転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)
第19話:人任せ兄妹と王都からの使者
1
俺達は新年早々人形の呪いやら、魔王幹部の相手をするやらで忙しかった。
だが、今回の一件で変わったことはひとつあった。アンドロイドのオルガとティナと共に暮らすことになったことだ。必然的に、俺たちのパーティにも入ることになった。
「で、何だこの荷物。どこから持ってきた?」
「えっと、確か…エルマって言ったっけ?あいつの転移魔法ってやつで荷物を転移させたか何とかで、今に至るんだ」
「曖昧なのな」
「魔法ってのはあんまりよく分からないんだよ」
オルガとティナの使う一室は、何やらよく分からない機械やらなんやらで半分くらい埋まっていた。
「じゃあ、どうやって戦うんだよ。肉弾戦やら剣やらか?」
「いや、俺はこれを使う」
そう言うと、オルガは部屋の一角から何やら物騒なものを取り出した。
「銃?」
「おう、やっぱり知ってたか。お前ならどうかと思っていたんだが、的中したらしいな。それとこれもだ」
オルガが取り出したのは、狙撃銃と二丁拳銃。
「二人とも、コーヒー持ってきたわよ」
「ああ、サンキュー。これこれ、やっぱり冬はコーヒーだよな!」
「んじゃ、俺ももらおうかな」
「ご自由にどうぞ」
俺はコーヒーなんてもの今まで飲んだことは無かった。興味本位で少し飲んでみる。
「ぶっ!?苦っ!」
「砂糖とミルクもご自由にどうぞ」
コーヒーの中に、これでもかというぐらいの砂糖とミルクを流し込む。
「全く、ユウマは子供だな!」
「黙れよ精神年齢約二千歳」
すると、ティナが驚いた様子でオルガに訪ねた。
「ちょっ、オルガ!?なんでこいつなんかに教えたの!」
「こいつなんかってなんだよ」
「隠しておく必要も無いだろ。ここではこんな歳のヤツらざらに居るさ。天使の血のヤツらとか、魔族のヤツらとかな」
確かに、俺のパーティにも五百歳越えのロリもいるし、そう珍しいものでもないのかもしれない。
「それとさ…」
「なんだよ?」
「なんでこの家一晩でハイテクになってんだよ」
そう、朝起きると一階の照明器具がロウソクやランプから全て電球になっていた。
メアリーは気付いていたようだが、「なんかピカピカして綺麗だったので、つい夢中になってしまい、気がついたら朝になってました」と言っていた。
「いや、実際は古代の技術なんだけどな。ハイテクなのは科学より魔法だよ。でも、便利になってるならそれでいいだろ」
「それもそうだな、便利になってるのは確かだしな」
俺達がそう話していると、ティナがおもむろに立ち上がった。
「コーヒー、下げとくわよ」
「ああ、サンキュー」
部屋には時計が置かれていた。それが指す時間は一時、そろそろ昼食の時間だ。
「じゃあ、俺も出てくよ。腹減ってきたしな」
「そうか、俺は別にいらないけど」
「機械の体になったら腹は減らないのか」
本当、機械っていうのは便利なのか不便なのか分からないな。
「そんな感じだ。ほら、可愛い妹さんが呼びに来たみたいだぞ」
そうオルガが言うと、慌ただしい足音がドタドタと近ずいてきた。
「お兄ちゃん、ご飯が出来ましたよ!一緒に食べましょう」
そこから入ってきたのは、満面の笑みのミナミだった。
「おうおう、愛されてるねぇ。ヒューヒュー」
「からかうな、妹のことを恋愛対象と見てたまるか」
「お兄ちゃん、早く行きましょう。私もうお腹ペコペコですよ」
どうやら、こいつは俺が昼食を食べるまで、一口も昼食を口にしなかったらしい。
「俺を待つ必要なかったのに」
「一緒に食べることに意味があるんですよ!ほら、食べに行きましょう」
俺は溜息をつき、立ち上がった。
「分かったよ、行けばいいんだろ、行けば」
「はい、一緒に行きましょう!」
「ハイハイ。オルガ、俺は飯に行ってくるわ。こいつがやかましいからな」
「行ってこい、行ってこい。俺は適当に機械いじってるから」
その言葉を聞き、俺はドアを閉めてミナミと共に昼食に向かった。
リビングに向かうと、何やらルキアとシュガーが照明のスイッチらしきものをパチパチといじっていた。
「何やってんだお前ら」
「いや、未知の機能って何だかワクワクするよね」
「言葉のキャッチボールをしてくれ。その回答だと投げたとしても俺と真反対の所に飛んでくぞ」
すると、シュガーが俺の方を向き直り、話しかけてきた。
「ユウマ、これ凄い。ピカピカ光ってる」
「お前はずっと見てきたんだろ。前に過去の仕事内容について聞いた時、『裁くのは死神だから、現世の様子をちゃんと見とかないと』って言ってたじゃないか」
「直接見るのと間接的に見るのとじゃ、全然違う」
ふーん、まぁそんなものなのだろうか。
「楽しそうですし、もう少しそっとしてあげてもいいんじゃないですか?」
