転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)

Raito

第43話:堕ちた女神とその目的

 1


 俺たちは王都からイグラットまで帰ることになった。
 ちなみに、ナナクサ兄弟達は俺らの屋敷に匿うことに。当然のごとくシオン達もな。


「ひとつ気がかりなことがある。天使の襲撃の件だ。こちらに回ってきている情報では、復興は完了しているとのことだが…」


「この目で確かめるさ」


「そうか。達者でな」


「あぁ」


 エリナも何かとこちらのことを心配してくれているらしい。


「じゃあねー、ユニラちゃんー!」


「うん!ティナお姉ちゃん、ルキアお姉ちゃんもまたねー」


「はぅう、癒されるよー」


「そ、そんなに触らないで…ひゃん!」


 もふもふとユニラとルニラの耳をティナとルキアが触っている。


 一方で、ミナミはと言うと…。


「断固反対!断固反対です!」


「おじょうはグラたんと一緒に居るのー!ごしゅじんにまとわりついちゃダメー」


 早速グラたんがミナミを抑制していた。その横でナズナもミナミに擦り寄っている。
 あれも抑制…してるのか?


「これからはルキア姉ちゃんに稽古をつけてもらうんだー!きっと強くなるからなー!」


「うん!いつでも受けて立つよ!」


「あたしもー!」


「僕もー!」


「俺だってー!」


 エギルとアウトドア組が拳を合わせている。再戦の約束的なあれか?


「ゲートの準備できたよー!」


 どうやら、前までは周囲の人間に怪しまれないように馬車で王都までやってきたようだが、この前の一件で俺たちは一躍有名人になった。


 それ故に、もうその必要はなくなったため、直接馬車に乗らずに行き来することができるようになったのだ。


「じゃあな、エギル」


「あぁ、元気でな」


 俺とエギルは固く握手をすると、ユニラの詠唱が完了した。


「元気でねー」


「ありがとうございました、今まで!」


「お前たちとの旅、実に心躍るものであった。たまにはこういう催しも、悪くないのかもな」


「また行くか?」


 ふんっと、エリナは鼻で笑ったあと、「今度はもう少し近場で頼みたいがな」と続けた。


「同感だ」


「もういいー?」


「あぁ、送り出してやってくれ」


「わかったー!テレポート!」


 しゅんっと一瞬で、周りの景色が一変した。


 2


 俺たちは無事イグラットに帰還した。


 んー、行く前と大差ないような…?


「じゃ、各自解散…」


「ちょっと待って!」


 驚いたような声を出したのは、リリスだった。何かあったのか?


「これ…!」


「…酷いな」


 俺が見たのは…。


 店内がめちゃくちゃに荒らされた、アリス魔具店だった。


 瓶は散乱し、窓は割られて、戸棚はひっくり返っている。


「一体誰が!」


「人間だ」


 吐き捨てるように、ゼルドリュートが話す。それを、リリスが鬼のような形相で睨みつけた。


「あんた、全部知ってたの?」


「そうだとしたら…?」


「いい加減にしなさい!なんでそんなことを早く言わないの!」


「やめろ!ケンカなんかしてる場合じゃねぇ!」


 俺は二人の間に割って入った。
 入ったはいいが…。
 殺気がビリビリと伝わってくる!主にリリスから!


「何?首突っ込まないで。死ぬわよ」


「だからそんなことしてる場合じゃ…!」


「ほーいほーい!喧嘩してる悪魔さんたち!人間さんに仲裁される気分はどうっすか?」


すると、何やら玄関の方から声がした。そして振り返ると、そこには見知らぬ少女が…。


 なんだろう、この少女。
 黒髪と白髪が混ざって、なんか神々しい感じだがどこか禍々しいような…。


 ん?先程まで感じていた殺気が無くなって…?いや、怒りの矛先が別方向に?


