(旧)こっそり守る苦労人 中学生編
約束
「・・・行くか。」
そう呟くと感じ取った場所へと進もうとする零。
ーーーーーその時。 
「待って零。」
「・・・・。」ピク・・
彼を制止する声が彼の動きを止める。
「・・・凪か。」
「・・・零。」 
・・・・普段の彼女じゃない・・・・心が荒れてるのが分かる。
何故凪がここに居るのか・・・今の俺は気にしない。
「何の用だ?」
「あれ?驚かない?」
いつものように、無表情でありながらもイタズラぽく言う凪だが、俺に下手な演技しか見えない。
「英次だろ?」
「うん、そうだよ。」 
「・・・俺を止めに来たか?」 
「そうね。」
あっさり認める凪。
「久しぶりの魔獣だな」 
「そうね。」
軽い相槌を打つ零と凪・・・。
しかし、二人ともいつもと雰囲気が違う。
俺は無表情で冷たい眼差しで凪を見下ろし。
凪はそんな俺を普段は見せないような満面な笑みで見上げている・・・しかし目が全然笑ってない。
「邪魔するな。」
「邪魔するよ?」  
零の前に立ち塞がる凪。
彼にとってこの程度、力づくで突破すれば簡単であるが・・・。
「俺がやる。帰れ。」
「帰るのは零だよ。私がサクっと片付ける。」
「「・・・・。」」 
互いが互いを譲ろうとしない。 
そのまま無言で見つめ合うが・・・・最初に動いたのは零だ。
「ハァ〜凪」
ため息を吐く零・・・なんとか話し合いで決着をつけたい零であるが上手くいかない。
どうも凪が相手だと、この状態の零でも力尽くという選択が選べないのである。
少しであるが意識が浅くなる零。
「零はいつもそうだねーーーそうやって、自分のことを一切考えない。自己犠牲の塊。」
「・・・・。」
痛いところ突いてくるな・・。
無表情のまま凪を見つめる零・・・・しかし、その目には先程のような冷たさは感じない。 
「凪、俺は魔獣を倒さないといけない。それは分かっているだろう?確かに凪でも倒せるけど、俺ならもっと確実に倒せる。戦闘ならそこら辺の雑魚には負けん。頼む凪・・・そこを通してくれ。」  
どうにか説得に努める零に対し、何か痛みを堪えるような表情をする凪。 
「零、私はね・・・あの時キミを止められなかったことをーーーーずっと後悔してきた。」
あの時、その言葉に零はあのクリスマスの夜が脳裏に過ぎった。
忘れたことなんて一度もない。悲しみや怒り、寂しさ、憎悪、そしてーーーー願い
それらが入り混じり、混沌へと化したあの地獄の冬を思い出すと・・・・胸が刃物でも突き刺さった感覚に襲われる零。
「あの日を思い出す度に自分を、殺したくなる程憎くなる。あの時、手段を選ばずキミを止めていれば・・・・!零、私はもうキミを戦わせたくないんだ。だからーーーこのまま家に帰って!あなたの葵ちゃんが居るあの家へ!」 
妹ーーー葵。
零の脳裏にまた一つ新たな風景が映し出された。
なんでもない日常。
異能なんて無い。
魔獣なんていない。
そんな当たり前な日常の中にーーー俺の日常の中にいる妹。
いつも元気そうに俺に声を掛けて懐いてくる妹。
『おにぃちゃん!』
その時、確かに妹葵の声が聞こえた零。
今家に帰れば・・・あの日常が待っている。
葵が待っているーーーーけど。
「それはーーできん話だ。」
凪に近付き俺は口を開く。吐息が届くほどに
「凪お前がどれだけ、あの日のこと後悔して、今俺の前に立ち塞がっているか・・・・正直今の俺には分からない。」
そう。分からないんだ。俺にはーーー今の俺には・・・もう。
「俺は街を守る為に・・・チカラを持つ者として・・・魔獣と戦っている。」
一度も払った対価は決して戻ってこない。
