転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)

Raito

第16話:異世界旅行と天空都市

 1


 現在1月4日、俺はアリス魔具店に来ていた。天空都市アヴァロンの旅行の件である。


 ロイトス兄妹の元にはもう行ってきたのだが、何やらネージスが高所恐怖症らしく、兄一人放っておく訳にも行かないということでキャンセルとなった。


「へぇ、そんなことがあったんだ。なかなか面白いことになりそうだね」


「なんだよ、面白いことって」


 俺が疑問に思っていると、何やらアリスがガタガタと震え出した。


「ほ、本当ですか!?まずいです、すごくまずいです…」


「いや、だから何がそこまで面白いこととかまずいことになるんだよ」


 すると、アリスが淡々と話し出した。


「いや、その…。あの人形はですね?ちょっとした手違いで、あるそっくりの人形と間違えてしまったのです。そう、あれは幸運を周りから少しずつ奪ってその持ち主に幸運をもたらす、というものです。そういうエンチャントもしてあるんです。表向きは」


 なんだよ、やっぱりいいものだったんじゃないか…て、ちょっと待て、表向き…?


「おい、なんだよそれ、なんか裏があるのか?」


「まぁ簡単に言うと、周りっていうのは持ち主も含まれるんだ。つまり、その持ち主からも運気を吸い取り、幸運をもたらす。そしてここからだね。そしてその代償として、持ち主にはそれに見合う不運が起きるんだよ。運気がかなり吸い取られてるから、当然といえば当然だね」


 俺はエルマの胸ぐらに掴みかかった!


「なんでそれを先に言わないんだよ!」


「だから手違いなんだって、俺は気付いてたけど」


「だったら止めろよ!なんで止めないんだよ!」


「いや、だってさ?一応幸運は起こせるし、ちょっと位の幸運なら代償も大して高くならないし」


 冗談じゃない!あんな、一生に1回あるかないかの超幸運だぞ?代償もきっととんでもないものに決まってる!


「あ、あの…」


 すると、アリスが話しかけてきた。一旦エルマから手を離し、向き直る。


「なんだ?」


「い、いや、出来ることなら、その旅行私たちも同行させてくれませんか?人形の件もありますし、ボディガード的な…」


「まぁいいけどさ、お前が言うなら…じゃあ、よろしく頼む」


 すると、エルマが口を突っ込んできた。


「お、おい?俺はなにも言ってないよ?そもそもほとんどその旅行で不幸が起きることは確定でしょ?そんなの見え透いた罠にわざとかかるようなものだよ?」


 すると、アリスの態度が急変した。そう、口調は変わらないが、普段の温和な性格から、まるで別人のように。


「エルマさん、行くんですよ?いいや、行かせます、四肢を切断して、鎖で繋いで引きずってでも行かせますよ?聞こえなかったんですか?私『達』と言ったんです。そもそもあなたは人形が違う種類だと知った上でユウマさんに売付けたんです。それくらいの覚悟は出来てますよね?」


