転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)

Raito

第20話:爽やか騎士長と王都訪問

 1


 俺が起きたのは早朝六時。小学生の時はこれくらいに起きていたのだが、今となれば七時起きだ。朦朧とする頭で体を起こし、ミナミに声をかける。


「ミナミ、起きろ朝だぞ」


「うーん、あと五分を10セット…」


「じゃあお前ここで留守番してろ、もう迎えが来たから」


「ちょ、お兄ちゃん!起きました、起きましたから置いてかないでください!」


 ミナミはベッドから跳ね起きた。もちろん迎えが来たというのは嘘だ。


 何せまだ辺りが暗いんだ、こんな時間に来るはずがない。


「じゃ、朝飯食いに行くか」


「お兄ちゃん図りましたね!?」


 ミナミがぎゃあぎゃあと騒いでいるが、そんなことはどうでもいいほどに空腹だ。


「ユウマ、ミナミ、おはよ」


「シュガーちゃんは早起きですね…ふぁ〜」


 リビングに向かうと、他のメンバーは全員席について朝食を食べていた。


「二人とも、遅かった」


「全く、意識が低いぞ。俺なんか起きたの五時半だからな」


「私は五時だけどね」


「お前ら早すぎだろ。あと、アンドロイドって寝る必要あるのか?」


 普通機械は眠る必要ないと思うんだけど、違うのだろうか?


「簡単に言うと、体を一旦冷やすためだ。温度が高くなるとオーバーヒート起こしちまうからな」


 なるほど、寝ると言うよりかスリープモードみたいなものか。


 そう言えば、アリス達はまだ来ていなかった。


 パーティメンバーは全員揃っていたからすっかり忘れていた。


「アリスとエルマはまだ寝てるのか?」


「そうですね、まぁ無理に起こす必要も無いですし、そっとしておきましょう」


 俺は朝食を食べ終え、歯を磨きに洗面所に向かった。そこには…。


「…へ?」


「…あ」


 一糸まとわぬ姿のアリスがいた。


 その瞬間、俺は反射的に洗面所の外に出ていく。


 なんだ?何だこのギャルゲのイベントみたいな展開!?てか、アリスはまだ寝てるんじゃないのかよ!?


