転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)

Raito

第12話:クリスマス兄妹と新たな陰謀

 1


 ことは数日前に遡る。この世界でも太陽暦が使われているらしく、ほとんど季節のズレもなかった。


 その日は十二月二十日、そろそろ気になるのがそう、あの忌まわしきイベントである。俺たちは少々食材を切らしていたため、買い物に出かけていた。
 メアリーはと言うと、「こ、このシーズンだけはパスで…」と言っていたから、俺たち四人が買い出しに行くことになった。


「この町にもクリスマスってあるのか?」


「うん、ある。貴方達の故郷ではイエス・キリスト生誕祭って感じだけど、ここは少し違う」


「違うって、何が違うんです?」


「二人とも知らないの?僕の故郷もかなりの隠れ里だけど、クリスマスぐらいは知ってたよ。あ、二人は崇める人が違うだけかな。いわゆる異教徒ってやつだね」


 何やら異教徒と聞くとかなり印象が悪い。やはり、住む世界が変わると文化もだいぶ違うらしい。


「この世界でクリスマスって言えば、天使誕生祭なの。天使っていうのは、遥か彼方の天界に住んでるって言われている種族のこと。その中でも、三人の天使がとても優秀で、その天使に感謝するのが、天使誕生祭」


「風の天使『緑天ガブリエル』保持者ラトス・リエール、水の天使『青天ウリエル』保持者ルナ・マーリス、炎の天使『炎天ミカエル』保持者ソルト・レトスのことだね。天使には寿命はないんだよ。だから、こうして伝説の存在として崇められているんだ」


 ほう、天使か…流石ファンタジー世界、典型的な天使のように頭に輪っか乗っけて羽生やしてるんだろうか。


「え?ルナってこの世界の硬貨じゃないんですか?」


「この世界は、四つの大陸に分かれててね。そのうち、大天使ルナ様が治めているのがこのラファエル領。領の中では、その天使の名前を硬貨の単位にしてるんだよ。ま、それぞれ差はないんだけど。他の領に行っても、その硬貨は使えるんだよ」


 なるほど、この世界は旅に出ても安心ってわけか。でも一つ引っかかることがあるな。


「さっきの話だと、他の二人の天使の大陸もあるんだろ?でも、大陸って四つだったよな?一つ空席じゃないか?」


「一人死んじゃったの、『光天ウリエル』の席が空白。なんか魔王軍に奇襲かけられたみたい、私がいない間に。アリスから聞いた」


「まあ、しょうがないよ。天使に寿命はないけど、決して死なないわけではないからね。不老であっても不死じゃないんだ」


 魔王は天界も支配しようとしているのだろうか。やはり、シュガーが一番マシな魔王だったというのは、本当らしい。


「でも、天使はちょっとモンスターが一匹いるだけで大魔術使ってクレーター何個も生成するから、あまり好印象は持てない」


「そ、そんなの初耳だよ?」


「長年生きていれば、色々体験するものなの」


 なんだろう、こいつが言うと謎の説得力があるな。ていうか、なぜモンスター一匹のために大魔術を使うのだろう。オーバーキルにもほどがある。


「それと一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」


「奇遇ですね、私も聞きたいことがありますよ」


「な、なに?」


 ルキアは若干引き気味で俺たちに訪ねてきた。おいおい、なにも質問も言っていないのにその反応はないだろう?


『クリスマス前夜にふしだらな行為に勤しむような輩はいないのか!?(ですか!?)』


「そんな事してたらバチ当たるよ!?」


「つ、つまり四日後の夜俺たちにリア充アピールしてくるような奴らも闊歩しないって事だな!?」


「今のところ見てないね、この町では」


『やったぁああああ!!』


 俺とミナミは盛大な歓声を上げ、ガッツポーズを決めた!


「やった、やったぞミナミ!今年はあいつらの幸せそうな顔を見ないでいいんだ!」


「間に割って入る心配もないんですね!」


 今年はそこらをふらつき、リア充アピールするDQNカップルどもを見なくて済むかもしれない!


