転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)

Raito

第35話:からくり屋敷とその主

 1


「ぐぅー…」


「すぴー…」


 ナナクサ兄妹の寝息が立ち込める部屋で、俺は目を覚ました。


 昨日は、みんな俺の話にガタガタ震えていた。


 一番怖がっていたのはメアリーだったけど。


 この子達は、家柄か霊が見えるそうなので、意味がわかると怖い話を集中的に話した。あとからゾッとするやつだな。


「お兄ちゃん…おはようです…」


「あぁ、おはよう」


 川の字で寝ていて、俺の隣にミナミが寝ていたが、今こいつは俺の布団の中で寝ている。


 わざとだろうか?


 寝返りでたまたま…という可能性もあるけれど…。


 すると、ミナミが一段とこちらによってくるではないか。


「おい、なんでよってくる?」


「しょうがないんですよ、これを見てください!」


 俺は体を起こすと、ミナミの方に目をやる。ミナミの後ろには…。


 とんでもなく寝相が悪い、セリクが寝っ転がっていた。


 そして、強烈な蹴りを一発、ミナミに見舞う。


 ミナミは「ぐえ!」と声を上げて体をのけぞらせた。


 でもこれってつまり、ミナミの布団をセリクが占領してるってことなのか。


 あー、こいつがなんで俺の布団にはいってるのか完全にわかった。


 こいつもなかなかに苦労してるんだな。


「俺は起きるけど、お前はどうする?まだ寝てるか?」


「この状況で眠れると思いますか?」


「思わないな」


 定期的に体を蹴られていたら眠ろうと思っても眠れない。


 ちゅんちゅんとスズメの鳴く声が聞こえる。どこか、懐かしい感じだ。


 無駄に長い廊下を歩き、食卓へやってくる。


「あぁ、おはよー、もう起こそうと思ってたんだよ」


「おはよう、シオン」


 シオンは昨日は泊まったらしい。割烹着のようなものを着て、囲炉裏の上でグツグツと煮える鍋の中身を眺める姿は様になっている。


「ところで、キクハはどこだ?今日はあいつ見てないんだが」


「あー、キクハなら寝室で寝てるよ?」


「そうか」


 鍋の中身は、味噌汁のようだ。


 シオンは釜戸から白米を取り出し、二つの茶碗に盛る。


 なんとも美味しそうな典型的な朝ごはん。


「召し上がれー」


「頂きます!」


「頂きます」


 うん、釜戸で炊いたご飯もなかなかだな。おこげって言うのか?が、いい味を出している。


 味噌汁もこの島に来て久々に食べたせいか、味が濃いように感じる。やはり、世界が変わると味付けも変わるのか?


「美味しいですね、お兄ちゃん!」


「そうだな」


「ふぁー、おはよー、二人とも」


 寝癖の着いた頭をポリポリとかきながら、リリスとエリナがやってきた。


 その後ろから、メアリーもついてくる。


「腑抜けた面しよって、まるで大福餅だな」


「誰が大福餅よ!」


「やるのか!?」


 まーた始まった。よく朝からこのテンションで喧嘩できるよな。


 その様子を見て、メアリーが「あわわ…」と狼狽えている。


 ちなみに、メアリーは昨夜「こんなに怖い話聞きたくないです!」などと言って別の部屋に行き、ゴギョウもそれを追った。


 つまり、昨夜はお楽しみでしたねというやつだ。


「メアリーさん、落ち着いて。僕が着いてるよ」


「ご、ゴギョウくん…」


 二人は手を取り合い、じっと見つめ合った。
 いや、それはいいから早く止めるんなら止めて欲しい。


「だったら、あなたの愛試させてもらうわよ。こういう色恋沙汰には目がないからね、私」


「悪趣味な女だ」


「黙りなさい!」


「どうやって試すんですか?」


「それは…こうするのよ!」


 リリスは、そう言ったっきり何もしなかった。だが、何故かキクハを起こしに行ったシオンがすっ飛んできて、リリスに抱きついた。


「わー、何だかすっごい可愛い子!スリスリしてもいい?むぎゅむぎゅしてもいい?ぺろぺろしてもいい?」


「最後のはやめてほしいんだけど…。でも、愛は真実のようね」


 あー、そう言えばこいつの能力、ラスト・チャームは心に決めた相手がいると発動しないんだよな。


 でも、なんで俺には発動しないんだ?


