転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)
第22話:色欲の罪と作戦会議
1
俺達は色欲の罪、リリスと対面した。どうやらこいつは酒好きらしい。
そんなことはどうでもいいのだ。今はとりあえず外にいるエギルに声をかけ、エリナを連れてきてもらわなければ…。
「ああ、その事ならもう鍵もらってるからこれ使って牢獄の鍵と鎖外していいぞ」
「いや、なんかあっさりなんだな」
終身刑じゃないのかよ、なんだよこのざる警備。俺達はエギルに貰った鍵で牢屋を開け、リリスの鎖を解こうとした…が。
「ああ、その鍵取っといて、この鎖はあなたの持っているその短剣で切ってくれないかしら?」
「なぜだ?」
「とにかく切ってくれない?何ならその腰に携えている剣でいいけれど」
言われた通り、俺は剣で鎖を切った。以外にも鎖は脆く、ガキンという音とともにジャラジャラと鎖が落ちていく。
「ふぁー、久しぶりに鎖外されたわね!肩凝ってたのよ」
「でも手錠外されてないけどいいのか?」
「ああ、これはいいの。これは一種の魔具で、魔力を押さえつける役割なのよ。でも体内ではずっとオドが作られてるでしょ?それを外せば…どうなるか分かる?あ、ちなみに私の種族は直接的に魔法を打てるわよ」
「うぅ…」
理解したくもない。つまりあれだ、こいつは言わば空気をいっぱいに入れられた風船だ。
それの留め具を外せば、一気に中の空気が出ていく。魔力もこれに同様なのだろう。
「多少ならコントロール出来るけど、増えすぎたのよねぇ、もう手に負えないわ。それよりあなた…」
「ん?どうした?」
「私を見てもどうとも思わないのね、私を見た異性は大体は私の虜になるんだけど?」
うわぁ何言ってんのこいつ。イタすぎだろ、自分のことを絶世の美女とでも言いたいのか?
「そんな可愛そうなものを見る目で私を見ないでくれる?私の魔力の話よ、『色欲の魅力』って言うんだけど。私を見たものは異性の方が効果はあるけれど、同性であろうと虜にすることが出来るのよ。それが通じないってことは…」
そう言いながら、ズイっと俺の方にリリスが顔を近づけてきた。
「あなたには心に決めた相手がいるのかしらね?その短剣もその娘にもらったりして?」
「それはお兄ちゃんに私があげたものですよ?ちなみにペアルックです」
「ああそういうこと、だから使いたくなかったのね、なるほど」
「いや、お前が考えているようなことないからな!」
そんなことも耳にも届かないのか、リリスはニヤニヤしながらこちらを覗き込んできた。
「私の力も、愛の前には無力ってわけね、全く、ジェラシー感じちゃう」
「本当、相変わらずだねリリス」
「人も悪魔も、そう簡単には変われないものなのよ。ま、さっきの嘘なんだけど。今は魔法使えないしね…、それよりアイリス、お願いできる?」
「はい、私が耐えられる範囲で頑張りますよ」
アリスはリリスの背中に手をあて、グラトニー・ドレインをしている。他者からの干渉は可能なのか。それより、エギルが見てる前でグラトニー・ドレインを使うのは少しやめた方がいい気が…。
変な事言って逆に勘づかれたら困るから、言わないでおくか。
それもそうか、これを使えるのは恐らくアリスのみ。対策されてなくてもおかしくない。
「ふー、じゃこれ外して」
「ハイハイ、分かったよ」
エルマはガチャガチャと鍵を外す。
すると、後ろからとんとんとルキアに叩かれた。
「ねぇ、本当に大丈夫なのかな?なんか牢屋に入れられてたし、それに普通に出れてるし…」
「知らないが、でもさすがに騎士団長が出したんだから別にいいんじゃないのか?」
「そうですね、何せ歴代一無害な魔王って言われている魔王の幹部の方ですから」
でもひとつ気がかりがある。それは、魔王幹部であるこのリリスが、何故このような仕打ちを受けているのか?