「きゃぁぁぁ!?」


「ご、ごめん!まさか入ってるとは思わなくて、でも鍵かけてなかったし…」


「鍵ってなんですか、この変なやつですか!?」


 そうか、この世界には鍵という概念すらないのか。


 だから今までずっとナイトに留守番させてたのか。


 その前にとりあえず落ち着こう。


 形状から察するに、鍵はよくあるダイアルのようなものを回すやつだ。オルガがつけたのだろう。


「それを回すとだな…扉が開かなくなるんだよ」


「すごい…でも、なんで裸見たのにそんな平然としてるんですか。もう服は着ましたけど」


「だからごめんって、まだ怒ってるのか?」


「裸を見られたのですから当然です。そういうの見ると変な気持ちになるんでしょう?」


 こいつ、俺の事をロリコンとでも思ってるのだろうか。


 また変なレッテルを貼られかねないな。


「俺はロリコンじゃないし、早く歯磨きをさせてくれ」


 俺がそういうと、扉がガラリと開いた。


 その奥からは、顔を真っ赤にしたアリスが俯いて出てきた。


「ありがとな」


「何か変なことしたら、ただじゃ置きませんよ」


「しないっての…あ、なんかいい匂い」


「言ったそばから!」


「シャンプーの香りがだよ」


 シャンプーやリンスは何やら自然由来らしく、容器はプラスチックのようなもの。


 何も、魔法で作ることが出来るだとか。


「いいから、早く歯磨きを済ませてください!」


「はいはい分かったよ」


 歯磨きを済ませ、リビングに戻るとやはりアリスが俯いていた。


 いつの間にかエルマも起きていたようだ。全員から冷ややかな視線を送られていないところからして、アリスはまだあのことは黙ってくれているようだ。


 だが、かすかに垣間見えた目からは、『次なにかしたらばらす』と言う意味の視線が送られてきた気がした。


 俺はそれを見て、身の毛がよだった。


 2


 王国からの迎えが来たのは、十時だった。


 今回迎えに来たのは、この前のごつい二人組ではなく爽やかな青年だった。


 それと竜でなく、馬車のようなものに乗って現れた。


 またもや、俺とミナミは、玄関まで向かっう。


「いや、済まないな。どうやら時間を伝えていなかったようだ。これは俺が念を押して言わなかったことが悪かったね」


「え、えっと…。あなたは?」


 ミナミの質問に対し、少年はこれまた爽やかに答えた。


「俺の名はエギル・ナルヘリン・ツーベルク。『白銀の騎士団』団長を務めさせてもらってるものだよ」


「ああ、あの人たちの団長…。へ?団長!?」


「何かの間違いじゃないのか!?」


 俺達が疑うのも当たり前だと思う。この青年、見たところ俺と同い年か少し上くらいだ。


 つまり、明らかに先日やってきた二人の方が歳上なのだ。でも、確かに彼の胸にはかなりの勲章が着いているし、マントの色も赤色だ。


「いや、間違いじゃない、俺が団長だよ」


「うん、やっぱり『神剣』エギル。たしかにこの人が騎士団長」


「『神剣』なんて大層なものじゃないけどね」


 後ろからシュガーが歩いてきた。かなり有名なのだろうか。


 って、ん?なんかこいつの後ろにいるぞ。尻尾みたいなものが見えるが…。


「な、なあ。エギルさん…だったっけ?」


「エギルでいいよ」


「じゃあエギル、お前の後ろになんかいるんだけど、気のせいか?」


「ユニラはユニラだもん!なんかじゃなくてユニラだもん!」


「喋った!?」


 すると、尻尾のようなものがぴょこんと動いて、その持ち主が姿を現した。


 それはケモ耳のようなものを付けた金髪の少女だった。


「可愛いですね、この子!今回限りはお兄ちゃんがひどいと思いますよ」


「俺が悪いのかよ…」


「こんなに可愛い子に、なんかって呼んでた。可愛そう、なでなで」


「ふふふ、くすぐったい。でも、ユニラそれ嫌いじゃないかも!」


 二人はなにやらユニラと名乗る少女を撫でくりまわしていた。すると、


『可愛い…!』


 と、何やら後ろから声が聞こえてきた。振り返るとアリスとティナ、それからルキアが立っていた。


 そして、迅雷の如くスピードでケモ耳少女に飛びつく。


「ほらほら、お姉さんがキャンディあげますよ!」


 一人は店で一度試しに店に並べてみたが、売れなかった賞味期限が気になるキャンディをあげたり、


「寒くない?良かったらお姉さんが手編みのマフラープレゼントしちゃおっか?」


 一人は普段はボーイッシュな格好なのに女子力を発揮し、


「はぁ〜、耳の裏サラサラ癒される…」


 一人はなんかケモ耳の裏を触ってた。


「うふふ、くすぐったいってば!マフラーは有難くいただくね、キャンディも。ありがとう、お姉ちゃん達!」


『可愛い!』


 全員がそう言っていた。だが、ミナミだけは「私はお兄ちゃんの方が萌ますけど!」と続けていた。男に萌え要素なんてないと思うんだが…。


「お、お姉ちゃん、大丈夫?」


 な、何だ、さっきのか弱い声?どこから聞こえてきた?


 その答えは案外簡単だった。エギルの後ろにもうひとり誰かいる。


 またもや尻尾のようなものが見えている。その正体はユニラと瓜二つの少女だった。


 いや、少年のようにも見える。どっちだろうか?少ししか確認できなかったため、かなり曖昧だ。


 全員の視線がその子に向けられる。それに耐えきれなくなり、再びエギルの後ろに隠れる。


「怖くないですよ〜、こっちに来てお顔を見せてください」


 まるで小動物にでも呼びかけるように、アリスが手招きした。


 それに吊られるようにその子が顔を出す。うん、改めて見ると少女だ、間違いない。ただ髪が短いだけだ。


「ルニラ、来ても大丈夫だよ、お姉ちゃん達、とっても優しいよ!」


 ユニラにルニラと呼ばれた少女は「本当に…?」と確認をしたあと、恐る恐るアリスたちの元へ足を運んだ。


「2人は姉妹なんですか?」


「そうだよ!この子はルニラ・ステリア。私の妹だよ!」


「よ、よろしくです…」


「『大魔道士』ステラと、『神の脳』ルニラ。お初にお目にかかるけど、この二人は白銀の騎士団の副団長をしてるって噂。毎回私の元にたどり着けなかったから見てなかったけど」