「そうだな。それより飯だ。メニューはなんだ?」
「どうやらシチューみたいです」
シチューか、冬の定番だな。異世界でもシチューという食べ物は実在するらしい。
そして、ようやく食卓までたどり着いた。腹を空かしていたせいか、いつもより飯が美味く感じた。
シチューを食べ終わり、部屋に帰ってゆっくりしようと思っていたのだが、何やらドアが叩かれた。
「な、なんだ?」
「とりあえず、行ってみましょうか?」
そう言うと、ミナミは玄関に向かった。そして、そっとドアを開ける。
「えっと、どちら様でしょうか…?」
「あなたはイリヤ・ユウマ様のパーティの方でしょうか?」
なんだいきなり、何やら俺の名が聞こえた気がしたが?念の為玄関に向かう。
「えっと、俺がイリヤ・ユウマだけど、なにか御用か?」
「私共は王都『ナルヘリン』の騎士、『白銀の騎士団』の者です。訳あって一週間後、王都に出向いて貰いたく、来た次第でございます」
そこには、銀の鎧を見にまとい、青いマントをはためかせた騎士風の男性が二人立っていた。
「えっ!?王都?一週間後?」
「はい、言っておきますが拒否権はないと考えておいてください。王女様直々のご命令ですので。『魔王幹部を2人も倒したという、その功績を讃えたい』との事です。一週間後、またお迎えにあがります」
そう言うと、ドラゴンに跨って行ってしまった。
「ちょっ!?話が見えてこないんですけど!って、行っちゃいました…」
呼び止め用としても、既に行ってしまった後だ。
「な、なあミナミ…」
「なんですか?」
真剣に訪ねた俺に、ミナミが聞き返す。
「あのドラゴン、めっちゃかっこよかったな!」
「もっと真剣に受け止めてくださいよ!」
俺達はとりあえず、パーティの全員に相談することにした。
「拒否権ないなら行くしかないんじゃないか?」
『賛成』
「わふっ」
どうやら、全員一致で行くことに決定したらしい。
例え俺とミナミが行きたくないと言っても、多数決でねじ伏せられるだろう。
「でも、魔王軍の奴ら倒せたのってほぼアリスとエルマの協力もあってこそだったよな」
「それはサラッと私達は何もしてないって言いたいんですか?」
「俺含め、だよ」
俺はほぼ傍観者とかしてたからな。前線に出たとして、ボコボコにされるのは分かっているからである。
「でも、あのお二人には言っておいた方がいいかも知れませんね」
「そうね、あの二人もこのパーティって考えてるかもしれないし」
うん、それもそうだ。普通は違うパーティと旅行なんて行かないらしい。
だから、同じパーティだと考えるのが妥当といえば妥当。違うパーティは商売敵みたいなものだからな。
どれだけ美味いクエストにありつけるかは、パーティの数が少ないほど争う必要もなくなって楽なのだ。
2
「とまぁそういう訳で、一週間後俺の家の前に集合な」
「いや、何が『とまぁそういう訳で』だよ。話が一向に見えてこないよ」
俺とミナミは、アリス魔具店にやって来て、エルマと話していた。
「要するに、一週間後王都に来い。女王の命令だ。だってさ」
「初めからそう言って。それで、一週間後王都に行くってのは別にいいと思うけど、時間はいつなのさ?」
「いや、それが分からないんだ」
そう、あの二人時間を正確に言わなかったのだ。
「朝かもしれないし夜かもしれない…って、そんな曖昧な情報で信じたの?それに、その騎士達って本当に王都の騎士なの?」
「シュガー曰く、『あの二人の服装、白銀の騎士団と同じ。疑うまでもない』って断言してた」
「なら間違いないだろうね、シュヴァはあの手の騎士団とかと何度も戦ってきたからな。もちろん俺達も。まぁシュヴァは後ろから後方支援って感じだったから、多分騎士達はシュヴァのことは見ていないと思うけど」
なるほど、実際に戦ってきたなら記憶にも残るだろう。
「話は変わるけどさ、俺達なんで呼び出されたんだろうな」
「王都の騎士団が絡むような面倒臭いことはしてないはずですけどね」
「そんなの決まってるじゃん、俺は一人しかこの目で見てないけど、お前らは二人も魔王軍幹部を倒したんでしょ。使い魔合わせると3人だったっけ?」
いや、それで呼び出されたのはもう知っているんだが…。
「功績を称えるって言われても、あんまり目立ちたくもないし、そもそも報酬はもう受け取ってるんだよな」
「追加で二倍ほど手に入ったり?」
そんな夢のような話、信じてたまるか。ミナミも疑いの目を送っているようだ。
「これが珍しいことじゃないんだよ。こんな村、辺境の中の辺境。ほかの村とか街とかとコンタクトをとることすら珍しいんだよ。だから、多少なりとも賞金が上がってる可能性があるんだ」
「マジ?」
「マジだよ、時々ここ一年ずっと放浪してたからね。確かな情報だよ。王都とか、でかい街の方が基本的に賞金は多いんだよ」
本当かよ!?これはかなり信憑性が出てきたぞ!