なら俺はその得た異能で俺の使命を果たす。  
「・・・なら、力尽くで通れば?」
俺の言葉に俯いてしまった凪であるが、それでも道を開けようとしない。
「凪・・・。」
なおも立ち塞がる凪を見ても・・・・それでも、零は力尽くという選択を取らない。
「いっそ誰かを好きになったらどう?武君のお姉さんでも良いし。さっきまでデートしてた黒河さんでも良い・・。」
「・・・・。」
「人として、狂う程女性を好きになってーーー異能から手を引きなさい。」
・・・・なるほど。
つまり、凪は俺に異能以外の別の興味を抱かせ。 
異能から手を引かせようとしていたのかーーーーその為にデート・・・恋愛をさせたかったのか。
誰かを好きなれば、俺が止まると・・・愛する人のことを想えば・・・俺がもう無茶をしないと・・・。 
凪が俺に課題として、恋愛を学ばそうとしたのはこの為か。
ーーーけどよ。
「無理だ。俺はもう、狂う程ーーー異能の世界へ浸かってる。」 
そう。無理なんだ。無理なんだよ・・・凪。
「俺は狂う程マトモじゃない。」 
零の苦笑混じりの言葉に、ゆっくり顔上げ・・零を見る凪。
その目は普段ような、圧倒的な威圧感はなく、弱々しい・・・心が折れた人間の瞳に変わっていた。
「やっぱ・・無理かな?」
諦めきれない、この呟きからハッキリと感じ取れる零。
「あぁ無理だ。」
しつこいとは思わない。
これが凪の優しさなんだ、と今の零でも分かっていた。   
だからこそ、零は迷わず答える。
「・・・・。」
「行かせてもらう。」
そう言うと凪を抜き歩き出す零。
ーーーしかし。
「零」
「・・・なんだ?」 
後ろを振り返ることもなく、零は立ち止まる・・・今凪の顔を見るのは、色々と心が痛いのだ。
「ならーーー約束して。」
 「約束?ーーー何を?」
いったい何をか?零が戸惑う中、背後から近付く気配が感じる。
右肩から凪が顔だしたが、俺は無表情のまま向き合う。
「もう止めるのはやめる。零がこれからも異能の世界に居続けるのというなら、それでも構わない。」
楔を打つかのように語る凪に警戒心を露わにする零。 
だが、彼女の表情を見た瞬間、その警戒は一瞬で消え去った。
「一つ・・・一つだけ約束してくれたらーーーもう・・・何も言わない。」
「・・・分かった。」
縋るような表情で頼み込んでくる凪に
俺は・・・了承するしかなかった。
********
裏道とは何処にでもある。
ココは、とある裏路地にある団地。
既に夜であり、ひと気が一切ない。
そんな場所で・・・・・黒い影が。
「ウウウッ」
ソイツは白色で狼よな姿をしていた・・・・そのデカさは白狼の平均を超えていた。
体長4メートルはありそうな巨体であるその白狼は、唸りながら周囲に視線を向けている。
「ウウ〜〜ッ」
飢えた獣のように・・・獲物を・・探しているのだ。
捕食する為、チカラを得る為・・・獲物探す白狼。
そんな狼にーーー上空から黒の一線がーー!
「ウウっ!?」
紙一重で躱す白狼・・・僅差の差で立っていた場所にーーー黒の槍が突き刺さる。
 
「ーーーッ!」
視線を感じ取った白狼は、その方向へ振り返るとーーーー1人の少年が立っていた。
「・・・・・。」
無表情で立たずむ少年・・・零を見た白狼・・魔獣は警戒を強め臨制体制に入る。  
「ウォンッ!」 
「・・・・・。」
突き刺さっていた槍が消えたと思ったら、零の手に再び黒の槍が出現した。
「ーーウッ!?」 
ーーーー瞬間、白狼の視界から零が消えた。
「ーーーッ!」
獣としての野生の勘なのか、それとも何かの能力なのか分からないが・・・・白狼は確かに背後から殺気を感じ、飛び下がった。
ーーブンッ!