 もう驚かないぞ、何でも元魔王を仲間にしてるんだからな。


 今頃騎士団なんかで驚かない。この若さで副団長ってことは、相当腕が経つのであろう。こいつの言うことはあまり信用はしたくないけど、今回ばかりは本当だろう。


 すると、ドアの後ろから手が伸びてアリスとシュガーを家の中へ引き込む。その手の正体はエルマだった。俺も一様家に入る。


「馬鹿?馬鹿なの!?」


「いきなり主人に対してバカとは何ですかバカとは」


「主従関係の上下はなしって契約だったよね!?」


「契約に縛られた以上、私はあなたの主人です」


 アリスがキッパリと言い放つと、エルマは「って、それどころじゃないんだよ!」と返した。


「なに、それどころじゃないって」


「あのねぇ…、シュヴァはまぁいいとしよう。一度も騎士団たちと戦ったことがないから、直接。だけど、俺達は戦っただろう、顔くらいは覚えられてるかも知らないんだよ!」


「た、確かに言われてみれば…」


「ぐぬぬ、エルマさんに論破されるとは…」


 何こいつら、意外と馬鹿なのかな?俺でも少し考えればわかるぞ。


「あと、なんか王都で俺たち指名手配されてるみたいだから」


「おいおまえらホントについてきていいのか?」


「ついて来いって言ったのユウマさんでしょう?なに、多分似顔絵だし別に偽名使えば抜けられますよ監視の目くらい」


「うん、大丈夫」


 そんな能天気なことを言っていた。エルマはもう諦めてしまったらしく、「どうなっても知らないからね」と言っていた。


 …嫌な予感しかしない!