 そういう体質なのか?


 …いや、違う。


 本当は分かってる。


 愛しているのは、禁断の恋をしているのは俺の方なんだって。


「お兄ちゃん、どうかしました?」


「い、いや、別に」


 俺は平常心を装った。気付かれないよう、当たり障りなく、冷静に振舞った。


 2


 朝食を食べ終わり、俺達は急いで仲間を探し始めた。まだ遠くには行っていない…はずだ。


 とりあえずメンバーは、俺とミナミ、メアリーとゴギョウ、エギルとエリナ、そしてリリスだ。


 シオンは、みんなの朝ごはんを作っており、それ以外の奴らは寝てる。


「メアリー、ほんとにここら辺にオルガとティナは打ち上げられたんだな?」


「はい。間違いないです」


 ちなみにゴギョウは読み書きは出来るらしいので、掲示板に書いてあることの解読係だ。


「メアリーさん、なんかヒラガ・ゲンナイさんが屋敷を改築したそうだよ、ご自由に入っていいって」


「ゲンナイって、からくり作る人か?」


「よく知ってるね、ユウマさん。もしかして、ヤマトに一度来たことあるとか?」


「いや、実は俺の知っている人にその人とまったく同じ名前の人がいるんだよ」


 平賀源内。俺が思い浮かぶのはからくりをいじるゴーグルをかけたハゲた爺さんだが、それで合ってるだろうか?


 まぁ、少なくとも発明家であることは変わらないらしい。


 にしても、機械を作る人が改築した屋敷に自由に立ち入ってくださいって…。


 興味がありそうなやつが一人いる。いや、もしかしたら二人か?オルガとティナが打ち上げられたって言ってたし。


 ティナはどうせオルガに着いていくだろう。


「なぁ、そのゲンナイの屋敷ってどこか知ってるか?」


「うん、ここらじゃ有名だからね。着いてきて」


「ゴギョウくん、頼りになります!」


 メアリーがゴギョウに寄りかかり、称賛した。本人はとても嬉しそうだ。


 お似合いだな、あの二人。


 俺達は、とある街の一角にやってきていた。ここに例の屋敷が?


「着いたよ、ここ」


「ただの小屋じゃないか」


「地下にあるんじゃないですか?」


 そこまで面倒なことするのか。


 とりあえず入ってみるか…。


 中に入ると、何やら紐があった。


「なぁ、ミナミ。これやばいよな」


「はい、やばいです」


「何がやばいんだ?」


 エギルが、なんの躊躇もなく紐を引こうとしたので、それを力一杯止める。


「なんなんだ?」


「大抵こういうのって、引っ張ると床が抜けたり色々やばいことが起こるんだよ!」


「でも、これ以外の進行ルートはないようだぞ?」


「引くしかないわね」


 リリスが、クイッと紐を引っ張る。


 やばい!そう思った時には手遅れだった。


 床が開いて、落とされたのだ。


 なんという典型的な展開!