「ふぁ!?ちょ、やめて欲しいっす!何もただ貴方達をからかいに来たわけじゃないっすよ!」


 二人は無詠唱の魔法を不意打ちのように放ち、それを咄嗟に少女が防いだ。


 無詠唱とはいえ、元魔王幹部二人の魔法を即座に防ぐ瞬発力と魔力…。
 只者じゃないことは確かだ。


 ちなみに無詠唱だと、本来の二分の一ほどの威力になるが、このように不意打ちのように使うことが出来る。


「あら、『天使の皮を被った悪魔』が何用かしら?」


「天使…?」


 それって、アリス達と闘った天使か!?
 こいつが…村とアリス達を…!


 ふるふると拳を握っていると、ゼルドリュートが俺の前に手を出した。
 怒りを沈めろってことか?


「お前はこいつがアリスと闘った天使と同類と見ているようだが、それは違うぞ」


「そうね、にしてもあんた、今度から気をつけなさいよ?」


「はいはい」


 な、なんか何事もないみたいに二人が話してるけど、喧嘩してたんじゃないのか!?


「お、おい、もういいのか?」


「もういいって?あぁ、アリス達のこと?何、村追い出された程度で野垂れ死にするような奴じゃないし、大丈夫でしょ。イライラも魔法を一発打ったらスッキリしたしー」


「あたしはサンドバッグじゃないっす!」


 あ、あれ?なんか他の奴ら家に帰ろうとしてない?帰路に着いてない!?


「なーんかお取り込み中みたいだからお姉さんたち先に帰らせてもらうわねー。案内よろしくー、ティナちゃんたちー」


「後で何があったか聞かせなさいよ!」


「ちょ、なら自分で聞いてけよー!」


 ちくしょう聞いてねぇ!
 結局この場に残ったのは俺とミナミ、シュガーとグラたんとリリス、そしてゼルドリュートと少女か。


「そういや、あんたまだ自己紹介してないわよ」


「あぁそうっすね。あたしの名前はアゼリール。死を司る天使っす。リリスさんとは旧友…というか腐れ縁というか…」


「ほんと、腐っても切れない縁よね」


 ふーん、天使でも悪魔と内通してる奴もいるのか。


「俺の名前はイリヤ・ユウマ。こっちが妹の…」


「イリヤ・ミナミです!この子がグラたんです!」


「むきゅー、よろしくー」


「こちらこそ!友好的に行こうっすー」


 なんか気さくな感じだな。天使ってもっとこう、ビシッとした堅苦しい感じのをイメージしてたんだが…。
 そう、例えるなら「悪は死せよ!」とか言ってそうな感じ。


「で、その天使様が何用かしら?さっきも聞いたけど」


「そうだな、何かあったのか?」


「実はっすね、こちらでアリスさんを預かってるっす」


「それって、天使に囚われてるってことか!?」


「落ち着けよユウマ」


 なんでこいつらこんな平然としてんだよ!ミナミも顔を青くしてるし、グラたんに至っては…あまり興味無さそうだけれども!


「こいつだって笑いながらこちらに悪い状況を提供しに来る不謹慎な奴じゃない。つまり…、あの方のとこだな?」


「はいっす!お察しの通り!」


 な、なんか勝手に物事が進展してる!


「で、今から行くの?」


「そうしたい所っすけど…、エルマさんを探さないといけないっす」


「同行してるんじゃないのか?」


「一悶着あったようで…、まぁアリスさんが自分が悪かったと自覚していて、謝りたいとも言ってたっす」


「それ、ほんと…!?」


 振り向くと、血だらけのエルマが入口に立っていた。
 いや、血が黒いところがある…、傷を負ってから時間が経ってるのか。でも塞ぎ切っては無い様子。
村から追い出されたと聞いたので、わざわざ戻ってきたのだろう。


「ミナミ、回復!」


「あ、はい!」


 ミナミがエルマに駆け寄り、回復魔法を唱えた。すると傷口がどんどんと塞がって…いかない!?


