転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)
第45話:特訓開始と潜在能力
1
拝啓、信頼する仲間たち。
今まで色々なことがありましたが、ここまで苦しい状況に置かれたことはありませんでした。
俺は今…。
訳の分からない異空間に放り込まれています!
話は数分前に遡る。
俺たちはヘイラの神殿で一夜をすごし、翌日ヘイラに集められた。メンバーは俺、ミナミ、グラたん、アリス、エルマ、そしてリリス。
要件は不明。
「さてと、では…、『カオス・ホール』」
何やら黒い球体のようなものがヘイラの手の上に生成された。
そして、それは急速で回転しているようだ。
「あなた達には異空間で修行してもらいますわ。命の保証は出来ませんので、予めご了承をしてくださいまし。では…」
「お、おい、ちょっと…!」
「てい!」
ヘイラはこちらに球をなげつけ、それが俺たちの足元に広がる!
「話を聞いてくれぇぇえ!」
「きゃぁぁぁあああ!」
それはまるで落とし穴や底なし沼のように俺たちを飲み込んだ。
で、今に至る。
暗い上に異空間とかとんでもないことを聞かされてる。もう警戒心マックスだ。
幸い、グラたんが俺と一緒なのだが…。
「むきゅ?ここどこー?もうよるー?」
本人はあまり警戒とかしてないらしい。
「ここはヘイラが生み出した異空間なんだろうな。何があってもおかしくない。気を引き締めていこう」
「うんー、ごしゅじん守るー!」
ちなみに昨晩、主従の契約は済ませた。これから俺がグラたんの主だ。
まぁ、嫌がることはさせないが。
なんというかな。そういうのをさせるための主従の契約なんだろうけど、どうしても非道になりきれないというか、グラたんの気持ちを考えてしまうというか…。
俺には主は向いてないのかもしれない。
「ごしゅじんー、なにか来るー」
ん、何か?
「なにって?」
「んー?来たー!」
「うわぁ!?」
何だ!?空からなにか降ってきたのか!?
突風が、上空から降り注ぎ、俺とグラたんを吹き飛ばす!
「グルルルル…」
「なんだ…、あれ?」
暗くてシルエット位しか視認できないな。
「あれガーゴイルー。目を合わせると石になるー」
石に!?何それ怖い!
俺はとっさに目をふせた。
「じゃあ倒すー」
「いけるのか?」
「だいじょーぶー」
そう言うと、グラたんはスライム状態になり、襲いかかってくるガーゴイルに飛びついた!
その瞬間、キィィィィンという金属音に似た何かが聞こえてきた!
こ、鼓膜がおかしくなる…!
「なんだこれ!?ガーゴイルの魔法か?」
どうやら、魔法を覚えるモンスターもいるらしい。まぁ、その一例が悪魔なのだが。
「ぐあぁぁぁ!?」
「むっきゅー!」
ドッタンバッタンとさんざん暴れ回った挙句、グラたんは俺の方に帰ってきた。どうやら、ガーゴイルは消化してしまったようだ。
「終わったー、あと、これで超音波使えるー」
「超音波?」
「うん、さっきの音がするのー。でも、ご主人とその仲間の人たちには無害にできるよー」
「便利だな」
「その応用でー、暗いところでもものがどこにあるか分かるようになったー」
あぁ、コウモリがよく使うあれか。それでガーゴイルは俺たちを発見し、近づいてきたわけだ。
それってこの状況に限らず、かなり便利じゃないか?恐らくそれ以外にも応用が聞くだろうし。
「でも、なんでガーゴイルのこと知ってたんだ?」
「前の人がなんか資料をいっぱい食べさせてきたー。その中にガーゴイルのことが書いてあったー。生き字引?みたいにしたかったみたいだけど、グラたんが何も喋らないから怒ってたー」
「つまり、資料を飲み込むとそれに関する情報を得ることが出来るのか?」
「うん、そーだよー」
あれ、今思い出したけど、グラたんの資料に身長の何倍ものモンスターを飲み込むって書いてあったよな。つまりそれにも擬態できるのでは?
