転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)

Raito

第39話:天使の襲撃と大罪開放

 1


「お兄ちゃん!よかった、目が覚めたんですね!」


 ミナミは目が覚めるやいなや俺に思いっきり抱きついてきた。
 こいつも頑張ってくれたみたいだし、今日くらいは許してやるか。


「あぁ、ありがとな、ミナミ」


「ひぐぅ…目が覚めなければどうしようかと思いましたぁ…」


 ガチ泣きだな、こりゃ。
 にしても、ナナクサ兄妹は違う部屋で寝てるのか?見当たらない。
 メアリーはと言うと、何やら微笑ましそうにこちらを見つめて、ナイトを撫でている。


「泣き辞めって、ほら、飯を食いに行くぞ?」


「は、はい!」


 慌てててこてこと俺のあとを着いてくるミナミ。


「おはよ…って、どうかしたのか?」


 俺達が食卓へ向かうと、何やら険悪なムードがあたりを支配していた。
 何やらゼルドリュートが中心で話をしているようだ。


「ちょっとあんた!どういうことよ!」


「だから、今現在イグラットは襲われてんだよ!俺もリリス達がどこから来たのか把握してなかったのが痛手だったか…」


 イグラットが襲われてる…?
 ミナミはぎゅっと俺の服の袖を掴む。不安なんだろう、指が震えている。


「どういうことだ?」


「ユウマ!実は今、イグラットが襲われてる!アイリスとエルマスがなんとか防衛してるけど、被害は甚大だ…」


「はぁ?悪い冗談はよせよ…」


 ゼルドリュートは何も言わず、ただ俯いているだけだった。


「おい、本当ならなんの手も打てないわけじゃないんだろ!だったら今からでも…!」


「無理だ!」


 ゼルドリュートが声を荒らげる。
 場はしんと静まり返り、「お前らには勝ち目はない…」と呟いた。


「だったら、お前はアイリスとエルマスを見殺しにするのかよ!」


「そうよ!あの二人だって、私たちの仲間だわ!」


「俺だって!…助けたいんだよ…!でも、無理だ!」


 キッパリと言い切るゼルドリュートを、リリスが思いっきりぶん殴る。
 座っていた椅子から転げ落ち、床に倒れ込んだ。


「あんたは…仲間の命を、なんだと思ってんのよ!」


「相手が相手だ!これが最善の選択なんだよ!お前らには見えるのか!俺のビジョンが!」


「見えないわよ!でも私の力でどうにかなるかもしれない!相手は誰!?」


「ゼルイル…、天使軍第一番隊隊長、ゼルイルだ」


 その言葉を聞いた瞬間、リリスは胸ぐらを掴んでいた手を離した。そして、まるで血の気が引いていくように真っ青になって行った。


「…やばいのか?」


「俺達が向かったとて怪我人が増えるだけだな…。ここはアイリスたちに任せる。なぁに、あいつらなら大丈夫。この俺が保証する」


 軽く言ってのけたゼルドリュートはまるで今までのシリアスさをぶち壊すようににへらっと笑った。


 本当に、大丈夫なのか…?


 2


 ユウマさんたちが湯治に行ってから二日目の朝。


「お客さん、来ませんねぇ…」


「うん、こんなのならいっそ俺らもついて行った方が良かったんじゃない?」


 エルマさんの意見にも一理ある…いや!私達は仕入れを行うためにここに居る!
 ついでにかきいれ時でもあるし…。ここから春にかけて、モンスターが活発化し出す。


 冬眠から目覚めたモンスターは、腹を減らしている。
 そのため、人間に襲いかかることも多く、大抵の場合まだ本調子でない。


 つまり、弱いモンスターが自分からわんさか出てくるという訳だ。それでも経験値は同じなので、実質ウハウハである。
 むふー、私も行ってみたいなぁ…。はっ、店番!エルマさん一人にはさすがに任せられない!


 すると、何やら地鳴りが起き始めた!