白狼が飛び下がった次の瞬間、横から槍が振り抜かれた。
「ウォッ!ウォン・・・!」
「・・・・。」
距離を取ったまま威嚇する白狼に、槍を振り抜いたまま、無表情で見据えている零。
「・・・・・。」
早い
零が目の前にいる魔獣に抱いた最初の感想がそれだ。
先程の攻撃を察知したのにも驚いたが、それ以上に槍攻撃をコンマ0.何秒で躱すその素早さに、少なからず脅威を感じる零である。
最初の上空からの攻撃の時もそうであった。
確実に仕留めれると思っていたが・・・仕留めきれなかった。
「・・・・・!」  
 再び跳躍する零。今度は右側から槍を連続で突き刺さすようだ。
ーーーしかし。
「ウッ!ウッ!ーーウッ!」
三連続の突きをその巨体からは、想像出来ないほどの素早さで躱しきった。
「・・・・・。」
距離を取って零を伺う白狼に、零は右手で持つ槍を刀やレイピヤの突きのように、射抜く構えを取る。
「・・・・・!」
「ーーーウッ!」
【黒槍迅突】ーーーー!!!! 
人間ではありえないスピード・・瞬発力で前方に飛び槍を、敵に突き刺す技である。
とんでもない速さと突きの攻撃・・・躱すのは困難である・・・が
この白狼・・・魔獣は
「・・・・・。」
・・・・躱された。 
零が眼には槍に突き刺さる瞬間、白狼が二重に身体がブレて躱されたのである。
この時零はーーー驚きの余り、隙ができていることに気付いてなかった。
「ーーー!?」
上空から殺気・・・そし瘴気が膨れ上がったのを感じた!
「ウォォォォォォォォオオーーーーン!!!!」
咆哮ーーー!!  
白狼の咆哮が零が立つ大地に響く。
そう認識した瞬間ーーー零の体に衝撃が走った。
「ウォ〜〜〜ン!」
高らかに吠える白狼。勝利の雄叫びに聞こえる。
周囲の地面が砕け、抉れ、崩壊している。
これが白狼の能力『粉砕』のチカラである。
咆哮を受けた対象を砕き破壊する能力。
咆哮が当たる中心部に近い程その威力が上がるソレをーーーもろに受けた零。 
白狼も生きてる筈がないと確信して勝利の雄叫びを上げている。
邪魔者が消えた。これで獲物探しに行くことができる。
白狼は、獲物を探そうと動き出そうとしたーーーが。   
「油断したな」
「ウォン!?」
バッと振り返る白狼・・・その視界には、砕けた地盤の中から、軽々と跳躍して、土煙で汚れただけの零がいた。
無傷であった。咆哮をもろに受けた筈なのに・・・彼の体に目立った外傷はなかったーーー何故?
もう一つ疑問があった・・・・先程まで持っていた黒の槍が消えていた。
「危なかったーー咄嗟に【武闘】を防御に回して、黒夜】で受け止めなかったらヤバかった。」
ヤバかった程度で済むレベルの攻撃ではなかった筈であるが・・・・零にとってはヤバかった程度の問題であった。
「速いの分かった。破壊系の咆哮能力もヤバイのもーーーーだが。」
服の汚れを払いながら白狼に視線を移す。
「所詮その程度だ。俺をーーーこの世界に浸かり尽くした俺は・・・倒せない。」
さっきの咆哮がなんでもなかったかのように、零は呟く。
「まぁ久しぶりだったしな・・・凪のこともあったから・・・気を抜き過ぎた。」
言い訳がましく聞こえるのは気のせいではない・・・・やはり、さっきの攻撃は零としては、情けないミスなのであった。
「反省会が必要だなーーーーとっとと終わらせるか」
「ウウッ!」
零の発する威圧感に再び警戒を強める白狼ーーーだが 
「速さか・・・・なら俺も、それに習ってーーーー戦おう。」
警戒する白狼を無視して零は手に黒刀を出現させながらーーー居合いの構えを取る。
「次で決めるーーーー行くぜ?」
零の心力が高まり、意識がさらに深くなる。
力を溜めるのように体を引き締める零に対して、白狼は何時でも飛び掛かれるように低く姿勢を変える。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
沈黙する場、殺気が充満する地、そしてーーーーーーー解き放たれたッ!!
 
「ーーーーー!」
「ーーーーウッ!!」 
同時に前方へ跳躍するーーー空中での一戦!!
「グアァァァァァァァ!」 
僅かに白狼の方が速いか!?
牙を持って咬み殺そうと零の頭に飛び掛かるーーーー次の瞬間! 