「なぁ、今擬態できるモンスターってガーゴイルだけか?」
「うんー、多分資料に書かれてたような巨大モンスターに変身して欲しかったんだろうけど、それはまだ食べてないー。グラたんは一人じゃないからー」
えっとつまり、グラたんとは別のグラトニー・スライムの研究結果もあそこには書いてあったってことか。
なら、主に従う知性もないとか書いてあったのに、グラたんがある程度知識があることも頷ける。その個体の知性が低すぎたのか、グラたんの知性が高いんだろう。
「グラたん、早速超音波を使って辺りを探索してくれ」
「分かったー」
すると、何やらグラたんがスライム状態になり、振動し始めた。これが超音波か?
「むきゅむきゅむきゅ…」
なんか振動する度にUFOを呼び出す胡散臭い超能力者みたいな言葉を発してるけど、あれは必要なのか?
数秒後、グラたんは人間状態に戻った。
「どうだ?」
「んー、何も無かったー」
「何も無い?」
どういうことだ?
観測できるものが近くになかったってことか?
いや、でもミナミ達は俺たちと一緒にここに来ているんだろうし、モンスターもいたし…。超音波が届く範囲から外れた?
「なんかねー、木が無くなってるー、少し遠くからー…あれ?生えてきたー?」
「えっと、つまり…」
「地形は現在しんこーで変わっていってて、それに合わせてモンスターがせいせーされる可能性が高いー」
えーっと、つまりあれか?サウンドボックスゲームとか、自由度の高いゲームとかでおなじみな感じ方でいいだろうか?
「つまりは、ここではほぼ意味ないってことか…」
「んー、モンスターが来たらなんかブルブルするから、それで分かるー」
本能的な習性か?イマイチグラトニー・スライムの生体がわからないな。今のところ吸収したものを分析して、擬態してその能力を得る、そしてその内容を記憶するくらいか。さらに危機察知能力まであると。
かなり有能だな。悪い言い方をすれば生物兵器だが、それの呼び方にも恥じないほどのスペックである。
あ、そうだ、俺のレベルは…。
前までは42だったが。
って、53!?結構上がってる!
ちなみに、グラたんのステータスも確認できるけれど、まだグラたんがギルドに入っていないため、ステータス面には?と表示されている。
2
しばらく歩いていたら、何やらまたグラたんが反応した。体をぷにぷにと振動させる。
「んー、またなんか来るー、上からー!」
「上?また飛行するモンスターか!?」
「んーんー、これは…落下してるー!」
落下!?急降下とかじゃなく、落下!?
んー?なーんか聞き覚えのある声が空から聞こえてきたぞー?
「このままじゃ、ぶつかるー!」
「ひゃあああ!」
「もう少し早く忠告してくれぇええ!」
グラたんの忠告も役には立たず…いや、もう少し余裕があれば役に立っただろう。でも、手遅れ…に思えた。
なんと、グラたんが巨大な器のように体をのばし、落下してきた人物を受け止めたのだ!
「むきゅー」
「助かったぁ…ありがとう、グラたん」
空から降ってきたのは王位継承者ではなく、シオンだった。
大方の予想はつく。アゼリールにテレポートで連れてこられて、ヘイラにここに放り込まれたんだろう。修行の一環!とか吹き込まれてな。
「シオン、来たのはお前だけか?」
「ナナクサ兄妹のみんなにはお留守番してもらったよ、あとのみんなで来た。あ、慣れない生活に困るだろうからって、メアリーさんは残ったっけ。ついでにナイトも」
まぁ、あんなに幼いと戦力に成りうるかも微妙だからな。それに天使も強いらしいし、無駄な死人を出したくないのかもしれない。
「それより、なんか私変になったんだけど。なんか手に生えてきたし」
「手に?って、なんだこれ!?水かき?」
俺がシオンの差し出した手を触ってみると、何やら指と指の間に膜が貼られていた。
「ヘイラさん曰く、これは眠っていた素質を解放しただけ…ってさ」
「つまり、亜人に近しい存在だったってことか?」
「よく分からない…」
水生の…種の両生類か?カエルやイモリとか。シオンはその亜人なのだろうか?
