スポットライト

三浦しがゑ

再会①

写真集は予想以上に売れ、増版を重ねた。特に若い世代に受けたのが、勝因ではないかと言われていた。そして写真集の評判を聞きつけ、銀座にある画廊を借り切って写真展をやらないかという企画が持ち上がってきた。
「銀座の画廊で写真展ですか。今まで先生の作品に興味がなかった人達もたくさん見に来ますよ。やりましょうよ、先生!」
一番乗り気だったのは菅ちゃんだった。
「おいおい、やっと写真集が終わって一息つけそうだって時に写真展かよ。ちょっとホッとさせてくれないかなぁ。」 
僕があまり乗り気ではないとわかると、
「わかりました。先生は何もしなくて結構です。写真は僕の方で選びますから。先生は写真展が開催されている3日間だけ会場にいて下されば結構です。それなら特に問題ないでしょ。さぁ、又忙しくなりますよ。」
と言うなりあわただしく事務所から飛び出した。彼の事だ、今からその打ち合わせにでも行くのだろう。
「やれやれ、あいつにはかなわないな。」
僕はテーブルの上のペットベッドで丸くなっているポウに向かって言った。ポウはチラリと僕を見たがまた丸くなって目をつぶった。
最近ポウはとても歳をとった。動物を飼ってみて初めて、動物も齢をとり、そして見た目にも老いていく事を知った。ポウはあきらかにおばあさんになっていた。大雨の中ポウに会ってからもう十年が過ぎていた。
ポウの頭をそっとなでる。
「今度は写真展だってよ。」
そう言ってタバコに火をつけた。
菅ちゃんが言っていた通り、写真展はたくさんのお客さんでいっぱいになった。銀座という場所がらなのか年配の方も数多くきてくれ、会場販売していた写真集もそこそこ売れていた。写真展での僕の仕事といえば、その写真集を購入してくれた人にサインをしたり、将来写真家になりたいという夢を持った若い子たちと話をしたりという比較的ゆっくりとした時間が過ごせるものだった。それでも3日間はあっという間にすぎ、とうとう最終日となった。最終日は朝からかなりのお客さんで賑わっていた。そして写真展を記事にしたいという雑誌社の取材が数件入っており、僕にとって忙しい一日となる予定だった。
雑誌社の取材を一つ終え、受付で一息つこうかと座った時だった。初老の男性が作品に見入っているのが目に入った。写真展に来ているというのに帽子を目深にかぶり、どうやらその帽子がじゃまになって良く見えないらしく、時々帽子の目の辺りを上げたり下げたりしながら作品を見ている。

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