「あ、あの、みなさんもう外ですがまだ向かわないんですか?私は先程まで荷物の整理をしていましたが…」


「ああ、終わったぞ、じゃあ向かうか」


 不安を抱えながら、俺達は家の外へ出た。もう皆は荷物を荷台に詰んだらしく、馬車に乗り込んでいた。


「おーい、全員揃ったか?」


「はい、揃いました!もうお兄ちゃん、遅いですよ。何してたんですか?」


「ああ、ちょっと話をしててな。お前には関係ないことだ」


「それってどんな…わぁっ!?」


 ミナミは何か言いたそうにしていたが、その直後に馬車が揺れた。どうやら進み出したようだ。


 ちなみに、この馬車は四人乗り用。前に馬車の運転手がいて、向かいの席にはエギルがいる。


 その向かいの席に俺たち二人が乗っている。個室空間みたいで、実質三人乗りだ。


 ゴトゴトと馬車に揺られながら、穏やかな冬の大通りを抜ける…。はずだった。


「きゃー!エギル様よ!」


「こっち向いて!まぁ!手を振ってくれた!」


「私、もう死んでもいいかも!」


 何やら歓声が上がったので、木の柵がはめられた窓から外の様子を覗く。


 大通りは歓声を上げる女性達でごった返していた。馬車が通るスペースはあるのだが、すぐ脇には人、人、人。人の群れ。


「お前、人気なんだな」


「まぁね。今日ここに来ることは誰にも言ってないはずなんだけど、毎回これなんだよ」


「嫌味かよ」


 だが、何故かこいつのことを憎めない。


 普通のやつなら腸が煮えくり返るくらいに切れるかもしれないのだが、それがないのだ。そこが逆に腹が立つ。


「大丈夫ですよ、お兄ちゃんには私がついてます!」


「…はぁ」


「ちょっと、なんでため息を出すんですか!?」


 こいつにはだいぶ好かれてるらしいが、前の世界からずっと他人に好かれないままだ。


 それも当たり前と言われれば当たり前だ。自分から関わりを持とうとしないやつとなんて、関わりたいとは思えないから。


「いや、お前ってつくづく変わったやつだなと思ってさ」


「いい意味でですか?」


「さて、どうかなー」


「はぐらかさないでくださいよ!」


 ミナミがぎゃあぎゃあと騒いでいると、エギルがクスリと笑った。


「どうした、何かおかしいか?」


「いや、君たちって本当に仲がいいなって思ってさ。俺も妹はいるけど…これがまた問題があってね」


「完璧な人間なんて居ないだろ、みんな多少なりとも欠点を持ってんだよ。それをどれだけ目立たなくするか、それを求められてるんだよ、俺達は」


「いいこと言うね、ユウマ…だったっけ?」


 そう言うと、エギルは爽やかな笑顔を見せた。


 てか、こんな話をしてからでなんだが、こいつには欠点はないんだろうか?見たところ余りないように思えるが…。


 3


 それから他愛もない話に花を咲かせているうちに、どうやら王都へたどり着いたようだ。


 なんだ、案外近くにあるじゃないか。てっきり周りに何もない辺境に住んでるんじゃないかと思っていたんだが、それは誤解だったようだ。


「うう、馬車に揺られてお尻が…」


「お前、その年で下ネタとかやめろよ」


「不可抗力ですよ、痺れてるんですよ!?」


「ハイハイすごいすごい」


「なんで適当に流すんですか!?」


 じゃあなんと言えばいいんだろうか、尻がどうとかと話せばいいのか?


 いや、やめておこう。そんな話をしたらいくらこいつとはいえなんか引くと思う。いや、確実に引くだろう。


 とりあえずミナミを無視し後ろの3台の馬車に向かう。


 一つ目はルキア、シュガー、ユニラが乗ってる馬車。


「はい、ほうきー」


「凄いね!お姉ちゃん!」


「う、うんそうだね…」


 なんかシュガーがあやとりしてた。この世界にもあやとりはあるのか、それとも罪を見定める過程で覚えたのか?


「おーい、楽しんでるの悪いけど、もう着いたぞ」


「ね、ねぇ?もう着いたんだから降りよ…」


「待って、まだロンドン橋と東京タワーと銀河を見せてない」


「いやなんかさっきからずっと『ほうきー』としか言ってなかったよね?いつになったらそれが出来るの!?」


 なにそれ、ほうきしか出来ないのに高難易度技やろうとしてんの?出来るのかな?


 すると、シュガーが手をごにょごにょと交差させたり指に糸を引っ掛けたりしている。俺は思った。


「あ、これマジの初心者だ…」と。


 とりあえずこいつらは後回しにしよう。もうなんか見てるのも面倒になってきた。


 2つ目はルニラ、エルマ、アリスとそしてメアリー、ナイトが乗っている馬車。


 ナイトはなにやら床に寝そべっていた。ルニラには見えていないのだろうか?


