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(旧)こっそり守る苦労人

ルド@

冷徹な戦士 後編

【獣の視点】


アウトだ・・・・
『───ッ!?』


自分が放った爆炎の先でそんな低い声が聞こえた。
魂の深くまで凍り付きそうな声。それと同時に炎を貫き迫って来る黑いくろいオーラを纏った槍。


黒き彗星のように飛来する、死を乗せた槍が迫っていた。


───いったい何処で間違えたのか?
自分の死が迫って来ている中、走馬灯のように今までのことが脳裏で過ぎる。


生まれた時から魔獣にはそれなりの知能があり、3つの能力があった。
1つは先程使用した紫色のブレス。自分の中の瘴気を消費して放つ炎である。消費が激しい為、これまでも試し撃ち程度で実戦使用は初めてであった。


2つ目は自分が取り込んだ人間の知識を少しだが得ることが出来ること。と言っても獣の場合、単純なことのみに限られるが、それでも得られた物は大きかった。


『グルゥガーーッッ!!』


迫って来る槍を前に獣は影を操る。小さな泡が噴き出してそこから沢山の人達が出てくる。……行方不明になっていた学生達だ。


最後の能力は制限付きであるが、捕らえた人間を操り動かすこと。会話をすることは出来ないが、こうして壁にすることは容易い。


これまで捕らえた人間は全部で16人。
それぞれの知識を利用して操り、より活動し易い環境を作ってきたが、まさあこんな風に使うことになるとは思わなかった。


臆病だった魔獣は獲物を取れば取るほど欲深くなり、飢えを満たすように獲物を狙い続けて来た。


今回もそうだ。あっさり飢えに負けてそれがミスへと繋がった。
そして考えた末、獣は奥の手である炎を放ち死角を作り、その間に自分が取り込んだ人間達をにして逃げることにした。 


人間を盾にすれば少しは相手も戸惑う筈。これは人間を取り込み知識を得たからこそ取れた策だった。


『ッ!』


既に逃げる為に背を向けて駆け出そうしている。右脚を失っていたが、3つの脚があればバランスを取ってダッシュで逃げることも十分可能だ。


これで逃げ切れる。確信して全速力で地を蹴っ───。


「下らない」
『グルゥオ!?』


背後から冷たく、低く、それでいて突き刺さる鋭い声が獣の魂まで貫く。
そして衝撃が獣の中心で起こった。駆け出そうとした直前だった為、滑らせるように転んだ獣は事態が飲み込めず狼狽していた。


何故なら衝撃が走った胸の中心には───。


『グ、グルゥ……』


黑いオーラを纏った─────『黒い槍』が貫いた。


『グルゥ……』


これは助からないとすぐに分かった。貫かれた途端、消滅を始めた肉体を見れば考える必要もなかった。


そして消える間ぎは、背後を振り返ると盾に使用した人間達が倒れて、その奥で男が槍を投げた姿勢のまま振り返った獣を見つめてたい。


壁に使った人間達には、無キズ・・・で気絶していた。
その光景を捉えたところで獣の存在は完全に消失した。




******




【零の視点】


実に下らない最後だった。
獣が消えていく中、俺は冷めた気分で眺めていた。
こいつが人間を盾にして来ることなど、最初から計算内だった。


俺の目の前には、獣に取り込まれていたであろう行方不明だった人達が気絶して転がっている。最初は俺を獣から遮ろうと動いていたが、俺の異能の影響でも受けたか糸が切れたように一斉に倒れた。


「まさか全員出すとは思わなかったが、そこまで余裕がなかったってことか?」


魔獣を倒せば取り込まれた人間も出て来るが、目の前の人達以外は出てくる気配はないので、全員出したのだと遅れながら驚いていた。


盾にして逃げるだけなら少しで足りると思ったが、やはり瘴気の濃度の割に戦闘の経験値がかなり不足していたらしい。途中から逃げることしか考えてない気がしたが、当たっていたようだ。


「まぁ、俺には意味がないがな」


そう、意味などない。
どんな不意打ちだろうと意味などなかった。
既に倒したのでどうでもいいことだがな。……どちらにしろ。


「これで仕事は終了かなぁ?」


自分の中心で切り替わる。
先程までの冷たい雰囲気が消えて、いつもの泉零へと戻ると自然と頬が緩んだ。


「さぁ、早く帰らないと明日に響くから……うん?」


そのうち警察とかが来る。面倒に巻き込まれる前に退散して倒れている人達もそちらに任せようとした。


しかし、家に向かって帰ろうとした直後。
異能者としての感覚器官が何かに反応を示した。


「……何?」


戻っていた思考が再び切り替わる。
意識が深くなって自分の周囲の音が静かになる。
頭の中で状況を分析すると、何に反応したか何が起きているか瞬時に把握する。


「何かが、近付いている。しかも───同業者・・・か?」


その結果、俺は───。




******




【とある異能者の視点】


夜の街で1人の私は走る。
少し短めなスカートであることも気にせず、目的地に向かって全力疾走していた。


「ハァ、ハァッ全く! 折角潜入準備が出来たから、今日くらいはのんびり街で買い物しようと思ったのにっ!」


私は異能機関からこの街に派遣された異能者だ。
目的は最近この街で起きている【魔獣狩り】と呼ばれる異能者の調査とその討伐者の捜索。
既に捜索対象が居るであろう場所は、うちの上司によって突き止めている。意外なことに学校であったが、スムーズに手続きを終えて転入生として明後日には潜入出来る。