「なぁ、リリスってさ、騎士団よりも強いのか?そいつらより強いのなら、ここで囚われていることはないと思うんだが…」
「性能が気になるなら試験運行するまでだ、機械も悪魔もそうだ。モンスターの群れの中に放り込めば分かるんじゃないか?」
「あんた、時々鬼畜なこと言うわね…でも確か、街一つ堕とせるって言ってなかったっけ?」
そうだ、確かに王女様がそんなことを言っていた。やはり実力は申し分ないんだろうか?
「あ、着いたみたいですよ」
そんな会話をしていると、どうやら面会の間に着いたらしい。  
「さて、君たち覚悟しておいてくれよ」
「何を覚悟するんだ?危険なことでも起きるのか?」
「それは見ればわかるさ…警告はしたからな」
ゴクリと唾を飲む。一体この先で何が待っているのだ?
2
予想外にというか案の定というか、そこに居たのはルニラとユニラ、そして王女のエリナだけだった。
…が、心做しかエリナがだいぶ不機嫌なような気がする。眉間に皺を寄せ、貧乏ゆすりをしている。
「で?どうしてこのような下等で下劣な悪魔なんぞがここに居るんだ、エギル?」
「エリナが言ったんじゃないか、『私が判断する』って、しかもご丁寧に鍵まで渡して」
「あれはこいつに敵意があるかないかを調べるだけでよかったのだ。あるなら鎖がとかれた瞬間全員皆殺しだろう?このクソッタレた悪魔には相手を騙すだけの脳がないからな」
「なるほど、それを報告すれば良かったってことか…そういうことはちゃんと言ってくれないと」
「少しは頭を使え頭を…」
エリナは「はぁ…」と深いため息をついた。
「もう来てしまったものはしょうがない、このクソ悪魔も一緒に交えて話していこうじゃないか。サキュバスと同格の誘惑することしか出来ない無能悪魔とな」
「あらあら王女様、言葉遣いがなってないんじゃないの?これなら高貴な悪魔である私の方が王女には向いてるかもね。それに流石にお相手に失礼じゃないかしら?」
「ああそうだな、弁解しよう。これではサキュバスが可哀想だ、お前はサキュバス以下だ」
「あらあら、冗談がお上手なのね。アハハハハ!」
「ハハハ!」
先程までの不気味な笑い声が途絶え、そしてこれまた不気味な沈黙が俺たちを包む。
「あのねぇ!私はあんたがゆりかごでぬくぬくしてる間もずっと最前線で血で血を洗う激戦に身を投じてたのよ!」
「それがどうした!こちらはお主の血なまぐさい匂いがこの高貴な妾の衣類に染み付いてしまわぬか不安でしょうがないのだ!」
「こっちこそ、今の今までかび臭い匂いが私の服に染み付いてしまわないか心配でしょうがなかったんだけど?」
「逆だ戯け!お前の体臭が部屋に染み込んだのだろうが!」
あ、なるほどだいたい理解した、エギルが『覚悟しておいてくれ』と言っていた理由がわかった。
「そういえば、さっきからこの部屋小便臭い子供の匂いで溢れてるわね、きちんと尿をたせるのかしら?」
「何ィ!このアバズレめが!王家の妾をここまで愚弄するのはお前が初めてだBBA!」
「経験豊富なお姉さんと言って欲しいわね、あとBBAって言うな!このロリ処女!」
「ロリ…ロリだと…?王家の妾をロリ扱いするとは、恥をしれ…」
もうなんかバカバカしい、何この五歳児の喧嘩を見ている感覚。すると、エルマとエギルが2人の背後にまわった。何をする気だ?
『当身』
『ごはっ!?』
2人は当身をくらい、仲良く一緒に気を失った。…何これ?
「よっと、んじゃ俺は妹をベットに寝かしつけてくるね。ちょっとは頭を冷やしてもらわないと」
「そこに倒れてるもう一人のバカは部屋で寝かしておく。こちらも頭が冷やす必要がありそうだからね、エギル、案内頼むよ」
「そうそう、騎士は数が多すぎるため作戦会議には俺とルニラ、ユニラだけが参加させてもらうぞ」
騎士って、そんなに人数が多いのか!?それもそうだ、俺は全勢力を寄越せと言ったんだ。
「あれ?でも全精力って騎士団だけなのか?この街ってギルドとかないのか?」
「ああ、冒険者たちなら集めておいたぞ、なんせアーマーヒュドラって言ったら元賞金首だからな、さぞかし賞金が出るんだろうさ。その甲斐あって、協力者数万人ほど」
『す、数万!?』
お、多過ぎないか!?イグラットのギルドでも百人くらいしかいないのに、その何倍もあるぞ!?さすが王都といったところか。
「じゃ、そういう事だからな」
そして、エギルはエリナを担ぎどこかへ行った。エルマもリリスを担ぎ部屋へ戻った。
「で?俺達は何をしに来たんだ?」
『さあ?』
俺達は完全にここに来た意味を忘れていた。とりあえずここで少し待ってみるか…?
