美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変〜【完】

邪神 白猫

煩悩はつまり子煩悩? パート3











「響先輩って、キャラ強烈だよね……」


 前方を眺めながらボソッと呟いた志帆ちゃんに、私はハハハッと渇いた笑い声を漏らした。


 志帆ちゃんの視線を辿るようにして前方を見てみると、楽しそうにお兄ちゃんと会話をしているひぃくんがいる。


 どうやら、そのご機嫌はもうすっかりと元に戻ったようだ。


「昔からあんなだよ、響さんて」
「へぇーそうなんだ……。イケメンなのにねぇ」
「そう、残念なのよあの人」
「勿体ないね、あんなにイケメンなのに……」


 私がすぐ横にいるというのに、彩奈と志帆ちゃんはひぃくんを眺めてそんな事を言っている。


(あの……。その残念な人の彼女ですよ、私。見えてます?)


 私そっちのけで話す二人にそんな事を思いながらも、満更間違いではない意見に何も言えない。


「ーーでも、凄く花音ちゃんの事が大好きで大切にしてるよね。俺は優しくてカッコイイと思うな、榎本先輩」
「斗真くん……っ。ありがとう」


(なんて優しいんだろ……。私の味方は斗真くんだけだよ)


 ニッコリと微笑む斗真くんを見て、ひっそりとそんな事を思う。


「私はかける先輩派かなー。ごめんね、花音ちゃん」


 エヘッと笑う志帆ちゃんに、何故か謝られた私……。


「彩奈ちゃんは? 響先輩派? 翔先輩派?」
「えっ?! ……っ」


 志帆ちゃんにそう問われて、チラリと私を見た彩奈。


(……?)


「私は別に……」


 そう言って私から視線を逸らす彩奈。


 その顔は、何だかいつもより少し赤い気がする。


(……どうしたんだろ?)




「彩奈……? 」
「……もうすぐカウントダウン始まるね」
「えっ? ……あ、うん」


 彩奈にそう言われて、敷地内に設置されているモニターに視線を移してみる。


 いつの間にか、もう年明けまで残り五分になっている。


(もうすぐ今年も終わりかぁ。あっという間だったなぁ……)


 そんな事を思うと、今年あった出来事が色々と蘇ってくる。


 相変わらずひぃくんに振り回された一年だったけど、凄く充実した良い一年だった。


 なんといっても、念願だった彼氏ができた事は私にとって今年一番のビックニュースだ。


(その相手がまさかひぃくんだとはね……。一年前の私には、全く予想もできなかった事だよね)


 そんな事を一人考えながら、クスッと小さく声を漏らす。


「ーー花音っ! もうすぐカウントダウンだよー!」


 その呼び声に反応して視線を向けると、ニッコリと微笑みながらヒラヒラと手招きをするひぃくんが見える。


「うんっ!」


 元気よく返事を返した私は、ひぃくんの側まで駆け寄るとひぃくんを見上げてニッコリと微笑んだ。


「ひぃくんっ。今年も一年、ありがとうございましたっ」
「こちらこそー。来年もよろしくね? 花音」


 フニャッと小首を傾げて微笑むひぃくん。


「うんっ」


 私は笑顔でそう答えると、隣にいるひぃくんの手をキュッと握ったーー。










 ※※※












「長かったねー」
「私なんて、寒さで足の感覚がないんだけどっ」
「どこかお店に入って暖まりたいね」


 無事に初詣でを済ませた私達は、寒い寒いと言いながら出口へ向かって歩き始める。


 モニターを見てみると、もう年明けから二時間も過ぎている。


(本当に長かったな……)


 未だ混雑する境内の前にできた行列を横目にして、私はすぐ隣りにいるひぃくんをチラリと見た。


 なにやら、随分と必死に参拝していたひぃくん。


「……ねぇ、ひぃくん。どんなお願い事したの?」


 先程、中々終わらないひぃくんに痺れを切らしたお兄ちゃんが「まだ足りないよー!」と騒ぎ出すひぃくんを無理矢理引きづりおろしていた。


 その光景を思い出した私は、何だか可笑しくてクスッと笑い声を漏らす。


「花音と、早くエッチができますようにって!」




 ーーー?!!




(聞くんじゃなかった……)


 大声でそう言い放ったひぃくんに、一瞬で後悔した私。


 フニャッと小首を傾げて微笑むひぃくんを見上げ、私は笑顔を痙攣らせた。


(貴方には……恥ずかしいという感情は、ないんですか……?)