 3


『うわぁぁぁぁぁぁ!』


 ドスンっ!という衝撃とともに、鋭い痛みが襲いかかる。


「痛っ!」


「ふぇぇぇぇ!二人が!二人が大変です!」


「だ、大丈夫…!」


 嘘つけ、涙目だぞ。


 俺はあたりを見渡す。


 が、どうやら散り散りになったようだ。


 俺の隣には、痛そうに尻を擦りながらも、強がっているゴギョウと、俺たちを見比べてあたふたしてるメアリーだけだ。


「にしても、ここなんだ?迷宮か?」


「そう…みたいだね。とにかく、ここは僕に任せて。二人とも」


「頼りにしてますよ、ゴギョウくん!」


 メアリーの声援を一身に受け、ゴギョウは大きく一歩を踏み出した。


 最年少なのに、なんで俺達がリードされてるんだろう。


 五分後…。


「あれ?ここって、さっきも来た気が…」


「最初の場所ですね…」


 やはりこうなったか。


 全く、しょうがない。ここは俺の出番だな。


「ここは俺についてこい。こういうのはな、ずっと右手を壁につけて進んだら行けるんだ…」


 カチンっ…となにか乾いた音がした。


 ん?なんだ?気にせずに進む…。


 その直後、頭に強い衝撃が!


「痛ぇぇぇぇぇぇぇ!」


『ユウマさん!?』


 周りの目も気にせず、頭を抱えて転がり回る。なんなんだよこれ!


 その頭に落ちてきたものの正体は…。


「タライか」


「タライですね」


「タライだね」


 俺はムクっと立ち上がり、タライを蹴り飛ばした。


 あー、なんかスッキリした。


「さぁ、行くか」


「…はい」


「うん」


 最終的にはメアリーに上の隙間から覗いて貰い、迷宮を脱出した。


 途中、迫り来る岩やら、謎解きやらパズルやら何やらがあったけど、何とかなった。


「あー、お兄ちゃん!遅いですよー!」


「無事で何よりだな」


「あんたはどっかでくたばって貰いたかったけどね!」


「それはこっちのセリフだ!」


「二人とも落ち着いて!」


 エギルが仲裁に入る。


 エリナは宥められるにしても、リリスが問題だな。でも、今までリリスを宥めたやつなんて…。


 あ、エルマは普通に宥めてたな、物理で。


「さぁ、早く脱出するぞ」


「はい、オルガさん達がいるかもしれないです!」


「そうだな、確かに、オルガたちなら居そうだ」


 俺はぎぃっとドアを開くと、何故かそこは土産コーナーになっていた。


 なんか変な煎餅とか、陶器みたいなものとか、よく分からない幾何学的なものとか売ってある。


「いらっしゃい」


 なんか渋めのおじさんが店番をしていた。


 パイプタバコを吸い、その匂いが部屋を支配する。


「あ、あの、あなたがゲンナイさんですか?」


「いかにも、俺ァ冴えないからくり師、ゲンナイだ」


「あんたのとこに、変わった格好の男女二人が来なかったか?」


「あぁ、来てるさ。正確には助けやったんだけんどな。家に帰れっつっても、『帰る宛がない』だの、『少しの間ここに居させてくれ』だの、言ってっから一晩泊めてやった。そしたら屋敷全体改造される始末よ。商売になったからよかったがよォ…」


