転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)
第27話:雪遊びと真剣勝負
1
朝、冷え込むのであまり布団の外に出たくない今日この頃。
布団にくるまったままゆっくりと頭を起こし、窓の外を眺める。リリスのやつ、こんなに寒いのによく素っ裸でいられるよな。
窓から景色を眺めると、王都はすっかり白色に染まっていた。昨夜だいぶん降ったらしい。
「ふぁー、おはようユウマ。そんなに外見て、何かあるのか?」
「雪だよ、雪。かなり積もってるぞ」
「通りでいつもより冷え込んでるのか…、こりゃ雪かきが大変そうだな」
寝癖の着いた頭を掻きながらオルガがあくびをする。
「雪かきって、魔法で楽できないのか?」
「んー、何も俺は魔法には疎いからな。詳しくはないけど、多分あれだ。風の魔法で吹き飛ばそうとしたら屋根瓦ごと吹き飛ぶし、かと言って炎で溶かそうとすると屋根に引火するだろ?そして水で溶かそうとしても、滑りやすくなって危ない上に、雨漏りの心配まで出てくる。つまり人力が一番安全って言ったってことじゃあないのか?」
「なるほど、そういう事か…」
確かに、裏には適っている。すると、がたがたと震えながらリリスが起きてきた。
「ゆゆゆゆユウマ、それ、はははは早く返しなさいよ、こここここっちは寒くて凍えそうなのよ…」
「だったら服着ろ。って、なんでここに入ってくるんだ!」
「しょうがないじゃない、寒いんだもの!ああ、暖まるぅ…」
俺がリリスを押しのけようとするも、密着しているせいで上手く離れられない。不意にドアの方からガチャりと鍵の開く音がする。するとドアがすっと開き、影からこちらの様子を伺うミナミが現れた。
「ふぇ?なぜ二人は同じ布団に入ってるんです?」
「平然と入ってくるな、あとこれは違うからな!」
「昨日もう手は出さないって言ってたじゃないですか!」
「ミナミ、私もね。結構長い期間牢の中で過ごしたの。周りには誰もいなかったわ、警備との距離も遠かったし。だから、少しくらいは生気を分けて欲しいのよ!若返りたいのよ!私みたいな悪魔はこうでもしないと存在を固定できないのよ!」
ミナミはリリスの熱弁ぶりに思わず「むぅ…」と口にしていた。
「それって、グラトニー・ドレインみたいな感じですか?」
「いや、それとはまた別ね。あれは魔力とか体力も吸えるけど、私達は精気しか吸えないの。それも異性の」
俺は思った。いや、もしかしたらミナミも同じことを思っているかもしれない。『こいつ、完全にサキュバスだわ』と。
「お前、昨日も言ったけど今度から何か魔法教えてもらう時は俺の許可取ってから覚えろよ?」
「はい、わかりました」
あの鍵開けの魔法、どうやらアリスから教えて貰ったらしい。
イグラットが田舎すぎただけのようで、やはり他の都市では鍵なんてものはとっくに開発されているらしい。
ダンジョンなんかでも普通に鍵付き宝箱なんてものも存在しているほどだ。
ダンジョンよりも発展が遅れてる街って一体…?
「でも、そんなの誰でも覚えていたら空き巣多発だろ?」
「いえ、アリスさんの自作魔法?ってやつでして、本来ならアリスさんしか使えないようです。それを私に教えてくれました」
ミナミ曰く、簡単に言うとこうだ。
事態は一日目の夜に遡る。
ミナミとアリスは風呂に行こうとしていた。
ミナミは防犯のために鍵をかけていたのだが、その時事件は起きた。
「あれ?開かない…あれ?」
「アリスさん、どうしました?」
アリスがドアを開こうとしても開かない。そう、アリスは鍵の開け方を知らないのである。
俺が鍵の掛け方は教えたはずなのだが…。
ミナミはそれを見ているうちに、『なんかドア必死に開けようとするのかわいいし、もう少し様子を見てみよう』と思ったらしい。
「ミナミさん、少し待っていてください、すぐに終わらせますから!」
「あ、アリスさん!?」
仕舞いにはなんか羽ペンとわら半紙のようなものを取り出し、一心不乱に文字を書き始めたかと思うと、何やら文字が光りだしたらしい。
「これで安心です、見ていてくださいね…?『アンロック』!」
鍵の正しい開け方を知らないまま、アリスは満身創痍で、息も絶え絶えに「ミナミさんも締め出されては大変です…!さぁ、この魔法を教えてあげましょう…!」と進めてきたとの事だ。
…馬鹿すぎる。
時は再び現在に戻る。
「ふーん、面白いことを聞いたよ、あのアリスがねぇ。今度、ちょっとからかってみるか」
「エルマ、起きたの?あと、それは絶対に泣くことになるからやめておいた方が身のためよ」
「冗談だよ、さすがにそれくらいの判断はできるさ」
すると、勢いよくドアが開け放たれる!そこには、真っ赤な顔の金髪の少女、アリスがいた。
「エルマさん、私をからかおうとしていたんですか!」
「い、いや違うよ!?アリスもお茶目な所もあるんだなって思ってさ!って、話を聞いて!離して!」
「人を辱めようとするなど言語両断!今日こそはみっちり扱いてやります!」
「みっちり扱くなんて使う人今頃居ないでしょ?って!ごめんなさいごめんなさい!た、助けてぇ!」
アリスに引きずられてエルマは部屋をあとにした。デジャブかな?
「あいつらも懲りないな」
「アリスさんもやりすぎかと思うんですが…」
「エルマさんもエルマさんですよね」
「わふ、わふ」
「お前らいきなり背後から話しかけてくるなよ」
俺はメアリーの方へ向き直る。そう言えば、仲間であるこいつの存在を完全に忘れてた。
2
さて、雪の積もった日にやることは一つである。そう…。
「今日だけは無理、俺は部屋に引きこもる!お前らだけで言ってくれ!」
「何わがまま言ってるんですか!皆さんはもう行ってしまいましたし、私たちも行きましょう!」
「嫌だ、なんでこんなに寒い日に外で遊ばにゃならないんだ、子供か!」
「今のお兄ちゃんの方がよっぽど子供っぽいです!わがまま言ってないで早く行きましょう!」
暖かい部屋に引きこもることである!今現在、俺は部屋の柱に捕まりミナミと葛藤している。
「お兄ちゃん、たまには運動もした方がいいと思います!遊びながら体動かせるんだから、効率もいいでしょう?」
「だったら俺抜きで遊んでこい!」
すると、今度は何やらニマニマとした笑みを浮かべ出した。
なんだろう、このフツフツと湧き上がる気持ち。
「ははーん、お兄ちゃん、さては雪合戦とかで負けるのが怖いんですか?年下の私にすら負けてしまうから最もらしい理由をつけて試合放棄ですか?」
「…おいこらそれはどういう意味だ」
「そのままの意味ですが何か?いやぁ、お兄ちゃんの得意分野のゲームですら妹に負けてなんていたら、兄の面目丸つぶれですね」
「やってやろうじゃないか、表出ろ!俺の実力、見せてやる!」
なんか妹にはめられてる気がするが、そんなことはどうでもいい!
いち早くあいつらと合流し、こいつに兄としての威厳を思い知らさなければ!
あれ…?雪合戦ってゲームなのか!?
俺はコートを羽織りながらふと疑問に思った。
が、ここまで来たら後には下がれない。俺達はがっちりと防寒具を着込み、城の正門の扉を開ける!