「じ、地震ですか!?」


「アリス、とりあえず机の下に避難!」


 十秒ほど揺れは続いた。
 ポーションは結構割れてしまった。


 ほんと、壊れたら爆発するのとか、毒ガスばらまくようなのもあるが、まぁそういう類は無傷で何よりだ。


「外の様子を確認します!」


「待って、俺も!」


 街の人が瓦礫に埋もれてるかもしれない!一刻も早く助けないと!


「そこにいるのは暴食と嫉妬じゃないか。大罪人が何故ここに」


 ばっと空を見上げると、空に浮いている人型のようなものがあった。
 いや、正確には大きな羽根、頭に輪、そして、白っぽい服装…。あれは…。


「死せよ…」


 それは手を振り上げると、黄色い球状のものがそれの周りに現れた!


「害虫!」


 天使だ!


『ハイ・マジックシールド!』


 上空に巨大な盾を展開し、街全体を守る!
 街全体を潰しかねない威力だったぞ!?


「あなたは何をしに来たのですか!」


「ある人物に用がある!対象を一人、天界に持ち帰る。偵察だけのつもりだったが…、今ここでさらっても、支障はあるまい!」


 今度は光の剣…か!
 ガキンと音を立ててなんとかはじき返す。だが、もう限界だ!


「エルマさん!街の皆さんの誘導を!なるべく一箇所に集めてください!その方が護りやすいです!」


「で、でもアリスは!?」


「私は…」


 指を噛み血を出し、それを頬に擦り付ける。
 それは、やがて豚の紋章に変化し、体が焼けるように暑くなった!


「ぐぅ…ぐぅぅぅぅううう!」


「アリス!」


「いいから…いって!ここは、私がくい止める!」


 これは『大罪開放』。グラトニー・ドレインとはまた違う、暴食グラトニーの力。


「我が身を喰らいて媒体とし、贄を喰らいて力と為せ。暴食の真理を今ここに…!」


暴食の装甲グラトニー・アーマー…!』


 これは私が今まで食べたもの、吸収したものが全てそのまま私の力になる、そんな暴食特有の固有魔法…!


 熊の腕、鷹の爪、カンガルーの足、馬の蹄、そして蠍の尾、昆虫の複眼と鳥の羽根!


「今から…あなたを倒す…!」


「まさに悪魔だな、やってみろ」


 再び光線が私を狙い打つが、それを全て交わす。造作もないことだ。複眼を持つ私からすれば、相手の体感スピードの約十分の一ほどの速さなのだから。


「脆い!遅い…!」


 インファイトに持ち込み、相手が剣を取り出そうとするも私の手で粉砕する。さらに尾を突き刺して毒を注入。
 この戦い方は頭を使わなくて楽でいいけれど、体に負担がかかるな。


 さらに体に蹴り、引っ掻き、正拳突きとコンボが決まる。


 引っ掻きと聞けば威力は低いと見られがちだが、鷹の爪に熊の腕だ。頭でも掴めば一瞬で潰せる上に、普通のパンチなんかよりもよっぽどそっちの方が威力は増す。


 でもまぁ力加減は一応している。引っ掻きの度合いを少なくしてるだけだが。


「ほう、やるな、羽虫風情が」


「ならばその羽虫に嬲られるあなたは…なんでしょうね…?」


 息が上がる。完全にアドレナリンドバドバ状態だ。体も火傷が酷いはずなのに、もう全く痛みを感じない。


「…その手、よく見てみろ」


 手…?


「…うわぁぁぁあ!」


 私の手は、ドロドロに溶けていた!
 それに、剣は復元してる!?
 これは…聖武器の力か!