「あとは称号とかね」
「称号?どんなものがあるんです?」
「それぞれの役職の上位職だよ。プリーストと同じくらいなれる確率が低い役職。それを王族権限で解放してもらえるんだ。例えば…聖剣士、エレメンタルマスター、クリティカルアーチャーとかな。こういった役職の奴らは、加護を受けることが出来るんだ。あらゆる生命からな」
ふむふむ、なるほど。要するに普段は解放できないような裏の役職を解放してもらえるかもしれない…と。
「クリティカルアーチャーってなんです?」
「ああ、それは俺も思ったな」
「百発百中の弓を打てるアーチャーの上位職だよ。どれだけ弓が下手なやつでも、この役職になれたならもうその矢は100%敵を射抜く。狙ったところ一ミリ違わずね」
チートじゃねぇか!でも、だからこんな裏役職みたいな感じになってるのか。
「それを解放するために俺たちを?」
「その可能性も、ゼロではないかも…?」
「そんなこと有り得ませんって。あのシュバリエル様でも、ウィザードが最高職でしたよ?」
そう言いながら会話に入ってきたのは、アリスだった。どうやら品物の整理をしているようだ。
「いや、でもあいつはバーサーカーだったじゃないか」
「あれは才能です。天才と凡人には超えられない壁があるんですよ」
アイツというのは、察するにこのふたりの共通の知り合い、つまり元魔王軍の誰かなのだろう。
「バーサーカーってそんなに強いのか?」
「人によるな。バーサーカーって言うのは、上位職の中で唯一加護を受けることが出来ない役職なんだ」
人による?バーサーカーの中でも個人差があるのだろうか?
「で、話は変わりますがどうするんです?王都の一件」
「いっそ前日に泊まったりするか?」
「それならいいかもね。早起きする必要もなさそうだし」
「その場合、馬車できたなら引きづって、馬車から降りても引きずって移動しますよ」
そう言いながら、アリスはどこから取り出したのか、チェーンを持ち出しエルマに見せた。
「なんて言ってる場合じゃないね!東の地平線が明るくなると同時くらいに目が覚めるくらい早く起きないと」
「いや、そこまで頑張らなくてもいいだろ。ほどほどにな。それじゃ話すこと話したし俺達はそろそろ帰るとする…」
そう言いながら店を出ようとした瞬間、アリスに腕を掴まれた。
「離してくれないか?」
「ダメですよ、店に来て話だけして帰るなんて非常識でしょう?」
「お前この前『話を聞くだけでも楽しい』的なこと言ってたじゃないか!」
すると、何やらエルマが瓶のようなものを2本か持ってやってきた。
「こちらのポーションのうちからひとつ選びなよ。どれも定価五百ルナ」
「わかったよ買うよ…それで、それぞれの効果は?」
エルマはそこにあったテーブルにポーションを置いた。
「まずこれだな、『病体分解ポーション』。これは、病気と感染者を分離させるポーションだよ」
「へぇ、なかなか使えるんじゃないですか?不治の病とかそれ使えば直せそうです!」
「いや、不治の病レベルになるともう倒すこと不可能だよ。風邪程度ならそこらのモンスターとかと同じくらいの強さだけど、感染力、体に及ぼす影響とかによってその強さは変わってくるんだよ。感染者は病気から開放されるが、解き放たれた病気はあたりを荒らし回っていくだろうね」
なにそれこわい、これは却下だな。
「2つ目だが、『起爆ポーション』だよ。空気に触れた瞬間に中の液体が爆発する」
「要するに、爆弾か」
そう言えば、さっきから一向にアリスが話さないと思ったら、なんか向こうのテーブルに突っ伏して寝てるようだ。
「…おいユウマ、聞いてる?」
「ああ、うん聞いてる。それかなり使えるんじゃないか?」
「いや、これにも欠点があってね。軽い衝撃で瓶が割れるわ、その爆発で半径十五メートルの地形を抉るわでかなり扱いにくいんだよ」
「却下だ」
ほんと、この店にはろくなのがないな。こいつも、少しはまともだと思ったのだがなんか怪しくなってきた。
「で、どうする?どっちを買うんだ、お客様?」
「わかったよ、病体分解ポーションの方にするよ、そっちの方がマシそうだしな」
「お買い上げありがとう」
まぁ、こんなのミナミ達が奢ってきた額と比べたらどうってことないだろう。
俺とミナミはいつの間にやら茜色の夕日が澄んだ空を彩っていた中、帰路に着いた。
「お兄ちゃん!」
「なんだよ」
「ふふふ、呼んでみただけです」
「ウザい」
ミナミは、何やら俺の方を見つめてニヤニヤしていた。
「俺の顔になんかついてるか?」
「やっぱり変わりましたね、お兄ちゃん」
「前も同じこと言ってただろ」
「いや、改めて言いたくなったんです。お兄ちゃんは、人前で涙なんて流す人じゃなかったですから」
恐らくそれは、あの夜のことを言っているのだろう。もしくはこの前のアヴァロンでオルガから聞いた話の時か?