ミナミが言うには、「あの人たちはこの前、パーティーを抜け出した時のあの丘の上で遊んでいるらしいです」との事。
「いやぁ、辺りもすっかり雪景色ですね、なんだか幻想的です」
「そうだな、雪が積もるとこんなにも街の雰囲気も変わるのか」
ナリヘルンの街は、すっかり雪に覆われている。
神秘的、これぞ西洋って感じの街並みだ。まるでフィンランド辺にいるような…。正確には、フィンランドは西洋と東洋の間ら辺あるらしい。
「あ、お兄ちゃん、皆さんがいましたよ!」
「二人とも遅いわよ、何してたの」
「ま、まぁ色々とあってな、まだ始まってないのか?」
ティナは不機嫌そうに「あんたら待ってたからね」とだけ言った。
何故かやけにテンションが高いリリスが司会を仕切って大声で話し出した。
「よし、これで全員揃ったわね!これより第一回、ナリヘルン雪合戦を開始するわ!ルールは簡単、二人一組になって相手のチームを全員気絶させた方の勝ち!尚、手段としては雪玉を使うこと、それだけよ!審判はメアリーに任せたから、あとは各々チームを作ってちょうだい!」
「ちょ、俺が知ってる雪合戦と違うんだけど!?どうなの審判?」
「何言ってるんですか、雪合戦といえばこれでしょう?雪国の魔法対戦で、地形を活かした戦い方を生み出したのが雪合戦の語源だとかなんとか…」
「うん、冬の三大死因、雪なだれ、猛吹雪、雪合戦」
「物騒すぎるだろ!」
「それより、ユウマもパートナー探したら?もう探す余地はないだろうけど」
あたりを見ると、ミナミと俺以外全員がペアを組んでいた。またこいつか!まぁいいんだけどな。
「よしミナミ作戦会議をしよう」
「はい、私はもう作戦を立てています」
「奇遇だな、俺も立ててるぞいっせいのーせで一緒に言おう」
『いっせーのーせ…』
これが無難だろう。恐らくアリスとエルマは攻めてくる。
シュガーは魔法を一回しか使えないが、リリスは攻めてくるだろう。オルガとティナはどうだか分からない。
こんな状況で、俺達が取るべき行動はただ一つ…。
『命を大事に!』
この手に限る!
しばらくして、メアリーからの招集がかかった。もう時期開戦するんだろう、地獄の戦いが。
「皆さん、準備はできましたか?では…」
それぞれが四方に散り、真剣な面持ちで開戦に備える。
「初め!」
「わふっ!」
俺たちの命をかけた戦いの火蓋が切って落とされた!
「ミナミ、とりあえず壁を作れ!」
「はい、お兄ちゃん!って、なんですかあれ!」
アリスのチームとシュガーのチームの前に、雪の壁が現れた!
「おい、反則だろ!」
「ふふふ、忘れたのかしら?攻撃手段が雪玉ならいいのよ、そう…何をやってもね!」
「ミナミ避けろ!」
「うにゃ!?」
背後から雪玉が五発ほど飛んでくる!何とか間一髪で避けたが、これがあと何回も来るのか!?
リリスが瞬間移動のように、雪原の上を駆け抜け、四方八方から雪玉を投げつける!
「甘いですよリリスさん!」
「うわ!?なにこれトラップ!?くそ、考えたわね!」
「私達の戦闘スタイルは…勝てばよかろうなのです!」
何あいつら汚ぇ!あとそれどっかで聞いたことある!
エルマはと言うと、必死に雪玉を作っていた!
なるほど、あいつだけは常識はあるのか。でももしアリスが戦闘不能になったら、あいつも動き出すんだろうな。
「ふん、この程度のトラップ、なんてことないわ!」
「武器の類は直接攻撃以外なら使ってもいいのかよ…ほぼなんでもありじゃねぇか!」
「お兄ちゃん、ある程度の壁は出来ました!私は雪玉を作っていきますので、お兄ちゃんが投げてください」
「ああ、って、何だあれ!?」
俺が見たものは…なんか背中に巨大な漏斗みたいなものを付け、腕が変形したオルガだった!
不覚にもカッコイイと思ってしまったが、でも用途はだいたい見えている。
「アヴァロンの科学は世界一ィ!一分間に六百発の雪玉を放出可能、雪玉砲だ!喰らえ!」
それもどっかで聞いたことある!あと用途が限りなくダサい!
もう少し汎用性がある改造はなかったのか!?
なんだよ雪合戦用の改造って!ティナはと言うと、雪をかき集めてオルガの背中の漏斗に投入していた。
「一発一発の雪玉が、お前達の雪壁を削り取るのだァ!」
「いいわよ、オルガ!このままやっちゃって!」
「あの、オルガさん軽くキャラ崩壊しちゃってるんですけど大丈夫ですかね?」
「自分の心配しろ、どこから来るか分からないんだからな!」
俺はと言うと、雪玉を投げるだけだ。このままでは確実に殺られる!何か策は…。
リリスは相変わらず動き回っていた。あいつの足元をすくうことが出来れば…。
足元?そうか!
「ミナミ、このリングの中心部分に水を張ってくれ!」
「え?分かりましたけど…『ウォーター・スプラッシュ』!」
ミナミが叫ぶと、中央部分に水が飛んでいって、辺りを濡らした。
「何?この程度で足止めしようっての?」
「お兄ちゃん、駄目です!効いてません!」
「こうするんだよ、『フリーズン・ウィンド』!」
この冬の大気の数倍は寒いであろう極寒の風を、俺は生成した。射程はそこまでなのだが、水に当たればそれでいい。
俺の放った魔法は水を瞬時に凍らせ、走っていたリリスが足を滑らせる!
「ちょっ、うわ!止まらない!?」
「おいリリス、こっち来んな!このままだとぶつかる!」
どうやら地形はオルガたちの方に傾いていたらしく、水がそっちに流れていく。つまり…。
「足が凍ってる!?そんな、避けられないじゃない!」
『うわぁぁぁぁああああ!?』
三人ともが大激突し、気絶した。すると、メアリーがカウントを始める。
「9、10!オルガさんチーム敗退、リリスさん、戦闘不能!」
「わふ、わふ!」
なるほど、十秒間気絶させればいいのか。それなら希望は見えてきた!
「お兄ちゃん、やりました!1チーム撃破です!」
「ああ、やったな。残るは三人か、何か策はないか?」
「警戒すべきはアリスさんチームですが、シュガーちゃんも捨て身の行動に出るかもしれません、どちらも気を配らないと…」
「お、お兄ちゃん、誰と話してるんですか!?」
「はぁ!?何を言って…」
ミナミが唐突に意味がわからないことを言い出した。一人二役?俺が振り返ると…。
ミナミが二人いた。
なんだろう、見間違えかな?ゴシゴシと目を擦り、もう一度見てみると…。やはり二人いる!
「なななななんでお前二人いるんだよ!?あれか?分身の術でも覚えたのか!?」
「何言ってるんですか!これは偽物です!私が本物です!」
「嘘をつかないでください!こっちが偽物です!」
うーん…。そう言えばエルマの能力、『エンビー・ルーティング』って姿を変えられる…、もしかしてそれか?
こういう時、漫画とかゲームだと本人しか答えられない質問とかして見分けるんだよな。
…あ、いいこと考えた。
「いや、寒いなぁ。なんか肌寒くなってきたなぁ!ちょっと薄着だったかな!あぁ寒いなぁ!」
「お兄ちゃん、私のローブを貸してあげます!」
「お兄ちゃん、私が温めてあげます!」
良かった、回答が別れて。これなら見破るのは容易い。偽物は…。
「偽物はお前だ!」
「ぐはぁ!?」
俺はローブを貸そうとした方のミナミに雪玉を投げつける!
