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(旧)こっそり守る苦労人

ルド@

いつもの生活 後編

───夕方、校門前。


「さて、取り敢えずあそこに行ってみないとな」


由香さんとの話を終えた俺は、委員会や部活に所属していないので堂々と校舎を出る。周辺の見回りをするか考えたが、事態収束の為にもあの場所に向かうことを優先した。


「あ、泉さん」 
「ん? 藤堂とうどう?」


校舎門を出た直後で後ろから呼び声。よく話すクラスメイトの声だったので、それが藤堂とうどうかえでだとすぐに気が付いた。まぁ同じクラスの女子というだけでなくクラスのアイドル枠なのも関係しているが。
肩まで掛かった艶やかな黒髪。大人の雰囲気がある由香さんとは正反対で、清楚な雰囲気を纏った非公式ランキングでも上位にいる女子だ。


「どうした? お前から声を掛けるなんて珍しい」


よく話すとは言ったが、いつもは同じクラスの桜井さくらい美希みきを混じって話すぐらいだ。二人っきりで話すのは余りなかったから、少なからず驚いていた。
まぁ、あったらあったで色んな奴を敵に回すから、ないに越したことはない。


「生徒会に呼ばれたと石井君から訊いたんですが、もしかして見回りの話かと思ったんですが」
「ああ、そうだな。……まさか、そっちもか?」
「あ、はい私も皆さんと一緒に巡回することになったんです。しおりさんに誘われて」
「てことは風紀委員側か……確かあいつと藤堂って剣道部だったな」


訊いてみると、はいと頷く藤堂。肩に掛けている竹刀袋に視線を向けて、表情がキリッと引き締めった。見ている側からしたら微笑ましい感じであるが、見た目と違って実力はホンモノなんだ。


「姉が副委員長なら、由香さんが俺に頼むことも知ってるわけか」
「はい、それを聞いたしおりさんがなら泉さんも一緒に加えて回ろうかと言う話になって……まだ近くにいると思って手分けして探していました」
「なるほど水野らしいな。前にやりあったのが原因か」 


思い出したくもないが、以前風紀委員会と小競り合いがあった時だ。原因は武にあると言っておくが、荒っぽいことにも慣れた風紀委員の水野姉妹を相手に色々と仕出かした。具体的な内容は省くが、あれは失敗だった。本当に心配だった。


「本当にこの学校って戦闘種族多過ぎるだろ」
「は、はぁ……そうですかね?」


曖昧に返事する藤堂に悪いが、俺の中で風紀委員会は『鍛え抜かれた戦闘集団』でしかないから。相手した俺が保証するわ。アレは間違いなく学生の皮を被っている戦闘種族。


「ナァー!」
「泉さん!?」
「いや、ちょっと叫びたくなってな」


く、思い出す度に嫌になる! アレは完全に黒歴史だ! 思い出すな! そのまま封印してろ!
元はと言えば武と久保くぼのバカコンビが入学早々に意気投合して、無謀にも女子更衣室なんかを覗こうとするからだ! バレたなら勝手に怒られろと言いたいのに、逃げてる途中で俺と英次えいじを巻き込みやがって!


……あと英次の奴、ヤバイと思ったか途中で俺達を見捨てて居なくなりやがった。逃げ足の速い奴め、いつか目に物を見せてやる!


「あの泉さん?」
「なんでもない気にするな」


忘れよ。思い出してもいいことも何もない。 


「それでどうでしょうか? 私も泉さんなら大歓迎ですが」


どうでしょうかと言われてもな。
何故か歓迎されてる。学校のアイドルに歓迎されるのは嬉しいが、裏であの剣娘が控えているなら寒気しかないや。


「ちょっとこれから行くところがあってな。悪いが今回は遠慮させてくれ」


アイドル女子からの誘いを断るとはどうかと思うが、今回は勘弁してほしい。
あいつが苦手なのもあるが、事態が事態だ。急展開した時を巻き込んでも悪いし、余計な面倒は避けるのがベストだった。


「わざわざ探してくれたのに悪いな」
「いえ、無理には言えませんよね。こちらこそ急に言ってすみません」
「……」 


うわー落ち込んでらっしゃる。これは辛い。けど万が一の可能性もあるから、こっち妥協して受け入れる訳にはいかないし。


「「「「…………」」」」ジッ……


ムッ! 校門前で話しているから周りから視線が……よく見たらファンクラブの奴らじゃねぇ?