「は、はい!ご同行させていただきます!」


「とまぁ、そういうことなので私たちも同行させて貰いますね」


 怖い、ガチで怖い…。アリスだけは怒らせてはいけない、怒らせたら殺される…。


「お、おう、よろしくな!」


 今はこいつの普段見せている笑顔すら狂気に感じる。


 2


 本日は1月6日、今日から旅行開始だ。


「なんだ、これ?」


 俺達は、村の広場に連れてこられた。そこでは、まるで魔法の絨毯のようなものがふわふわと浮遊していた。何やら屋根のようなものもついている。


「これに乗っていくのか?」


「うん、これはオート操縦らしいから、直行で行ける」


 ふーん、なるほど。これが飛行機の代わりみたいなものか。


 てっきり俺は箒で空を飛ぶとか、飛龍にまたがって空を飛ぶ的なものを想像していたのだが、まぁこういう物もいいだろう。


 というか、俺はそれ以上に気になっていることがある。無論、人形の件だ。


 ボディガードがついたとはいえ、やはり心配だ。四人には話してあるのだが、あまり気にしていないようだ。


 そこまで生死に関わることは起きないと考えているのだろうが、俺は心配でしょうがない!というか、その元凶が、まだ来ていないのだが…。


「優雅に空の旅…ロマンチックですね」


「そうですね、高いところは苦手ですが…」


 そう言うと、ミナミが俺に擦り寄ってきた。


「お兄ちゃんに抱きついていれば万事解決ですね!」


「解決してたまるか!お前はもう少し自重というものを知ってくれ!」


 どうやらこいつは羞恥心というものをどこぞのドブに捨ててきてしまったらしい。


「あ、あの、二人とも?イチャイチャするのは勝手だけど、公共の場ではやめといた方がいいと思うんだ、僕」


「誤解だ、こいつが擦り寄ってきたんだ!」


 全く、こいつは俺が好きでこいつと絡んでるとでも言いたいのだろうか?いや、妹としてはそれなりの好意を持っているのだが、それは恋人だとかのそれじゃない。


「す、すみません!遅れました!」


 ようやく、アリスが走ってきた。と、何やら引きずっているようだが?そう、なにか紫のもの…。


「アリス、ギブアップ、ギブアップ!締まってる、締まってる!」


 引きずっているものの正体はエルマだった。この前、『引きずってでも連れていく』的なことを言っていたが、本当に引きずって連れてくるとは思っていなかった。


 しかも、首を直接鎖で巻かれて引きずられていたのだから、相当きつかっただろう。こいつが元凶なのは間違いないが、こればかりはエルマに同情する。四肢は残されているようで何よりだ。


「ああ、これですか?なに、抵抗したとかじゃなくて朝起きなかったので、シンプルに鎖で引きずって連れてきただけですよ?何か問題でも?」


「マジで死ぬかと思った、マジで死ぬかと思った…」


 アリスは可愛らしく首を傾げているが、その横の奴が何やらうわごとのように繰り返している。


「だ、大丈夫か?」


「なんでこんな悪魔の心配するんです?確かに引っ張ってくる時ずっと『グラトニー・ドレイン』していたけれど、そんなのでへばるような悪魔でもありませんし、多少手加減してましたから大丈夫ですよ?そもそも朝起きなかったこの悪魔が悪いんですし」


 いや、でもこいつ多分起きた時にはもう首に鎖で巻かれていたと思うし、下手すれば引きずられてから目が覚めたのかもしれない。朝起きていきなり引きずられているという状況を考えると、もうこいつ許してもいいんじゃないかとすら思えてくる。


「揃いましたか?そろそろ出発しますよ!」


 俺達はギルド従業員の女性に呼びかけられたため、その絨毯に乗った。アリスは、項垂れているエルマをズルズルと引きずりながら絨毯に乗った。


 エルマを絨毯に引き上げる時、完全にエルマの首が絞まったのが確認された。本人は「グッ!?」と声を漏らしていたが、それから当分は声は愚か、ピクリとも動かなかった。気の毒に…。


「だ、大丈夫ですか?」


「ああ、はい、特に問題ないですよ?」


 声をかけてきた従業員の女性に、アリスは笑顔で対応する。ミナミ達が何も言わないのは、先程からのアリスの言動が怖すぎるからだろう。


 何か言葉を発すれば今度はこちらに矛先が向くかもしれない、と思っているに違いない。現に俺もそうだ。


「そ、それでは飛行魔法を発動させますね、良い旅を!」


 そう言うと、絨毯がゆっくりと上昇し始めた。どんどんと街が小さくなっていく。


 普段ならここで歓声の一つや二つ上がるのだろうが、今この状況で歓声を上げるものはアリスだけだった。


 ていうか、誰も従業員がついてこないというのは、無責任じゃないのか?


「凄いですね、雲がどんどん近くなっていきますよ!」


 それから十数分、何ひとつ会話は生まれなかった。


 3


 あれから十五分程だっただろうか?静寂を破ったのは目が覚めたエルマだった。


「何ここ、雲が下にある…そうか、俺死んだんだ…天国なんかじゃなくて地獄に落ちると思ったのに…でも死んじゃったんだったら、もっと親孝行してれば良かったな…」


 何言ってんだこいつ。まぁしょうがない、あの状況だと死んでもおかしくなかっただろう。生きていてくれて何よりだ。というか、どちらか片方が生きていればもう片方も死なないはずだが、本人が忘れてしまうほどにキツかったということだろうか?


「エルマさん、ようやく起きたんですか?絨毯狭いんだから、早く起きてくださいよ」


「は、はい!すいません!」


 アリスに注意され、変に敬語になるエルマ。もう見ていられない。


 初めてあった時はちょっと内気なやつだなとしか思っていなかったが、こいつにも色々あるんだな。今度なにか奢ってやろうか?


「あの、お兄ちゃん…?」


 ちょんちょんとミナミが指でつついてきた。


「なんだ、ミナミ?擦り寄るならお断りだぞ」


「酷い!まだ何も言ってないのに!」


 いや、こいつのことだから絶対にこの類いだろう。


「高いところが怖いので抱いてください!」とか、「寒くなってきてしまったので体温で温めてください」とかいうに決まっている。改めて言おう、絶対だ!