「うぅ、なんでわかったのさ!」
「お前はなぁ、全部ミナミになりきれていなかった!ミナミなら、俺に服なんて貸そうとせず、体温で温めようとするんだよ!」
「はぁ!?」
「普通の兄妹ならそれくらいします!」
普通の兄妹がそこまでするかはさておき、こいつをどうやって倒すか…。
「全く、何が『上手くいくから安心して』ですか!失敗してるじゃないですか!」
「まさかここまでの肉体関係を結んでたとは思わないでしょ!?しょうがない、ここで勝敗を付けよう!」
「ええ、それしかないですね。悪いですがミナミさん、手加減はなしですよ!」
やばい、あいつら本気だ!
「ミナミ、さっきの魔法を!」
「『ウォーター・スプラッシュ』!」
「『フリーズン・ウィンド』!」
決まったように見えたが、アリス達は滑りもせずにこちらに走ってくる!
「滑走耐性のブーツです!リリスさんは用意していなかったようですが、雪の日には必須アイテムですよ!」
「ふふふ、残念だったね二人とも!」
まずい、このままだとやられる!アリスが詠唱を始めてしまった!このままでは負けてしまう!
「『スノー・レイン』」
『へ?』
俺達が上空を見上げると、そこには大量の雪玉があった。そしてそれは直線上に俺たちに向かって飛んでくる!
『うわぁぁぁぁああああ!?』
俺達は雪玉に埋もれ、気を失った。
目を覚ましたのは、それから少し経ってからである。なんとか這い出でると、シュガーがぶっ倒れていた。
どうやら雪がクッションになって大事には至らなかったようだ。
「はぁ、はぁ…メアリー、雪合戦の結果は…?」
「えっと、シュガーさんも気絶していたので、この勝負引き分け!」
「ぐぅ…不覚を…とった…」
「魔法打ったあたりから察しは着いてたけどな」
とはいえ、死者が出なくて何よりだ。さて、王城に帰ってとりあえず寝るか。かなり疲れたし…。
3
ミナミが雪から這い上がり、俺の方を見て不思議そうな顔をする。
「ぷはぁ!…あれ、お兄ちゃんどこへ行くんです?」
「決まってるだろ、王城で寝るんだよ」
「あらあらあらあらユウマさん?まだ雪遊び…いや、雪戦争は終わってないんでしてよ?」
何言ってるんだ、リリスのやつ?それと、お前らの中でキャラ崩壊って流行ってんの?
「なんだよその物騒そうなワード?他に何やるんだよ」
「決まってますよね!」
「うん、そうだね。雪合戦とあと一つ」
アリスとエルマが顔を合わせ、頷く。
「ズバリ、雪だるまコンテストです!」
「何!?…て、思ったより普通だな」
まぁ、さっきのがほぼ殺し合いみたいなものだったしな、そう思うのも無理はないだろう。
「甘いわね!この雪だるまコンテスト、楽なものじゃないのよ!ただ大きいものを作っていいものじゃない!体と頭の黄金比、そして、どれだけ工夫をするか!そこが重要なのよ!」
「えー、シュガーさんが続行不可能のため、審査員をお任せしたいと思います。頑張りましょうね、リリスさん!」
「わん!」
「えぇ、狙うのは優勝ただ一つよ!」
「が、頑張って…」
既に審査員が瀕死なんですが、それは!?あと、審査員と選手の熱の入り用が違いすぎる。
「制作時間は三十分…。じゃあ、開始…ガクッ」
『よっしゃぁぁ!』
「審査員ー!」
やばい、審査員力尽きたんだけど!?
そんなことに目もくれず、こいつらは雪だるま制作を始めた。
「お兄ちゃんは胴体を作ってください、私は頭を作ります!」
「お、おう…」
ミナミのやつ、かなりやる気だな。そのやる気に応えられるだけ応えるか…。
ん?ティナのやつ…。マイクロマシンで制作しようとしてやがる!
「卑怯だろ、自力で作れ!」
「これは私の手足みたいなものでしょ?何も卑怯じゃないわ」
オルガは雪をかき集め、マイクロマシンの渦の中に放り込む。さっきと立場逆転してるじゃねぇか…。
「うぅ、結構大きくなってきたな…これくらいでいいか…。ミナミ、頭を上に乗せるから手伝って…えぇ!?」
ミナミは俺の作った胴体の二倍ほどの大きさの雪玉を作っていた!マジかよでけぇ!
「お兄ちゃん、もっと大きくしてください!これの二倍ほどに!」
「無茶言うな…」
結局、俺はほとんど何もしないままミナミの力で雪玉は元の四倍の大きさになった。俺の胸くらいまでだ。
さて、これどうやって上にあげるんだろう? 
「お兄ちゃん、手伝ってください」
「は?」
「だから、持ち上げるの手伝ってください」
「無茶言うな!こんなの持ち上がるわけないだろ!」
こいつは俺の腰まである頭の雪玉を二人で持ち上げようと言い出した。無茶だろ!
「ほら、つべこべ言わずにさっさと持ってください!」
「もうやけくそだ!」
明日はベットから動けそうにないな。
「重っ!?」
想像通りの重さ、少しでも力を抜けば腕が下敷きになる。
「ゆっくり、ゆっくりですよ…、そう、ここです!いっせーのーせで下ろします」
『いっせーのーせ!』
ずんっという音とともに腕が楽になる。腰にもかなり来たな。
それからは装飾して、残り時間がなくなった。
どこから持ってきたのか大きな布を被せ、作品を隠す。
「さぁ、まずは私たちの作品からですね!こちら!」
「わふ!」
現れたのは、胴体部分にかまくらがある雪だるま。いや、かまくらを作って上に頭をのせたのか?なかなか面白い作品だな。
「かまくら雪だるまよ!少々ひねってみたわ!」
「うん、次」
『無関心!?』
メアリーとリリスは声を上げた。いや、あれで無関心はさすがにないだろ…。
「次は俺たちだな、これだ!」
出てきたのは天使を象ったような彫刻。ん?これ、誰かに似てるような…。
「私をイメージした力作よ!優勝はいただきね…」
「失格」
『なんで!?』
「雪だるまじゃないから」
それもそうだ。このレベルだと、北海道の雪まつりに出展してる雪像並だぞ。
これは雪だるまじゃない。本人も返す言葉もないようだ。
「さ、次は俺たちだね。これだよ」
現れたのは普通の雪だるま…!?いや違う!なんか顔が怖い!しかも首に鎖まいてるし、もう首に鎖が巻きついて苦しんでるようにしか見えない!作品名『エルマ』じゃないだろうな!?
「ふふん、ワンポイントとして、ネックレスをイメージした鎖、そして可愛い笑顔!優勝はいただきです!」
「う、うん…」
シュガーは複雑そうな顔をする。
そりゃそうだ、あんなの見たらそんな感情にもなる。
あの顔、笑顔だったのか…?いや、もう笑顔ということにしておこう。
「さ、最後は私たちです。私たちの作品はこれです!」
ごく普通で、ごくごく平凡な雪だるま。木の実や枝で顔を作った雪だるま。
ちなみに、近くの森で拾い集めてきた。
「結果発表」
ゴクリと唾を飲む。はて、俺はなぜこの大会に参加したのか?
思い出した、ミナミに挑発されたのだ。必ず優勝しなければ…!