彼ら視線に映るのは『学校のアイドルを謝らせてる男A』。


───アカン、このままだとファンクラブの連中に八つ裂きにされる。


「「「「…………」」」」ジジッ……


いや、違う、違うのだよ? 藤堂ファンクラブの諸君。
決してイジメてる訳ではないんだ。危険な目に遭わせないようにしているだけで、決して君らのアイドルを困らせてる訳では……。


「そ、そういう訳だから水野にも済まないって言っといてくれ。あと今度埋め合わせするから」
「え、本当ですか?」
「あ、ああ、大したことは出来ないが」
「はい、では今度栞さんと一緒にお食事などはどうでしょうか?」


しょ、食事! しかも水野も一緒だと!?
それは色々と命を賭けないといけない行為な気がする。藤堂とメシ食ってるところをファンクラブの奴等に見られたら俺が調理されるし、水野の奴も見た目は美少女だから性格は置いといてもお食事は……どうしよう。


最終的に俺がメインディッシュされる予感しかしない。ファンの連中とモテない男子達によってバッサリ解体調理されて。


「やっぱり、駄目ですよね(しょんぼり)」
「「「「(おい貴様、我らの姫に何をした?)」」」」ギロンッ
「そ、そんなことはないから! 全然大丈夫だから!」


何もしてないから! 背景に炎を出さないで!
ていうかファンクラブの連中もバケモンなのか!? なんか雰囲気がただの高校生じゃないぞ!
 

「あ、ありがとうございます! 嬉しいです!」


すんごい輝いてるよ、このアイドル。そんなに食事会が嬉しいのか、3人しかいないが。 
こういう女心は謎過ぎて分からないが、でもこれで周りも納得して安心してくれる筈……。


「「「「(おい貴様!! 我らの姫に何をした!?)」」」」ブチブチッ!


……まぁ無理か、俺も奴らの立場なら内容関係なく嫉妬してただろうし。ちなみに妹なら即悪斬だ! 俺の目が黒いうちは絶対認めませんよ!?
という訳で外野も怖くなってきたしそろそろ消えましょうか。ぶっちゃけ人が増えて良い見せ物になってる気がする。暗殺される予感も少なからずするけど、そこを認めると今後の学校生活が嫌になって不登校になりそうだからやめよう。


「ごめんな、俺そろそろ行くわ」
「あっ、すみません! 長い間引き止めてしまって」
「いいよいいよ! じゃ、また!」


殺気が充満している空間が学び舎とか思いなくない。さっさと目的地に向かって走ることにした。
その際、背中から複数の殺気を浴びながら思わず嘆息する。……アンタら未来の暗殺者かなんかですか?




******




場所はとある喫茶店に移る。店の名前は【猫まんま】。
古びた木の建物でどこか落ち着く雰囲気がある店に入ると、最初に目に入るのは1匹の猫だ。
何処にでも居そうな黒猫で、いつも机の上に敷いた座布団の上で丸くなって寝っている。この店の看板ネコだ。


「よー元気そうだなぁブウ」


俺もいつものように頭を撫でてあげる。
人見知りしないタイプであるが、親しい相手だとよく戯れてくれるから嬉しい。


「にゃ〜」
「やぁ来たか零」


和んでいると奥から声が掛かる。
薄いアゴ髭を生やしたおじさんが出て来た。


「そろそろだと思ったよ」
「どうもです、ひいらぎさん」


ひいらぎ幻蔵げんぞう
この喫茶店のマスターで俺の親父の知り合い。昔から良くして頂いて沢山の恩がある1人。暇な時が多いが店にはよく手伝いに来てる。


「何か手伝いがあれば、いつでも呼んでください」
「いやいや、こんな店に客なんてそう来ないよ?」
「バイト代は入りませんよ?」
「それが一番を困るんだけどなぁ」


柊さんは渋っているけど貰うつもりはない。
ただの手伝いでしかないし、俺としては恩を返しているだけだ。


「平日は難しいですけど、休日なら俺1人でも大丈夫ですよ。料理もできますし、遠慮なく言ってください」


基本客は少ない方であるが、平日でも窓の席や奥の席で数名はいる。これくらいなら俺だけでも大丈夫だ。


「いくら零とはいえ、私の店を預ける訳にはいかなさいさ。それに、これは殆んど趣味でやっているからね。君が気にすることじゃないよ」
「ただ手伝いたいだけなんですけど」