「忘れろ」
「いやー、なかなか印象に残りましたよ?ギャップ萌えっていうかなんというか…」
「男がギャップ萌え狙ったところで何になるんだよ」
「天然のところがまたそそられます…!」
「何をそそるんだ」
男というのは可愛いと言われて普通は喜ばないと思う。萌えなんて、可愛いの代名詞みたいなものだ。
「お兄ちゃん、今日の晩御飯はグラタンらしいです」
「なんだいきなり…。でも、あるあるだよな。昼にシチュー食べて、その余った具材でグラタン作るのって」
「両方美味しいから飽きませんしね!」
そんなことを話していると、屋敷に着いた。ドアを開けると、またもや晩御飯のいい匂いが鼻腔をくすぐった。
4
王都から迎えが来る前日、アリスとエルマがこの屋敷に止まることになった。
「部屋はどこにする?二人一緒でいいかな?」
「いやいや、こんなロリコンの知り合いでしょ?きっとなんかやらかすわよ」
「お前まだ信じてたのか」
俺とルキアとティナの三人がアリスとエルマと共に部屋について話し合っていた。
どうやらティナはまだ俺の事をロリコンだと思っているらしい。
「いや、大丈夫ですよ。なにかやましい事をしようとしたら、鎖で縛って二階の部屋からたたき落としますから。もちろん、鎖の端っこは持っておきますけどね」
「それ絶対首締まるから!ていうかそんなことやらないから!」
「必死だな」
結局、二人は同じ部屋になった。普段はクールぶっているエルマも、アリスに脅された時はマジで焦っているようだ。
「あ、ユウマさん、お二人の部屋決まりました?」
「ああ、決まった」
「この屋敷、部屋多いですからもっと悩むと思ったんですけどね」
「部屋なんてどれも一緒だろ」
俺は一階に向かい、リビングの椅子に腰掛けた。二人は部屋に戻ったようだ。メアリーは夕食の皿洗いをしているらしい。
「他の奴らは?」
「皆さん今日は早めに就寝されるようですよ?なんせ明日迎えが何時に来るかわかりませんからね」
「そんな早朝に来るわけないと思うけどな。でもそれもそうか、俺も寝ようかね」
「はい、おやすみなさい」
そう言うと、メアリーは暖かい笑みを浮かべた。
「うん、おやすみ」
俺はリビングを出て、歯を磨いた後寝室に向かった。そこでは、パジャマ姿でベッドに座っているミナミの姿があった。
「お兄ちゃん、遅かったですね」
「そう思うなら布団かぶって寝ろよ、何も俺を待つ必要ないだろ?」
そう言うと、ミナミは少しおどけたように言った。
「やだなー、お兄ちゃんと一緒に寝ることに意味があるんですよ」
「意味がわからないな」
「分からないならいいですよ。それと…」
今度は少ししんみりした顔をした。
「こんな関係をずっと続けられたらいいなって思うんです」
「なんだよいきなり」
突拍子もないミナミの言葉に、俺の思考は追いつかなかった。
「お兄ちゃんと、私と、他のみんながいて、ずっと笑っていたいなって」
「だから何が言いたいんだって、センチな気分にでもなったか?」
「だって…いや、なんでもないです。忘れてください」
「そうか、深く詮索はしない。明日は早いかもしれないから寝ろ」
そう言うと、ミナミは布団を被った。それを確認した俺は、部屋の照明のスイッチをオフにする。
いつの間にやらオルガは二階の照明器具も取り替えたらしい。
「おやすみなさいです」
「ああ、おやすみ」
そう言うと、ゆっくり、ゆっくりと目の前の暗闇が広がっていく。意識を手放し、俺はその身を闇に預けた。
俺達は新年早々人形の呪いやら、魔王幹部の相手をするやらで忙しかった。
だが、今回の一件で変わったことはひとつあった。アンドロイドのオルガとティナと共に暮らすことになったことだ。必然的に、俺たちのパーティにも入ることになった。
「で、何だこの荷物。どこから持ってきた?」
「えっと、確か…エルマって言ったっけ?あいつの転移魔法ってやつで荷物を転移させたか何とかで、今に至るんだ」
「曖昧なのな」
「魔法ってのはあんまりよく分からないんだよ」
オルガとティナの使う一室は、何やらよく分からない機械やらなんやらで半分くらい埋まっていた。
「じゃあ、どうやって戦うんだよ。肉弾戦やら剣やらか?」
「いや、俺はこれを使う」
そう言うと、オルガは部屋の一角から何やら物騒なものを取り出した。
「銃?」