案外簡単かなぁ? と思っていた矢先だった。


「何でこんな時に魔獣が出るのよ!?」 


嫌がらせか! 本当に参るわ! 今日くらいはゆっくりしたかったのに! 観光中に探索班から連絡があったと思えば魔獣の気配までした為、急遽中止して現場まで急行中であった。せっかくおしゃれもしたのに……!


お陰で気分は最悪だ。ええ、本当に最悪っ!


「腹立つけどチャンスでもある! 上手くいけば目星を付けれて潜入もやり易くなるわ!」


しかし、魔獣が出て来たと言うことは、対象も出て来る可能性がある。そもそも自分がこの任務に受けたのは、上からの指示だけは理由ではない。


他でもない、対象者である者に興味が出たからだ。
もしかしたら自分と同じ位の歳かもしれない。しかも相当な実力者の可能性が高い。
異能者の対多数は、20歳以上の大人が多い。中には自分のような学生位の人もいれば、更に下の子供の異能者もいる。


実際に同い年や年下の子にも会っているが、それでも高レベルの異能者となると殆どいなかった。やはり年季は長いほど異能者でも差が大きく、飛び抜けた才能でもない限り追い抜くのは難しいである。
だが、今回の対象者は自分と同じかヘタしたらそれ以上。報告を聞く限りその可能性が非常に高く、これで興味を持つなと言うのは無理な話であった。


チャンスはまだ先だと思っていた手前、この機会を逃すのはその為に来ていた自分には受け入れ難いことだ。
他の一般人がいないか確認しながら、速度を上げて息を切らしながら現場へ急行した。 


「ハァ、ハァ……この辺りの筈なんだけど……」


走り続けて数分後、遂に目的の場所に到着したが、そこは走っている最中に想像したものとは大きく異なっていた。


「これは……!」


夜は人は通らないのか人気のない場所で、10数人が意識を失って倒れている。
一般人が見れば即通報で警察ものであるが、異能使いの私は息を整えると冷静に分析していた。


「これは……間違いなく魔獣の仕業ね! 全員『心力』を吸われているみたいだけど」


すぐに倒れている人の容体を確認していくとすぐに分かった。倒れている全員から異能者なら誰もが嫌う奴らの気配・・・・・を残していたからだ。


「やっぱり瘴気が張り付いてる。……微かだけど」


魔獣の瘴気は感知タイプでなくても異能者なら気配で分かる。分かる範囲は各自で異なるが、戦闘タイプな私でも瘴気の大きさ次第である程度遠くても分かった。
魔獣本体の気配らしき物は一切ないが、警戒をしながら辺りを見渡す。
そして魔獣が出て来ることなくしばらく警戒を続けた後、倒れている人達に視線を向けて何が起きたか薄々察した。


「魔獣のエネルギー源にされてたんだ。魔獣は人を殺すことは少ないけど、『心力』はご馳走だから生捕りが多いのよね」


そもそも魔獣がこの世に出現しているのは、人間を襲う為。『心力』と言うエネルギーを求めている為だ。 
『心力』とは人間なら誰もが持っている特殊なエネルギーのこと。大なり小なりはあるが、このエネルギーを使うことで異能者は『異能』を使う。


魔獣は心力を体内に取り組み自分達のエネルギー源として、瘴気に変えて運用している。
魔獣は心力を持たない。持つのは人間のみ。だから魔獣は人間を襲っている。


生きる為に求めているのだ。はるか昔から現在も。


「倒されている。く……出遅れたんだ」


周りを見渡しても人の気配が無い。この状況からして対象者が討伐して一足早くこの場から去ったようだ。思わず悔しそうな声音が出てしまうが。
それよりもだ。目では見えない気になる一点・・・・・・に私は疑問を口に出せずにはいられなかった。


「ヤッパリ瘴気が殆ど感じない。ここに来る途中はビシビシ感じたのに」


瘴気とは魔獣が倒されてもその場に長期で残る。あまりにも雑魚な最下級のタイプであれば話は別であるが、これだけのことをして見せた魔獣が最下級である筈がない。
だからこそ、この場には瘴気が殆ど残ってない事実に対し、どうしても不審を抱いてしまった。  