「じゃあ何の用だ?言ってみろ」


「いや、あそこになにか大きな浮遊物体があるんですが、あれUFOとかじゃないんですか?」


 以外にまともな発言だった。て、UFO?おかしいな、こいつは何故か幽霊は信じるのに宇宙人とかUFOとかUMAとかは信じないという珍しい性格なのだが、ついになんでもありのこの世界に毒されたか?
 まぁ、俺の言えたところでもないが。


「なんだよ、そんなのあるわけ…」


 なんかあった。何あれ?ガリバー旅行記か?もしくは天空の城か?


 いや、実際その天空の城の映画はそれがモチーフになっているらしいが…、って今はそれどころじゃない!本当になんだあれ?もしかしてあれが『天空都市アヴァロン』ってやつか?


「あれがアヴァロンってやつじゃないのか?この距離から見えるとなれば、かなりのデカさだな」


「うん、アヴァロンは別名『動く大陸』。天使教でもなければどこの宗派にも属さない、そしてどこの大陸でもない、いわば自由の象徴」


「大陸?誰が動かしてるんだ?まさかこれと同じく無人操縦なのか?」


 その疑問に、アリスが答えた。


「はるか昔、人類科学は今よりもはるかに進歩していたんですよ。ですが、争いが耐えず、その文明も滅びました。通称『第四次世界戦争』。争いを好まなかった科学者達は、『第三次世界戦争』終結後に、あるひとつの大陸を浮上させる計画を建てました。ですが、それは最新の技術を持ったとしても100年かかりました」


「そう、そしてその計画が終結したと同時に、『第四次大陸戦争』が勃発したんだ。アヴァロンは何とかその戦争には巻き込まれず、その昔の技術が生きてるってわけさ。その技術で、この大陸は今もオート操縦で動いてるんだよ」


 そうか、いつの世も愚かな者はいるんだな。争いは何も生まないとは言わないが、まさか世界が一度滅ぶまで続けるとは…。さすがに愚かすぎる。


「みんな見て!予想以上に大きいよ!」


 おお、やはり近くで見ると迫力あるな、さすが動く大陸と言ったところか。


 ドーム状の屋根のようなものに全体がおおわれ、プロペラのようなものが8個くらい着いている。


 入口は何やら下の部分に穴が空いており、そこから入ることが可能のようだ。もう少しセキュリティを高めた方がいいと思うのだが、ここに来るやつはあまりいないのか?


 俺達はその穴から天空都市アヴァロンに入った。中は全く陽の光も入らず、全て電球が照らしているようだ。


 そう言えば、ドーム状の屋根の上に太陽光パネルのようなものが設置されていたが、そこまで科学が進歩していたのか?そこまで来ると地球の技術とほぼかわらないぞ。


「うわぁ、凄いです!これがかの有名なデンキュウってやつなんですね!」


「ああ、そうだね!俺も初めて見たよ…」


 流石にシュガーの元仲間とはいえ、異世界から来たことは秘密にしておいた方がいいだろう。エルマには気づかれてしまったが、まだアリスには伝えていないようだ。


「僕はあんまりこういうの興味無いけど、やっぱり凄いよ、よくこんなのであたりが照らせるね」


「ああ、えっとこの種類の電球は蛍光灯と言ってですね、たしかなんかとなんかの化学反応とかどうとか…っむぐ?」


 俺は咄嗟にミナミの口を塞いだ。何口走ってるんだこいつ!?


「な、なんですか!?さてはお兄ちゃん、普段我慢してた分、ここで発散させようなんて考えたんですか?それならベッドルームまで待ってくださいっていたぁ!?」


「アホか!いいか、俺達はここよりも進歩してた時代にいたんだ。それがバレたら拷問だの尋問だの最悪の場合、実験体にされたりなんてこともあるんだぞ?だから地球のことは黙ってろ!いいな?」