「おう、やっぱり知ってたか。お前ならどうかと思っていたんだが、的中したらしいな。それとこれもだ」
オルガが取り出したのは、狙撃銃と二丁拳銃。
「二人とも、コーヒー持ってきたわよ」
「ああ、サンキュー。これこれ、やっぱり冬はコーヒーだよな!」
「んじゃ、俺ももらおうかな」
「ご自由にどうぞ」
俺はコーヒーなんてもの今まで飲んだことは無かった。興味本位で少し飲んでみる。
「ぶっ!?苦っ!」
「砂糖とミルクもご自由にどうぞ」
コーヒーの中に、これでもかというぐらいの砂糖とミルクを流し込む。
「全く、ユウマは子供だな!」
「黙れよ精神年齢約二千歳」
すると、ティナが驚いた様子でオルガに訪ねた。
「ちょっ、オルガ!?なんでこいつなんかに教えたの!」
「こいつなんかってなんだよ」
「隠しておく必要も無いだろ。ここではこんな歳のヤツらざらに居るさ。天使の血のヤツらとか、魔族のヤツらとかな」
確かに、俺のパーティにも五百歳越えのロリもいるし、そう珍しいものでもないのかもしれない。
「それとさ…」
「なんだよ?」
「なんでこの家一晩でハイテクになってんだよ」
そう、朝起きると一階の照明器具がロウソクやランプから全て電球になっていた。
メアリーは気付いていたようだが、「なんかピカピカして綺麗だったので、つい夢中になってしまい、気がついたら朝になってました」と言っていた。
「いや、実際は古代の技術なんだけどな。ハイテクなのは科学より魔法だよ。でも、便利になってるならそれでいいだろ」
「それもそうだな、便利になってるのは確かだしな」
俺達がそう話していると、ティナがおもむろに立ち上がった。
「コーヒー、下げとくわよ」
「ああ、サンキュー」
部屋には時計が置かれていた。それが指す時間は一時、そろそろ昼食の時間だ。
「じゃあ、俺も出てくよ。腹減ってきたしな」
「そうか、俺は別にいらないけど」
「機械の体になったら腹は減らないのか」
本当、機械っていうのは便利なのか不便なのか分からないな。
「そんな感じだ。ほら、可愛い妹さんが呼びに来たみたいだぞ」
そうオルガが言うと、慌ただしい足音がドタドタと近ずいてきた。
「お兄ちゃん、ご飯が出来ましたよ!一緒に食べましょう」
そこから入ってきたのは、満面の笑みのミナミだった。
「おうおう、愛されてるねぇ。ヒューヒュー」
「からかうな、妹のことを恋愛対象と見てたまるか」
「お兄ちゃん、早く行きましょう。私もうお腹ペコペコですよ」
どうやら、こいつは俺が昼食を食べるまで、一口も昼食を口にしなかったらしい。
「俺を待つ必要なかったのに」
「一緒に食べることに意味があるんですよ!ほら、食べに行きましょう」
俺は溜息をつき、立ち上がった。
「分かったよ、行けばいいんだろ、行けば」
「はい、一緒に行きましょう!」
「ハイハイ。オルガ、俺は飯に行ってくるわ。こいつがやかましいからな」
「行ってこい、行ってこい。俺は適当に機械いじってるから」
その言葉を聞き、俺はドアを閉めてミナミと共に昼食に向かった。
リビングに向かうと、何やらルキアとシュガーが照明のスイッチらしきものをパチパチといじっていた。
「何やってんだお前ら」
「いや、未知の機能って何だかワクワクするよね」
「言葉のキャッチボールをしてくれ。その回答だと投げたとしても俺と真反対の所に飛んでくぞ」
すると、シュガーが俺の方を向き直り、話しかけてきた。
「ユウマ、これ凄い。ピカピカ光ってる」
「お前はずっと見てきたんだろ。前に過去の仕事内容について聞いた時、『裁くのは死神だから、現世の様子をちゃんと見とかないと』って言ってたじゃないか」
「直接見るのと間接的に見るのとじゃ、全然違う」
ふーん、まぁそんなものなのだろうか。
「楽しそうですし、もう少しそっとしてあげてもいいんじゃないですか?」
「そうだな。それより飯だ。メニューはなんだ?」
「どうやらシチューみたいです」
シチューか、冬の定番だな。異世界でもシチューという食べ物は実在するらしい。
そして、ようやく食卓までたどり着いた。腹を空かしていたせいか、いつもより飯が美味く感じた。
シチューを食べ終わり、部屋に帰ってゆっくりしようと思っていたのだが、何やらドアが叩かれた。
「な、なんだ?」
「とりあえず、行ってみましょうか?」
そう言うと、ミナミは玄関に向かった。そして、そっとドアを開ける。