「はぁぁぁ、癒されますぅ…」


「ふわぁ、お姉さん…何だか触られてたら変な気分に…」


「いいですよ、大人になる第一歩です。恥ずかしくないですよ〜」


 なにやらルニラの耳をアリスが触ってた。ルニラは何やら顔を赤らめている。


「あ、アリス!?早く降りないと、みんなを待たせてる!」


「うるさいですね、嫉妬ですか?男の嫉妬は見苦しいですよ」


「誰が嫉妬してるか!みんなをまたせてるって言ってるでしょ!?」


「ルニラ…ちゃん」


 すると、なにやら後ろから声がした。


 その声を聞いて振り返るときには、もうその声の主は俺の背中を過ぎ去っていた。


 ていうか、ちゃんってあいつそんな柄じゃないのに…。


「ルニラちゃん!可愛い可愛い、本当天使みたい!いや、天使以上に可愛すぎる!」


「あ、ずるいです!私ももっとモフモフします!」


 その声の主はティナだった。もうこのパーティロリコンしかいないのか?嫌になってくるぞ…。


「ユ、ユウマ…」


「オルガ、お前の姉さんあんなだったのか?」


「返す言葉もねぇよ…」


 それからその場から立ち去るのに、軽く30分はかかった気がする。


 それから俺達はまっすぐ王城まで向かった。


 商売人や都民やらでごった返した大通りを、人の間を縫うように歩く。


「なぁそう言えばさ、オルガ。ひとつ聞いておきたいことがあるんだが、いいか?」


「何だ、聞いておきたいことって?」


 そう、それはまだこいつがパーティに入ってなかった時の話である。


「お前、シュガーの大魔法見てもちっとも驚かなかっただろ。あれはなんでなんだ?」


「そんなの簡単な話だ。見飽きたんだよ、あの程度の魔法。今に至るまで、何度も地図が描き変わるほどの大魔法対戦やら世界大戦やら見てたんだぜ?この目で二千年間もさ。かつて六つ大陸が存在していたらしいが、ひとつはアヴァロンとなって地図に乗らない大陸になり、ひとつは魔王軍の手に堕ちて、最終的には今人間の活動領域は4つの大陸だけだ。それも、かなり削れてるらしいな。俺が生まれてきた時の原型はもうほとんど止めていない」


 六つの大陸…地球と同じだ。これはどういうことだ?


 考えすぎだろうか?でも何やら文字も少し似ているような気がしていたのだ、英語に…。


 だから覚えやすかった、そうだ、そうだったのだ。


「どうしたユウマ?なんか考え事か?」


「お兄ちゃんが考え事…まさか?恋の悩み!?私というものがありながら!ってふにゃ!?」


 意味がわからないことを言っていたミナミの耳を軽くつねる。


「なんでそうなる。あとなんだこの前からふにゃふにゃばっか言ってんじゃないのか?」


「なんか可愛いじゃないですか。あ、それか猫口調にした方がいいですか?」


 もうダメだこいつ無視しよう。なんか猫口調とか意味がわからない言葉喋り出した。


「ルキアさん、にゃにをやってるのかにゃー?」


「普通に歩いてるだけだけど何か用、ミナミ?」


「いや、お兄ちゃんが猫口調の方がいいって言ってたから、やってみたにゃ!どうかにゃ?」


「ミナミ、ごめん俺が間違ってた。頼むからそれ辞めてくれマジで恥ずかしい」


 すると、若干引いたような目でルキアがこちらを見ていた。


「なんだルキア?」


「ユウマ、そんな性癖だったの?ちょっと気持ち悪いかも…」


「誤解だ!」


 何、やっぱり俺の信頼って薄いのか?こいつの方が信用されてるのか?