 そうやって盛り上がっている俺たちを、三人は冷めきった目で見つめていた。


 2


 では、時系列を現代へ戻そう。本日は十二月二十四日、ルナ・マーリス誕生祭の前日である。どうやら、この世界ではクリスマスは四回あるらしい。


 一つの席が空白だから、実質三回だ。本来、春がウリエル領、夏がミカエル領、秋がガブリエル領、そしてここ、ラファエル領が冬ということである。


「さて、本日は腕を振るわせていただきたいです。美味しい料理を作りますよ、これくらいしかできないので…」


「もっと自信持てよ、メアリー。お前の料理は十分美味しいよ。楽しみにしてるぞ、いつもよりうまいやつをな」


「はい、期待しててください!」


「わふっ!」


 メアリーはぽんと胸を叩き、自慢げに言った。いつもあんなに控えめなのに美味い料理を作るなら、あれだけ自信があるとすればきっと絶品ものだ。


「そういえば、なんでこのシーズンは無理なんだ?」


「なんかクリスマスシーズンって、街全体が聖域みたいになって、外に出たら危ないのかなと思いまして…」


「自己判断かよ、別にいいんじゃないのか?ま、無理にとは言わないけどな」


 俺はメアリーとともに、朝の静かな時間を満喫しているところだった。そう、騒がしい足音が聞こえるまでは…。


 その次の瞬間、思いっきりドアが開け放たれた。


「あっはようございまーす!昨日はよく眠れましたか?ちゃんと朝ごはんできてますか?さあ、今日の夜は長くなりますよ!天使を捕獲するのです!」


「お前、バチ当たるぞ」


「お、おはようございます、ミナミさん。今日はテンションが高いですね」


 本当、こいつの精神年齢は小学生低学年レベルで止まっているんじゃないか?


「天使が実在するなら、捉えることもできるはず!あ、あとプレゼントも欲しいですね!私のプレゼントは…そうですね、お兄ちゃん!お兄ちゃんが欲しいです!あ、それとも私がプレゼントのほうがいいですかね?お兄ちゃんの所有物として雑に扱われてって痛ぇ!?」


 俺は朝から早々変態発言を連呼する妹を、軽く小突いた。


「お前、ちょっとは懲りろよ。誰もお前なんか欲しくないって」


「うぅ、そんなに頭叩かれたら、バカになっちゃいますよぅ…」


「安心しろ、お前は十分にバカだ。これ以上悪くならないだろう」


「さ、流石に酷いですよ!?」


「ユウマさん!?」


 ミナミが妙に凹んでいるのを、メアリーが慰めている。


 用意された朝食を食べ終わる頃には、すっかりミナミはいつものテンションに戻っていた。


「さて、あの二人はまだ起きないんですか?」


「起こさないでやれ、あいつらも日頃の疲れが溜まってんだよ」


「それなら私もですよ、なんだか最近は動くのも面倒になってますね」


 こいつの『ダイエット宣言』は何処へ消えたのだろうか。このままではこいつの太ってしまった未来しか見えないのだが。


「お前はほぼ何もしてないだろう。あいつらは、前衛として戦ってくれたり、大魔法使ったりしてんだろ」


「わ、私だって回復とか後方支援とかしてるんですよ?何もしてないのはお兄ちゃんです」


「お、俺の機転のおかげでマキュリを倒せたんだぞ。お前すぐにくたばってただろうが」


「あれはお兄ちゃんが異常だったんですよ!」


 人に向かって異常って…まあ、俺も気づいてはいた。


 ほぼ同レベル、というかルキアに関しては3レベルほど上のはずなのに、最後まで俺は効果が切れなかった。


 いや、気づいていたというか、信じたくなかったのだ。


 確かに、自分だけの特別な能力と聞くと聞こえはいいが、逆に言うとなんかの組織で解剖されたりとか、『お前特殊能力持ってんだから、最前線で戦ってこい』だとか言われるのがオチだ。


 正直、このファンタジー世界に神がいるなら思いっきりぶん殴り、無理にでもその特殊能力とやらを他人に継承させるだろう。


 こういうのは、そこらの闇の力に飢えている思春期の厨二病どもにやればいいんだ。俺は普通に静かに暮らしたい。そもそも、その能力さえも把握できてないのだ。未知の力なんて、恐怖でしかない。


 まぁ、ちょっとは憧れるけど…。


「…お兄ちゃん、聴いてますか?」


「あ、あぁ悪い、なんだっけ?」


「もう、しっかりしてくださいよ。身に覚えないんですか?何か異常な能力手に入れただとかなんとか」


「身に覚えないに決まってるだろ。そんな能力あったとしても、あまり使う気にはならないしな…あ、でもよく異世界から来た人間って、なにかの能力に目覚めるとかっていうよな」


 幾何学的な話だが、もうこの世界自体が幾何学のようなものなので、本当にあるのではないだろうか。


「うーん、そんなのあるんですかね?あ、でもそれなら私もですよ!条件満たしてます!どんなのがいいですかね…あ、『チャーム系』の能力がいいですね!」


「お前、俺に何かしようと思っただろ」


「なぜわかったんですか?も、もしかして読心術が開花しちゃったり?」


「お前の考えていることなんて、ほとんどが俺に対する性的行為か、もしくはその妄想だろう」


 ミナミは「うぅ…」と声を漏らし、頰を赤らめた。なんだ図星か。


「す、少しくらいはいいじゃないですか、ねぇメアリーさん?」


「へ?私ですか?えぇ、えーっと…」


 こいつ、メアリーを巻き込みやがった!何今の話と関係ない奴に迷惑をかけてるんだ、こいつは!