「リリス、メアリーチーム」
『やったァ!』
簡単の声を上げ、抱きしめ合う。メアリーは触れられるため、抱きしめることも可能だ。  
正直、薄々分かっていたので、今は素直に賞賛を送ろう。
「これにて閉会…ガクッ」
「審査員ー!」
結局、シュガーはエルマが運ぶことになった。
4
昼食を終え、俺達は自由行動。部屋で休みたいが、見舞いにも行かなくちゃ行けない。
ちょうど先程、ミナミが俺を呼びに来たのだ。
「さ、お兄ちゃん行きましょう。目的地は治療院です!」 
「へいへい」
俺はミナミについて治療院へ行く。
皆とルキアの病室に嗾けようかとも思ったが、それはさすがにあいつも迷惑だろう。
でもルキアのことだから、きっと笑うんだろうな。嫌な顔一つもせずに。
だからこちらも気を使うものだ。こういうタイプのやつに限って心に負を溜め込みすぎていずれ飲み込まれるのだ。
俺がそうだった。
だから…、仲間が、友達が必要なのだ。
あれがあいつの本性なのならば、それほどの闇があること。
火の手がない所に煙は立たないのと同じだ。その闇を打ち明けることができれば、少しはあの力も制御出来るかもしれない。
無駄なお世話になるかもしれないが、それも承知の上だ。
俺達は治療院につき、手続きを済ませ、ルキアの病室の前に立つ。そして、ミナミが扉を開けると…。
そこには、アイツらの姿があった。やはり、考えることは皆同じか。
「あんたら遅いわよ、忘れ物取りに行くのにいくらかかってるの」
「うっせ、これはお前の忘れ物だろ?」
俺はティナに頼まれていたあるものを渡す。いや、正確には『私の部屋にルキアに渡したいものがあるんだけど、それをルキアに渡してくれない…?』とぶっきらぼうに言ってきたのだ。
一応本人の手から渡してもらった方がいいだろう。
それは千羽鶴…。じゃなくて鶴。さすがにこの人数でも千羽は無理だった。
ティナ曰く、『古代のお守りの一種』らしいのだが、そんなのこの世界にあったんだな。
にしてもこいつ、自分の手で折りたいと言い出したのは良かったが、不器用過ぎないか?
そういう所も、モデルに合わせたのか…。どうだろう?
「ほら、これあげるからあんたも元気出しなさい!全員いないと調子出ないのよ…」
「ありがとう、何これ?」
「つ、鶴よ!」
「鶴?」
ルキアはティナに渡された鶴をマジマジと見つめる。
いや、正直に言うとあれはお世辞にも鶴には見えない。
下手すぎる以前に、折り紙の「鶴」は全くと言っていいほど鶴の原型をとどめていない。
俺はあれを何も知らない状態で見たらなんかの鳥としか判断できないだろう。
つーか、鶴の足はどうした、あのほっそい足はかなり印象的だぞ?
「大事にするよ、ありがとね」
「っ、は、早く元気になりなさいよ!」
「さっきも言ってたぞ」
「うるさいわよオルガ!」
照れてるなぁ、ティナのやつ。こいつには案外ツンデレ属性があるのかもしれない。
「ほい、俺からもプレゼントだ。ティナみたく下手じゃない…いや、なんでもないですはい」
「オルガ、あんた今何を口走ってたのかしら?」
「や、なんでもないんだぞ?ははは!」
「ティナ落ち着いて、ここ治療院だよ?」
「元はと言えばオルガが…」
オルガが差し出したのはまたもや鶴。かなり綺麗に折られている。機械いじりしてるからかなり手先は器用なんだろうな。
「うわぁ、綺麗だね…。ありがとう、オルガ」
「別にいいさ。早く元気出せよ?」
「ねぇ!私の方が上手いでしょ?」
「どっちも上手だよ」
次はアリスとエルマか。二人はなにか買いに行くとか言ってたけど…。
「これを買ってきました。スノードームです!」
「見ていて飽きないと思うよ。数秒ごとに違う風景が映し出されるからね」
いや、シンプルにすごいなアレ。どういう原理なんだろう。
俺の知っているスノードームとはまた違う。多分身を切るような思いで買ったんだろう。アイツらの最近金欠らしいからな。
「凄いなぁ、キラキラしてる…」
ルキアはうっとりとした様子でスノードームをのぞき込む。
こうして見るとあれだな。こいつ、初めてあった時は男かと思ってたけど、ちゃんと乙女だな。胸も結構…いや、辞めておこう。
でも、あの時はそういうタイプの防具を着ていたのかと思っていたが…。
「どうしたのユウマ。服に何かついてる?」
「いや、なんでもない!」
何やら、ミナミからの視線が怖い。「何他の人の胸を凝視してるんですか」とでも言いたげだ。
「次、私達の。雪細工」
「雪うさぎよ。溶けないように魔法を掛けてあるわ。元気になったら一緒に遊びましょう?」
「早く元気を出してくださいね!」
リリスはルキアに笑いかける。知り合って一週間ほどしか経っていないというのに、ここまで言えるものなのか…。
「不思議だなぁ、触っても溶けない。でもちゃんと冷たいや。それに可愛い、あれがとね」
ルキアは笑顔を見せる。
「最後は俺たちだな。これ、チョコレートだ」
『うわぁ…』
何だ、周りの視線が冷たいんだが…!?
「いや、最悪でも果物とかでしょ?」
「さすがにチョコはなぁ…」
「私も止めたんですけど…、『毎日同じようなものばかり食べてたら飽きる』って、聞かなかったんですよ」
『本当、空気読めてないな』
これ、俺が悪いのか!?
俺は今までほとんど入院をしたことが無いため、そういうのには疎いと思うが本人がどう思っているかが問題じゃあないのか!?
俺はルキアに目をやる。
「うん、甘ぁい!とっても美味しいよ、ありがとね!」
ルキアは今まで見たことがないような笑顔を見せる。目を閉じ、感傷に浸っている。
「それなら良かった…。それと、空気がなんだって?」
ティナ達は漫画ならギクリっとエフェクトが入るような表情をする。
「いや、私は初めから信じてましたよ…?」 
嘘つけ、目があさっての方向を向いてるぞ。
「ハイハイ、分かったから。ところで、予定ではもうそろそろ治るって話だけど、どうだ?」
「うん、案外早く治りそうだよ。ちゃんとご飯食べてるからね。明日には退院できるんだって」
「順調に太ってるようだな…。うわぁ!?」 
ルキアは無言で俺に殴りかかってきた!間一髪で交わす。こうも人が多いと避けるのも困難だな…。
「皮肉だよ、皮肉!真に受けるな!」
「言っていいことと悪いことがあるんだよ!」
ミナミ達は「やれやれ」とでも言いたげな様子だ。まぁ、自分でも言いすぎたと思ったんだがな。
「分かってないのね…」
「うん、わかってない」
「男の俺からしても、これはひどいと思うよ」
なんか、俺今日言われっぱなしじゃねぇか!?
「と、とにかく早く元気になれよ!」
「少しくらいは元気出たよ、ありがとね」
ルキアが俺に向かって笑いかける。怒ると元気が出るものなのか?