「は、はい、分かりました」


 ミナミへの注意が完了した所で、俺達はあいつらのいるところへ戻った。


「どうかした、二人とも?」


「い、いや!なんでもないぞ、シュガー」


「そう、なら行こ。キカイっていうの見てみたい」


 そう言うと、シュガーの顔が少し紅潮した気がした。これ自体が機械みたいなものだが…。


 こいつも初めて見るものでテンションが上がっているのだろうか?いや、確かこいつは俺達の時代をずっと覗き見ていたはずだが。


「私も楽しみです!帰ったらナイトに色々聞かせてあげるんですよ」


「それはいいね、土産かなんか買ってあげたらどうかな」


 何やらエルマとメアリーが親しげにはなしていた。そう言われれば何やらペット自慢話的なことを前していたな。


 俺も参加させてもらった。メアリーは無論ナイトのこと、俺は飼っていた金魚のこと、エルマはなにやらケルベロスのことを話していた。


「3匹それぞれ考えていることが違う」とか、「好物が違う」とか、以外に奥が深いらしい。何も、かつてはエルマの二倍ほどのデカさだったらしいが、ここ数年会っていないのだとか。


 シュガーはそのケルベロスがまだ子供の時に噛まれたことがあるらしく、そこからトラウマになったらしい。子供と言っても、大型犬サイズらしいので、トラウマになっても無理はないだろう。


 その瞬間、警告音のようなものが施設中に響きわたった。俺は一瞬何が起きているのかわからなくなり、パニックになる。


「な、なになに?何が起こってんだ!?」


「お兄ちゃん、落ち着いてください!こういう時は素数を数えるんです!1、2、3、5、7…」


「1は素数じゃないだろ!ってそんなことはどうでもいい!」


「いや、お兄ちゃんが1人で言ってるだけですよ…」


 すると、何やらメカのようなものが歩いてきた。二足歩行のもの、宙に浮いているもの、四足歩行のもの…。なんだ、何が始まるんだ?


「シンニュウシャハッケン。マニュアルニヨリ、ホバク、レンコウ」


「な?何…を…」


 首のあたりに痛みが走り、意識が朦朧となっていく。くそ、睡眠薬…か…。


 為す術なく、俺は床に倒れ込んだ。何やら騒いでいたヤツらの声も、だんだんと遠のいて聞こえ、最後には聞こえなくなった。


 ああ、何だかあの時に似てるな。床に倒れた衝撃を最後に、俺は思考を停止した。


 4


 目が覚めると、何やら牢獄のような所に閉じ込められていた。手足が縛られてはうことしか出来ない。ああ、そうだこういう時は…。


「メアリー!メアリー、どこだ!?」


「あ、やっと見つけましたよ!中の構造が複雑で、途中はぐれてしまって」


 やっぱり、幽霊であるメアリーは縛られなかったようだ。


「えっと、とりあえず縄を解いてくれないか?俺のを解いたらみんなのも解いていこう」


「あ、はい、了解です!」


 メアリーは俺の縄を解き、そして俺と協力して全員分の縄を解いた。が、まだ睡眠薬が効いているらしく、寝息を立てている。


 てか、この旅行のアポ取ってなかったのかよ。なんだよ、旅行先で牢獄に放り込まれるって。


 すると、誰かが歩いてくる足音がした。


「ど、どうそればいい、メアリー!?」


「と、とりあえず寝てください!縄を上からかけておきますから!」


 ほ、本当にそんなので大丈夫なのか!?質問する暇もないまま、牢獄の前で足音が止まった。


「哀れなものね、もう麻酔は解けているのでしょう?話をしようじゃない」


 それは、限りなく人間に近い声だった。そう、言うなら俺と同じくらいの女の声…。ていうか、これは俺に話しかけているのか?


「あんたに言ってんのよ、そこで突っ伏してるあほ面銀髪」


「誰があほ面だ!」


 俺は咄嗟に起きあがり、それに向かって叫んだ。なんだ、人に向かっていきなりあほ面銀髪とは!