と、どうやらその必要はなかったらしく、直ぐに二人…いや、三人は帰ってきた。
誰だ、あの赤髪の二十代前半くらいの女の人?
「やあ、遠方からのお客人」
「あなたは?」
「ああ、まだ自己紹介がまだだったな、私はナルヘリンのギルドマスター、キリエライト・ニルヴェバラン。気楽にキリエとでも呼んでくれ、イグラットにはギルドマスターはいないようだがとりあえずよろしく頼む」
「あ、はいどうも、俺の名前は…」
「なに、騎士団長から聞いているイリヤ・ユウマ。私もお前達に協力させてもらう。それに至って、作戦会議に参加させて頂きたく参上した」
「ああ、よろしく…」
なるほど、エギル達が騎士団代表なら、キリエはギルド代表って感じか。
そんなことを考えていると、エギルがテーブルの上に地図を広げた。どうやらこの近くの地形が乗っているようだが?
「これより、えーっと…『アーマーヒュドラ討伐作戦』の会議を始める!」
いや、作戦名もう少しヒネった方がかっこいいんじゃないでしょうか騎士団長さん!?
3
「…で、これで目標を叩く!どうだ?」
「流石ですお兄ちゃん!完璧です!」
「確かに…そんな手段は使ったことは無かったけど、そう簡単に行くのか?」
「分からぬな、だが試してみる価値はあるだろう」
いや、自分で考えた作戦だけど、なんだ。そんな危険なモンスターに攻撃手段を試すって、その試してる間に全員やられるなんてことはないのだろうか?
いや、絶対に有り得る!
「それで、どうするのさ?本当に通用するの?」
「確信はない」
「それってやっぱり…」
「いや、初めからわかってはいたが…」
「あんたやっぱり馬鹿なの!?詳しい内容はさっき初めて聞いたけど、命を懸けてそいつに勝てる確率がまだ分からないって…全員犬死する可能性もあるんでしょ?」
確かにそれも有り得るのだが、それはおそらく心配ない、こちらには元魔王と元魔王幹部が3人もいるのだ。
うん、大丈夫だ、多分!
「それに、何なんだこの大魔法って、ただの魔法使いに使えないはずだが?」
「それに関してはあまり聞かないで欲しい。でも火力には自信ある」
「そこまで有能なのか?失礼ながら、そうには見えないが…?」
どうやらエギルはミルク…じゃなかった、シュガーの火力を疑っているようだ。
それも当たり前だろう、表向きは魔法使いなんだ。本来ならエルマやアリスよりも格上だろう。
「ああ、ミルクの魔法は賜物だよ」
「火力に関しては私が保証しますよ」
「ウィザードのアイリスが言うのなら、信じてみようか」
「ちょ、俺は?」
「まぁまぁいいじゃない、とりあえずやってみるしかないんでしょ?だったらやるしかない、そう思わない?」
「確かに、もう後戻りはできない所まで来てるんだからな」
そう、やるしかないのだ。あ、今更だがリリスはあれから目を覚まし、途中から会議に参加という形になった。
「よし、私はギルドの皆には当日に伝えるとしよう」
「じゃあ俺は今から騎士団の部下達に作戦伝えてくるからね、行くぞユニラ、ルニラ」
「はーい、お姉ちゃん達、また明日ね!」
「あ、そういえばそろそろ夕食のご準備が出来る頃合いなので」
おお、夕飯か!確かこの前、メアリーが恐らくここから取り寄せたであろう食材で作ってくれた料理がとても美味しかった。
やはり質がいい料理というのは美味いものだからな!