「はるか昔に眠らされたけど、今再び解放したーって言ってたよ」
うーん、今は考えても埒が明かないか。
「んー?なんか変な音がするー!ぽたぽた雫が落ちるような…ヨダレ?」
「俺は垂らしてないぞ?」
「私もー」
「えー、結構近くで聴こえるよー?ほんと、数メートル先あたり」
えー、つまり…。
「こいつら姿まで消すのか!?」
「わかんないー、でも…」
グラたんがそう言った瞬間、巨大なカメレオンが俺たちの前に姿を現した!
いや、俺もシルエットしかわからないけど、特有の長い舌とか、突き出た目とか、その他もろもろで嫌でも分かってしまう!それとこれどこかで見たことある!
「きけんー!」
「シュアアア!」
カメレオンは俺たちにまるで舌を鞭のようにして、襲いかかってくる!
3
「むきゅー、これ毒ー!」
グラたんは唾のような液体をかけられそうになり、間一髪でそれを避ける。毒まで使うとか、ますますあのモンスターに似てるじゃねえか!
「ってぇぇぇい!」
「シオン!?」
シオンは、何故か尋常じゃない速度でカメレオンに走りより、一太刀を叩き込んだ!
「シュア!?」
体をくねらせ、尻尾で薙ぎ払って距離を置こうと考えてたのだろう。だが、シオンはこれをまたもやとんでもない脚力でジャンプして避けて、そのまま今度は尻尾を切り落とした!
「シュアアア!?」
何が起こったのか理解出来ず、のたうち回るかに思えたが、カメレオンは直ぐに冷静になり、姿を消した。
「むきゅー、まだいるー」
「だろうな、戦法を変えただけだろう。どこから来るかわからない、気をつけろよ」
「分かってるって、でも、血が滴ってるなら見つけるのも簡単じゃない?」
そうシオンが言った瞬間だった。
カメレオンがこちらに向かって突進してきたのだ!
「何!?脳死特攻か!?」
やはりヤケになったか!って!しかもなんか足がスースーする…って!靴が溶けてる!?
あいつ、体液かなにかに濃硫酸でも含まれてるのか!?
「物質を融解させる毒みたい…」
「くらえば終わりだな…!」
鎧を溶かして、皮膚も溶かされて終わりだ。
くっそ、しかも四方八方から木に登ったりとかしながら飛んでくるから、処理に困る!幸い、突進の直前と最中には姿を現してくれるからなんとか対処出来ているが…。
「グラたん!いけるか!?」
「んー、頑張るー!」
グラたんはスライム状態になって、次の突進に備えた。
そして、俺の後方に現れた瞬間、食らいつこうとした!
「むっ…むきゅ!」
カメレオンの毒が、グラたんを襲い、それを間一髪で避ける。
さすがのグラたんも毒には勝てなかったか…。
「む、むねん…」
「グラたんの仇は私が取る!」
今度はシオンだ。ただ突進していくのではと思っていたが…。違ったらしい。
なんと、シオンの舌が伸びたのだ!
「えっ!?」
か、蛙!?あの脚力といい、今の舌といい、こいつはやはり蛙の亜人なのか!?
そのまま、カメレオンを凄い勢いで地面に叩きつけた!