「傷はそれほどじゃない…、回復遅延の毒でも盛られた?」


「麻酔に混ぜられてた可能性もあるけど…」


 麻酔…か。
 殺さないところ、まだこいつを嫌いになりきれなかったんだろうなと思う。


「あ、もしエルマさんにあったら渡してくれって…」


 アゼリールはポケットから薬を取り出し、エルマに飲ませた。


 すると、何やら傷がみるみる塞がっていった。


 そして、ゆらりと立ち上がる。


「アリスに会いたい…アゼリール、アリスは!どこに!?」


「ヘイラ様のとこっす!」


 ヘイラ…?天使が様とか付けるってことは神とか?三人が騒がないからきっと大丈夫だよな?


「さてっと!ではでは善は急げ!今から来てもらうっす!」


「へっ!?」


「テレポート!」


 こうして、俺は本日二度目のテレポートを体験したのだった。


 3


 眩い光が目を襲い、思わず目を瞑る。


 そしてもう一度目を開けると…。


「あばばばばぁぁぁあ!」


「ほーらほーら!この程度でへばっていては天使の攻撃なんて受けられないですわよ!」


 縦横無尽に駆け回るアリスと、それを追いかけながら魔法を連発する白髪の女性だった。


 二十代前半くらいか?


「むきゅー?どこー?ここー?」


「あの世とこの世の狭間…、『神域』と言ったところっすかねー。で、あそこで魔法をぶっぱなしてるのがヘイラ様っす」


 周りを見渡すグラたんに、アゼリールが説明する。


 神域…か。やはり神がこの世界には居るらしい。悪魔だとか天使だとか居る時点で察しはついていたが…。


「って、こんな世界に来て大丈夫なのか!?」


「ノープロブレムっすよー。あくまで半分は人界と繋がってるっすから。でも、ここから落ちたらお陀仏っすね」


 落ちる…?って、よく見たら浮島見たくなってるな。


「何回もこの身で体験しましたぁ!」


「うふふ、楽しい!楽しいですわ!ほらほら!もっと逃げ惑うのです!」


「楽しい!?快楽目的で人を殺そうとしないでくださいー!」


 うわぁ、あれが神か…。
 なんというか、邪神?に近い気がする。
 ほら、もう完全に快楽で人殺してる顔じゃん。
 あと、アリス。お前は人じゃない。


「できれば手短に話を済ませて欲しい…、もしくはもう一度元いた場所まで戻って、屋敷のヤツらに話をつけてからもう一度ここに戻して欲しいんだが…」


「あぁ、了解っす。ヘイラ様ー、連れてきたっすー!」


「あら?仕事が早いのでしてね、アゼリール」


「さすがに的一日の刑は気が狂うっすからね…」


 的一日!?さっきのを一日中やらされるってことか!?


「あ、アリス…」


 複雑そうな顔をするエルマ。そりゃそうだ。再会できたと思ったらいきなり魔法の的になってんだから。


「エル…マ…さん…ゴメンな…さい…」


 ゼェゼェと途切れ途切れに言葉を発するアリス。そのままぶっ倒れてしまった。


「アリス!」


「もう…限界…」


「アリスー!」


 おそらく疲労で寝てしまったのだろう。相当にきつかったみたいだからな。


「と、本題でしたわね。手短に説明…と言ってもかなり長くなりますわ。私のことはアゼリールに聞いていると思いますので割愛して、シュバリエル。あなたに少しお願いがございますの」


「私?」


 シュガーにお願い…か。本名を知ってるあたり、過去に面識があったか噂かなにかで耳にしたか…。もしくはアリスから聞き出したかか?


「あなたには天使への宣戦布告をしてもらいたいのですの」


『宣戦布告!?』


 アリスとアゼリール、シュガーとヘイラ以外の全員が声を上げた。


「お、お言葉ですがへイラ様、そのようなお申し出を何故?」


「避けては通れない戦いでしてよ、リリス。それが早かろうが遅かろうが、関係の無いことですわ」


「し、しかし…」


 リリスがごにょごにょと言葉を発する籠らせる。
 で、でも、元魔王幹部であるアリスを追い詰めた天使だぞ?それ相手に宣戦布告なんて…。


 俺も天使については浅はかだが、リリスの反応から察するに、無謀であることは確定だろう。


「それに、早めに叩いておかなければ、あなた達の身も危ういのですわ。見たでしょう?天使の暴れっぷり」


 エルマが苦虫を噛み潰したような顔をする。強さを理解してるってことか…。


「なぜあそこまでしたんだ?」


「あなたは…、ユウマ…でしたっけ?心情までは分かりかねますわ。まぁ、大方天使の後継者を見つければその何百何千何万もの命が救われる。そう考えたのでしょう。多数を生かすために少数を切り捨てる。考え方は間違ってはないですわ。でも…、その犠牲は、無駄なものではなくて?アゼリール」