「ーーーーアウトだ」 
パーーーーッ!!!!
零は黒刀を抜刀術の要領で白狼をーーーー 斬った!  
【ー始刀ー斬瞬一閃】
 
横一線に斬られた白狼は、呻き声をした思いきや・・・・煙となってこの世界から消えたのであった。
********
「ただいま〜〜」
それから30分後、零は家に帰宅した。
「あっ!おにぃちゃんおかえり!遅かったね?」
出迎えてくれたのは、零の妹、葵である。
待ちわびていたのか、体をピョンピョン跳ねながら零に抱き付いてきた。
「あ〜まぁ色々あってな・・。」
色々あった・・・確かに色々あったが、それを小学生の妹に話すのはどうか?躊躇う零を置いて葵は 
「ん?ふ〜〜んそうなんだ。」
特に気にしたような顔もせず、満足したのか、零から離れ母がいるであろう、台所へ向かっていた。
「フゥ〜。」
自分の部屋に戻った零は、椅子に深く座り込み・・・今日起こったことを振り返る。
美希とのデート
魔獣退治
そして凪との・・・。
零の脳裏に聞こえるのは、あの時の凪が言ったーーー約束が。  
『もうこれ以上変わらないとーーーこれ以上自分を壊さないとーーーー約束して。』
『・・・・あぁ約束だ。』  
指切りを交わし約束した零。
その時を思い出した零は顔を覆い机にうつ伏せになる。
「・・・・あ〜〜・・・ 約束してしまった。」
嫌そうに呟く零であるがーーーーその顔はちっとも嫌そうではなかった。  
「おにぃちゃん〜〜〜!ご飯だよ〜〜?」 
「・・・・。」
愛する妹からの呼び掛けに顔を上げる零。
本音で言えば、飯など無視してベットに篭ってしまいたい気持ちで一杯である零だが・・・・。
「ああ!今行く!」
自分の数少ない妹との食卓を自分から棄て去る訳にはいかない!
零はバッ!起き上がるや僅か数秒で妹が待っているダイニングへ到着した。
・・・廊下を全力で走ったことで母から説教を受けるのであるが・・・それはまた別の話である。
そう呟くと感じ取った場所へと進もうとする零。
ーーーーーその時。 
「待って零。」
「・・・・。」ピク・・
彼を制止する声が彼の動きを止める。
「・・・凪か。」
「・・・零。」 
・・・・普段の彼女じゃない・・・・心が荒れてるのが分かる。
何故凪がここに居るのか・・・今の俺は気にしない。
「何の用だ?」
「あれ?驚かない?」
いつものように、無表情でありながらもイタズラぽく言う凪だが、俺に下手な演技しか見えない。
「英次だろ?」
「うん、そうだよ。」 
「・・・俺を止めに来たか?」 
「そうね。」
あっさり認める凪。
「久しぶりの魔獣だな」 
「そうね。」
軽い相槌を打つ零と凪・・・。
しかし、二人ともいつもと雰囲気が違う。
俺は無表情で冷たい眼差しで凪を見下ろし。
凪はそんな俺を普段は見せないような満面な笑みで見上げている・・・しかし目が全然笑ってない。
「邪魔するな。」
「邪魔するよ?」  
零の前に立ち塞がる凪。
彼にとってこの程度、力づくで突破すれば簡単であるが・・・。
「俺がやる。帰れ。」
「帰るのは零だよ。私がサクっと片付ける。」
「「・・・・。」」 
互いが互いを譲ろうとしない。 
そのまま無言で見つめ合うが・・・・最初に動いたのは零だ。
「ハァ〜凪」
ため息を吐く零・・・なんとか話し合いで決着をつけたい零であるが上手くいかない。
どうも凪が相手だと、この状態の零でも力尽くという選択が選べないのである。
少しであるが意識が浅くなる零。
「零はいつもそうだねーーーそうやって、自分のことを一切考えない。自己犠牲の塊。」
「・・・・。」
痛いところ突いてくるな・・。
無表情のまま凪を見つめる零・・・・しかし、その目には先程のような冷たさは感じない。 
「凪、俺は魔獣を倒さないといけない。それは分かっているだろう?確かに凪でも倒せるけど、俺ならもっと確実に倒せる。戦闘ならそこら辺の雑魚には負けん。頼む凪・・・そこを通してくれ。」  
どうにか説得に努める零に対し、何か痛みを堪えるような表情をする凪。 
「零、私はね・・・あの時キミを止められなかったことをーーーーずっと後悔してきた。」
あの時、その言葉に零はあのクリスマスの夜が脳裏に過ぎった。