「ああ、後で向かう。そういえば食堂の場所ってまだ聞いてなかったな」
「二階の大階段を左に向かい、その突き当たりです」
「そうか、ありがとうな」
「ルニラちゃんとユニラちゃんと一緒に食べれないのかぁ…」
この期に及んでもこいつはロリコン発言を…。ティナへの印象がとんでもなく変動していくのだが。
4
俺達は食堂へ向かった。そこはバイキング形式で鍋や器が並べてあり、今日のメニューはカツカレーだった。
なるほど、洒落が聞いているじゃないか。だが…。
「なぁ、周りの目変じゃないか?なんか俺達が睨まれているというか…」
「それもそうよね、何処の馬の骨かも分からない冒険者に命委ねろって言われたらそんな目にもなるでしょ?」
「お兄ちゃんに失礼です!ちょっと文句言ってきましょうか?」
「やめろ、返り討ちに会うのがオチだ」
ミナミは煮え切らない様子で、うぅ…と声を漏らした。
全く、飯がろくに安心して飯も食えないな。すると、騎士達の会話が聞こえてきた。
「全く、団長は何を考えているんだ、たかが冒険者に一時的に従えだと?」
「それもそうだが、あれだろ?色欲を解放するって…。その冒険者って馬鹿なのか?」
「おい、あれだぜ?見ろよやっぱり馬鹿みたいな顔してるな」
「やっぱり文句言ってきます!」
「お、落ち着いてミナミ!」
「だから返り討ちに合うって!オルガも言ってたでしょ!?」
バタバタと暴れ出したミナミを、ルキアとティナが抑え込む。
「早く食べちゃった方がいいんじゃないですか?」
「それもそうだね、ここで長くいると流石の俺でも精神が参るから」
「でも、騎士なのになんであんなに酷いこと言うんですかね?」
「分からない…けど、騎士達にも誇りってものがあるんだろ、たいそうご立派なな」
少々皮肉を言ってみる。心做しか、一瞬周りの空気が固まった気がした。しばらくすると、また元通りに騒がしくなった。
「は、早く食べるか!」
「ええ、そうね。これ以上ここに居たら私の能力使っちゃおうかなって思ってたのよ」
「ラスト・チャーム使って集団自殺させる…なんて考えてない?」
「よく分かったわね、伊達に数千年時間を共にしてるだけのことはあるって感じね」
「いや、物騒すぎるだろ…」
何気に今までで一番危険なの、こいつじゃないんだろうか?
色欲の罪リリス…敵に回したくないやつだな!
あれから周りからの視線を背中に浴びつつ、俺達は夕食を食べ終え、その足で浴場に足を運び、湯船に浸かったあとそれぞれ自分の部屋に戻った。
「晩飯、美味かったな」
「ああ、そうだね」
「周りの環境は最悪だったけどな」
「いや、3人だけで話進めないでくれるかしら?」
『あ、お前いたのか』
「あんた達私の事完全に気付いてなかったの!?」
こいつはどうやら他の部屋の奴らから追い出されたらしい。
いや、どうやらベットの数が足りないらしい。
ミナミ達が泊まっている部屋のベットが二つ、ティナ達が泊まっている部屋のベットが三つ、そしてこの部屋だけベットが一回り大きいのだ。数は二つなのだが。
「じゃ、ベットはどうしましょうか?誰かが私と一緒に…」
『俺たち三人で寝るからお前一人で寝てていいぞ』
「なんで?ねぇエルマ!私たち長い付き合いでしょ!?」
そう言うと、リリスは大声で泣き始めた。何なのこいつ…。
「わ、分かったから泣くのやめて!」
「あ、ありがどうエルマ!」
「でも寝込み襲ったりしない?」
「しないわよ!?」
こいつら、本当仲良いんだな。アリスみたいにサイコパスになることも今のところない…、あ、あったわ。さっき集団自殺させようとしてたわ。
「ふぁー、もう寝るか。夜も遅いしな」
「そうだな、俺もそろそろクールダウンしないといけないから」
「え、ちょっとどういうこと?」
「そこは今度説明するよ」
俺は暖炉の火とランプを消し、寝床に着いた。さて、明日からは忙しくなるぞ。
正直、長期戦になるか短期戦になるか分からないのだが、やるしかない。
いや、多分長期戦になると思う。とにかく頑張ろう、俺!明日という日を生き抜くために!