「ふぁぁ、三人とも朝から元気だね、何かいいことあったのかい?」


「そんなどこぞの専門家みたいなこと言いながら入ってくるなよ…」


「へ?なんのこと?」


 そ、そうだ、こいつ元の世界のこと何もかも知らないんだった。ということは、何も狙わずにさらっと口から出て来たのか?そんな言葉ではないと思うんだが…。


「お、おぅルキア。何も考えなくていい!忘れてくれ」


「ルキアさん、お兄さんいたならわかってくれますよね!?」


「な、なんのことかな?いきなり!?」


「お前、関係ない奴巻き込むなって!」


「実は、かくかくしかじかありまして…」


「あぁ、そういうことか」


「いや通じるのかよ!」


 アニメとか漫画とかでよく使われるけど、実際見ると異様の二文字だな。本当に一語一句違わず伝わっているのだろうか?


「ルキア、ちゃんとわかってるか?今どんな状況か」


「えっと、妄想の中でどれだけ性的行為をしようとその妄想している本人の勝手か否かって話だよね?」


 合ってるスゲェ!いや、どうやってあの『かくかくしかじか』からここまでの伝わるんだ?むしろこの二人のどちらかが超能力者なんじゃないか?


「あ、あぁ、だいたいあってるぞ。こいつの事はほっといていいから早く飯食っといてくれ」


「ま、まだ終わってませんよ?どうなんですか、そこのところ!?」


「え、えーっと、妄想だけでは自由じゃないかな?僕はあまりしないからわかんないけど」


 正直、俺も妹ならこのくらい常識のある妹が良かった。今すぐトレードとは言わないが、今からでも常識のある人間になってほしい。


「そうですよね?でも、私はその妄想を現実化させたいんですけどね!」


『それはアウトだろ(だよ)!?』


 やはりこいつには常識を知ってもらわねばならないのかもしれない。いや、学んでもらわなければならない。


 いつのまにやら、シュガーが食卓にやってきて、一人朝食を食べていた。


 こいつ、こんな殺伐とした状況で、よく飯が食えるな。俺は、この瞬間始めてこいつのことを尊敬したかもしれない。


 3


 俺たちは町の一角にやってきた。何やらアリス魔具店にて新しい商品を仕入れたらしい。これはシュガーから聞いた話なのだが、アリス曰く、


「これからのシーズンにぴったりですよ!これで商売繁盛間違いなしです!」


 とのことだった。


「うぅ、本当に大丈夫でしょうか…?」


「大丈夫ですよ、リア充がいないのなら今日は勝ったも同…然…?」


「ミナミ、これってまさか…」


 俺とミナミは察した。俺たちの目の前を、何組かのカップルが通り過ぎる。


 そして、次の瞬間ルキアに掴みかかった!


「おいルキア、話と違うぞ!」


「そこら中リア充だらけじゃないですか!?」


「いや、ただのカップルだよね?ふしだらな行為しているカップルはいないよね?」 


「ユウマとミナミ、それ僻み」


 何を言っているんだこの二人は!こいつらの目は節穴だろうか。


「シュガー、俺たちのこれはクリスマスイブを快く楽しむためであって僻んでるわけではないぞ!」


「そうですよ!それに、たとえ手をつないでいるだけだとしても、それはふしだらな行為ですよ!」


「ねえシュガー、二人のこと本気で醜いと思った、僕」


「大丈夫、二人は元から十分醜いから」


「おい二人とも聞こえているぞ…っと、そんなことをしているうちにもうついたぞ」


 未だに数日前以上に冷たい視線を浴びせる二人から目をそらし、俺はアリス魔具店のドアを開けた。


「いらっしゃいませ、ようこそアリス魔具店へ!」


 元気よく出迎えたのは、何やら真っ白のコートを羽織り、その中にこれまた真っ白のワンピースを着込んだ少女、アリスである。靴は、いつも通りのブーツだった。


「おう、アリス…って、どうしたんだ?いつもと服変わってないか?前はもっとフリル付きの可愛らしいものだったけど…」


「そ、そんな…可愛らしいなんて…」


 そう言いながら、アリスは顔を俯け、頰を赤らめた。どうしてだ?俺はただ思ったことを率直に言葉にしただけなのだが…?