妙なところで頑固な人だなぁと思っていると、柊さんが棚から未開封の珈琲豆の袋を取り出した。


「せっかく来たんだ、珈琲でも飲んで行きなさい。良い豆が手に入ったんだ」
「……そうですね、頂きますか」


マスターの前にあるカウンター席に座り、珈琲を待つ。
出来るまでの間、マスターと世間話をする。最近の家の話や妹、学校関係やその他いろいろ話していったら、あっという間に珈琲が出来上がっていた。


そして珈琲を飲みながら世間話を続ける。
猫のブウも寄って来たので撫でながら柊さんに話を振る。


「ははは、相変わらず大変そうな毎日を送っているようだね」
「良いじゃないですか、望んでやってることなんですから」


柊さんは呆れたように笑う。主に妹の話であるが、やはり料理関連は同情したような目で見てくる。そう思うなら改善の方法でも教えてほしいが、……無理ですかね。


「君が良いなら構わないが、……あ、今夜8時位に逝い豆・・・が出て来る。場所はとある学校の裏側だが、君なら分かるだろうから取って来てくれないか?」


学校か……。
由香さんの話を思い出す。
俺の学校と周辺の学校を思い浮かべて、探るべき箇所を確認した。


「はい、いいでよ。逝い豆ですか〜楽しみですね」
「学校帰りにでも持って来てくれ。つまみも用意しておくよ」


どうやらここに来た意味はあったらしい。笑顔で頷くと手元の珈琲を一口。
その後、他愛もない話をしながらすり寄って来る猫を撫でる。飲み終わった頃には、ちょうど良い時間帯だった。


「ご馳走さまです、美味かったです」
「それは良かった。また明日」


店を出ると日が暮れかけていた。
とくに寄り道もせず家に帰宅した。




******




あれ? 安息の地に帰って来た筈なのに、俺は地獄界に迷い込んだのか?
帰宅してリビングを見ると、我が可愛い妹である葵様が既にキッチンの方へ……。
あれ? もしかしてゲームオーバー?


「あ、兄さん! お帰りなさい」
「タ、タダイマ……」


『絶望』とはこのことを言うのではないだろうか? なんとか葵に返事した俺であるが、目の前の光景に魂が抜け落ちたような感覚に襲われ、口から乾いた微笑みしか浮かべていなかった。  


「いつもより遅かったようですけど、もしかして柊さんのお店に行ってたんですか?」
「あ、ああ」
「そうですかぁー、最近行ってないので私も行ってみたいですねぇ……どうかしましたか兄さん? 顔色が悪いですよ?」
「そ、そうかなぁ?」


マ、マズい! 笑顔を浮かべて呼び掛けてくれたが、俺の顔を見て不思議そうに首を傾げてる! どうにか誤魔化すが、ぎこちない! キッチンの台にあるまな板と乗ってる新鮮そうなサンマさんが気になって、ポーカーフェイスが上手く出来ない!


ぐ、帰るのが遅過ぎた……! 普段は何とか夕飯だけは一緒に作ってたけど、俺がいないと勝手に作っちゃうんだよなぁーこの子は!(天使)


う、一体どうしましょう……アッ! よく見るとまだ始めたばかりっ! 活き活きとしたサンマさんは健在! 今ならまだ間に合う! サンマさんを助けれる! 俺も助かる!(本音)


「あ、葵さん!? もしよかったらこのお兄ちゃんと一緒にお料理でも……」
「兄さんすいません。今忙しいのでアッチ行っててください」ジャキン!


いつの間にか包丁を握り締めた妹様が凄い集中して、板とサンマさんに構えてた。鋭い横目がソファーを指していた。どうやら俺が悩んでいる間に戦闘体勢お料理モードに入っちゃったようだ。


「……」


俺は妹想いのお兄ちゃん、お兄ちゃんなのだ。
だから妹からのご命令、お願いは聞かなくてはならない。
だがしかし、己の命を対価にするのは、さすがに……サンマさんを正しく調理すれば美味しく頂ける。……だが、それをすれば妹の努力を無にすることにぃ……!


『己の身』と『妹への想い』と……あと『サンマさんの運命』。 


さぁ、ジャッジだ!!