俺達は色欲の罪、リリスと対面した。どうやらこいつは酒好きらしい。
そんなことはどうでもいいのだ。今はとりあえず外にいるエギルに声をかけ、エリナを連れてきてもらわなければ…。
「ああ、その事ならもう鍵もらってるからこれ使って牢獄の鍵と鎖外していいぞ」
「いや、なんかあっさりなんだな」
終身刑じゃないのかよ、なんだよこのざる警備。俺達はエギルに貰った鍵で牢屋を開け、リリスの鎖を解こうとした…が。
「ああ、その鍵取っといて、この鎖はあなたの持っているその短剣で切ってくれないかしら?」
「なぜだ?」
「とにかく切ってくれない?何ならその腰に携えている剣でいいけれど」
言われた通り、俺は剣で鎖を切った。以外にも鎖は脆く、ガキンという音とともにジャラジャラと鎖が落ちていく。
「ふぁー、久しぶりに鎖外されたわね!肩凝ってたのよ」
「でも手錠外されてないけどいいのか?」
「ああ、これはいいの。これは一種の魔具で、魔力を押さえつける役割なのよ。でも体内ではずっとオドが作られてるでしょ?それを外せば…どうなるか分かる?あ、ちなみに私の種族は直接的に魔法を打てるわよ」
「うぅ…」
理解したくもない。つまりあれだ、こいつは言わば空気をいっぱいに入れられた風船だ。
それの留め具を外せば、一気に中の空気が出ていく。魔力もこれに同様なのだろう。
「多少ならコントロール出来るけど、増えすぎたのよねぇ、もう手に負えないわ。それよりあなた…」
「ん?どうした?」
「私を見てもどうとも思わないのね、私を見た異性は大体は私の虜になるんだけど?」
うわぁ何言ってんのこいつ。イタすぎだろ、自分のことを絶世の美女とでも言いたいのか?
「そんな可愛そうなものを見る目で私を見ないでくれる?私の魔力の話よ、『色欲の魅力』って言うんだけど。私を見たものは異性の方が効果はあるけれど、同性であろうと虜にすることが出来るのよ。それが通じないってことは…」
そう言いながら、ズイっと俺の方にリリスが顔を近づけてきた。
「あなたには心に決めた相手がいるのかしらね?その短剣もその娘にもらったりして?」
「それはお兄ちゃんに私があげたものですよ?ちなみにペアルックです」
「ああそういうこと、だから使いたくなかったのね、なるほど」
「いや、お前が考えているようなことないからな!」
そんなことも耳にも届かないのか、リリスはニヤニヤしながらこちらを覗き込んできた。
「私の力も、愛の前には無力ってわけね、全く、ジェラシー感じちゃう」
「本当、相変わらずだねリリス」
「人も悪魔も、そう簡単には変われないものなのよ。ま、さっきの嘘なんだけど。今は魔法使えないしね…、それよりアイリス、お願いできる?」
「はい、私が耐えられる範囲で頑張りますよ」
アリスはリリスの背中に手をあて、グラトニー・ドレインをしている。他者からの干渉は可能なのか。それより、エギルが見てる前でグラトニー・ドレインを使うのは少しやめた方がいい気が…。
変な事言って逆に勘づかれたら困るから、言わないでおくか。
それもそうか、これを使えるのは恐らくアリスのみ。対策されてなくてもおかしくない。
「ふー、じゃこれ外して」
「ハイハイ、分かったよ」
エルマはガチャガチャと鍵を外す。
すると、後ろからとんとんとルキアに叩かれた。
「ねぇ、本当に大丈夫なのかな?なんか牢屋に入れられてたし、それに普通に出れてるし…」
「知らないが、でもさすがに騎士団長が出したんだから別にいいんじゃないのか?」
「そうですね、何せ歴代一無害な魔王って言われている魔王の幹部の方ですから」
でもひとつ気がかりがある。それは、魔王幹部であるこのリリスが、何故このような仕打ちを受けているのか?
