?
ステータスを見たい、、、が見てる暇がない。
リトルボアが尚も突っ込んで来る。

・「さっきよりも遅い!」

体当たりを避けた際、いつもより深く踏み込み腰を捻りつつ殴る。
手応えが最初と違う。
リトルボアがグラつく。
よし、いける!

・「かかって来いよ。
さっきまでの借りを返してやる!」

リトルボアは鼻息を荒くして怒りをぶつけて来る

・リトルボア
「グモォォォ」

初めて唸ったリトルボアの体当たり

・「⁉︎やべぇ、」

全力で避ける。
攻撃など考えない全力の回避行動で何とか躱す。

・「コイツ、さっきまでとはスピードが違う。
今まで遊んでやがったのか?
やばい、まずい、どうする?」

リトルボアがこちらに振り返る。
何故だか笑っている様に見える。

・リトルボア
「グモォォォ!」

・「くっそ、舐めやがって
そっちがその気ならこっちだって」

深く腰を落とし構える。
リトルボアの鼻息が更に荒くなる。
俺は足に力を溜める。
そして、、、一目散に逃げ出した。

・「いつまでも戦ってると思うなよ。
覚えてろ〜。」

誰が聞いてもモブキャラなセリフを吐きつつ
ライオットは後ろに向かって逃げ出した。
しかし、回り込まれてしまった。

・「クソ、諦めてたまるか。」

ライオットは逆方向に逃げ出した。
しかし、回り込まれてしまった

・リトルボア
「ブヒぃ!」

リトルボアは楽しそうだ。

・「遊んでるんじゃないよ。
俺は必死なんだから。
マップオープン。」

必死に逃げ道を探るりながら走るライオット。
必要に追いかけるリトルボア。
暫く走り続け、

・「む、この丘を登れば
いけるか?
いや、行くしかない。」

俺は必死に走り続けた。
リトルボアは獲物が弱るのを待つかの如く、
一定の間隔を空けて追い詰める。
そして、遂に獲物が止まった。

・「はぁはぁはぁ、
くそ、足が動かねえ。」

足が震える
膝が笑う
両膝を両手で押さえて何とか立っている。
リトルボアは勝利を確信したのか、一度大きく嘶くと真っ直ぐライオットに突進してきた。

・リトルボア
「グモォォォ」

リトルボア渾身の体当たりが当たる瞬間。

・「掛かったな!」

ライオットは体当たりをヒラリと躱した。
まさか避けると思っていなかったリトルボアの突進は止まらない。

・「俺は追い込まれたんじゃない。
俺が此処に誘い込んだんだ。」

言葉が通じて居ないだろう相手だったが、
言わずには居られなかった。
リトルボアは落ちて行く。
そう、ライオットはリトルボアを崖の上に誘い込んでいたのだ。

・「俺の、勝ちだ!」

ライオットの勝利宣言。
そして大きな衝突音がした。

・レベルが上がりました。

無機質なアナウンスが流れる。

・「やっっっったぁぁぁぁ!
上がった、上がったぞぉー
うぉぉぉぉ!」

小さくも大きな一歩を歩んだライオット。
自身が満身創痍な事も忘れて叫んでいた。
何処までも澄んだ空に向かって。


〜登場人物〜
・ライオット
主人公
無賃の冒険者を希望する放浪者。
今は何よりお金が欲しい。

・ネネ
教会の神官
実は料理がとても美味い

・リトルボア
食用家畜の魔物。
うまく逃げ出すことに成功した個体。
かなり遠くまで来て畑を発見し、その辺りをテリトリーとした。


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