「どういうこと? 少しは残っているけど、それでも全体の1割位? ……しかないようだけど」


厄介なことに瘴気は沢山漂っていると他の魔獣を引き寄せ易い。各国が現在も対策中の問題であるが、ここの濃度程度と少量なら本格的に調べなくても問題ないだろう。


「相手の異能が原因なのかしら?」 


もしそうなら異能界の歴史的な快挙と言ってもいい。現在でも大きな問題とされている瘴気の扱いが改善されるかもしれない。……どんな異能かは分からないけど。


「本人に直接聞けばいいか」 


学校に行けば出会える可能性がある。焦る必要はない。
寧ろ潜入前に良い情報が得られた。明日は本格的に今後ことを考える必要が出来た。


「取り敢えずタカさんに連絡して警察機関と連携してあと処理を……───ッ!?」


考え込んでいたら突然悪寒が走った。
バッと背後振り返ると同時に胸ポケットに入れていたモノを取り出せるようにする。感じ取った感覚を追うように背後の方へ視線を送るが……。


「何、今の?」


振り返った時点で何も感じなくなっていた。
それでも体中から冷や汗が出ている。少なくとも気のせいではない。


「視線が……誰かに見られたような……分からない」


確かに誰かに見られた。けど、何処からか分からない。気配を探ろうとしても視界に映る夜の世界から沈黙しか感じ取れない。残念ながら夜目はそこまで良くないので、これ以上は何も見えなかったが……。


これだけは言える。


「間違いなくプロね。死を感じたわ」


私を襲った寒気、それは死の風とも思えるほど冷たかった。




******




【零の視点】


アレを感じ取ったのか? 意外と通常の察知能力も高いのか、結構若そうだけど。
しばらくして現場に現れた女性に気付かれないように隠れながら、家に向けて帰宅している。
当然元の状態・・・・に戻ってあるが。
さっきのやり取りを思い出して感心したように頷いた。


「ありゃ、相当やるな」


正直色々考えたよ。何かありそうな雰囲気だし、この街では見ない異能使いな時点で怪しさ全開だった。まぁ、外部の人間だろうなぁ、と雰囲気で察したが。


「本当に外部の奴なら面倒だよなぁ」


そうだよ。面倒なんだ。めんどうなんだよぉー。
外部の異能組織なんて基本利益のみを求める連中が多い。要する使える物なら率先して調べて入手する連中のことだ。……関わるとスカウトとか技術提供とか協力体制とか非〜〜常に面倒なことになるからと、昔から注意されていた。


うん、少し考えただけで面倒な案件でしかないって分かった。関わったら損しかないから……放置するか。
うん、そうしよ。


「とっとと帰りましょうか、可愛い妹のいる我が家へ」


嫌なフラグが立った気がするが、家に早く帰りたいので夜の道を走ることにした。イカンなオールナイトだからか、なんだか興奮して来たわ! 待ってろよ! 今すぐ行くぞぉーー!






「……」






一瞬だけ思考が切り替わる。
振り返ることもなく、冷めた目で思い付いたように……。




「最悪、消すか」




微かな呟きが沈黙の夜街で静かに響いた。


“それぞれの対策”前編へ続く。




おまけ───『とある家のリビング(妹)』


葵「またですか」


葵「何故いつもいつも、私を置いて居なくなるのでしょうか」*可愛い妹で彼が重度のシスコンだから。


葵「バイトなのは分かります。柊さんの頼みでは断れないのも」


葵「ですが、妹の私だって手伝ってもいいじゃないですか!?」*要するに頼られず不満が爆発した。


葵「ムー! ムー! ムー!!」*お怒りモード:『ムームータイム』が始まった。




*『ムームータイム』は5分ほど続く。普段ならシスコンな兄が宥めて落ち着かせるが、居ないので正気に戻った頃には、自爆して顔を覆う葵が残っていた。




葵「う……は、恥ずかしいぃ」*羞恥で真っ赤かシスコンがいれば悶えていたに違いない。


葵「やめましょう、何か幼稚過ぎます」*幼児の間違いでは?


葵「……そろそろ、兄離れしないといけないのでしょうか?」


葵「前から言われて来たことですし、兄さんにだってそのうち彼女が出来たら、こうして一緒にいることも少なく…………」


葵「い、いやっ!」


葵「嫌です、絶対嫌です! 折角またお兄ちゃん・・・・・と一緒に居られるのに、また疎遠になるなんて……無視されるなんて絶対にいやです!」


葵「グスッ……グスッ……我がままなのは分かりますけど、今は、今だけは私の側に……」


葵「いけません。泣いてるところをお兄ちゃんに見られたらまた心配させちゃう」


葵「切り替えなきゃ……よし!」パン!


葵「さて! 疲れた兄さんが帰って来るまでに夜食の準備をしましょうか!」*止められない『天使フラグ』が立った!


葵「きっと、お腹を空かせていますし、そうと決まれば準備準備!」*兄の死亡率が急上昇した!


葵「兄さん、喜んでくれるといいなぁ。エヘヘ☆」*『星になるフラグ』が立ちました! 兄の星になる確率が80%まで上がった……気がした。




*その後帰宅した兄零は、妹の夜食を見て感動・・? して涙を流しながら全部食べました。



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