「なぁ、リリスってさ、騎士団よりも強いのか?そいつらより強いのなら、ここで囚われていることはないと思うんだが…」
「性能が気になるなら試験運行するまでだ、機械も悪魔もそうだ。モンスターの群れの中に放り込めば分かるんじゃないか?」
「あんた、時々鬼畜なこと言うわね…でも確か、街一つ堕とせるって言ってなかったっけ?」
そうだ、確かに王女様がそんなことを言っていた。やはり実力は申し分ないんだろうか?
「あ、着いたみたいですよ」
そんな会話をしていると、どうやら面会の間に着いたらしい。  
「さて、君たち覚悟しておいてくれよ」
「何を覚悟するんだ?危険なことでも起きるのか?」
「それは見ればわかるさ…警告はしたからな」
ゴクリと唾を飲む。一体この先で何が待っているのだ?
2
予想外にというか案の定というか、そこに居たのはルニラとユニラ、そして王女のエリナだけだった。
…が、心做しかエリナがだいぶ不機嫌なような気がする。眉間に皺を寄せ、貧乏ゆすりをしている。
「で?どうしてこのような下等で下劣な悪魔なんぞがここに居るんだ、エギル?」
「エリナが言ったんじゃないか、『私が判断する』って、しかもご丁寧に鍵まで渡して」
「あれはこいつに敵意があるかないかを調べるだけでよかったのだ。あるなら鎖がとかれた瞬間全員皆殺しだろう?このクソッタレた悪魔には相手を騙すだけの脳がないからな」
「なるほど、それを報告すれば良かったってことか…そういうことはちゃんと言ってくれないと」
「少しは頭を使え頭を…」
エリナは「はぁ…」と深いため息をついた。
「もう来てしまったものはしょうがない、このクソ悪魔も一緒に交えて話していこうじゃないか。サキュバスと同格の誘惑することしか出来ない無能悪魔とな」
「あらあら王女様、言葉遣いがなってないんじゃないの?これなら高貴な悪魔である私の方が王女には向いてるかもね。それに流石にお相手に失礼じゃないかしら?」
「ああそうだな、弁解しよう。これではサキュバスが可哀想だ、お前はサキュバス以下だ」
「あらあら、冗談がお上手なのね。アハハハハ!」
「ハハハ!」
先程までの不気味な笑い声が途絶え、そしてこれまた不気味な沈黙が俺たちを包む。
「あのねぇ!私はあんたがゆりかごでぬくぬくしてる間もずっと最前線で血で血を洗う激戦に身を投じてたのよ!」
「それがどうした!こちらはお主の血なまぐさい匂いがこの高貴な妾の衣類に染み付いてしまわぬか不安でしょうがないのだ!」
「こっちこそ、今の今までかび臭い匂いが私の服に染み付いてしまわないか心配でしょうがなかったんだけど?」
「逆だ戯け!お前の体臭が部屋に染み込んだのだろうが!」
あ、なるほどだいたい理解した、エギルが『覚悟しておいてくれ』と言っていた理由がわかった。
「そういえば、さっきからこの部屋小便臭い子供の匂いで溢れてるわね、きちんと尿をたせるのかしら?」
「何ィ!このアバズレめが!王家の妾をここまで愚弄するのはお前が初めてだBBA!」
「経験豊富なお姉さんと言って欲しいわね、あとBBAって言うな!このロリ処女!」
「ロリ…ロリだと…?王家の妾をロリ扱いするとは、恥をしれ…」
もうなんかバカバカしい、何この五歳児の喧嘩を見ている感覚。すると、エルマとエギルが2人の背後にまわった。何をする気だ?
『当身』
『ごはっ!?』
2人は当身をくらい、仲良く一緒に気を失った。…何これ?
「よっと、んじゃ俺は妹をベットに寝かしつけてくるね。ちょっとは頭を冷やしてもらわないと」
「そこに倒れてるもう一人のバカは部屋で寝かしておく。こちらも頭が冷やす必要がありそうだからね、エギル、案内頼むよ」
「そうそう、騎士は数が多すぎるため作戦会議には俺とルニラ、ユニラだけが参加させてもらうぞ」
騎士って、そんなに人数が多いのか!?それもそうだ、俺は全勢力を寄越せと言ったんだ。
「あれ?でも全精力って騎士団だけなのか?この街ってギルドとかないのか?」
「ああ、冒険者たちなら集めておいたぞ、なんせアーマーヒュドラって言ったら元賞金首だからな、さぞかし賞金が出るんだろうさ。その甲斐あって、協力者数万人ほど」
『す、数万!?』
お、多過ぎないか!?イグラットのギルドでも百人くらいしかいないのに、その何倍もあるぞ!?さすが王都といったところか。
「じゃ、そういう事だからな」
そして、エギルはエリナを担ぎどこかへ行った。エルマもリリスを担ぎ部屋へ戻った。
「で?俺達は何をしに来たんだ?」
『さあ?』
俺達は完全にここに来た意味を忘れていた。とりあえずここで少し待ってみるか…?