「ユウマ、セクハラ」


「いや、どこも悪くないだろ!?ていうか、なんでそんな格好なんだよ?」


「そういえば、街を歩く人たちも、そんな格好の人が多かったですよね何か宗教的な物なのでしょうか?」


「まあ、宗教的な習わしって感じかな?『天使教』の信者たちは、このクリスマスイブとクリスマスは、その服装にするんだよ。ほら、僕の服もそれをイメージしたんだけど、どうかな…?」


 そう言われると、普段ボーイッシュな服装しか来ていないルキアが、何やら真っ白の服に身を包んでいた。


 しかも、ズボンからスカートになっており、真反対の服装になると、やはり新鮮だな。


「似合ってると思うぞ。普段のもいいけど、たまにはそういう女の子っぽい服装もいいんじゃないかな?」


「そ、そうかなぁ…えへへ。ずっと話題にされなかったから、そんなに似合ってないのかと思ったよ」


「お兄ちゃん、今度はルキアさんを口説いて…もしかして、ハーレムでも作る気ですか?」


「は、はぁ?そんなわけないだろ!?勝手なこと言うなよな!?」


 何言い出すんだ、こいつは!?ていうか先程よりも、アリスの顔が赤くなっているんだが…まさか鵜呑みにしているんじゃないよな!?て、ルキアまで?


「私、ユウマさんのことがよくわからなくなってきました…」


「メアリー、ユウマはどうしようもなく変態で、ムッツリ」


「そんなお兄ちゃんでも、私の愛は揺らぎません!兄の性欲を満たすのは、妹の特権ですから!」


「お前ら、いい加減にしろよ!?誤解されるだろ!?」


 やばい!唯一の救いであるメアリーまでもが冷たい視線を送ってきた!四面楚歌ってやつか?もう俺の精神が終わる…終わってしまう…。


「も、もうやめようぜ?ほら、新商品ができたんだろ!?」


「う、うぅ…そ、そうですね。それより、私のこと、襲わないでくださいね…?」


「お兄ちゃん、襲うなら私を襲ってください!」


「襲うわけねえだろ!?いいから新商品を見せてくれないか?」


 アリスは少し間を置き、カウンターの中から一つのポーションを取り出した。


 ていうか、流石にそろそろ気を直して欲しい。いや、ほとんどミナミとシュガーのせいなのだが…。


「こちらのポーションは、刷り込み効果を研究して作り上げたものです。簡単に言うと…」


 刷り込みっていうと、生まれてきて最初に見たものを親だと思うって感じだったかな?


 …なんか嫌な予感がする。先程からの、俺の誤解が解けてない上に、刷り込み効果のポーション…。大抵この効果が使われるポーションは…。


「惚れ薬ですね」


 先程まで少しはマシだったその場の空気が、再び一瞬で凍りついた。


 そしてミナミとアリス以外の全員の冷たい視線が降り注ぐ。


「ご、誤解だって!何もやましいことなんて考えてないって!」


「まだ何も言ってない。そこまで慌てるの、逆に怪しい…」


「僕たちにそれを飲ませて、やましいことを…」


「わ、私は見ての通り霊体なので、効果はありませんが、生身があったと考えると…」


『ユウマ(さん)、変態…!』


 俺の何かがガラガラと崩れた気がした。一方、ミナミはというと…。


「この惚れ薬、一つ…いや、この店にある分全部くれませんか?お金はありますから」


「はい、何に使うかは、あまり聞かないでおきますね…」


 次の瞬間、先程とは比べ物にならないくらいの悪寒が俺を襲った。


「あ、そういえばギルドで何やらパーティーをするらしいですよ?」


「なんでそんなこと知ってるんだ?店番してるんだから、ここからでる暇もないだろ?金にも困ってるみたいだし…」


「いや、客足は多いんです。だけど、ただ世間話して何も買わないお客さんが多いんですけど…」


「迷惑な客もいたもんだな」


 少しくらい商品を買ってやってもいいのに…。


 まぁ、この店にある商品がまともだとは思っていないが、ちょっとはマシなものもある…筈だ、たぶん!