「聖武器『裁きの剣』だ。豪腕の前にひれ伏せ!羽虫!」


 くっそ、どんどんと侵食が広がってるし、どうやら相手は接近戦の方が得意と見た!
 勝ち目なし…。


 なーんてね。


「かかったのはあなたです…ゼルイル!」


「ぐっ!?」


 羽根をもいだつもりだったが、少し狙いを外したか、背中を少し傷つけただけだ。


「分身!?」


「分裂ですね…私の細胞はプラナリア。傷を回復するだけでなく、その切断部からも体を生成する!」


 そして、この人には先程蠍の尾の毒を入れた。つまり、もうそろそろ…。


「ぐっ!?」


 バランスを崩し、ゼルイルが頭から地面に落ちる。


 私が打ち込んだのは麻痺毒。もっと強い種類のものもあるが、これは情報を聞き出す時によく使う。大方の人は圧倒的な戦力差を思い知って吐いてくれるのだ。


 私は装甲を解除し、ゼルイルの元へ近づく。


「あなたは…誰を狙っているのですか…」


「ウリエルの…後継者を…偵察に…!」


 後継者…?
 この街に後継者が!?


 その次の瞬間、目の前を稲妻が駆け抜けた!


「無駄なおしゃべりはここまで、闇の者共を相手にするのはまた今度のはずよ」


「ラトス様!?」


 そんな…!四大天使、ラトス・リエール!?
 何故こいつがここに!?


「あ、あなたは…」


「勘違いしない事ね、助けたんじゃない。ただお楽しみを先延ばしただけよ」


 ケラケラと笑っているが、目は笑ってない。
 殺意に満ち満ちた目だ。


「あたしメインディッシュは最後に食べるの。じゃ、またねー」


「覚えていろよ、羽虫…!」


 そう言って天使共は飛んで行った。
 要約すると、「今度会ったらその時は殺す」か。
 とりあえず一般人は守れたし、一件落着…なのかな?


 偵察に来たというわけは、また今度この街に来る可能性が高い。
 それに、「また今度のはずよ!」とラトスは言っていた。


 つまり、再戦するのはほぼ確定。


「アリス、終わった!?」


「えぇ…」


 振り返り、笑顔を見せる。
 すると、エルマさんは私を見るや否や何やらびっくりしたような顔をした。


「ちょっとアリス!全身火傷だらけ!無茶し過ぎだって!」


 これがグラトニー・アーマーの代償。全身に火傷が発症する。諸刃の剣だ。


「な、何があったんだ…?」


「家が、めちゃくちゃ…」


 初弾で被害蒙ったか…。お気の毒だ。
 復興作業には進んで参加しよう。


「このくらいなら、回復魔法で何とかなりますよ」


「そ、それならいいけどさ…」


 私は自分に回復魔法を唱える。
 剥がれた皮が元に戻り、痛みも引いていく。
 足りなくなった魔力は、エルマさんから分けてもらった。


 エルマさんもこの力は知ってるけど、毎回このように心配してくれる。優しい悪魔さんだ。


 3


「で、結局どうなのよ…!」


 リリスがギロりとゼルドリュートを睨みつける。


「だから勝ったって!ささ、お前らは飯食って温泉巡りでもしてくればいいんじゃないか?」


「勝てたなら安心だな。結構ギリギリだったのか?」


「あれ以上やってたらアイリスが壊れてたかもしれないな」


 ふむふむ、結構やばかったみたいだけど、その口ぶりじゃ無事そうだな。


「無事なら良かったです…。あ、でも復興が…」


「大丈夫だろ、ナリヘルンの時も直ぐに元通りだったし」


「そ、そうでしょうか?」


 少し不安そうな顔をするミナミ。
 まぁ時間こそかかれどあの二人がいれば安心だな。


 朝食を食べ終え、俺達は観光に赴こうとしていた。


「ゼル、話がある」


「おう、ミルク。なんだ?」


「二人で話したいから、時間を作って欲しい」


「りょーかい。てなワケで俺は後でできれば合流するから!」


「分かった、それじゃあな」


 ゼルドリュートとシュガーを残し、出発。


 オルガとティナはゲンナイの所に行っているらしい。観光とかには興味無いのか?