「あっはっは…、あたしに言われても…」


「とにかく、私の目的は宣戦布告し、そのような被害を最小限に抑えること。それに後継者を誘拐してこいなどと…、そんな馬鹿げたことを命じたゼルスに喝を入れることですわ!」


 ゼルス?一体誰だ?


「ゼルス様は、ヘイラ様の旦那様っす。天使の統括をしてる方でもあるっすよ」


「そ、それなら話し合いで解決するはずじゃ…」


「それが、全く応じようとしないのですわ。こっちから天界に乗り込むと蜂の巣ですし…。そこで、その天使の兵を打倒できるくらいの兵力をかきあつめて相手をさせ、その隙に私がゼルスの所に乗り込む…。という寸法ですわ」


 ふむふむ…、大体の魂胆は分かったが、一つ気になることが…。


「宣戦布告する意味はどこにあるんだ?」


「まぁ一つ。不意打ちでは相手が負けを認めない可能性があるから。徹底的に打ち負かし、それでもって相手と話し合わなければ意味はないのですわ」


 自分たちの方が戦力は上だと分からせた上で、話し合いを有利に進めようってことか。


「二つ。これは各村各国の映写結晶で映し出す予定ですわ。そこで、戦力の増強を図るのです。具体的には七つの大罪を集めることですわ。今ここにいるのは暴食、嫉妬、色欲、強欲。あと三人、憤怒、傲慢、そして怠惰。最低でもあと一人くらいは集めたいのです」


「顔だしはまずいだろ?」


「仮面でもつけさせるのですわ」


 仮面…か。
 それならいい気もするが、ほんとに集まるのか?


「この場所を知っているのはごく少数ですわ…。でも、強欲が居るのならその必要もなさそうですわね」


「俺っすか?まぁ、本人のものがあれば…」


「必要ない」


 シュガーがゼルドリュートに声をかける。


「な、なんで?」


「私の契約がまだ生きてる。私たちが結んだのは、血分けの契約。なら…」


「シュガーの血を媒体として見れば、全員の場所がわかるってことか!」


 コクリとシュガーは頷いた。
 すると、早速シュガーが風魔法で指を傷つけ、血をゼルドリュートに見せた。


「見えた!場所は…、うわ、また辺鄙なとこにいるなぁ…」


「すぐに迎えに行きたいっすけど、それはまた明日っすね。魔力がもう持たないっす」


「しかたがありませんわね…」


 そうか、魔力が持たないならしかたがない…。ん?
 魔力が持たない?


「なぁ、それって片道も持たないのか?」


「はいっす」


「それはつまり…」


「グラたん、ちょうちょさんとあそぶー」


 グラたん、今は少し黙っていて欲しかった。


「家に帰れないってこと?」


「あ、そういうことっすね。魔力水ももうないし…、明日まで待ってて欲しいっす!」


「ふざけんなよ…、まぁ、グダグダ言っててもしょうがないか。今日はここに泊まろう」


「連絡できないのが気がかりですけどね…」


 メアリーがいれば料理とかは大丈夫だろう。ナナクサ兄妹もいるしな。


 すると、何やらゼルドリュートが浮かない顔をした。


「どうした?」


「あぁ、怠惰の場所がわからないんだ…。一体どこに?」


「一人くらい欠けてもいいのですわ。それより、今日はもう休みなさいな。明日から特訓ですわよ」


 そうだな、まだ昼食も食べてないが、もう休むか…。
 ん、特訓?