「えっと、どちら様でしょうか…?」
「あなたはイリヤ・ユウマ様のパーティの方でしょうか?」
なんだいきなり、何やら俺の名が聞こえた気がしたが?念の為玄関に向かう。
「えっと、俺がイリヤ・ユウマだけど、なにか御用か?」
「私共は王都『ナルヘリン』の騎士、『白銀の騎士団』の者です。訳あって一週間後、王都に出向いて貰いたく、来た次第でございます」
そこには、銀の鎧を見にまとい、青いマントをはためかせた騎士風の男性が二人立っていた。
「えっ!?王都?一週間後?」
「はい、言っておきますが拒否権はないと考えておいてください。王女様直々のご命令ですので。『魔王幹部を2人も倒したという、その功績を讃えたい』との事です。一週間後、またお迎えにあがります」
そう言うと、ドラゴンに跨って行ってしまった。
「ちょっ!?話が見えてこないんですけど!って、行っちゃいました…」
呼び止め用としても、既に行ってしまった後だ。
「な、なあミナミ…」
「なんですか?」
真剣に訪ねた俺に、ミナミが聞き返す。
「あのドラゴン、めっちゃかっこよかったな!」
「もっと真剣に受け止めてくださいよ!」
俺達はとりあえず、パーティの全員に相談することにした。
「拒否権ないなら行くしかないんじゃないか?」
『賛成』
「わふっ」
どうやら、全員一致で行くことに決定したらしい。
例え俺とミナミが行きたくないと言っても、多数決でねじ伏せられるだろう。
「でも、魔王軍の奴ら倒せたのってほぼアリスとエルマの協力もあってこそだったよな」
「それはサラッと私達は何もしてないって言いたいんですか?」
「俺含め、だよ」
俺はほぼ傍観者とかしてたからな。前線に出たとして、ボコボコにされるのは分かっているからである。
「でも、あのお二人には言っておいた方がいいかも知れませんね」
「そうね、あの二人もこのパーティって考えてるかもしれないし」
うん、それもそうだ。普通は違うパーティと旅行なんて行かないらしい。
だから、同じパーティだと考えるのが妥当といえば妥当。違うパーティは商売敵みたいなものだからな。
どれだけ美味いクエストにありつけるかは、パーティの数が少ないほど争う必要もなくなって楽なのだ。
2
「とまぁそういう訳で、一週間後俺の家の前に集合な」
「いや、何が『とまぁそういう訳で』だよ。話が一向に見えてこないよ」
俺とミナミは、アリス魔具店にやって来て、エルマと話していた。
「要するに、一週間後王都に来い。女王の命令だ。だってさ」
「初めからそう言って。それで、一週間後王都に行くってのは別にいいと思うけど、時間はいつなのさ?」
「いや、それが分からないんだ」
そう、あの二人時間を正確に言わなかったのだ。
「朝かもしれないし夜かもしれない…って、そんな曖昧な情報で信じたの?それに、その騎士達って本当に王都の騎士なの?」
「シュガー曰く、『あの二人の服装、白銀の騎士団と同じ。疑うまでもない』って断言してた」
「なら間違いないだろうね、シュヴァはあの手の騎士団とかと何度も戦ってきたからな。もちろん俺達も。まぁシュヴァは後ろから後方支援って感じだったから、多分騎士達はシュヴァのことは見ていないと思うけど」
なるほど、実際に戦ってきたなら記憶にも残るだろう。
「話は変わるけどさ、俺達なんで呼び出されたんだろうな」
「王都の騎士団が絡むような面倒臭いことはしてないはずですけどね」
「そんなの決まってるじゃん、俺は一人しかこの目で見てないけど、お前らは二人も魔王軍幹部を倒したんでしょ。使い魔合わせると3人だったっけ?」
いや、それで呼び出されたのはもう知っているんだが…。
「功績を称えるって言われても、あんまり目立ちたくもないし、そもそも報酬はもう受け取ってるんだよな」
「追加で二倍ほど手に入ったり?」
そんな夢のような話、信じてたまるか。ミナミも疑いの目を送っているようだ。
「これが珍しいことじゃないんだよ。こんな村、辺境の中の辺境。ほかの村とか街とかとコンタクトをとることすら珍しいんだよ。だから、多少なりとも賞金が上がってる可能性があるんだ」
「マジ?」
「マジだよ、時々ここ一年ずっと放浪してたからね。確かな情報だよ。王都とか、でかい街の方が基本的に賞金は多いんだよ」
本当かよ!?これはかなり信憑性が出てきたぞ!