と、どうやらその必要はなかったらしく、直ぐに二人…いや、三人は帰ってきた。
誰だ、あの赤髪の二十代前半くらいの女の人?
「やあ、遠方からのお客人」
「あなたは?」
「ああ、まだ自己紹介がまだだったな、私はナルヘリンのギルドマスター、キリエライト・ニルヴェバラン。気楽にキリエとでも呼んでくれ、イグラットにはギルドマスターはいないようだがとりあえずよろしく頼む」
「あ、はいどうも、俺の名前は…」
「なに、騎士団長から聞いているイリヤ・ユウマ。私もお前達に協力させてもらう。それに至って、作戦会議に参加させて頂きたく参上した」
「ああ、よろしく…」
なるほど、エギル達が騎士団代表なら、キリエはギルド代表って感じか。
そんなことを考えていると、エギルがテーブルの上に地図を広げた。どうやらこの近くの地形が乗っているようだが?
「これより、えーっと…『アーマーヒュドラ討伐作戦』の会議を始める!」
いや、作戦名もう少しヒネった方がかっこいいんじゃないでしょうか騎士団長さん!?
3
「…で、これで目標を叩く!どうだ?」
「流石ですお兄ちゃん!完璧です!」
「確かに…そんな手段は使ったことは無かったけど、そう簡単に行くのか?」
「分からぬな、だが試してみる価値はあるだろう」
いや、自分で考えた作戦だけど、なんだ。そんな危険なモンスターに攻撃手段を試すって、その試してる間に全員やられるなんてことはないのだろうか?
いや、絶対に有り得る!
「それで、どうするのさ?本当に通用するの?」
「確信はない」
「それってやっぱり…」
「いや、初めからわかってはいたが…」
「あんたやっぱり馬鹿なの!?詳しい内容はさっき初めて聞いたけど、命を懸けてそいつに勝てる確率がまだ分からないって…全員犬死する可能性もあるんでしょ?」
確かにそれも有り得るのだが、それはおそらく心配ない、こちらには元魔王と元魔王幹部が3人もいるのだ。
うん、大丈夫だ、多分!
「それに、何なんだこの大魔法って、ただの魔法使いに使えないはずだが?」
「それに関してはあまり聞かないで欲しい。でも火力には自信ある」
「そこまで有能なのか?失礼ながら、そうには見えないが…?」
どうやらエギルはミルク…じゃなかった、シュガーの火力を疑っているようだ。
それも当たり前だろう、表向きは魔法使いなんだ。本来ならエルマやアリスよりも格上だろう。
「ああ、ミルクの魔法は賜物だよ」
「火力に関しては私が保証しますよ」
「ウィザードのアイリスが言うのなら、信じてみようか」
「ちょ、俺は?」
「まぁまぁいいじゃない、とりあえずやってみるしかないんでしょ?だったらやるしかない、そう思わない?」
「確かに、もう後戻りはできない所まで来てるんだからな」
そう、やるしかないのだ。あ、今更だがリリスはあれから目を覚まし、途中から会議に参加という形になった。
「よし、私はギルドの皆には当日に伝えるとしよう」
「じゃあ俺は今から騎士団の部下達に作戦伝えてくるからね、行くぞユニラ、ルニラ」
「はーい、お姉ちゃん達、また明日ね!」
「あ、そういえばそろそろ夕食のご準備が出来る頃合いなので」
おお、夕飯か!確かこの前、メアリーが恐らくここから取り寄せたであろう食材で作ってくれた料理がとても美味しかった。
やはり質がいい料理というのは美味いものだからな!