「なんだ、やっぱり起きてんじゃない」


「おい、取り消せ!さっきの発言を取り消せ!」


 俺は改めてこの口の悪い少女の姿を確認した。髪は茶髪、頬になにか機械のようなものがついている。


「何?あんた自分のことイケメンとでも思ってんの?うっわーナルシストだー、キモーい」


「お、お前なァ…!」


 その次の瞬間、後ろから殺気というか、どす黒いオーラというか、そういう系統のものを感じた。


「お兄ちゃんを侮辱したな…」


「ん、なんだ、あんたも起きてんの。あと、さっきの言葉あんまり聞こえなかったんだけど」


 無論、その正体はミナミである。


 さて、こいつがここまで切れているのを見たのはいつぶりだろうか。半年前にミナミのプリンを食べてしまった時以来だろうか。


 普段は俺にべったりだったこいつでも、あの時はガチでキレてたな。最終的にコンビニにプリン買いに行ってそれで解決したけど。


「ファイア」


「へ?」


 ファイア、それは初級魔法の一つである。普通は魔法を発動させるには『魔鉱石』と呼ばれるものを経由して発動させる。


 普通は剣や杖に仕込むのだが、シュガーに教えられて、俺たち三人は魔法石を服に仕込んだのだ。


 まるで袖についているアクセサリーのように。こうすることで、手に何も装備していない状態からの魔法発動が可能になり、相手の意表をつけるという訳だ。


 ミナミの魔法は少女の頬を掠めた。ドゴン!という音を立てて壁に当たる。


「ふーん、そんなことも出来るの。発想だけは認めてあげるわ。それ以外は論外ね。初級魔法だし、コントロールも悪い。魔法使えない私が言うのもなんだけど、三下ってところね。所詮檻の中から当たらない魔法打ってなさい、何発もね」


「ぐぬぬ…!」


「ミナミさん、落ち着いてください!」


 ミナミは冷静さを失っている。ちゃんと狙えば、外すことは無かっただろう、この至近距離だ。怒りに任せてしまったからぶれたんだ。


「たく、なんか機械達が騒がしいと思ったら、なんだ?旅行者のことなら数ヶ月前に伝書鳩で貰ったけど、それ捕まえたって訳じゃないよな?ちゃんと伝えたはずだが…」


 そう言いながら、年は…12歳くらいだろうか?の少年が鉄の扉を押して入ってきた。


「え…!?でもオルガ、それって1月の話なんじゃ?」


「いや、もう1月だし」


 少女の表情がかたまり、俺たちを指をさして数える。


「6人、10人以内…ってことは」


「はぁ…」と少年は溜息をつき、頭をかいた。


「え、えーと、き、今日のところはこれで勘弁してあげるわ」


「いや、ちゃんとその人たちに謝れ」


 釘を刺す用にオルガと呼ばれた少年が少女に言ってのける。


 ていうか、この少女、『6人』と言っていたということは、メアリーのことが見えていないと見て間違いないだろうか?


「こ、この度は私のとんだ勘違いで…皆様に多大なる迷惑をかけてしまい…申し訳ありませんでした…」


 プルプルと肩を震わせ、顔を赤くしながら少女は謝罪の言葉を述べた。


 敬語のところが余計わざとらしさを強調させるが、謝ってはいるし、こいつらも怪我とかはしていないようだし許してやれない事はないが…。


 さっきからずっと荒い息を上げているミナミはこいつを許してくれるだろうか?


 あれから全員が目覚めるのを待ち、全員が目覚めたところで改めて少女が謝罪していた。


 やはり大して気にしていないようだ、ミナミ以外は。こいつの場合、いきなり牢獄にぶち込まれたことにキレているのではなく、少女が俺の事をバカにしたことに切れているからだ。


「さて、改めて自己紹介と行こうか。俺の名はオルガ。この『天空都市アヴァロン』の責任者をやってる。そしてこいつの名はティナ。いわばこの都市全体の機械の司令塔というか、脳というか…まぁそんな感じだ。こいつが勘違いしていたから、あの機械共はお前らを牢獄に入れたりしちまったんだ。済まなかったな」


「うぅ…ごめんなさい…」


 こんな小さいのに、責任者…?ここには二人より歳が上の大人はいないのか?ていうか、機械の脳…?


「機械の司令塔ってなんだ?彼女が…ティナが機械を操ってるのか?」


「いや、操っているとは言い難いな。ただ機械に命令をしているだけだ。視界の共有もできないし、完全に制御もできない。その機械に起きた異常も察知できない。機械がこいつの命令どおりに動いているだけなんだよ」


 命令するだけで動く、何とも機械らしい。それ以外はほとんど何もしないのだ。それが機械というものだ。


「じゃあさ、オルガは命令できないの?そのキカイってやつに」


「ええ、私は特別個体だからね。オルガには機械は作れても、プログラムするのが限界。私みたいにあとから『命令』できる個体が必要なのよ。手間も省けるみたいだしね」


 ふーん、確かにそんな存在があれば、あとからプログラムいじる必要も無いな。…あれ、特別個体?その呼び方だとまるで人間じゃない『ナニカ』みたいだが…。


「お前、もしかして人間じゃないとか言わないよな…?」


「なんでいきなりその話になるのよ。…でも、それもあながち間違ってないわね。私人間じゃなくて、いわゆる『アンドロイド』?ってやつだから」


 ふむふむ、なるほど。こいつはアンドロイドだったのか。通りで自分をあんな呼び方してたのか…。


『て、アンドロイド!?』


 俺と今までグルグルとまるで犬のように唸っていたミナミは驚きの声を上げた!

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