忘れたことなんて一度もない。悲しみや怒り、寂しさ、憎悪、そしてーーーー願い
それらが入り混じり、混沌へと化したあの地獄の冬を思い出すと・・・・胸が刃物でも突き刺さった感覚に襲われる零。
「あの日を思い出す度に自分を、殺したくなる程憎くなる。あの時、手段を選ばずキミを止めていれば・・・・!零、私はもうキミを戦わせたくないんだ。だからーーーこのまま家に帰って!あなたの葵ちゃんが居るあの家へ!」 
妹ーーー葵。
零の脳裏にまた一つ新たな風景が映し出された。
なんでもない日常。
異能なんて無い。
魔獣なんていない。
そんな当たり前な日常の中にーーー俺の日常の中にいる妹。
いつも元気そうに俺に声を掛けて懐いてくる妹。
『おにぃちゃん!』
その時、確かに妹葵の声が聞こえた零。
今家に帰れば・・・あの日常が待っている。
葵が待っているーーーーけど。
「それはーーできん話だ。」
凪に近付き俺は口を開く。吐息が届くほどに
「凪お前がどれだけ、あの日のこと後悔して、今俺の前に立ち塞がっているか・・・・正直今の俺には分からない。」
そう。分からないんだ。俺にはーーー今の俺には・・・もう。
「俺は街を守る為に・・・チカラを持つ者として・・・魔獣と戦っている。」
一度も払った対価は決して戻ってこない。
なら俺はその得た異能で俺の使命を果たす。  
「・・・なら、力尽くで通れば?」
俺の言葉に俯いてしまった凪であるが、それでも道を開けようとしない。
「凪・・・。」
なおも立ち塞がる凪を見ても・・・・それでも、零は力尽くという選択を取らない。
「いっそ誰かを好きになったらどう?武君のお姉さんでも良いし。さっきまでデートしてた黒河さんでも良い・・。」
「・・・・。」
「人として、狂う程女性を好きになってーーー異能から手を引きなさい。」
・・・・なるほど。
つまり、凪は俺に異能以外の別の興味を抱かせ。 
異能から手を引かせようとしていたのかーーーーその為にデート・・・恋愛をさせたかったのか。
誰かを好きなれば、俺が止まると・・・愛する人のことを想えば・・・俺がもう無茶をしないと・・・。 
凪が俺に課題として、恋愛を学ばそうとしたのはこの為か。
ーーーけどよ。
「無理だ。俺はもう、狂う程ーーー異能の世界へ浸かってる。」 
そう。無理なんだ。無理なんだよ・・・凪。
「俺は狂う程マトモじゃない。」 
零の苦笑混じりの言葉に、ゆっくり顔上げ・・零を見る凪。
その目は普段ような、圧倒的な威圧感はなく、弱々しい・・・心が折れた人間の瞳に変わっていた。
「やっぱ・・無理かな?」
諦めきれない、この呟きからハッキリと感じ取れる零。
「あぁ無理だ。」
しつこいとは思わない。
これが凪の優しさなんだ、と今の零でも分かっていた。   
だからこそ、零は迷わず答える。
「・・・・。」
「行かせてもらう。」
そう言うと凪を抜き歩き出す零。
ーーーしかし。
「零」
「・・・なんだ?」 
後ろを振り返ることもなく、零は立ち止まる・・・今凪の顔を見るのは、色々と心が痛いのだ。
「ならーーー約束して。」
 「約束?ーーー何を?」
いったい何をか?零が戸惑う中、背後から近付く気配が感じる。
右肩から凪が顔だしたが、俺は無表情のまま向き合う。
「もう止めるのはやめる。零がこれからも異能の世界に居続けるのというなら、それでも構わない。」
楔を打つかのように語る凪に警戒心を露わにする零。 
だが、彼女の表情を見た瞬間、その警戒は一瞬で消え去った。
「一つ・・・一つだけ約束してくれたらーーーもう・・・何も言わない。」
「・・・分かった。」
縋るような表情で頼み込んでくる凪に
俺は・・・了承するしかなかった。
********
裏道とは何処にでもある。
ココは、とある裏路地にある団地。
既に夜であり、ひと気が一切ない。
そんな場所で・・・・・黒い影が。
「ウウウッ」
ソイツは白色で狼よな姿をしていた・・・・そのデカさは白狼の平均を超えていた。
体長4メートルはありそうな巨体であるその白狼は、唸りながら周囲に視線を向けている。
「ウウ〜〜ッ」
飢えた獣のように・・・獲物を・・探しているのだ。
捕食する為、チカラを得る為・・・獲物探す白狼。
そんな狼にーーー上空から黒の一線がーー!