「さぁ、俺らもそろそろ帰るか。長居しても悪いだろ」
「そうですね、帰りましょうか」
「うん、ありがとね、皆!」
俺達は病室を後にした。さて、明日からはまた騒がしくなりそうだな。
5
「ゼルイルさーん、何見てるんすか?」
「アゼリール、お前は昔から口の利き方がなってない。何回も言っているだろう」
「あたしの方がゼルイルさんよりも長い期間ここに居るんすよ?」
「お前の方が俺よりも下、それは事実だろう」
「ただ、『あの方』に仕えていただけでこの仕打ち…。ひどいと思わないっすか?」
「あいつは堕天した。それに仕えていたお前がこの仕打ちを受けるのは当然だろう」
「私が汚れ仕事熟さないと均衡が保たれないんすけど…。で、それ何っすか?」
「ウリエル様の後継者だ。それを攫ってこいとのこと。俺は様子見のために送られるそうだが。言わば偵察役だな」
「そっスか。いやぁ、上位天使も大変っすねぇ」
「では、俺は準備をする。初春には向かうとするか」
「ハイハイ、お気をつけてー。…さて、面倒なことになってきたっすね」
朝、冷え込むのであまり布団の外に出たくない今日この頃。
布団にくるまったままゆっくりと頭を起こし、窓の外を眺める。リリスのやつ、こんなに寒いのによく素っ裸でいられるよな。
窓から景色を眺めると、王都はすっかり白色に染まっていた。昨夜だいぶん降ったらしい。
「ふぁー、おはようユウマ。そんなに外見て、何かあるのか?」
「雪だよ、雪。かなり積もってるぞ」
「通りでいつもより冷え込んでるのか…、こりゃ雪かきが大変そうだな」
寝癖の着いた頭を掻きながらオルガがあくびをする。
「雪かきって、魔法で楽できないのか?」
「んー、何も俺は魔法には疎いからな。詳しくはないけど、多分あれだ。風の魔法で吹き飛ばそうとしたら屋根瓦ごと吹き飛ぶし、かと言って炎で溶かそうとすると屋根に引火するだろ?そして水で溶かそうとしても、滑りやすくなって危ない上に、雨漏りの心配まで出てくる。つまり人力が一番安全って言ったってことじゃあないのか?」
「なるほど、そういう事か…」
確かに、裏には適っている。すると、がたがたと震えながらリリスが起きてきた。
「ゆゆゆゆユウマ、それ、はははは早く返しなさいよ、こここここっちは寒くて凍えそうなのよ…」
「だったら服着ろ。って、なんでここに入ってくるんだ!」
「しょうがないじゃない、寒いんだもの!ああ、暖まるぅ…」
俺がリリスを押しのけようとするも、密着しているせいで上手く離れられない。不意にドアの方からガチャりと鍵の開く音がする。するとドアがすっと開き、影からこちらの様子を伺うミナミが現れた。
「ふぇ?なぜ二人は同じ布団に入ってるんです?」
「平然と入ってくるな、あとこれは違うからな!」
「昨日もう手は出さないって言ってたじゃないですか!」
「ミナミ、私もね。結構長い期間牢の中で過ごしたの。周りには誰もいなかったわ、警備との距離も遠かったし。だから、少しくらいは生気を分けて欲しいのよ!若返りたいのよ!私みたいな悪魔はこうでもしないと存在を固定できないのよ!」
ミナミはリリスの熱弁ぶりに思わず「むぅ…」と口にしていた。
「それって、グラトニー・ドレインみたいな感じですか?」
「いや、それとはまた別ね。あれは魔力とか体力も吸えるけど、私達は精気しか吸えないの。それも異性の」
俺は思った。いや、もしかしたらミナミも同じことを思っているかもしれない。『こいつ、完全にサキュバスだわ』と。
「お前、昨日も言ったけど今度から何か魔法教えてもらう時は俺の許可取ってから覚えろよ?」
「はい、わかりました」
あの鍵開けの魔法、どうやらアリスから教えて貰ったらしい。
イグラットが田舎すぎただけのようで、やはり他の都市では鍵なんてものはとっくに開発されているらしい。
ダンジョンなんかでも普通に鍵付き宝箱なんてものも存在しているほどだ。
ダンジョンよりも発展が遅れてる街って一体…?
「でも、そんなの誰でも覚えていたら空き巣多発だろ?」
「いえ、アリスさんの自作魔法?ってやつでして、本来ならアリスさんしか使えないようです。それを私に教えてくれました」
ミナミ曰く、簡単に言うとこうだ。
事態は一日目の夜に遡る。
ミナミとアリスは風呂に行こうとしていた。
ミナミは防犯のために鍵をかけていたのだが、その時事件は起きた。
「あれ?開かない…あれ?」
「アリスさん、どうしました?」
アリスがドアを開こうとしても開かない。そう、アリスは鍵の開け方を知らないのである。
俺が鍵の掛け方は教えたはずなのだが…。
ミナミはそれを見ているうちに、『なんかドア必死に開けようとするのかわいいし、もう少し様子を見てみよう』と思ったらしい。
「ミナミさん、少し待っていてください、すぐに終わらせますから!」
「あ、アリスさん!?」
仕舞いにはなんか羽ペンとわら半紙のようなものを取り出し、一心不乱に文字を書き始めたかと思うと、何やら文字が光りだしたらしい。
「これで安心です、見ていてくださいね…?『アンロック』!」
鍵の正しい開け方を知らないまま、アリスは満身創痍で、息も絶え絶えに「ミナミさんも締め出されては大変です…!さぁ、この魔法を教えてあげましょう…!」と進めてきたとの事だ。
…馬鹿すぎる。
時は再び現在に戻る。
「ふーん、面白いことを聞いたよ、あのアリスがねぇ。今度、ちょっとからかってみるか」
「エルマ、起きたの?あと、それは絶対に泣くことになるからやめておいた方が身のためよ」
「冗談だよ、さすがにそれくらいの判断はできるさ」
すると、勢いよくドアが開け放たれる!そこには、真っ赤な顔の金髪の少女、アリスがいた。
「エルマさん、私をからかおうとしていたんですか!」
「い、いや違うよ!?アリスもお茶目な所もあるんだなって思ってさ!って、話を聞いて!離して!」
「人を辱めようとするなど言語両断!今日こそはみっちり扱いてやります!」
「みっちり扱くなんて使う人今頃居ないでしょ?って!ごめんなさいごめんなさい!た、助けてぇ!」
アリスに引きずられてエルマは部屋をあとにした。デジャブかな?
「あいつらも懲りないな」
「アリスさんもやりすぎかと思うんですが…」
「エルマさんもエルマさんですよね」
「わふ、わふ」
「お前らいきなり背後から話しかけてくるなよ」
俺はメアリーの方へ向き直る。そう言えば、仲間であるこいつの存在を完全に忘れてた。
2
さて、雪の積もった日にやることは一つである。そう…。
「今日だけは無理、俺は部屋に引きこもる!お前らだけで言ってくれ!」
「何わがまま言ってるんですか!皆さんはもう行ってしまいましたし、私たちも行きましょう!」
「嫌だ、なんでこんなに寒い日に外で遊ばにゃならないんだ、子供か!」
「今のお兄ちゃんの方がよっぽど子供っぽいです!わがまま言ってないで早く行きましょう!」
暖かい部屋に引きこもることである!今現在、俺は部屋の柱に捕まりミナミと葛藤している。
「お兄ちゃん、たまには運動もした方がいいと思います!遊びながら体動かせるんだから、効率もいいでしょう?」
「だったら俺抜きで遊んでこい!」
すると、今度は何やらニマニマとした笑みを浮かべ出した。
なんだろう、このフツフツと湧き上がる気持ち。
「ははーん、お兄ちゃん、さては雪合戦とかで負けるのが怖いんですか?年下の私にすら負けてしまうから最もらしい理由をつけて試合放棄ですか?」
「…おいこらそれはどういう意味だ」
「そのままの意味ですが何か?いやぁ、お兄ちゃんの得意分野のゲームですら妹に負けてなんていたら、兄の面目丸つぶれですね」
「やってやろうじゃないか、表出ろ!俺の実力、見せてやる!」
なんか妹にはめられてる気がするが、そんなことはどうでもいい!
いち早くあいつらと合流し、こいつに兄としての威厳を思い知らさなければ!
あれ…?雪合戦ってゲームなのか!?
俺はコートを羽織りながらふと疑問に思った。
が、ここまで来たら後には下がれない。俺達はがっちりと防寒具を着込み、城の正門の扉を開ける!