「ーー残念だったな、響。願い事は他人ひとに言ったら叶わないって知ってるか? お前は一生DTだ」


 前方を歩くお兄ちゃんが後ろを振り返って勝ち誇った様な顔を見せると、ひぃくんを見てフッと鼻で笑う。


「そんな事ないよー!」


 ブーブーと文句を言いながら、私の隣からお兄ちゃんの方へと移動するひぃくん。


「いいや、お前は一生DTだよ。大体、俺が許すと思ってるのか? 許すわけないだろ」
「かっ、翔……ま、まさか……っ! 翔は花音のお兄ちゃんなんだよ?! ダメだよ?! 花音が可愛いからって、妹とエッチなんてしたら……っ?!」


 お兄ちゃんの肩を掴みながら、目を見開いて真っ青な顔をするひぃくん。


「……はッ?!! 何でそうなるんだよっ!!」
「ダメダメダメーッ!!! 絶対ダメーッ!!! 花音は俺のお嫁さんだよーッ!!!」


 前方でワーワーと騒ぎ出したひぃくんを眺め、顔面を痙攣らせて固まる私。


(何なのよ……その気持ち悪い発想は。そんな事あるわけないじゃん……。変な冗談はやめてよ、ひぃくん)


 真っ青な顔をしてお兄ちゃんの肩を揺らすひぃくん。
 その顔はとても真剣な顔をしていて……。


 本気で言っているところが、ひぃくんの恐ろしいところだ。


「随分と気持ちの悪い事を言うのね、あんたの旦那」


 いつの間に来たのか、すぐ横にいる彩奈はそう言ってドン引いた顔で私を見つめる。


(やめてよ……彩奈。私をそんな目で見ないで……っ。変な事を言ったのは、私じゃなくてひぃくんなんだから……)


「離せっ! とにかく……お前は一生DTだ! 煩悩と共に滅びろっ!」
「大丈夫だよっ、翔。俺は子煩悩だから安心して?」


 そういえば、さっきも子煩悩だとか言っていたひぃくん。


 その意味は……サッパリわからない。


「お前みたいな意味のわかんない奴、安心できるわけないだろ!」
「我儘だなー、翔は。大丈夫だよ、直ぐにDT卒業しちゃうからっ」


 ひぃくんの言葉に一瞬顔を痙攣らせたお兄ちゃん。


 それでも、ムキになるだけ無駄だと思ったのか、一度小さく息を吐くと口を開いた。


「はっ? DT卒業なんて俺がさせると思ってるのか? 一生させるかよ」


 ひぃくんを見て、フンッと鼻で笑ってみせるお兄ちゃん。


 DT・DTと、さっきからうるさい二人。


(一体なんなのよ、DTって……)


「それは翔には決められないよ?」




 ーーー?!




 突然私の方へと視線を移したひぃくんに驚き、ビシッと固まった私は前方に立つひぃくんを見つめた。


(なっ……何ですか……? 嫌な予感がするのは、私の気のせいであって欲しい……)


「花音っ! もうすぐDT卒業だよねー?」
「へっ?! ……あ、あの……DTって何?」


 質問の意味がわからずに思わず狼狽える。


 そんな私を見て、ニッコリと微笑んだひぃくん。


「……花音。子供って可愛いよねっ?」
「へっ……? 」


 突然その質問内容を変えられ、益々意味のわからない私は素っ頓狂な声を上げる。


「子供、好きでしょ?」
「えっ? ……あ、うん」


 私の返事に満足したのか、フニャッと笑ったひぃくんはそのままお兄ちゃんを見た。


「ほら、『うん』って言った。もうすぐDT卒業だねっ。楽しみだなー」
「……無理矢理言わせただけだろ」


 そう言って呆れた様な顔を見せるお兄ちゃん。


「ねぇ……彩奈。DTって何?」
「……。……ドーテー」


 チラリと私を横目にした彩奈は、そう告げると小さく溜息を吐く。


(へー……ドーテーかぁ……。ドーテー……ドー……って、あの童貞?!! ……えっ?! って事は、今の会話の意味って……)


 恐る恐るひぃくんの方を見ると、私の視線に気付いたひぃくんがバチッと目を合わせた。


「楽しみだねー、花音っ」


 そう言ってフニャッと小首を傾げるひぃくん。


(なっ、何て事だ……。まだそんな覚悟なんてないのに……っ)


 どうやら私は、「うん」なんて返事をしてしまった? らしい。


 だってわかりにくいんだもん、ひぃくんの言い回し。


(……どうしよう……っ。私、本当にひぃくんと約束しちゃったの……?)


 目の前でニコニコと嬉しそうな顔をみせるひぃくん。
 そんな姿を見て愕然とする私。


(お願いだから……もっと正しい日本語で話して下さい……)


 今にも泣き出しそうな情けない表情を見せる私は、顔面蒼白でアハハと小さく笑い声を漏らすと、前方で幸せそうに微笑んでいるひぃくんを見つめたまま呆然と立ち尽くしたーー。












 


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