完全に伸びたな。今ならグラたんも吸収できるかもしれない。
「むきゅー!」
「しゅ、シュア…」
力無く項垂れるカメレオンは、どんどんとグラたんに消化されていく。
「むきゅー、これで毒にも耐性がついたー!」
「やったな、グラたん」
「やったー」
俺がグラたんと話していると、何やらシオンが自分の体をマジマジと見つめていた。
「私、どうなったんだろ?舌伸びたり、あの脚力だったり、普通じゃないよね…」
「その解放ってやつの影響なんじゃないか?」
「んー、この毒は空気に触れることで有毒化するみたいー」
悩んでいるシオンのことはどこ吹く風で、グラたんは毒の分析をしていた。
「まぁ、普通じゃないやつの方が多いし、大丈夫だろ」
「フォローになってないよ…」
「ふんふんふーん」
なんだろう、さっきから清々しいほどに、グラたんがシオンの異変についての関心がない。ついに鼻歌まで歌い出した!
「まぁとりあえず、その事はヘイラに後で聞こう」
「うん、分かった」
「お話終わったー?」
てこてこと、少し離れた位置にいたグラたんが駆け寄ってくる。
「あぁ、グラたんが鼻歌歌ってる間にな」
「そっかー」
皮肉っぽく行ったのだが、それに気がついてないのか、気にしてないのか、グラたんは笑顔を振りまいた。
4
その後、俺たちは何回かモンスターに遭遇したが、対処して進んで行った。
どこが目的地かもわからないが…。
その時だ。いきなり空がひび割れて、崩れ落ち始めた!
「な、なんだ?」
「まぶしー!」
「うぅ…」
もう一度うっすらと目を開けると、そこではご機嫌そうに椅子に座って茶菓子を頬張っているヘイラの姿が。
「もういいですわよ。今日のところはー」
悪びれる様子もなく、「用がないのなら帰れ」とでも言わんばかりに手でしっしっ!とジェスチャーする。
あぁ、よく見たらみんな居たのか。眩しくて当たりが見えてなかった。
すると、ドゴォオン!と大きな音を立てて、地面のタイルが浮き上がるペキペキという音が聞こえてきた。
「おい、ヘイラ。またお前はそんなことして、これでも俺たちの代表か」
声のした方を見てみると、そこには真っ黒の鎧に炎の装飾、真っ赤なマントを背負った少年が立っていた。
誰だろうか、この子?
拝啓、信頼する仲間たち。
今まで色々なことがありましたが、ここまで苦しい状況に置かれたことはありませんでした。
俺は今…。
訳の分からない異空間に放り込まれています!
話は数分前に遡る。
俺たちはヘイラの神殿で一夜をすごし、翌日ヘイラに集められた。メンバーは俺、ミナミ、グラたん、アリス、エルマ、そしてリリス。
要件は不明。
「さてと、では…、『カオス・ホール』」
何やら黒い球体のようなものがヘイラの手の上に生成された。
そして、それは急速で回転しているようだ。
「あなた達には異空間で修行してもらいますわ。命の保証は出来ませんので、予めご了承をしてくださいまし。では…」
「お、おい、ちょっと…!」
「てい!」
ヘイラはこちらに球をなげつけ、それが俺たちの足元に広がる!
「話を聞いてくれぇぇえ!」
「きゃぁぁぁあああ!」
それはまるで落とし穴や底なし沼のように俺たちを飲み込んだ。
で、今に至る。
暗い上に異空間とかとんでもないことを聞かされてる。もう警戒心マックスだ。
幸い、グラたんが俺と一緒なのだが…。
「むきゅ?ここどこー?もうよるー?」
本人はあまり警戒とかしてないらしい。
「ここはヘイラが生み出した異空間なんだろうな。何があってもおかしくない。気を引き締めていこう」
「うんー、ごしゅじん守るー!」
ちなみに昨晩、主従の契約は済ませた。これから俺がグラたんの主だ。
まぁ、嫌がることはさせないが。
なんというかな。そういうのをさせるための主従の契約なんだろうけど、どうしても非道になりきれないというか、グラたんの気持ちを考えてしまうというか…。
俺には主は向いてないのかもしれない。
「ごしゅじんー、なにか来るー」
ん、何か?
「なにって?」
「んー?来たー!」
「うわぁ!?」
何だ!?空からなにか降ってきたのか!?