「ウウっ!?」
紙一重で躱す白狼・・・僅差の差で立っていた場所にーーー黒の槍が突き刺さる。
 
「ーーーッ!」
視線を感じ取った白狼は、その方向へ振り返るとーーーー1人の少年が立っていた。
「・・・・・。」
無表情で立たずむ少年・・・零を見た白狼・・魔獣は警戒を強め臨制体制に入る。  
「ウォンッ!」 
「・・・・・。」
突き刺さっていた槍が消えたと思ったら、零の手に再び黒の槍が出現した。
「ーーウッ!?」 
ーーーー瞬間、白狼の視界から零が消えた。
「ーーーッ!」
獣としての野生の勘なのか、それとも何かの能力なのか分からないが・・・・白狼は確かに背後から殺気を感じ、飛び下がった。
ーーブンッ!
白狼が飛び下がった次の瞬間、横から槍が振り抜かれた。
「ウォッ!ウォン・・・!」
「・・・・。」
距離を取ったまま威嚇する白狼に、槍を振り抜いたまま、無表情で見据えている零。
「・・・・・。」
早い
零が目の前にいる魔獣に抱いた最初の感想がそれだ。
先程の攻撃を察知したのにも驚いたが、それ以上に槍攻撃をコンマ0.何秒で躱すその素早さに、少なからず脅威を感じる零である。
最初の上空からの攻撃の時もそうであった。
確実に仕留めれると思っていたが・・・仕留めきれなかった。
「・・・・・!」  
 再び跳躍する零。今度は右側から槍を連続で突き刺さすようだ。
ーーーしかし。
「ウッ!ウッ!ーーウッ!」
三連続の突きをその巨体からは、想像出来ないほどの素早さで躱しきった。
「・・・・・。」
距離を取って零を伺う白狼に、零は右手で持つ槍を刀やレイピヤの突きのように、射抜く構えを取る。
「・・・・・!」
「ーーーウッ!」
【黒槍迅突】ーーーー!!!! 
人間ではありえないスピード・・瞬発力で前方に飛び槍を、敵に突き刺す技である。
とんでもない速さと突きの攻撃・・・躱すのは困難である・・・が
この白狼・・・魔獣は
「・・・・・。」
・・・・躱された。 
零が眼には槍に突き刺さる瞬間、白狼が二重に身体がブレて躱されたのである。
この時零はーーー驚きの余り、隙ができていることに気付いてなかった。
「ーーー!?」
上空から殺気・・・そし瘴気が膨れ上がったのを感じた!
「ウォォォォォォォォオオーーーーン!!!!」
咆哮ーーー!!  
白狼の咆哮が零が立つ大地に響く。
そう認識した瞬間ーーー零の体に衝撃が走った。
「ウォ〜〜〜ン!」
高らかに吠える白狼。勝利の雄叫びに聞こえる。
周囲の地面が砕け、抉れ、崩壊している。
これが白狼の能力『粉砕』のチカラである。
咆哮を受けた対象を砕き破壊する能力。
咆哮が当たる中心部に近い程その威力が上がるソレをーーーもろに受けた零。 
白狼も生きてる筈がないと確信して勝利の雄叫びを上げている。
邪魔者が消えた。これで獲物探しに行くことができる。
白狼は、獲物を探そうと動き出そうとしたーーーが。   
「油断したな」
「ウォン!?」
バッと振り返る白狼・・・その視界には、砕けた地盤の中から、軽々と跳躍して、土煙で汚れただけの零がいた。
無傷であった。咆哮をもろに受けた筈なのに・・・彼の体に目立った外傷はなかったーーー何故?