ミナミが言うには、「あの人たちはこの前、パーティーを抜け出した時のあの丘の上で遊んでいるらしいです」との事。
「いやぁ、辺りもすっかり雪景色ですね、なんだか幻想的です」
「そうだな、雪が積もるとこんなにも街の雰囲気も変わるのか」
ナリヘルンの街は、すっかり雪に覆われている。
神秘的、これぞ西洋って感じの街並みだ。まるでフィンランド辺にいるような…。正確には、フィンランドは西洋と東洋の間ら辺あるらしい。
「あ、お兄ちゃん、皆さんがいましたよ!」
「二人とも遅いわよ、何してたの」
「ま、まぁ色々とあってな、まだ始まってないのか?」
ティナは不機嫌そうに「あんたら待ってたからね」とだけ言った。
何故かやけにテンションが高いリリスが司会を仕切って大声で話し出した。
「よし、これで全員揃ったわね!これより第一回、ナリヘルン雪合戦を開始するわ!ルールは簡単、二人一組になって相手のチームを全員気絶させた方の勝ち!尚、手段としては雪玉を使うこと、それだけよ!審判はメアリーに任せたから、あとは各々チームを作ってちょうだい!」
「ちょ、俺が知ってる雪合戦と違うんだけど!?どうなの審判?」
「何言ってるんですか、雪合戦といえばこれでしょう?雪国の魔法対戦で、地形を活かした戦い方を生み出したのが雪合戦の語源だとかなんとか…」
「うん、冬の三大死因、雪なだれ、猛吹雪、雪合戦」
「物騒すぎるだろ!」
「それより、ユウマもパートナー探したら?もう探す余地はないだろうけど」
あたりを見ると、ミナミと俺以外全員がペアを組んでいた。またこいつか!まぁいいんだけどな。
「よしミナミ作戦会議をしよう」
「はい、私はもう作戦を立てています」
「奇遇だな、俺も立ててるぞいっせいのーせで一緒に言おう」
『いっせーのーせ…』
これが無難だろう。恐らくアリスとエルマは攻めてくる。
シュガーは魔法を一回しか使えないが、リリスは攻めてくるだろう。オルガとティナはどうだか分からない。
こんな状況で、俺達が取るべき行動はただ一つ…。
『命を大事に!』
この手に限る!
しばらくして、メアリーからの招集がかかった。もう時期開戦するんだろう、地獄の戦いが。
「皆さん、準備はできましたか?では…」
それぞれが四方に散り、真剣な面持ちで開戦に備える。
「初め!」
「わふっ!」
俺たちの命をかけた戦いの火蓋が切って落とされた!
「ミナミ、とりあえず壁を作れ!」
「はい、お兄ちゃん!って、なんですかあれ!」
アリスのチームとシュガーのチームの前に、雪の壁が現れた!
「おい、反則だろ!」
「ふふふ、忘れたのかしら?攻撃手段が雪玉ならいいのよ、そう…何をやってもね!」
「ミナミ避けろ!」
「うにゃ!?」
背後から雪玉が五発ほど飛んでくる!何とか間一髪で避けたが、これがあと何回も来るのか!?
リリスが瞬間移動のように、雪原の上を駆け抜け、四方八方から雪玉を投げつける!
「甘いですよリリスさん!」
「うわ!?なにこれトラップ!?くそ、考えたわね!」
「私達の戦闘スタイルは…勝てばよかろうなのです!」
何あいつら汚ぇ!あとそれどっかで聞いたことある!
エルマはと言うと、必死に雪玉を作っていた!
なるほど、あいつだけは常識はあるのか。でももしアリスが戦闘不能になったら、あいつも動き出すんだろうな。
「ふん、この程度のトラップ、なんてことないわ!」
「武器の類は直接攻撃以外なら使ってもいいのかよ…ほぼなんでもありじゃねぇか!」
「お兄ちゃん、ある程度の壁は出来ました!私は雪玉を作っていきますので、お兄ちゃんが投げてください」
「ああ、って、何だあれ!?」
俺が見たものは…なんか背中に巨大な漏斗みたいなものを付け、腕が変形したオルガだった!
不覚にもカッコイイと思ってしまったが、でも用途はだいたい見えている。
「アヴァロンの科学は世界一ィ!一分間に六百発の雪玉を放出可能、雪玉砲だ!喰らえ!」
それもどっかで聞いたことある!あと用途が限りなくダサい!
もう少し汎用性がある改造はなかったのか!?
なんだよ雪合戦用の改造って!ティナはと言うと、雪をかき集めてオルガの背中の漏斗に投入していた。
「一発一発の雪玉が、お前達の雪壁を削り取るのだァ!」
「いいわよ、オルガ!このままやっちゃって!」
「あの、オルガさん軽くキャラ崩壊しちゃってるんですけど大丈夫ですかね?」
「自分の心配しろ、どこから来るか分からないんだからな!」
俺はと言うと、雪玉を投げるだけだ。このままでは確実に殺られる!何か策は…。
リリスは相変わらず動き回っていた。あいつの足元をすくうことが出来れば…。
足元?そうか!
「ミナミ、このリングの中心部分に水を張ってくれ!」
「え?分かりましたけど…『ウォーター・スプラッシュ』!」
ミナミが叫ぶと、中央部分に水が飛んでいって、辺りを濡らした。
「何?この程度で足止めしようっての?」
「お兄ちゃん、駄目です!効いてません!」
「こうするんだよ、『フリーズン・ウィンド』!」
この冬の大気の数倍は寒いであろう極寒の風を、俺は生成した。射程はそこまでなのだが、水に当たればそれでいい。
俺の放った魔法は水を瞬時に凍らせ、走っていたリリスが足を滑らせる!
「ちょっ、うわ!止まらない!?」
「おいリリス、こっち来んな!このままだとぶつかる!」
どうやら地形はオルガたちの方に傾いていたらしく、水がそっちに流れていく。つまり…。
「足が凍ってる!?そんな、避けられないじゃない!」
『うわぁぁぁぁああああ!?』
三人ともが大激突し、気絶した。すると、メアリーがカウントを始める。
「9、10!オルガさんチーム敗退、リリスさん、戦闘不能!」
「わふ、わふ!」
なるほど、十秒間気絶させればいいのか。それなら希望は見えてきた!
「お兄ちゃん、やりました!1チーム撃破です!」
「ああ、やったな。残るは三人か、何か策はないか?」
「警戒すべきはアリスさんチームですが、シュガーちゃんも捨て身の行動に出るかもしれません、どちらも気を配らないと…」
「お、お兄ちゃん、誰と話してるんですか!?」
「はぁ!?何を言って…」
ミナミが唐突に意味がわからないことを言い出した。一人二役?俺が振り返ると…。
ミナミが二人いた。
なんだろう、見間違えかな?ゴシゴシと目を擦り、もう一度見てみると…。やはり二人いる!
「なななななんでお前二人いるんだよ!?あれか?分身の術でも覚えたのか!?」
「何言ってるんですか!これは偽物です!私が本物です!」
「嘘をつかないでください!こっちが偽物です!」
うーん…。そう言えばエルマの能力、『エンビー・ルーティング』って姿を変えられる…、もしかしてそれか?
こういう時、漫画とかゲームだと本人しか答えられない質問とかして見分けるんだよな。
…あ、いいこと考えた。
「いや、寒いなぁ。なんか肌寒くなってきたなぁ!ちょっと薄着だったかな!あぁ寒いなぁ!」
「お兄ちゃん、私のローブを貸してあげます!」
「お兄ちゃん、私が温めてあげます!」
良かった、回答が別れて。これなら見破るのは容易い。偽物は…。
「偽物はお前だ!」
「ぐはぁ!?」
俺はローブを貸そうとした方のミナミに雪玉を投げつける!
