スポットライト

三浦しがゑ

伴侶⑤

菅ちゃんと僕は顔を見合わせた。
 「いや、良くわかったよ。こちらでも会議にかけてみて、いずれ結果を連絡します。受付で君の連絡先を書いてこちらからの連絡を待って下さい。」
 菅ちゃんは彼女を受付まで案内すると又部屋に戻ってきた。
 「どうやら決まりの様ですね。僕も、先生さえも気づかなかった先生の作品の深いテーマを見事に突いています。正直言いまして、僕は完敗です。プロとくらべると技術的にかなり荒い所もありますが、そんなのを超えた何かがあの子にはある。考えてみれば先生、僕も初めからこの道のプロだった訳ではありません。彼女の言う通り、気持ちから始まってやりながらプロになるという事も多いですから。そして、実際に僕がその良い例そのものですからね。」
 そう言うと菅ちゃんは熱い目で僕を見た。
 その昔僕と出会うまで、彼はイベントなどのマネジメントを主な仕事としている小さな会社の若き社長にすぎなかった。偶然というか不思議な縁があって僕と出会い彼の仕事も180度変わった。写真の写の字も知らなかった彼が、出版の出の字も知らなかった彼が努力に努力を重ねて、今やこの業界では彼の事を知らない人はいないまでになっている。全くの素人だった彼が今や玄人中の玄人になった訳だ。
 「僕だってそうだよ。昨日まで年に数回しかカメラを持たなかった男が一夜明けたら写真家だもんな。」
 「とにかく関係者を集めて早急に会議を開きましょう。彼女でいくにしてもいかないにしても、彼女には何らかの形で関わってもらいたいと思いますので。」

 会議は翌日の午前中から開かれた。関係者約20名が会議室に集まったが事前にデザイナーを再考慮したいとだけ話をしてあった。余計な知識が入らない様に彼女の経歴他一切伝えていない。いつもの事ながら、写真集を見る間、皆、一言も話をしない。「いいか、悪いか」それだけを独自の感性で判断する事が鉄則になっている。充分な時間を取りそれぞれに意見を求めた。
結果は、満場一致で彼女に軍配があがった。
その後で、彼女が専門学校を卒業したばかりという事を話すと、皆一様に驚き、そして中には「素人同然のデザイナーを使うのは冒険しすぎる」という声も上った。しかし、菅ちゃんの「僕らもそこからスタートしましたから。」という一声で、誰一人異議を唱える事なく、デザイナーは彼女に決まった。当然といえば当然の結果だと今でも思う。それ程彼女の作品には不思議な説得力があった。
「あれから4年か…。」

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