「あとは称号とかね」
「称号?どんなものがあるんです?」
「それぞれの役職の上位職だよ。プリーストと同じくらいなれる確率が低い役職。それを王族権限で解放してもらえるんだ。例えば…聖剣士、エレメンタルマスター、クリティカルアーチャーとかな。こういった役職の奴らは、加護を受けることが出来るんだ。あらゆる生命からな」
ふむふむ、なるほど。要するに普段は解放できないような裏の役職を解放してもらえるかもしれない…と。
「クリティカルアーチャーってなんです?」
「ああ、それは俺も思ったな」
「百発百中の弓を打てるアーチャーの上位職だよ。どれだけ弓が下手なやつでも、この役職になれたならもうその矢は100%敵を射抜く。狙ったところ一ミリ違わずね」
チートじゃねぇか!でも、だからこんな裏役職みたいな感じになってるのか。
「それを解放するために俺たちを?」
「その可能性も、ゼロではないかも…?」
「そんなこと有り得ませんって。あのシュバリエル様でも、ウィザードが最高職でしたよ?」
そう言いながら会話に入ってきたのは、アリスだった。どうやら品物の整理をしているようだ。
「いや、でもあいつはバーサーカーだったじゃないか」
「あれは才能です。天才と凡人には超えられない壁があるんですよ」
アイツというのは、察するにこのふたりの共通の知り合い、つまり元魔王軍の誰かなのだろう。
「バーサーカーってそんなに強いのか?」
「人によるな。バーサーカーって言うのは、上位職の中で唯一加護を受けることが出来ない役職なんだ」
人による?バーサーカーの中でも個人差があるのだろうか?
「で、話は変わりますがどうするんです?王都の一件」
「いっそ前日に泊まったりするか?」
「それならいいかもね。早起きする必要もなさそうだし」
「その場合、馬車できたなら引きづって、馬車から降りても引きずって移動しますよ」
そう言いながら、アリスはどこから取り出したのか、チェーンを持ち出しエルマに見せた。
「なんて言ってる場合じゃないね!東の地平線が明るくなると同時くらいに目が覚めるくらい早く起きないと」
「いや、そこまで頑張らなくてもいいだろ。ほどほどにな。それじゃ話すこと話したし俺達はそろそろ帰るとする…」
そう言いながら店を出ようとした瞬間、アリスに腕を掴まれた。
「離してくれないか?」
「ダメですよ、店に来て話だけして帰るなんて非常識でしょう?」
「お前この前『話を聞くだけでも楽しい』的なこと言ってたじゃないか!」
すると、何やらエルマが瓶のようなものを2本か持ってやってきた。
「こちらのポーションのうちからひとつ選びなよ。どれも定価五百ルナ」
「わかったよ買うよ…それで、それぞれの効果は?」
エルマはそこにあったテーブルにポーションを置いた。
「まずこれだな、『病体分解ポーション』。これは、病気と感染者を分離させるポーションだよ」
「へぇ、なかなか使えるんじゃないですか?不治の病とかそれ使えば直せそうです!」
「いや、不治の病レベルになるともう倒すこと不可能だよ。風邪程度ならそこらのモンスターとかと同じくらいの強さだけど、感染力、体に及ぼす影響とかによってその強さは変わってくるんだよ。感染者は病気から開放されるが、解き放たれた病気はあたりを荒らし回っていくだろうね」
なにそれこわい、これは却下だな。
「2つ目だが、『起爆ポーション』だよ。空気に触れた瞬間に中の液体が爆発する」
「要するに、爆弾か」
そう言えば、さっきから一向にアリスが話さないと思ったら、なんか向こうのテーブルに突っ伏して寝てるようだ。
「…おいユウマ、聞いてる?」
「ああ、うん聞いてる。それかなり使えるんじゃないか?」
「いや、これにも欠点があってね。軽い衝撃で瓶が割れるわ、その爆発で半径十五メートルの地形を抉るわでかなり扱いにくいんだよ」
「却下だ」
ほんと、この店にはろくなのがないな。こいつも、少しはまともだと思ったのだがなんか怪しくなってきた。
「で、どうする?どっちを買うんだ、お客様?」
「わかったよ、病体分解ポーションの方にするよ、そっちの方がマシそうだしな」
「お買い上げありがとう」
まぁ、こんなのミナミ達が奢ってきた額と比べたらどうってことないだろう。
俺とミナミはいつの間にやら茜色の夕日が澄んだ空を彩っていた中、帰路に着いた。
「お兄ちゃん!」
「なんだよ」
「ふふふ、呼んでみただけです」
「ウザい」
ミナミは、何やら俺の方を見つめてニヤニヤしていた。
「俺の顔になんかついてるか?」
「やっぱり変わりましたね、お兄ちゃん」
「前も同じこと言ってただろ」
「いや、改めて言いたくなったんです。お兄ちゃんは、人前で涙なんて流す人じゃなかったですから」
恐らくそれは、あの夜のことを言っているのだろう。もしくはこの前のアヴァロンでオルガから聞いた話の時か?