「ふふ、私は人とお話しするだけで充分ですよ、楽しいですから」


 こいつ、本当に元魔王幹部か?実力は認めるが、普通マキュリみたいな破綻した性格の方が魔王幹部っぽいのだが…。人が良すぎないか?


「それはそうと、パーティ行かないんですか?私も店の仕事が終われば向かうつもりですが?」


「パーティか…。どうする、行ってみるか?」


「面白そうですね、なんか楽しそうです!」


「パーティ、行く」


「僕も参加しようかな!」


「わ、私も行きます!」


 4


 さて、ギルドのパーティを繰り広げている俺は、現在俺はそのお祭りムードに飲み込まれていた。


 登校日以外全く外出しない俺は、祭りは愚か、コミケにもアニソンのコンサートにも行ったことがない。


「うわぁ、人多いな…。いつもの二倍はいるぞ」


「ギルド以外の人もいるんじゃないですか?明らかに冒険者っぽくない格好をしていない人が多いですし」


「て、あれ?シュガーとミナミは?」


「ん、そういえば居ないな。どこ行ったんだ?」


 こんなに人が多いなら、逸れることがあるかもしれない。


 普通の奴なら適当に済ませるだろう。だが、あいつらはやばい!


 前、ミナミとシュガーが酒に弱いことが判明。


 その上、ギルド内の全員に酒などを奢り、パーティの財産を破綻させ、ひと月酔いを醒ます為の薬を買わなければならないことに。その金もなかなかに高かった。


 よって、この状況で二人から目を離すことは、財政の破綻を意味する。


 流石に、またギルド全員に奢るということはないだろうと信じたい…大丈夫だよな?


「あ、居ましたよ、あんなとこ…ろに…」


「あちゃー、あれはダメそうだね」


「あ、あいつらー…!」


 俺の予想は的中した。もうあいつらの顔は真っ赤、完全に酔いが回っている!


 このままでは、あの時の二の舞に…。それだけは阻止せねば!


「お嬢ちゃん、相も変わらず太っ腹だねぇ!普通この時期に奢るほどの金があるなんて、それもギルド全員!」


「全く、どれだけ金を持て余してるんだい?憎いね!このこの!」


「酒だ、酒もってこい!みんなも頼め、今日は奢りだとよ!」


『うおお!』


 ああ、もう手遅れだわ、これもう取り返しつかないわ。もう完全に破綻したわ、ていうかしてるわ。あれ、アリスもう店終わったのか?


「くっぷはぁ!美味しいです、賑やかです、最高です!」


「ひっく、酒は美味しい。おにぇしゃん、おかわりくだしゃい!」


「ひゅ、ひゅがーしゃん、わたひは従業員のひとじゃないでしゅよ〜」


「うぅ、冬越しの貯金が…」


 ただでさえギリギリ越せるか越せないかの金額だったのに、その金が全て吹き飛ぶほどの大金…。


 この冬、もう町で引きこもって生活するのは無理かもしれない。


「もう一回クエスト行かないとかもね。いや、明らかに一回じゃ足りないかも…」


「まあ、あの時はイレギュラーな臨時報酬でしたしね…」


「あぁ、なけなしの貯金が…」


 またあんなに危険な思いをしないといけないなんて…。それも、俺は一銭も使っていないというのに、パーティの酔っ払いのせいで…!


「理不尽すぎんだろー!」


 さて、もう割り切って明日からクエスト探すか…。って、割り切れるか!


 5


「アーズ、マキュリの魔力反応が消えた、何かあった?」


「あのバカのこと、どうせ油断しているところを不意打ちされたんじゃない?」


「でも、何やら強い魔力が二つ、マキュリの周りにあった。私たちと同じくらい」


「その魔力、元魔王様。多分ね」


「そ、そんなのありえない!…はず」


「可能性はゼロではないでしょ?」


「でも、魔力反応パターンが違った。実際会ったからわかる」


「そういえば得意だっけ?魔力探知」


「一人は『暴食』。そしてもう一人は…なんだっけ、あの時最後まで私たちを足止めしていた…」


「あいつは致命傷を与えたはず。最後の力で、先々代とその仲間連れてテレポートしてたみたいだけど」


「それと、ごく微量だけど元魔王の魔力反応があった。でも、明らかに落ちてた」


「でも、ルーンを殺したのがそいつだとするならば…」


「私が行く。マキュリみたいな失敗はしない」


「そう、なら気をつけて。集まりかけてるかもしれないよ。前幹部どもが」


「任せて、この『八黒星』ヴィナスに、失敗はない」

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