「うぅ、なんでわかったのさ!」
「お前はなぁ、全部ミナミになりきれていなかった!ミナミなら、俺に服なんて貸そうとせず、体温で温めようとするんだよ!」
「はぁ!?」
「普通の兄妹ならそれくらいします!」
普通の兄妹がそこまでするかはさておき、こいつをどうやって倒すか…。
「全く、何が『上手くいくから安心して』ですか!失敗してるじゃないですか!」
「まさかここまでの肉体関係を結んでたとは思わないでしょ!?しょうがない、ここで勝敗を付けよう!」
「ええ、それしかないですね。悪いですがミナミさん、手加減はなしですよ!」
やばい、あいつら本気だ!
「ミナミ、さっきの魔法を!」
「『ウォーター・スプラッシュ』!」
「『フリーズン・ウィンド』!」
決まったように見えたが、アリス達は滑りもせずにこちらに走ってくる!
「滑走耐性のブーツです!リリスさんは用意していなかったようですが、雪の日には必須アイテムですよ!」
「ふふふ、残念だったね二人とも!」
まずい、このままだとやられる!アリスが詠唱を始めてしまった!このままでは負けてしまう!
「『スノー・レイン』」
『へ?』
俺達が上空を見上げると、そこには大量の雪玉があった。そしてそれは直線上に俺たちに向かって飛んでくる!
『うわぁぁぁぁああああ!?』
俺達は雪玉に埋もれ、気を失った。
目を覚ましたのは、それから少し経ってからである。なんとか這い出でると、シュガーがぶっ倒れていた。
どうやら雪がクッションになって大事には至らなかったようだ。
「はぁ、はぁ…メアリー、雪合戦の結果は…?」
「えっと、シュガーさんも気絶していたので、この勝負引き分け!」
「ぐぅ…不覚を…とった…」
「魔法打ったあたりから察しは着いてたけどな」
とはいえ、死者が出なくて何よりだ。さて、王城に帰ってとりあえず寝るか。かなり疲れたし…。
3
ミナミが雪から這い上がり、俺の方を見て不思議そうな顔をする。
「ぷはぁ!…あれ、お兄ちゃんどこへ行くんです?」
「決まってるだろ、王城で寝るんだよ」
「あらあらあらあらユウマさん?まだ雪遊び…いや、雪戦争は終わってないんでしてよ?」
何言ってるんだ、リリスのやつ?それと、お前らの中でキャラ崩壊って流行ってんの?
「なんだよその物騒そうなワード?他に何やるんだよ」
「決まってますよね!」
「うん、そうだね。雪合戦とあと一つ」
アリスとエルマが顔を合わせ、頷く。
「ズバリ、雪だるまコンテストです!」
「何!?…て、思ったより普通だな」
まぁ、さっきのがほぼ殺し合いみたいなものだったしな、そう思うのも無理はないだろう。
「甘いわね!この雪だるまコンテスト、楽なものじゃないのよ!ただ大きいものを作っていいものじゃない!体と頭の黄金比、そして、どれだけ工夫をするか!そこが重要なのよ!」
「えー、シュガーさんが続行不可能のため、審査員をお任せしたいと思います。頑張りましょうね、リリスさん!」
「わん!」
「えぇ、狙うのは優勝ただ一つよ!」
「が、頑張って…」
既に審査員が瀕死なんですが、それは!?あと、審査員と選手の熱の入り用が違いすぎる。
「制作時間は三十分…。じゃあ、開始…ガクッ」
『よっしゃぁぁ!』
「審査員ー!」
やばい、審査員力尽きたんだけど!?
そんなことに目もくれず、こいつらは雪だるま制作を始めた。
「お兄ちゃんは胴体を作ってください、私は頭を作ります!」
「お、おう…」
ミナミのやつ、かなりやる気だな。そのやる気に応えられるだけ応えるか…。
ん?ティナのやつ…。マイクロマシンで制作しようとしてやがる!
「卑怯だろ、自力で作れ!」
「これは私の手足みたいなものでしょ?何も卑怯じゃないわ」
オルガは雪をかき集め、マイクロマシンの渦の中に放り込む。さっきと立場逆転してるじゃねぇか…。
「うぅ、結構大きくなってきたな…これくらいでいいか…。ミナミ、頭を上に乗せるから手伝って…えぇ!?」
ミナミは俺の作った胴体の二倍ほどの大きさの雪玉を作っていた!マジかよでけぇ!
「お兄ちゃん、もっと大きくしてください!これの二倍ほどに!」
「無茶言うな…」
結局、俺はほとんど何もしないままミナミの力で雪玉は元の四倍の大きさになった。俺の胸くらいまでだ。
さて、これどうやって上にあげるんだろう? 
「お兄ちゃん、手伝ってください」
「は?」
「だから、持ち上げるの手伝ってください」
「無茶言うな!こんなの持ち上がるわけないだろ!」
こいつは俺の腰まである頭の雪玉を二人で持ち上げようと言い出した。無茶だろ!
「ほら、つべこべ言わずにさっさと持ってください!」
「もうやけくそだ!」
明日はベットから動けそうにないな。
「重っ!?」
想像通りの重さ、少しでも力を抜けば腕が下敷きになる。
「ゆっくり、ゆっくりですよ…、そう、ここです!いっせーのーせで下ろします」
『いっせーのーせ!』
ずんっという音とともに腕が楽になる。腰にもかなり来たな。
それからは装飾して、残り時間がなくなった。
どこから持ってきたのか大きな布を被せ、作品を隠す。
「さぁ、まずは私たちの作品からですね!こちら!」
「わふ!」
現れたのは、胴体部分にかまくらがある雪だるま。いや、かまくらを作って上に頭をのせたのか?なかなか面白い作品だな。
「かまくら雪だるまよ!少々ひねってみたわ!」
「うん、次」
『無関心!?』
メアリーとリリスは声を上げた。いや、あれで無関心はさすがにないだろ…。
「次は俺たちだな、これだ!」
出てきたのは天使を象ったような彫刻。ん?これ、誰かに似てるような…。
「私をイメージした力作よ!優勝はいただきね…」
「失格」
『なんで!?』
「雪だるまじゃないから」
それもそうだ。このレベルだと、北海道の雪まつりに出展してる雪像並だぞ。
これは雪だるまじゃない。本人も返す言葉もないようだ。
「さ、次は俺たちだね。これだよ」
現れたのは普通の雪だるま…!?いや違う!なんか顔が怖い!しかも首に鎖まいてるし、もう首に鎖が巻きついて苦しんでるようにしか見えない!作品名『エルマ』じゃないだろうな!?
「ふふん、ワンポイントとして、ネックレスをイメージした鎖、そして可愛い笑顔!優勝はいただきです!」
「う、うん…」
シュガーは複雑そうな顔をする。
そりゃそうだ、あんなの見たらそんな感情にもなる。
あの顔、笑顔だったのか…?いや、もう笑顔ということにしておこう。
「さ、最後は私たちです。私たちの作品はこれです!」
ごく普通で、ごくごく平凡な雪だるま。木の実や枝で顔を作った雪だるま。
ちなみに、近くの森で拾い集めてきた。
「結果発表」
ゴクリと唾を飲む。はて、俺はなぜこの大会に参加したのか?
思い出した、ミナミに挑発されたのだ。必ず優勝しなければ…!
