美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変〜【完】

邪神 白猫

何度でも、君に恋をする パート2











「ーーおばさんっ、おじさんっ。お帰りぃー」


 ヒラヒラと手を振りながら、ニコニコと嬉しそうに微笑むひぃくん。


(……ん? その手に持っているのは、まさか……っ)


 何やら右手に一枚の紙を持っているひぃくん。
 その姿に、嫌な予感がした私の顔は瞬時に青ざめた。


「ただいま、ひぃくん。花音と仲良くしてた?」
「おぉ、響! ただいま。お前は相変わらずイケメンだなー。……まぁ、翔も俺に似てイケメンだけどなー」


 そんな事を言いながら、呑気にニコニコと微笑むお母さん達。


 そんな二人を見てニッコリと微笑んだひぃくんは、右手に持った紙をピラッと開くと胸元で掲げた。


「花音をお嫁さんにくださいっ」




 ーーー?!!




 フニャッと笑って小首を傾げるひぃくん。
 その胸元には、ひぃくんの署名入りの婚姻届がーー。


 婚姻届を前に、驚いた顔をして固まってしまったお母さん達。


 お父さんは、今にも目玉が落ちてしまいそうな程に目を見開くと、目の前の婚姻届を穴が空くんじゃないかってぐらいに凝視している。


(えっ……。何してるの……? ひぃくん……)


 全員が驚いた顔を見せる中、私は真っ青な顔をして固まった。


「花音には高校卒業してからって言われたんだけどね、おばさん達にまだ言ってなかったからっ」


 呑気にニコニコと微笑んでいるひぃくん。


(そんな事、今言う事じゃないよね……? 大体、付き合ってるのだってまだ報告してないのに……。ひぃくんのバカっ)


 固まったまま婚姻届を凝視しているお父さんは、まるで今にもギギギギッと効果音が聞こえてきそうな動きで顔を上げると、驚きに見開かれた瞳でひぃくんを見つめる。


 そして、もの凄い勢いでひぃくんの肩をガシッと掴むと口を開いた。


「……でかした響っ! やっとか……っやっとだなー。良かったなー、響っ!」


 そう言って、嬉しそうな顔を見せるお父さん。


(……え?)


「ひぃくん、良かったわねぇ……。私も嬉しいわ。一時期はどうなる事かと……花音たら少し鈍ちんさんだから」


 ホロリと目尻を流れる涙を拭ったお母さんは、そう言うと嬉しそうに微笑む。


(え……何? 何なのこれ……?)


 ひぃくんの突然の結婚宣言に、どうやら喜んでいるらしいお母さん達。


 目の前で繰り広げられる展開についていけない私は、呆然とその場に立ち尽くした。


 勿論、それはお兄ちゃん達も同じだったようで、ポカンと口を開けて間抜けな顔をしている。


(いや……百歩譲るよ? だってひぃくんだもん。百歩譲って、いきなりの結婚宣言は許すよ。でも……普通、「◯◯さんをお嫁に下さい!」って正座で頭下げるものじゃないの……?) 


 こんないきなりヘラヘラ笑いながら「お嫁さんにください」「良かったねー」なんて可笑しな展開は、ドラマでも見たことがない。


(大体、何で私にじゃなくひぃくんに「良かったねー」なんて言うのよ……)


「ーー花音っ!」




 ーーー?!




 突然のお父さんのドアップに驚き、思わず一歩後ずさる。


「良かったなー! 響と花音の子供なら、きっともの凄く可愛いぞっ?! お父さん楽しみだなー!」


 私の頭を優しく撫でながらそう言ったお父さん。


「……っこ、こどっ……?!」


 いきなりの子供発言に驚いた私は、目の前のお父さんを凝視する。


(何、言ってるの? お父さん……)


「子供はまだ早いんじゃないかしら……。だって、花音はまだ高校生よ?」
「何言ってるんだよ。若い内に産んだ方が子供と一緒に遊べるだろ? 俺だって元気な内に孫と遊びたいしな」


(……いやいや。何言ってるんだよ、はどう考えたってお父さんの方でしょ……)


 高校生の娘に早く子供を産めなんて言う親、私は聞いた事がない。


「それもそうねぇ……」


(え……っ? 納得しちゃった、の? お母さん……)


「よしっ! どんどん子作りに励めよっ!」


 そう言って私の背中をバシバシと叩くお父さん。
 その力に思わずよろめく。


 そんな私を優しく抱きとめたひぃくんは、私と目線を合わせるとニッコリと微笑んだ。


「子作り楽しみだねー? 花音っ」




 ーーー?!




(こっ……子作り?! そそそそ、それってつまり……エ、エ、エッチの事でしょ?!)


 そこまで考えると、ボンッと噴火したように真っ赤になった私の顔。


「ンなっ……?! な、なななな、何言ってるのっ?! こっ、子作りなんてっ……わ、私しないよっ!!」


(はっ……恥ずかしい……っ! 何でこんな話し、よりにもよって両親の目の前で話さなきゃならないのよっ……!!)


「まぁまぁ……そんなに照れるな。可愛いなー、花音は」


 ポンッと私の頭に手を乗せて、デレデレと微笑むお父さん。


「照れちゃって可愛いねー、花音っ」


 フニャッと笑ったひぃくんは、そう言うと私の頬をツンッとつつく。


(きょっ、強烈すぎる……。ひぃくんが二倍だ……っ)


 真っ赤になった顔のまま、あまりの恥ずかしさに涙が出そうになる。


「ーーもういい加減からかうのやめろよ、父さん」


 突然会話に入ってきたお兄ちゃんに反応して、クルリと後ろを振り返ったお父さん。


「……いやぁー、つい。花音が可愛くてな」


 アハハと笑ってお兄ちゃんを見たお父さんは、その横にいる彩奈にチラリと視線を向けた。


「翔も子作りに励めよ? 彩奈ちゃんならいつでも大歓迎だよ、俺は。……相変わらず美人さんだねー、彩奈ちゃんは」


 真っ赤になる彩奈を見て、デレデレとするお父さん。


(……ほんと、辞めて頂きたい。彩奈……何かごめん。セクハラで訴えてくれてもいいからね?)


 私のとばっちりを受けるハメになってしまった彩奈に同情すると、申し訳ない思いを胸に彩奈を見つめる。


「だから、からかうなって言ってるだろ……」


 呆れた顔をしながらも、自分の背後に彩奈を匿ったお兄ちゃん。


(何だか彩奈、真っ赤な顔をしながらも嬉しそうだなぁ……。素敵すぎかよ、お兄ちゃん)


 チラリとひぃくんを見上げると、私の視線に気付いたひぃくんがフニャッと微笑む。


(……ひぃくんだって、素敵だもん。デリカシーはないし、頭のネジは緩んでるし、ちょっと変だけど)


 そんな悪口ばかりを思い浮かべながら、ひぃくんを見上げてヘラッと笑う。












 



 


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