突風が、上空から降り注ぎ、俺とグラたんを吹き飛ばす!
「グルルルル…」
「なんだ…、あれ?」
暗くてシルエット位しか視認できないな。
「あれガーゴイルー。目を合わせると石になるー」
石に!?何それ怖い!
俺はとっさに目をふせた。
「じゃあ倒すー」
「いけるのか?」
「だいじょーぶー」
そう言うと、グラたんはスライム状態になり、襲いかかってくるガーゴイルに飛びついた!
その瞬間、キィィィィンという金属音に似た何かが聞こえてきた!
こ、鼓膜がおかしくなる…!
「なんだこれ!?ガーゴイルの魔法か?」
どうやら、魔法を覚えるモンスターもいるらしい。まぁ、その一例が悪魔なのだが。
「ぐあぁぁぁ!?」
「むっきゅー!」
ドッタンバッタンとさんざん暴れ回った挙句、グラたんは俺の方に帰ってきた。どうやら、ガーゴイルは消化してしまったようだ。
「終わったー、あと、これで超音波使えるー」
「超音波?」
「うん、さっきの音がするのー。でも、ご主人とその仲間の人たちには無害にできるよー」
「便利だな」
「その応用でー、暗いところでもものがどこにあるか分かるようになったー」
あぁ、コウモリがよく使うあれか。それでガーゴイルは俺たちを発見し、近づいてきたわけだ。
それってこの状況に限らず、かなり便利じゃないか?恐らくそれ以外にも応用が聞くだろうし。
「でも、なんでガーゴイルのこと知ってたんだ?」
「前の人がなんか資料をいっぱい食べさせてきたー。その中にガーゴイルのことが書いてあったー。生き字引?みたいにしたかったみたいだけど、グラたんが何も喋らないから怒ってたー」
「つまり、資料を飲み込むとそれに関する情報を得ることが出来るのか?」
「うん、そーだよー」
あれ、今思い出したけど、グラたんの資料に身長の何倍ものモンスターを飲み込むって書いてあったよな。つまりそれにも擬態できるのでは?
「なぁ、今擬態できるモンスターってガーゴイルだけか?」
「うんー、多分資料に書かれてたような巨大モンスターに変身して欲しかったんだろうけど、それはまだ食べてないー。グラたんは一人じゃないからー」
えっとつまり、グラたんとは別のグラトニー・スライムの研究結果もあそこには書いてあったってことか。
なら、主に従う知性もないとか書いてあったのに、グラたんがある程度知識があることも頷ける。その個体の知性が低すぎたのか、グラたんの知性が高いんだろう。
「グラたん、早速超音波を使って辺りを探索してくれ」
「分かったー」
すると、何やらグラたんがスライム状態になり、振動し始めた。これが超音波か?
「むきゅむきゅむきゅ…」
なんか振動する度にUFOを呼び出す胡散臭い超能力者みたいな言葉を発してるけど、あれは必要なのか?
数秒後、グラたんは人間状態に戻った。
「どうだ?」
「んー、何も無かったー」
「何も無い?」
どういうことだ?
観測できるものが近くになかったってことか?
いや、でもミナミ達は俺たちと一緒にここに来ているんだろうし、モンスターもいたし…。超音波が届く範囲から外れた?
「なんかねー、木が無くなってるー、少し遠くからー…あれ?生えてきたー?」
「えっと、つまり…」
「地形は現在しんこーで変わっていってて、それに合わせてモンスターがせいせーされる可能性が高いー」
えーっと、つまりあれか?サウンドボックスゲームとか、自由度の高いゲームとかでおなじみな感じ方でいいだろうか?
「つまりは、ここではほぼ意味ないってことか…」
「んー、モンスターが来たらなんかブルブルするから、それで分かるー」
本能的な習性か?イマイチグラトニー・スライムの生体がわからないな。今のところ吸収したものを分析して、擬態してその能力を得る、そしてその内容を記憶するくらいか。さらに危機察知能力まであると。
かなり有能だな。悪い言い方をすれば生物兵器だが、それの呼び方にも恥じないほどのスペックである。
あ、そうだ、俺のレベルは…。
前までは42だったが。
って、53!?結構上がってる!