「リリス、メアリーチーム」
『やったァ!』
簡単の声を上げ、抱きしめ合う。メアリーは触れられるため、抱きしめることも可能だ。  
正直、薄々分かっていたので、今は素直に賞賛を送ろう。
「これにて閉会…ガクッ」
「審査員ー!」
結局、シュガーはエルマが運ぶことになった。
4
昼食を終え、俺達は自由行動。部屋で休みたいが、見舞いにも行かなくちゃ行けない。
ちょうど先程、ミナミが俺を呼びに来たのだ。
「さ、お兄ちゃん行きましょう。目的地は治療院です!」 
「へいへい」
俺はミナミについて治療院へ行く。
皆とルキアの病室に嗾けようかとも思ったが、それはさすがにあいつも迷惑だろう。
でもルキアのことだから、きっと笑うんだろうな。嫌な顔一つもせずに。
だからこちらも気を使うものだ。こういうタイプのやつに限って心に負を溜め込みすぎていずれ飲み込まれるのだ。
俺がそうだった。
だから…、仲間が、友達が必要なのだ。
あれがあいつの本性なのならば、それほどの闇があること。
火の手がない所に煙は立たないのと同じだ。その闇を打ち明けることができれば、少しはあの力も制御出来るかもしれない。
無駄なお世話になるかもしれないが、それも承知の上だ。
俺達は治療院につき、手続きを済ませ、ルキアの病室の前に立つ。そして、ミナミが扉を開けると…。
そこには、アイツらの姿があった。やはり、考えることは皆同じか。
「あんたら遅いわよ、忘れ物取りに行くのにいくらかかってるの」
「うっせ、これはお前の忘れ物だろ?」
俺はティナに頼まれていたあるものを渡す。いや、正確には『私の部屋にルキアに渡したいものがあるんだけど、それをルキアに渡してくれない…?』とぶっきらぼうに言ってきたのだ。
一応本人の手から渡してもらった方がいいだろう。
それは千羽鶴…。じゃなくて鶴。さすがにこの人数でも千羽は無理だった。
ティナ曰く、『古代のお守りの一種』らしいのだが、そんなのこの世界にあったんだな。
にしてもこいつ、自分の手で折りたいと言い出したのは良かったが、不器用過ぎないか?
そういう所も、モデルに合わせたのか…。どうだろう?
「ほら、これあげるからあんたも元気出しなさい!全員いないと調子出ないのよ…」
「ありがとう、何これ?」
「つ、鶴よ!」
「鶴?」
ルキアはティナに渡された鶴をマジマジと見つめる。
いや、正直に言うとあれはお世辞にも鶴には見えない。
下手すぎる以前に、折り紙の「鶴」は全くと言っていいほど鶴の原型をとどめていない。
俺はあれを何も知らない状態で見たらなんかの鳥としか判断できないだろう。
つーか、鶴の足はどうした、あのほっそい足はかなり印象的だぞ?
「大事にするよ、ありがとね」
「っ、は、早く元気になりなさいよ!」
「さっきも言ってたぞ」
「うるさいわよオルガ!」
照れてるなぁ、ティナのやつ。こいつには案外ツンデレ属性があるのかもしれない。
「ほい、俺からもプレゼントだ。ティナみたく下手じゃない…いや、なんでもないですはい」
「オルガ、あんた今何を口走ってたのかしら?」
「や、なんでもないんだぞ?ははは!」
「ティナ落ち着いて、ここ治療院だよ?」
「元はと言えばオルガが…」
オルガが差し出したのはまたもや鶴。かなり綺麗に折られている。機械いじりしてるからかなり手先は器用なんだろうな。
「うわぁ、綺麗だね…。ありがとう、オルガ」
「別にいいさ。早く元気出せよ?」
「ねぇ!私の方が上手いでしょ?」
「どっちも上手だよ」
次はアリスとエルマか。二人はなにか買いに行くとか言ってたけど…。
「これを買ってきました。スノードームです!」
「見ていて飽きないと思うよ。数秒ごとに違う風景が映し出されるからね」
いや、シンプルにすごいなアレ。どういう原理なんだろう。
俺の知っているスノードームとはまた違う。多分身を切るような思いで買ったんだろう。アイツらの最近金欠らしいからな。
「凄いなぁ、キラキラしてる…」
ルキアはうっとりとした様子でスノードームをのぞき込む。
こうして見るとあれだな。こいつ、初めてあった時は男かと思ってたけど、ちゃんと乙女だな。胸も結構…いや、辞めておこう。
でも、あの時はそういうタイプの防具を着ていたのかと思っていたが…。
「どうしたのユウマ。服に何かついてる?」
「いや、なんでもない!」
何やら、ミナミからの視線が怖い。「何他の人の胸を凝視してるんですか」とでも言いたげだ。
「次、私達の。雪細工」
「雪うさぎよ。溶けないように魔法を掛けてあるわ。元気になったら一緒に遊びましょう?」
「早く元気を出してくださいね!」
リリスはルキアに笑いかける。知り合って一週間ほどしか経っていないというのに、ここまで言えるものなのか…。
「不思議だなぁ、触っても溶けない。でもちゃんと冷たいや。それに可愛い、あれがとね」
ルキアは笑顔を見せる。
「最後は俺たちだな。これ、チョコレートだ」
『うわぁ…』
何だ、周りの視線が冷たいんだが…!?
「いや、最悪でも果物とかでしょ?」
「さすがにチョコはなぁ…」
「私も止めたんですけど…、『毎日同じようなものばかり食べてたら飽きる』って、聞かなかったんですよ」
『本当、空気読めてないな』
これ、俺が悪いのか!?
俺は今までほとんど入院をしたことが無いため、そういうのには疎いと思うが本人がどう思っているかが問題じゃあないのか!?
俺はルキアに目をやる。
「うん、甘ぁい!とっても美味しいよ、ありがとね!」
ルキアは今まで見たことがないような笑顔を見せる。目を閉じ、感傷に浸っている。
「それなら良かった…。それと、空気がなんだって?」
ティナ達は漫画ならギクリっとエフェクトが入るような表情をする。
「いや、私は初めから信じてましたよ…?」 
嘘つけ、目があさっての方向を向いてるぞ。
「ハイハイ、分かったから。ところで、予定ではもうそろそろ治るって話だけど、どうだ?」
「うん、案外早く治りそうだよ。ちゃんとご飯食べてるからね。明日には退院できるんだって」
「順調に太ってるようだな…。うわぁ!?」 
ルキアは無言で俺に殴りかかってきた!間一髪で交わす。こうも人が多いと避けるのも困難だな…。
「皮肉だよ、皮肉!真に受けるな!」
「言っていいことと悪いことがあるんだよ!」
ミナミ達は「やれやれ」とでも言いたげな様子だ。まぁ、自分でも言いすぎたと思ったんだがな。
「分かってないのね…」
「うん、わかってない」
「男の俺からしても、これはひどいと思うよ」
なんか、俺今日言われっぱなしじゃねぇか!?
「と、とにかく早く元気になれよ!」
「少しくらいは元気出たよ、ありがとね」
ルキアが俺に向かって笑いかける。怒ると元気が出るものなのか?
「さぁ、俺らもそろそろ帰るか。長居しても悪いだろ」
「そうですね、帰りましょうか」
「うん、ありがとね、皆!」
俺達は病室を後にした。さて、明日からはまた騒がしくなりそうだな。
5
「ゼルイルさーん、何見てるんすか?」
「アゼリール、お前は昔から口の利き方がなってない。何回も言っているだろう」
「あたしの方がゼルイルさんよりも長い期間ここに居るんすよ?」
「お前の方が俺よりも下、それは事実だろう」
「ただ、『あの方』に仕えていただけでこの仕打ち…。ひどいと思わないっすか?」
「あいつは堕天した。それに仕えていたお前がこの仕打ちを受けるのは当然だろう」
「私が汚れ仕事熟さないと均衡が保たれないんすけど…。で、それ何っすか?」
「ウリエル様の後継者だ。それを攫ってこいとのこと。俺は様子見のために送られるそうだが。言わば偵察役だな」
「そっスか。いやぁ、上位天使も大変っすねぇ」
「では、俺は準備をする。初春には向かうとするか」
「ハイハイ、お気をつけてー。…さて、面倒なことになってきたっすね」
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