「忘れろ」
「いやー、なかなか印象に残りましたよ?ギャップ萌えっていうかなんというか…」
「男がギャップ萌え狙ったところで何になるんだよ」
「天然のところがまたそそられます…!」
「何をそそるんだ」
男というのは可愛いと言われて普通は喜ばないと思う。萌えなんて、可愛いの代名詞みたいなものだ。
「お兄ちゃん、今日の晩御飯はグラタンらしいです」
「なんだいきなり…。でも、あるあるだよな。昼にシチュー食べて、その余った具材でグラタン作るのって」
「両方美味しいから飽きませんしね!」
そんなことを話していると、屋敷に着いた。ドアを開けると、またもや晩御飯のいい匂いが鼻腔をくすぐった。
4
王都から迎えが来る前日、アリスとエルマがこの屋敷に止まることになった。
「部屋はどこにする?二人一緒でいいかな?」
「いやいや、こんなロリコンの知り合いでしょ?きっとなんかやらかすわよ」
「お前まだ信じてたのか」
俺とルキアとティナの三人がアリスとエルマと共に部屋について話し合っていた。
どうやらティナはまだ俺の事をロリコンだと思っているらしい。
「いや、大丈夫ですよ。なにかやましい事をしようとしたら、鎖で縛って二階の部屋からたたき落としますから。もちろん、鎖の端っこは持っておきますけどね」
「それ絶対首締まるから!ていうかそんなことやらないから!」
「必死だな」
結局、二人は同じ部屋になった。普段はクールぶっているエルマも、アリスに脅された時はマジで焦っているようだ。
「あ、ユウマさん、お二人の部屋決まりました?」
「ああ、決まった」
「この屋敷、部屋多いですからもっと悩むと思ったんですけどね」
「部屋なんてどれも一緒だろ」
俺は一階に向かい、リビングの椅子に腰掛けた。二人は部屋に戻ったようだ。メアリーは夕食の皿洗いをしているらしい。
「他の奴らは?」
「皆さん今日は早めに就寝されるようですよ?なんせ明日迎えが何時に来るかわかりませんからね」
「そんな早朝に来るわけないと思うけどな。でもそれもそうか、俺も寝ようかね」
「はい、おやすみなさい」
そう言うと、メアリーは暖かい笑みを浮かべた。
「うん、おやすみ」
俺はリビングを出て、歯を磨いた後寝室に向かった。そこでは、パジャマ姿でベッドに座っているミナミの姿があった。
「お兄ちゃん、遅かったですね」
「そう思うなら布団かぶって寝ろよ、何も俺を待つ必要ないだろ?」
そう言うと、ミナミは少しおどけたように言った。
「やだなー、お兄ちゃんと一緒に寝ることに意味があるんですよ」
「意味がわからないな」
「分からないならいいですよ。それと…」
今度は少ししんみりした顔をした。
「こんな関係をずっと続けられたらいいなって思うんです」
「なんだよいきなり」
突拍子もないミナミの言葉に、俺の思考は追いつかなかった。
「お兄ちゃんと、私と、他のみんながいて、ずっと笑っていたいなって」
「だから何が言いたいんだって、センチな気分にでもなったか?」
「だって…いや、なんでもないです。忘れてください」
「そうか、深く詮索はしない。明日は早いかもしれないから寝ろ」
そう言うと、ミナミは布団を被った。それを確認した俺は、部屋の照明のスイッチをオフにする。
いつの間にやらオルガは二階の照明器具も取り替えたらしい。
「おやすみなさいです」
「ああ、おやすみ」
そう言うと、ゆっくり、ゆっくりと目の前の暗闇が広がっていく。意識を手放し、俺はその身を闇に預けた。
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