「そいつら、今どこに!?」


 ゲンナイは、クイッと顎で『奥にいる』と合図した。


 俺は、暖簾の中を覗く。中には、何やら木で出来たからくりをいじるオルガの姿が。


「オルガ、無事だったか」


「おー、ユウマ!よくここが分かったな!」


「お前が居そうだったからな」


 ふむ、元気そうでなにより…と言ったところか。奥でティナも緑茶を飲んでいる。 


「緑茶もなかなか…で?あんたは何をしに来たのよ」


「居場所を確認したくてな。お前らがここに居たいなら別にいいけど…」


「いんや、俺もだいぶん習わせてもらったよ、満足したからお前らについて行くさ」


「私も、オルガがそれでいいなら」


 オルガは立ちあがり、からくりをバックに詰め込んだ。


「いいのか?」


「スクラップだから必要ないってさ」


「そうか」


 スクラップ、不良品。


 それをいじって、オルガは何が楽しいのだろうか。


「おい、若いの。もう帰るのか」


「はい、お世話になりました」


 オルガがなれない敬語を使う。


 すると、ゲンナイは少し寂しげな顔をした。


「そうかい、まぁ、仲間は大切にな」


 この人はきっと、未練タラタラなんだ。顔でわかる。もっとオルガに教えたい。何とは言わないが、きっとそう思ってるんだ。


「なぁ、オルガ。俺、夕方にまた迎えに来るからさ。お前はここで勉強してろよ」


「え、いいのか?」


「いいよ。帰る場所はちゃんと用意してあるから」


 ゲンナイは「へっ…」と口角を緩めた。まったく、渋いのにわかりやすい人だ。


 みんなは土産コーナーで思い思いの品を手に取っている。


 俺は、ゲンナイと少し話していた。


「でも、白髪頭。俺が若いのに教わることもあるんだぜ?」


「誰が白髪頭だ、俺の名前はイリヤ・ユウマだ」


「そうかい、ユウマ。若いのは俺以上に手先が器用だし、火縄銃よりも強い銃を作れる。俺はそれの作り方が知りたい」


「なんのためにさ」


「ふぅ…」と、ゲンナイはタバコの副流煙を撒き散らす。


 心做しか、それはため息のようにも感じられた。


「今度こそ、愛する人達を守るためさ」


「へ?」


「俺の嫁と子供はモノノケに殺された。もっと俺に力があれば、守れた。だから、俺はオルガにそれの作り方を教えてもらう。その一環として俺の実力を見てもらうために、ここを改造したんだ」


