完璧会長と無関心な毒舌読書家

スリーユウ

53

夏休み
それは学生にとって、長期休暇であり、青春を謳歌する時期である。そんな時間をただ読書の為だけに費やす若者が1人いた。


当初の宣言通り、神崎は近くの国立図書館に入り浸っていた。


特に本を借りることもなく朝早い時間からは入館して閉館ぎりぎりまで本を読んでいた。
傍から見たら、ちゃんと読んでるのかと疑う速度で本を読んでいく。そんな生活が1週間続いていた。


神崎は今日も変わらず、読んでは戻し、読んでは戻しを繰り返していたが突然、ポケットに入っているスマートフォンからバイブ音が聞こえてきた。
取り出して、桐野画面を見ると桐野からのメーセージが表示されていた。
【読書は楽しいかしら?】


このメッセージに神崎は違和感を覚えた。今日は暇かと聞くならば、分かる。しかし、この聞き方はまるで今ここにいて、自分を見てるような言い方ではないか。不安になり、後ろを振り返る。


その瞬間、頬に変な感触が走った。


「全く、勘がいいわね」
「そういうお前は趣味が悪いけどな」
神崎の頬を突いて来たのは桐野だ。つまり、神崎の悪い予感の通り、後ろから見られていたというわけだ。
ちなみに琴吹は仕事が忙しく、神崎を探すことが出来ていない。


「連絡してくれと言ったはずだが」
「それじゃ、詰まらないじゃない」
「詰まらないって、子供か」
「あら、私も貴方もまだ成人はしてないはずよ」


「それはそうと何の用だ」
「ふふ、これからデートでもどうかと思って」
神崎があからさまに話題をずらした事に桐野は当たり前のように気付いたがあえて触れずにそのままにした。


「デート?買い物にでも行くのか」
「神崎君、雰囲気をぶち壊すような発言は控えないさい」
「それは失礼、今からどこに行くのでしょうか、会長」
「会長はやめてくれないかしら、神崎君」
「いつもの通りだが」
「雫って呼んでくれないかしら?さっきも言ったけど雰囲気が大事なのよ」


そうゆうものかと首を捻りながらも神崎は意識を切り替えた。
「では、雫、何処へ行きたいんだ?」
「そうねぇ」
雫は満足げに頷くと顎に手を当てて考え始めた。


「あそこに行きましょう」
何かを考え付いた雫は神崎の手を引っ張って移動を始めた。


「急に引っ張るな」
「ほら、行くわよ」
神崎の文句を言うが、雫は気にせず、神崎の腕を引っ張り続けた。


2人が着いた場所は川の近くのとある夏祭りだった。
「この中に行くのか」
目の前に広がる人混みに入る前に人混みが苦手な神崎は思わず立ち止まった。
「ほら、いくわよ」
神崎の腕を掴んで、雫は人混みの中へ飛び込んだ。神崎は仕方ないかと覚悟を決める。


人混みの中を通るが決まって雫に視線が集まる。そしてその横にいる神崎に向かって何でコイツと言う視線が毎回のように送られていた。傍から見たら、根暗のような奴に美少女がくっついてる様にしか見えない。


思いの他、身長が高い神崎は周りの露店が見えた。
「雫は何が食べたいんだ」
「大丈夫よ、行きたい場所にはもう向かってるから」
「さいですか」
雫の身長では露店が見渡せ無いはずなのだが、彼女がそう言っている以上、先に露店の場所でも全部覚えたのだろう。


2人は少し開けた場所に出た。


「ねぇねぇ、君、そこの男より俺たちと遊ばない?」
いかにもチャラいと言った男達のリーダーと思わしき1人が雫に向かって話しかけてきた。桐野が来るっと神崎の方へ顔を向けた。
「俺じゃなく、彼を見てあげたらどうだ?」
「なんで」
てっきり華麗に助けてくれるもの思っていた雫からは、怒りがこもった声で返事が返ってきた。


「俺は君の友達だが彼に着いて行くのに俺が止める権利はない。それは雫の意思で決めてくれればいい。俺は引き留めたりしないさ」
「そういうこと、じゃあ、私がこの人達を追い払って言ったら、やってくれるかしら」
「喜んで」


「そっちの話は終わったかな」
チャラ男が待っていましたと言わんばかりに話しかけてきた。


「ええ、終わったわ、ついでにあなた達との話も終わったわ、消えなさい」
いきなり一言で一刀両断されたチャラ男は一瞬固まるが言われ慣れてるのか直ぐに調子を取り戻した。


「そんなこといわないでさぁ、こんな男より俺たちの方が楽しいぜ、金もあるしね」
学生と見て、金銭で解決するあたり、雫の中での評価は一気に下がっていた。


「ふっ」
神崎は突然、男たちを鼻で笑った。
「何が可笑しい」
「いや、多分、俺の方が金持ってると思ってな」
「はっ、学生が何言ってんだ。良くて1万持ってるぐらいだろ」
「これでどうだ」
神崎が取り出したのは帯に巻かれた1万円の束だった。
「何で学生がそんな金もってる」
「別に普通に稼いだだけだ」
神崎が取り出したお金に雫もぎょっとしている。


「ほら、俺の方がもってるよな」
「うるせぇー」
自暴自棄になったチャラ男は神崎に向かって殴りかかってきた。殴りかかってきたチャラ男に対してカウンターの要領で神崎は札束でチャラ男の顔をひぱったいた。普通で有れば、札束が顔に当たるだけで何もないのだが、神崎は本気のスピードで腕を振った。それはもう衝撃波が生じる鞭のようにチャラ男の顎を捉えた。


札束が当たった瞬間、チャラ男は地面に崩れ落ちた。


周りから悲鳴が上がるが神崎は素早く札束を財布に戻すと雫の腕を掴んで残りの連中が来る前に逃げた。





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