もう一つ疑問があった・・・・先程まで持っていた黒の槍が消えていた。
「危なかったーー咄嗟に【武闘】を防御に回して、黒夜】で受け止めなかったらヤバかった。」
ヤバかった程度で済むレベルの攻撃ではなかった筈であるが・・・・零にとってはヤバかった程度の問題であった。
「速いの分かった。破壊系の咆哮能力もヤバイのもーーーーだが。」
服の汚れを払いながら白狼に視線を移す。
「所詮その程度だ。俺をーーーこの世界に浸かり尽くした俺は・・・倒せない。」
さっきの咆哮がなんでもなかったかのように、零は呟く。
「まぁ久しぶりだったしな・・・凪のこともあったから・・・気を抜き過ぎた。」
言い訳がましく聞こえるのは気のせいではない・・・・やはり、さっきの攻撃は零としては、情けないミスなのであった。
「反省会が必要だなーーーーとっとと終わらせるか」
「ウウッ!」
零の発する威圧感に再び警戒を強める白狼ーーーだが 
「速さか・・・・なら俺も、それに習ってーーーー戦おう。」
警戒する白狼を無視して零は手に黒刀を出現させながらーーー居合いの構えを取る。
「次で決めるーーーー行くぜ?」
零の心力が高まり、意識がさらに深くなる。
力を溜めるのように体を引き締める零に対して、白狼は何時でも飛び掛かれるように低く姿勢を変える。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
沈黙する場、殺気が充満する地、そしてーーーーーーー解き放たれたッ!!
 
「ーーーーー!」
「ーーーーウッ!!」 
同時に前方へ跳躍するーーー空中での一戦!!
「グアァァァァァァァ!」 
僅かに白狼の方が速いか!?
牙を持って咬み殺そうと零の頭に飛び掛かるーーーー次の瞬間! 
「ーーーーアウトだ」 
パーーーーッ!!!!
零は黒刀を抜刀術の要領で白狼をーーーー 斬った!  
【ー始刀ー斬瞬一閃】
 
横一線に斬られた白狼は、呻き声をした思いきや・・・・煙となってこの世界から消えたのであった。
********
「ただいま〜〜」
それから30分後、零は家に帰宅した。
「あっ!おにぃちゃんおかえり!遅かったね?」
出迎えてくれたのは、零の妹、葵である。
待ちわびていたのか、体をピョンピョン跳ねながら零に抱き付いてきた。
「あ〜まぁ色々あってな・・。」
色々あった・・・確かに色々あったが、それを小学生の妹に話すのはどうか?躊躇う零を置いて葵は 
「ん?ふ〜〜んそうなんだ。」
特に気にしたような顔もせず、満足したのか、零から離れ母がいるであろう、台所へ向かっていた。
「フゥ〜。」
自分の部屋に戻った零は、椅子に深く座り込み・・・今日起こったことを振り返る。
美希とのデート
魔獣退治
そして凪との・・・。
零の脳裏に聞こえるのは、あの時の凪が言ったーーー約束が。  
『もうこれ以上変わらないとーーーこれ以上自分を壊さないとーーーー約束して。』
『・・・・あぁ約束だ。』  
指切りを交わし約束した零。
その時を思い出した零は顔を覆い机にうつ伏せになる。
「・・・・あ〜〜・・・ 約束してしまった。」
嫌そうに呟く零であるがーーーーその顔はちっとも嫌そうではなかった。  
「おにぃちゃん〜〜〜!ご飯だよ〜〜?」 
「・・・・。」
愛する妹からの呼び掛けに顔を上げる零。
本音で言えば、飯など無視してベットに篭ってしまいたい気持ちで一杯である零だが・・・・。
「ああ!今行く!」
自分の数少ない妹との食卓を自分から棄て去る訳にはいかない!
零はバッ!起き上がるや僅か数秒で妹が待っているダイニングへ到着した。
・・・廊下を全力で走ったことで母から説教を受けるのであるが・・・それはまた別の話である。
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