「特訓って?」


「鍛錬、修練ですわ!」


 ビシッと正拳突きのような構えをして、ヘイラは言った。
 そう、まるでそれをするのが当たり前とでも言わんばかりに。


「なんで?」


「天使共と対峙し、退治するからですわ!天使に勝つには、あなた達の戦力アップも欠かせませんのよ!」


「拒否権は…?」


「ありませんのよ」


 はぁ、しょうがない。こういうタイプの人は一度言い出したら止まらないタイプだ。
 こちらの意思なんて関係なく、ハードなのをやらされるぞ、これ。


 4


 俺達はかくして特訓することとなった。


 その前日に、俺はシュガーと二人になる機会があった。ミナミ達は風呂に入っているようだ。


「なぁ、シュガー。一つ今まで気になっていたんだが…」


「何?」


 淡白な返事を返すシュガー。


「お前はなぜ魔王を倒したいんだ?」


「…なら、ユウマ。逆に聞くけど、物語の勇者はなぜ魔王と対峙するの?」


 ん?
 少し、質問の意図がよくわからない。
 一応俺なりの答えを述べておくか。


「魔王の行いが許せないからじゃないのか?」


「うん、ご最も。でも、出来た空席にはまた次の魔王が座る。そうじゃない?」


「それをまた倒すために勇者が戦うんだろ」


「それじゃイタチごっこ。そう思わない?」


 確かに…。
 たとえそれをまた倒しても、また次の魔王が現れる…。
 そしてそれを倒す。
 そんな不毛なサイクルを回していちゃ、いつまでも平穏なんてものは訪れない。


「それはこの世界も同じ。だから私がそれを止める。そのためにもう一度魔王の権限を得ないといけない」


「それで、具体的には?」


 こいつが言っていることは、恐らくこうだ。
『魔王という存在そのものを消し去りたい』と。
 だが、そんなことは可能なのか?
 そもそもそれでは、シュガー自身が魔王になるんじゃないか?


魔冠まかん…。魔王たる証明というべきものを、破壊する。それは、魔王その人にしか触れることも出来ない。つまり今代の魔王を倒し、私が魔王であると魔冠に認めさせてからじゃないと破壊出来ない。故に私はもう一度、魔王になる」


「なら、お前が魔王だった頃に破壊すれば良かったんじゃないか?」


「あの時は、忘れてた。苦労が労われたと、そう思ってた。実際に裕福な生活もできた。…今の生活が楽しければそれでいいって、思っちゃった。このまま永遠に私が魔王であれば、世界も安泰だと、そう信じてた…」


「で、夜討ちされて転落して、壊さなきゃいけないって思ったのか?」


 俺の問いかけに、コクリと頷いた。


「永遠なんて存在しない。今代の魔王は攻撃的で、秩序なんて関係なくただ暴れてるだけ…。大抵の魔王はそう。だからそれを終わりにする」


「秩序?魔王は秩序を重んじるのか?」


「にぃは言ってた。『勇者は平和を、魔王は秩序を守るのが仕事だ』って」


 シュガーの兄さん…。先々代の魔王か。
 なかなかいい考えを持っている人だ。
 魔王にも人間にとって当たり外れがあるんだな。


「そうか。それなら、俺も真剣にお前の力になりたいな」


「ユウマ?」


「お前のその考えは、人を幸せにすると思う。少なくとも、魔王に対する恐怖は消えるだろう。そしたらお前は大英雄だ」


「大英雄…!」


 キラキラと目を輝かせて、シュガーがこちらを見つめる。
 俺もなんかナリヘルンで英雄とか呼ばれていたが、こいつのような者のことを指すのだろう。
 こいつは心から、人間を愛し、兄を尊敬しているのだ。
 秩序を重んじていない魔王に怒りをあらわにするあたり、間違いないだろう。前も言ってたしな。


「とにかく、一刻も早く即戦力になれるように頑張るからさ、これからもよろしくな」


「うん…!」


 差し出した手を、シュガーが強く握る。
 さてと…、明日からの特訓、頑張ろう!

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