「モノノケって…?」


「バケモンだよ」


 正直言葉を失った。


 この人は、本当に辛い人生を送ってきたんだ。


 いや、その逆だ。


 今までの幸せが大きかったから、なくなった今が辛い。


「剣術はからっきしだからな」


「それで、銃を使ってるのか」


「あぁ、兎にも角にも、そのためには協力は惜しまない。教えて貰えるならな」


 ギブアンドテイクだ。


 オルガが銃の作り方を教える代わりに、ゲンナイがからくりを教える。機械がからくりの上位互換に思えるが、本人が面白がっていたからいいだろう。


「そうか、じゃ、オルガとティナをよろしく頼む」


「おう、任せろ。それと…」


 ゲンナイは俺を呼び止める。歩こうとした足を止めて、振り返った。


「オルガやティナ、仲間のこと、大切にしてやれよ。いつ関係が終わるかわからないからな。それまでは…」


「分かってるよ」


 俺はゲンナイの言葉に被せるように、答えた。どうせ、それまでは仲良くしてろとか、そういうんだろうな。


「分かってるなら…いいさ」


 そう言うと、ゲンナイはオルガを呼んで、奥の部屋へ入って行った。


 すれ違いざまに見た目は、まるで我が子を見るように穏やかなものだ。


 そうか、ゲンナイは…。


 自分の子供とオルガを、重ねているのかもしれないな。


 4


「はーっむ!んー、おいひーですー!」


「お代わりもあるよ」


 俺達は団子屋にやって来ていた。そこで、メアリーの腹を満たす。霊って腹減るのかな?
 というか、やはりルナはこの国では使えないらしい。代わりの貨幣があるようだ。


「こうやって深く布を被せれば、バレることもないよね?」


「そう…なのか?」


 確かに、体がすっぽり入る布を頭からかぶっている、なんだか普通の人みたいに見える。


 口元まで隠さないといけないけどな、いきなり異空間に団子が消えたら、それこそ大惨事になりかねない。


 すると、何やら少年が走ってきた。


「おーい、ユウマ兄ちゃん!」


「あ、セリク。どうかしたか?」


「うん、実はなー」


 セリクの話しをまとめるとこうだ。


『ゴギョウは演舞が大好きなので、連れてって欲しい』との事。


 何だかシオンとキクハは忙しいらしい。


 他の奴らはもう会場に向かって、セリクは長男として保護者である俺たちを探しに来たのだとか。


「演舞…か。なんだか人が集まりそうだな」


「人探しが捗りますね!」


「そうだな、早速案内してくれ」


「おう、お安い御用だー」


 俺達はセリクに連れられて、演舞の会場にやってきた。


 簾のようなものが後ろにかかっており、その手前に女性が座っている。


 何だか路上ライブみたいな感じだな。


「あー、ミナミお姉ちゃん!」


「ナズナちゃーん!」


 ぎゅむっと、二人は抱き合う。何だか、さらに仲が良くなった気が…。


『エギル兄ちゃん!』


「あー、三人とも。元気そうだね」


「元気だよー!」


 ホトケ達がにぱーっと、笑顔を見せる。


 すると、周りのざわめきがしんと静まり返った。


「始まるのか?」


「みたいだなー…」


 ナナクサ兄妹はごくりっと唾を飲んだ。そこまでのものなのか?


 すると、三味線の弾く音が聞こえてくる。


 胡座をかいた十八、九ぐらいの女性が、まるで古典音楽のような曲をゆっくりと弾いていた。なぜか日本刀も携えている。


 そして、簾の奥から和服を着て神楽鈴を持った少女が二人、出てきた。


 ちなみに神楽鈴とは、巫女がよく持っている鈴が沢山ついている棒のこと。舞を踊る時によく使われるらしい。


 ゲームのキャラ繋がりで知った。


 にしても、なかなか身長差がある二人だな。


 …ん?あの髪の色…。


 化粧してるけどもしかして…?


「なぁ、あれ…」


「いやいや、そんなはずはないですって…」


 詳しくは言っていなくとも通じてるあたり、ミナミも勘づいているんだろう。


 軽やかに舞う二人の和風美人に、俺達はどことなーく親近感が湧いた。


 すると、小さい方の踊り子がこちらに気が付き、少し驚いた様子をするも、ふっと微笑んでウィンクした。


「あれは…」


「確定ですね…」


「だな…」


 どうやら、旅行者全員が気がついたらしい。


 まったく、なんであんなことやってるんだ、ルキアとシュガーのやつ…。


 しばらくの間演舞が続き、やがて終幕を迎えた。


 ぱちぱちと拍手喝采が巻き起こり、それからは次第に人は帰って行った。


 大きい方の踊り子、ルキアは広場にある井戸で顔を洗っていた。


「なかなかに良かったぞ、お前の舞」


「あ、ありがとうございます、僕まだ始めて少ししか…?」


 呆然とする踊り子。


 やがて、化粧をしていた頃とは真反対に、顔がどんどんと色づいていく。


「あー!あ、あ、あー!」


「お前、化粧したらちゃんと女の子っぽくなるんだな」


「ゆゆ、ユウマ!それは普段の僕が男勝りってこと!?」


「顔だけな」


 ルキアは「はぁ…」とため息をついた。


 そして、少し安心したような顔をする。


「無事…だったんだね」


「あぁ、お前もな」


「ユウマー」


 ぎゅっと、シュガーが抱きついてくる。


「ミルク、心細かったんだよね、僕だけじゃ」


「そんなことない…けど、皆が居たら嬉しい」


「そうか」


 俺は、シュガーの頭を優しく撫でる。まるで、繊細なガラス細工に触れるように、優しく撫でる。


「あらー?お二人の仲間さんかしらー?」


「あ、あぁ。ユウマだ」


「お姉さんはヒムロ・タマテ。この二人にはちょーっと、臨時で踊ってもらってたのよー。飲み込みが早いし、お姉さん助かっちゃう」


 この人は、たしか三味線を弾いていた人だ。多方想像はつく。


 この二人が打ち上げられて、それをこの人が拾って、家に泊めてやるからおどってくれーって感じだろう。ゲンナイと同じだ。


 てか一人称がお姉さんのやつなんて、今まで会ったことがなかったな。流石は異世界。


「あー、ユウマ兄ちゃんがナンパしてるー!」


『いけないんだーいけないんだー!』


 何だ、あの子供みたいなノリ。いや、子供か。…って!凄い黒い空気を孕んでミナミがやってきた!?