「ああ、後で向かう。そういえば食堂の場所ってまだ聞いてなかったな」
「二階の大階段を左に向かい、その突き当たりです」
「そうか、ありがとうな」
「ルニラちゃんとユニラちゃんと一緒に食べれないのかぁ…」
この期に及んでもこいつはロリコン発言を…。ティナへの印象がとんでもなく変動していくのだが。
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俺達は食堂へ向かった。そこはバイキング形式で鍋や器が並べてあり、今日のメニューはカツカレーだった。
なるほど、洒落が聞いているじゃないか。だが…。
「なぁ、周りの目変じゃないか?なんか俺達が睨まれているというか…」
「それもそうよね、何処の馬の骨かも分からない冒険者に命委ねろって言われたらそんな目にもなるでしょ?」
「お兄ちゃんに失礼です!ちょっと文句言ってきましょうか?」
「やめろ、返り討ちに会うのがオチだ」
ミナミは煮え切らない様子で、うぅ…と声を漏らした。
全く、飯がろくに安心して飯も食えないな。すると、騎士達の会話が聞こえてきた。
「全く、団長は何を考えているんだ、たかが冒険者に一時的に従えだと?」
「それもそうだが、あれだろ?色欲を解放するって…。その冒険者って馬鹿なのか?」
「おい、あれだぜ?見ろよやっぱり馬鹿みたいな顔してるな」
「やっぱり文句言ってきます!」
「お、落ち着いてミナミ!」
「だから返り討ちに合うって!オルガも言ってたでしょ!?」
バタバタと暴れ出したミナミを、ルキアとティナが抑え込む。
「早く食べちゃった方がいいんじゃないですか?」
「それもそうだね、ここで長くいると流石の俺でも精神が参るから」
「でも、騎士なのになんであんなに酷いこと言うんですかね?」
「分からない…けど、騎士達にも誇りってものがあるんだろ、たいそうご立派なな」
少々皮肉を言ってみる。心做しか、一瞬周りの空気が固まった気がした。しばらくすると、また元通りに騒がしくなった。
「は、早く食べるか!」
「ええ、そうね。これ以上ここに居たら私の能力使っちゃおうかなって思ってたのよ」
「ラスト・チャーム使って集団自殺させる…なんて考えてない?」
「よく分かったわね、伊達に数千年時間を共にしてるだけのことはあるって感じね」
「いや、物騒すぎるだろ…」
何気に今までで一番危険なの、こいつじゃないんだろうか?
色欲の罪リリス…敵に回したくないやつだな!
あれから周りからの視線を背中に浴びつつ、俺達は夕食を食べ終え、その足で浴場に足を運び、湯船に浸かったあとそれぞれ自分の部屋に戻った。
「晩飯、美味かったな」
「ああ、そうだね」
「周りの環境は最悪だったけどな」
「いや、3人だけで話進めないでくれるかしら?」
『あ、お前いたのか』
「あんた達私の事完全に気付いてなかったの!?」
こいつはどうやら他の部屋の奴らから追い出されたらしい。
いや、どうやらベットの数が足りないらしい。
ミナミ達が泊まっている部屋のベットが二つ、ティナ達が泊まっている部屋のベットが三つ、そしてこの部屋だけベットが一回り大きいのだ。数は二つなのだが。
「じゃ、ベットはどうしましょうか?誰かが私と一緒に…」
『俺たち三人で寝るからお前一人で寝てていいぞ』
「なんで?ねぇエルマ!私たち長い付き合いでしょ!?」
そう言うと、リリスは大声で泣き始めた。何なのこいつ…。
「わ、分かったから泣くのやめて!」
「あ、ありがどうエルマ!」
「でも寝込み襲ったりしない?」
「しないわよ!?」
こいつら、本当仲良いんだな。アリスみたいにサイコパスになることも今のところない…、あ、あったわ。さっき集団自殺させようとしてたわ。
「ふぁー、もう寝るか。夜も遅いしな」
「そうだな、俺もそろそろクールダウンしないといけないから」
「え、ちょっとどういうこと?」
「そこは今度説明するよ」
俺は暖炉の火とランプを消し、寝床に着いた。さて、明日からは忙しくなるぞ。
正直、長期戦になるか短期戦になるか分からないのだが、やるしかない。
いや、多分長期戦になると思う。とにかく頑張ろう、俺!明日という日を生き抜くために!
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