 俺達は王都組とパーティ組で別れた。
 王都組にはキクハが、パーティ組にはタマテとシオンがガイド役として着いていく。


 ちなみに当然のことながらリリスはこちら側。喧嘩されたら溜まったものじゃないからな。


「おいひー!」


 メアリーがまたもや布を被って団子を食べている。
 まぁ、俺たちもなのだが。


「美味いな」


「はーむ!もぐもぐ…」


 俺は団子を頬張るミナミを見つめる。
 全く、過度なブラコン発言をしなければこいつも可愛いんだけどな。


「あー、お兄ちゃん、私に惚れちゃいました?」


「ちげーよ、ばーか」


「馬鹿って言った方が馬鹿ですーだ!」


「お前子供かよ…」


 あれだ、小学生がよく使う言葉だ。
 あとは、先生に言いつけるとか、個室トイレに行った事をからかうとか。これは男子だけか?


「ユーウーマ!ほらほら、ミナミの貧相な胸より、私の方が大きいよ?」


 何やらシオンが俺の腕に胸を押し付けてくる。


「あーら、色じかけ?お姉さんもかなり胸はある方だけど、羨ましいわねぇ。色じかけする相手がいるなんて」


「えへへー、私はユウマのお嫁さんー」


「何を言ってるんですか!お兄ちゃんのお嫁さんは私です!」


 なんか二人が変なことを言い出した。
 いや、ミナミのは慣れてるけどなんでシオンまで!?


「そんな胸じゃ赤ちゃんにお乳も上げられないよー!」


「なっ!?そんなことは無いです!もっと大きくなります!」


「人間諦めが肝心だよ!」


「ふ、粉末ミルクでどうにかなります!」


「愛がないなぁー」


 バチバチと火花を散らすシオンとミナミ。こいつらは無視の方向でいいかな?


「なぁ、タマテ。なんかお土産にうってつけの品とかないか?」


「アイリスたちに何か買っておかないといけないわね」


「分かったわ、お姉さんが連れてってあげるー」


 無論、アリスとエルマもなんだが、ロイトス兄妹にも何か買ってあげたい。
 俺達が湯治に行ってるのを知ってるのに、何も買ってきませんでしたじゃ少し気が引ける。


 俺達は何やら古民家のような場所にやってきた。第一印象は田舎の駄菓子屋。
 ほんとにこんな所にお土産にうってつけの品があるのか?