ちなみに、グラたんのステータスも確認できるけれど、まだグラたんがギルドに入っていないため、ステータス面には?と表示されている。
2
しばらく歩いていたら、何やらまたグラたんが反応した。体をぷにぷにと振動させる。
「んー、またなんか来るー、上からー!」
「上?また飛行するモンスターか!?」
「んーんー、これは…落下してるー!」
落下!?急降下とかじゃなく、落下!?
んー?なーんか聞き覚えのある声が空から聞こえてきたぞー?
「このままじゃ、ぶつかるー!」
「ひゃあああ!」
「もう少し早く忠告してくれぇええ!」
グラたんの忠告も役には立たず…いや、もう少し余裕があれば役に立っただろう。でも、手遅れ…に思えた。
なんと、グラたんが巨大な器のように体をのばし、落下してきた人物を受け止めたのだ!
「むきゅー」
「助かったぁ…ありがとう、グラたん」
空から降ってきたのは王位継承者ではなく、シオンだった。
大方の予想はつく。アゼリールにテレポートで連れてこられて、ヘイラにここに放り込まれたんだろう。修行の一環!とか吹き込まれてな。
「シオン、来たのはお前だけか?」
「ナナクサ兄妹のみんなにはお留守番してもらったよ、あとのみんなで来た。あ、慣れない生活に困るだろうからって、メアリーさんは残ったっけ。ついでにナイトも」
まぁ、あんなに幼いと戦力に成りうるかも微妙だからな。それに天使も強いらしいし、無駄な死人を出したくないのかもしれない。
「それより、なんか私変になったんだけど。なんか手に生えてきたし」
「手に?って、なんだこれ!?水かき?」
俺がシオンの差し出した手を触ってみると、何やら指と指の間に膜が貼られていた。
「ヘイラさん曰く、これは眠っていた素質を解放しただけ…ってさ」
「つまり、亜人に近しい存在だったってことか?」
「よく分からない…」
水生の…種の両生類か?カエルやイモリとか。シオンはその亜人なのだろうか?
「はるか昔に眠らされたけど、今再び解放したーって言ってたよ」
うーん、今は考えても埒が明かないか。
「んー?なんか変な音がするー!ぽたぽた雫が落ちるような…ヨダレ?」
「俺は垂らしてないぞ?」
「私もー」
「えー、結構近くで聴こえるよー?ほんと、数メートル先あたり」
えー、つまり…。
「こいつら姿まで消すのか!?」
「わかんないー、でも…」
グラたんがそう言った瞬間、巨大なカメレオンが俺たちの前に姿を現した!
いや、俺もシルエットしかわからないけど、特有の長い舌とか、突き出た目とか、その他もろもろで嫌でも分かってしまう!それとこれどこかで見たことある!
「きけんー!」
「シュアアア!」
カメレオンは俺たちにまるで舌を鞭のようにして、襲いかかってくる!
3
「むきゅー、これ毒ー!」
グラたんは唾のような液体をかけられそうになり、間一髪でそれを避ける。毒まで使うとか、ますますあのモンスターに似てるじゃねえか!
「ってぇぇぇい!」
「シオン!?」
シオンは、何故か尋常じゃない速度でカメレオンに走りより、一太刀を叩き込んだ!
「シュア!?」
体をくねらせ、尻尾で薙ぎ払って距離を置こうと考えてたのだろう。だが、シオンはこれをまたもやとんでもない脚力でジャンプして避けて、そのまま今度は尻尾を切り落とした!