「お兄ちゃん、何やってるんですか?」


「い、いや、これはその…」


「ミナミ、私。ミルク」


 シュガーがぐーっと背伸びしてさらに手までバタバタさせて、自己の存在を主張するが、今のこいつには目にも入っていない。


「お兄ちゃん、ナンパ。してたんですか?」


「だから違うってー!」


 その時だった。


 カンカンカンと、高らかな金属音が鳴り響いたのだ。


 それと同時に、しわがれた声を無理やり吐き出したような、そんな声が聞こえてくる!


「モノノケだー!モノノケが出たぞー!」


「モノノケ!?こんな昼間にか!?」


「とにかく逃げよう!」


 大通りはパニック状態。人々が逃げてきた方向に目をやると…。


 そこには、やたら大きいトカゲのようなバケモノがいた。


 その他にも、人型、犬型、形容し難いなにか触手のようなものまでいる。何百匹も。


 あれが…モノノケか?


「あーら、ちょーっと厄介なことになったわねー」


 タマテはのうのうとそんなことを口に出し、逃げようとしなかった。


「逃げないのか!?」


「なーに言ってんのよ」


 そう言いながら、大通りに躍り出た。そして、襲いかかってくるモノノケを…。


 持っていた日本刀で薙ぎ払った。


 狼狽えるトカゲ。舌を伸ばして攻撃しようとするも、それも叶わずそれどころか舌を断たれる。


「グギャャャャ!」


「うるっさいわねぇ、近所迷惑でしょーが!」


 ザクッと、肉を裂き骨を断つ音が響き、ガクンっとトカゲは息絶えた。


「まったく、朝っぱらから騒がしいなぁ、モノノケ共は」


「キクハは何もやってないでしょ。あー、遅れてごめん、タマテ。セリク、みんなと一緒に逃げてて」


「わ、分かった!行くぞ、みんな!」


 ナナクサ兄妹は、一斉に駆け出した。


 それより…。


「なんでここに居るんだ、シオン、キクハ」


「モノノケを狩るのがおサムライさんの仕事だからね」


「そうね、じゃ、きちっとやっつけちゃいますかー」


「久々に腕がなるな!」


 シオンは刀を、キクハは槍を持ち、タマテの横に立った。


「ところで、なんであなた達は逃げないのー?」


「モンスターを狩るのが、俺たちの仕事だからだ!」


「ふーん、あなたもお姉さんと同じような職なのねー」


 そう言うと、タマテ達は大きな犬のようなモノノケに斬りかかった。さっきの二倍はあるな!


 だが、俺達が今注意すべきは…!


「エリナ、上だ!何とかならないか!?」


「ならなくもない!」


 すると、何やら詠唱に入った。


『我が焚べるは我が魔力、我が望むは悪の断罪。彼の罪深き者共よ、凍える処女の中で懺悔し、神の報いを受けよ!』


 大きな鳥型のモノノケの群れの周りに、氷柱が何重にも連なる。


『アイス・メイデン!』


 ガガガガン!という音を立てて、氷柱はモノノケの体を貫いた。


 次々と町外れの平原に、モノノケの死骸が落ちていく。


「やるねぇ!妖術の類?」


「ま、そんなとこだな」


 エリナはグリグリと肩を回して、「ふぅ…」とため息を漏らした。


 あれだけの高等魔術を使ったのにこれだけで済むなんて、さすがと言うべきか。


 よし、俺もやるか。


「ミナミ、サポート頼む!」


「はい!アタック・サポート!」


 ミナミは王都戦以来、何やら幅広い分野の魔導書を貰った。


 なんでも、最上位職故にクラスアップが出来ないため、このような形で埋め合わせをすることになったとか。


「うらァ!」


 俺は剣を大きく振りかぶり、人型のモノノケに斬りかかった!

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