「んー、お姉さんのオススメは…これかしら?」


 タマテは何やら日本人形のようなものを指さした。
 うん、過去の経験が経験なので嫌な予感がする。


「…ところで、それはなんだ?」


 恐る恐る、俺の予想が外れることを信じて聞いてみる。


「幸運を呼ぶ人形よ」


「よし、他のものにしようそうしよう」


「うん、僕も異議なし!というか激しく同意だよ!」


 ほか二人もこくこくと首がもげるかのごとく頷きまくっている。
 お前らは赤べこか…。


「あらー、お気に召さなかったかしらー?」


「ちょっとトラウマが…ありまして」


「確かに…それはやめた方がいいと思います」


「それはそれはー、波乱万丈な人生なのねー、ユウマちゃんはー」


「ちゃん!?」


 けたけたと笑いながら、タマテが軽く言ってのける。いや、お前が勧めてきたんだけどな?
 でも、この世界に来てから結構波乱万丈なのは間違いないな。


「まぁな…」


 俺はふと、リリスに目が行く。
 なーんかあいつ、不機嫌なんだよな。
 だいたい察しはつくけれど…。


「リリス、何イライラしてんだ?」


「してないし」


「だったら、その眉間に寄ったシワをどうにかしてから言った方がいいぞ」


 見るからに不機嫌度マックスだ。まさに般若の面みたいな感じ。
 そうやって言ってもリリスの眉間のシワは一本も減らない。


「ゼルドリュートと一緒に来たかったなぁ…か?」


「は、はぁ!?そ、そんなこと…思ってないわよ…何言ってんの!」


 まるで林檎のように真っ赤になったリリス。若干声も裏返ってるし…。
 かなり可愛らしいな、このくらいミナミも可愛い反応を…する時もあるか。


「まぁ、話が終わったら合流してくるみたいだし、それまで我慢だな」


「え、えぇ…」


 気合を入れるようにリリスはぎゅっと拳を握り、「我慢、我慢…」と呟いていた。


 ほんと、こいつはゼルドリュートのことが大好きなんだな。
 一年もあってなかったんだから、積もる話も沢山あるんだろう。昨日も夕食の時話してた。


 でも、それじゃ足りないんだろうな。
 もっと伝えたいことが、沢山あるんだろうから。


 4


「で?シュガー。話したいことって?」


 手をひらひらとさせて、おどけたような仕草をするゼル。


「さっきの話の続きを聞かせて?」


「質問を質問で返すなよ…」


「教えて」


 ズイっと、ゼルに近づく。ゼルは私の目から目を逸らした。


「何か、隠してる」


「シュガーには全部丸わかりってことか…」


 やはり、隠し事をしていた。
 何だか、強引に私たちをその話から逸らさせようとしてたから、もしやと思ったが、的中したようだ。


「一つ、約束してくれ、シュガー」


「分かった」


「このことを、口外しないこと」


 口外しない…。
 何か、不吉なヴィジョンが見えたのかな?


「うん、約束。だから話して?」


「分かった…全てを話す」


 諦めたように、「はぁ…」とため息をつくと、ゼルの口からとんでもないことが飛び出してきた。


「アリスとエルマが、街を追放された」


「えっ…?」


 私は言葉を失っていた。


 5


「お前、悪魔だろ…!」


『は…?』


 その声は冷たく、そして強烈な憎悪を纏っていた。
 背筋が凍り、まるで喉に無理やり氷を押し込まれたような感覚に陥る。
 振り返ると、こちらを睨みつける若者が。


「そんな根も葉もないこと…!」


 エルマさんがなんとか弁解しようとしているが、かき消す形で若者が豪語する。


「ならなんで天使様に攻撃したんだ!それに、闇の者共って言われてたじゃないか!」


「私も見たわ!あの禍々しい姿、きっと悪魔よ!」


「出ていけ!この街から出ていけ!」


 老若男女が、私たちに石を投げる。
 そんな…私は、この街を守っただけなのに…!


「聞いてください、全てはあの天使が…!」


「天使様が人間にこんなことするわけないだろ!お前ら悪魔がいたからこんな被害が出たんだ!」


「悪魔のアリスって…前魔王軍幹部じゃないの!?そんな危険人物置いておけないわ!」




 上手く…やってきたのに…。
 今まで、隠して、上手くやってきたのに…!


 また人間は悪魔がどうとか天使がこうとか…!


「こんな街、滅びてしまえば良かったんだ…」


 もう、諦めよう。
 この村には味方はいない。
 いや、人間には味方なんていない。


「ちょっとアリス!」


 エルマさんが私を追いかけて走り寄ってくる。


「エルマさん。怪我したくなかったらしゃがんでください」


「え…?」


 理解出来ていない様子だが、しゃがんではくれた。良かった、エルマさんは傷ついて欲しくない。
 唯一の味方だから。


『ぐふっ!?』


 近寄ってくる野蛮な人間を、鎖を鞭のようにして打つ。
 恐らく、懸賞金目当てだろう。


「安心してください、急所は外してます。肋数本いかれてるかもしれませんが」


 せめてもの慈悲だ。今まで、私に住む場所をくれたせめてもの慈悲。


 私達は森の中にやってきた。街から外れた、奥深く。
 …どうしよう、これから。洞窟にでも篭ろうか?


「行く宛はあるの?」


「人がいない場所…ですね」


 私はポツリと呟いた。
 人間に会えば、エルマさんが傷ついてしまう。


「二人きりで、ずっと…」


「え、何?」


「…なんでもないです」


 エルマさんとなら、ずっと一緒にいれる。
 だから…、エルマさんと一緒にいれたら、私はそれでいい。

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