「大丈夫ですよ、たとえ世界の全てがお兄ちゃんの敵でも、私だけはお兄ちゃんの見方ですから」


「お前何言ってんの意味わからないんだけど不治の病こじらせたのか?」


「いや、厨二病じゃないですって!なんかお兄ちゃん、私より信頼なさそうだなーって思って、私だけは信じてるよってこと伝えようとして…」


「いやお前の変な口調のせいだからな?さっきの!」


 そう、意味のわからない猫口調とかいう喋り方のせいであんなことになったのだ。


「わ、分かりました、もうあの口調使いませんから、許してください」


「はぁ、分かったよ…」


 しょうがない、許してやろう。なんかこれ以上引っぱっても何にもならない気がしてきた。


「ナイト!あんまり私のそばから離れないでくださいね?」


「わふっ、わふっ!」


「ああ、そういえばナイトはこの王都が初めての遠出じゃないのか?俺達がパーティを組んで」


「はい、だから時々声をかけないと、いなくなっちゃうかもしれないですからね」


「だいぶテンションも上がってるみたいだしな」


 メアリーもだいぶ苦労してるんだな。ナイトは嬉しそうに尻尾を振っていた。


「嬉しそうですね!お兄ちゃん」


「あぁ、そうだな」


「そういえば、さっきからエルマさん達が見当たりませんが…ってなんですかアレ」


「あれだ、あれがエルマとアリス、それとシュガーだ」


 完全に不審者三人組だなこりゃ。


 いや、元々エルマは不審者みたいな格好だったけど、他のふたりが尋常じゃないほど怪しい。


 黒いローブのフードを深々と被り、黒いマフラーで組元を覆い隠し、ほとんど顔が見えない。


 王都へやってくる前は普通の普段着だったんだが、王都へ着いた瞬間これだ。


「あれ、変装ですか?」


「余計怪しいな」


 地球なら完全に職質とかうけるレベルだ。だが、ここは異世界。


 職業を聞かれると魔法使いとかと答えて当たり前の世界。別に怪しくもないのかもしれない。


 いやちょっと待て、心做しかあいつらの周りを人が避けて通ってるような…。


「やっぱ怪しまれてるな」


「怪しまれてますね」


 てか、さっきからかなり人が増えたな、それにでっかい城もだいぶ近づいてきた。ここが王城なのだろう。にしても…


「でか過ぎないかここ!?」


「こんな大きな建築物見た事ありません!」


 外門だけで建物の五階位の高さ、その数十倍のデカさの王城。


「さぁ着いたよ、ここが王都ナリヘルンの王城だ」


 そうエギルが言うと、これまたデカい門が開いて中から騎士達がでてきた。


 2列に並び、中央を向いて俺達が通る道を開ける。さながらアニメや映画のような世界観だ。


「お前ら怪しがられるからフードはとっとけよ」


「うん、分かった」


「いや、ここで怪しまれるならもう十分怪しまれた気がしますけどね、私たち」


「そんなことはどうでもいいわよ、さっさと本題済ませて帰りましょう」


 ティナはだいぶ長旅で疲れたらしい。でもさっきからずっとルニラと手を繋いでいるが…。


 帰ってしまったらあの二人にも会えなくなるのにな。


 4


 輝くシャンデリア、高そうな絨毯、ステンドグラス。まるで王城を絵に描いたような内装、思わず圧倒されてしまう。


「金ピカだな」


「うぅ…目がチカチカする…」


 この世界の照明器具というのは、基本魔術的なもので動いているらしい。


 周囲の魔力を利用して光っているのだとか。だからあのシャンデリアもそうなのだろう。


「お前、いっつも薄暗いところにいるからじゃないのか?部屋もいつもなんか薄暗いし…」


「部屋が暗くないと、闇の精霊が逃げちゃう」


「精霊?なんでそんなの集めるんだ?精霊術的なやつでも使えるのか?」


 俺が質問すると、アリスが答えた。


「へ?シュバリエル様の使う魔法はほぼ精霊術の類ですよ、知らなかったんですか?」


「知らなかったな…って、それだったら精霊の力でなんか魔法使えるんじゃないのか?」


「今まで見せた魔法全部精霊使ってる。でも、半分は自分の中の魔力使わないと精霊術も発動できない。自分の魔力と精霊の魔力、両方合わせて初めて発動できる」


「だからその魔法を発動させるために必要な半分の魔力もないってことなのか?」


「うん、そう」


 なるほどだいたいわかった。でも疑問に思うことがひとつある。


「ならなんで部屋に闇の精霊なんて集めてるんだ?」


「シュヴァの得意魔法は闇魔法だから、それをいつでも発動するためだろうね。精霊っていうのはそれぞれ暮らしやすい環境ってのがあるのさ。水の精霊なら湖や川、樹の精霊なら森、風の精霊なら草原とか。夜中の寝込みを襲った不意打ちなんてしょっちゅうだったからね」


「ふーん、闇の精霊使いなんて珍しいね。出来ることなら我らの騎士団に入ってもらいたいくらいだ」


「そうなのか…って、うわぁ!」


 エギルに突然話しかけられ、思わず間抜けな声を出してしまった。


 いや、それも仕方ない。今の話で、シュガーの正体がバレてしまったかもしれないのだ。


 この世界に闇の精霊使いがこいつひとりだという意味なら、それはもう個人情報という概念に当てはまる。


「なに変な声出してるのさ?」


「ん、お兄ちゃんどうかしました?」


「い、いやなんでもない。それよりエギル、この世界に闇の精霊使いって何人くらいいる?」


「詳しいことは分からないけど、有名な闇の精霊使いって言われれば…前魔王、シュバリエル・ガルワードだね。そいつはもう大層強い精霊使いだったって話だよ…ってユウマ、どうした?」


 その情報を確認した瞬間、俺達はエギルとステリア姉妹から距離をとり、円陣を組むようにしてしゃがみこんだ。


「まずいまずいまずいまずいまずい…」


「シュガーの事どうやって隠すのよ?もうそのまま帰る?逃げ帰る?」


「い、いやまだ賞賛はあります!そういえば…そう!シュガーちゃんって歴代で一番マシな魔王だったって言ってませんでしたっけ?」


「うん、言われてたよ!僕の記憶が正しければ、かなり温厚な魔王だったって書物に書いてあった!」


 た、たしかに俺も聞いた覚えがある!確かルキアが話していた情報だったか?