「シュアアア!?」
何が起こったのか理解出来ず、のたうち回るかに思えたが、カメレオンは直ぐに冷静になり、姿を消した。
「むきゅー、まだいるー」
「だろうな、戦法を変えただけだろう。どこから来るかわからない、気をつけろよ」
「分かってるって、でも、血が滴ってるなら見つけるのも簡単じゃない?」
そうシオンが言った瞬間だった。
カメレオンがこちらに向かって突進してきたのだ!
「何!?脳死特攻か!?」
やはりヤケになったか!って!しかもなんか足がスースーする…って!靴が溶けてる!?
あいつ、体液かなにかに濃硫酸でも含まれてるのか!?
「物質を融解させる毒みたい…」
「くらえば終わりだな…!」
鎧を溶かして、皮膚も溶かされて終わりだ。
くっそ、しかも四方八方から木に登ったりとかしながら飛んでくるから、処理に困る!幸い、突進の直前と最中には姿を現してくれるからなんとか対処出来ているが…。
「グラたん!いけるか!?」
「んー、頑張るー!」
グラたんはスライム状態になって、次の突進に備えた。
そして、俺の後方に現れた瞬間、食らいつこうとした!
「むっ…むきゅ!」
カメレオンの毒が、グラたんを襲い、それを間一髪で避ける。
さすがのグラたんも毒には勝てなかったか…。
「む、むねん…」
「グラたんの仇は私が取る!」
今度はシオンだ。ただ突進していくのではと思っていたが…。違ったらしい。
なんと、シオンの舌が伸びたのだ!
「えっ!?」
か、蛙!?あの脚力といい、今の舌といい、こいつはやはり蛙の亜人なのか!?
そのまま、カメレオンを凄い勢いで地面に叩きつけた!
完全に伸びたな。今ならグラたんも吸収できるかもしれない。
「むきゅー!」
「しゅ、シュア…」
力無く項垂れるカメレオンは、どんどんとグラたんに消化されていく。
「むきゅー、これで毒にも耐性がついたー!」
「やったな、グラたん」
「やったー」
俺がグラたんと話していると、何やらシオンが自分の体をマジマジと見つめていた。
「私、どうなったんだろ?舌伸びたり、あの脚力だったり、普通じゃないよね…」
「その解放ってやつの影響なんじゃないか?」
「んー、この毒は空気に触れることで有毒化するみたいー」
悩んでいるシオンのことはどこ吹く風で、グラたんは毒の分析をしていた。
「まぁ、普通じゃないやつの方が多いし、大丈夫だろ」
「フォローになってないよ…」
「ふんふんふーん」
なんだろう、さっきから清々しいほどに、グラたんがシオンの異変についての関心がない。ついに鼻歌まで歌い出した!
「まぁとりあえず、その事はヘイラに後で聞こう」
「うん、分かった」
「お話終わったー?」
てこてこと、少し離れた位置にいたグラたんが駆け寄ってくる。
「あぁ、グラたんが鼻歌歌ってる間にな」
「そっかー」
皮肉っぽく行ったのだが、それに気がついてないのか、気にしてないのか、グラたんは笑顔を振りまいた。
4
その後、俺たちは何回かモンスターに遭遇したが、対処して進んで行った。
どこが目的地かもわからないが…。
その時だ。いきなり空がひび割れて、崩れ落ち始めた!
「な、なんだ?」
「まぶしー!」
「うぅ…」
もう一度うっすらと目を開けると、そこではご機嫌そうに椅子に座って茶菓子を頬張っているヘイラの姿が。
「もういいですわよ。今日のところはー」
悪びれる様子もなく、「用がないのなら帰れ」とでも言わんばかりに手でしっしっ!とジェスチャーする。
あぁ、よく見たらみんな居たのか。眩しくて当たりが見えてなかった。
すると、ドゴォオン!と大きな音を立てて、地面のタイルが浮き上がるペキペキという音が聞こえてきた。
「おい、ヘイラ。またお前はそんなことして、これでも俺たちの代表か」
声のした方を見てみると、そこには真っ黒の鎧に炎の装飾、真っ赤なマントを背負った少年が立っていた。
誰だろうか、この子?
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