「そうでした!それならワンチャンなんとかなる可能性も出ますよ!友好的な魔王なら、分かり合えるかもー的なノリで!」


「ノリ…か、それも大切だね!」


「ほ、本当に大丈夫なのか!?」


 ついにはエルマさえもまともな判断が出来なくなっていた。


 俺の声もみんなには届いていないようだ。一様こいつにそれとなーく聞いてみよう。


「エギル、そのシュバリエル・ガルワードってやつはどんなやつだったんだ?」


「歴代で最も友好的な魔王って言われてるね。だけど…」


「だけど?」


 な、なんか雲行きが怪しくなってきた。でも落ち着け、ただの推測だ、予想が外れることもあるかもしれない…て言うか、外れてくれ!


「俺の父と母を殺した敵だよ、あいつは今は行方を晦ましているらしいが、いつか絶対この手で敵を打ってやるさ」


「ユニラも協力する!だってだって、ユニラのお姉ちゃんもホリョにされちゃったんだもん!」


「わ、私もできる限り協力します…お姉ちゃん、早く帰ってきて欲しいので…」


「あ、ごめん俺たち急用思い出した速攻で帰らないといけないんだけどちょっと馬車で送り返してくれないかな?」


 まずいまずいまずいまずいまずいまずいものすごくまずい!


「いや、普通にダメだけどさ、せめて今目の前面会の間だから、王女に顔を見せるだけでもしてもらわないと…ってユウマ?」


「おい何やってんだよ歴代で一番マシな魔王様、なに人殺しちゃってんだよ!」


「いや、歴代魔王でシュヴァくらい人を殺さなかった魔王っていないんだけど」


「数が一番少なかったから一番マシな魔王だって言われてたんですよね」


 と、とりあえずこの状況を抜け出すための策…考えろ、考えるんだイリヤ・ユウマ!


「で、でもさ、面会だけでしょ?それならいいんじゃないの?」


「うーん、大丈夫か?どうよユウマ?」


「み、ミナミ!とりあえずエギルたちと世間話でもして時間を稼いでくれ!」


「そ、そんな?えあ、今日はいい天気ですねー」


 そんな大層有り触れた世間話を切り出した。いや、確か今日は曇りだった気がするんだが…今はそんなことどうでもいいな!


「お姉ちゃん、今日は曇りだよ?」


「はい、曇りでした…」


「そうだよな…って王女様、もうこんな時間か…」


 お、王女様!?確かにそう聞こえた。俺達は驚いてそちらに視線を向ける。廊下の向こうから、執事のような老人を連れて、少女が歩いてきた。


「おい、そちらの者共何をしとるのだ。妾は面会の間で待っていろと言っていたはずだが?それとも侵入者などというわけではなかろうな?」


「ああ、前者で結構だ」


「ほう、この者共が…」


 そういえばここに呼ばれた理由がまだ明白ではなかった。なぜ呼ばれたのだろうか?


「おい、なんで俺達はここに…」


「何だ、まだ話してなかったのか…まぁいい、とりあえず入れ」


 そう言われた瞬間、俺達はまるで無理やり体を糸で繋がれ、操られるように抵抗出来ずに面会の間と呼ばれる部屋に入った。


「な、なんですか、体が勝手に…?」


「抵抗が…出来ない!?」


 王女は向かいにあった王座のようなものに座った。その横にエギルとルニラ、ユニラが控える。


「まずは座れ、話はそれからだ」


 またもや抵抗しようとしても体が言うことを聞かない。俺達は椅子に腰掛けた。


「さて、とりあえず…」


「とりあえず、なんだ?」


 俺がそう聞き返すと、予想外の答えが返ってきた。


「自己紹介をしてもらおうか」


『え?』


 俺達は間の抜けた声を上げた。

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