「もう少しで出来ますから、テレビでも観て待っててくださいね?」
「はい……」


結果は……考えるまでもなかった。


勝者 妹(天使)。
敗者 兄(残念兄)。
代償 己の身(自業自得)。
報酬 サンマさん(調理されたスペシャル) 


こんな感じで夕飯も朝食と同じくらい愉快なもの命懸けだった。
さらばサンマさん……そしてサラバ俺(涙目)。


「はい、兄さん!」


けど、やっぱり天使サイコー! この笑顔だけでお腹一杯になる!
え、料理だって? そんなもんいくらでも乗り超えてやるっ!


……なんておかしなテンションで料理を食った俺が、うっかり星になり掛けたのは言うまでもなかった。きっと武の奴がいたら「シスコン此処に極まり!」なんて言いそうだけど、頭が真っ白になっている俺には、認識すら出来なかったと思うけど。
はぁ、マジで学習能力ないなぁ、俺って。




******




夜のとある学校───零が通っている学校の裏側は、人気のない通り道。辺りのお店は大体18時過ぎには閉まる為、人の気配は殆んどない。


「やっばー!? すっかり遅くなっちゃった! 早く帰らないとお母さんに怒られちゃう!」


部活の練習で遅くなった女子学生が慌てた様子で走っていた。零の通っている学校の上級生だ。
彼女には2つの不幸があった。
1つは公になるのを避けていた学校側の所為で、行方不明の話を聞いてなかったこと。仮にその話があれば1人で帰ろうとしなかった上、部活自体も時間を省略するか休みになっていた筈だ。


2つ目は時間帯である。警戒して巡回していた学生達も時間が遅い為、既に帰宅している。何名か残って巡回している者いたが、残念ながらこの付近には1人もいなかった。
つまり、今彼女は1人だ。


『グルゥゥゥ』


【魔獣】にはランク関係なく色んなタイプがある。


『グルゥ……』


知能が低くタイプ、攻戦的なタイプ、知能が高いタイプなど様々。  
ランクが高いほど知能の高いモノもいれば、逆に知能が低過ぎるが、攻撃的で厄介なモノも存在した。


今回の魔獣は知能の高い。しかも相当思考を巡らせるタイプだ。
そして臆病でもある。


計画的に行動する存在であり、獲物を捕らえても騒ぎを最小限にする為、欲張るようなことはしない。自分達を狙う狩人・・にも気付かれないように知恵を絞り、生き残れるように策を巡らせて、これまでもバレずに生きて来た。


しかし、所詮は飢えた獣であった。


『グルゥグゥ……!』


栄養源を摂取しつつも自分の存在・・を大きくし過ぎないように工夫してきたが、それでも限界はある。
魔獣は大丈夫だと思っていたが、噂が出だしているが証拠である。騙し騙しでやって来たが、食欲が増していったことで魔獣は後先考えれなくなっていた。


『グルゥゥゥ……!』


なんとか夜まで待ったが、もう我慢の限界だった。
女子高生の背後に体長3メートルほどの黒い影が出現。走っている彼女に余裕で追い付くと、その小さな背後を覆いそうな勢いで捉える。


飢えたような獣声を出しながら、一気に背後から襲おうとする魔獣。
それはまるで『喰いたい! 喰いたい!』と叫んでいるようだった。
予定通りなら目的の獲物を喰らえる筈だった。




「……」
『グルゥ!?』




欲を掻いた獣はミスを犯した。 
獣は今夜、現れるべきではなかった。


自分達を狙う異能者狩人がいつの間にか、無言のまま……目の前に立っていた。 


「……」


ここから先は泉零のもう1つの世界の話である。


“冷徹な戦士”前編へ続く。




おまけ───『とある校門前ファンクラブ


男子A「オイ、見たか?」


男子B「あぁ、見た」


男子C「俺も」


男子D「僕も」


男子E「俺もだ」


会員一同「「「「おのれ泉零ッ! 我等がアイドルの藤堂楓様と何イチャイチャしてんダァァァァ!!」」」」


男子C「またあいつか!」


男子B「許せんっ!」


男子D「何でいつも、あいつなんだ……!」


男子A「ランキング上位の女子を次から次へと〜!」


男子E「生徒会の女神様達だけではない。風紀委員の女王様や姫騎士、戦乙女達にまで被害が出始めている……!」


男子A「それ以外にも、クラスメイトや別のクラスの女子などにも影響が」


男子B「これ以上ガマンなんて出来ません! 会長やはりキチンとした処理を!」


男子C「俺が殺る! 確実に仕留めてやる!」


男子E「いや俺が! 隠蔽まで任せろ!」


会員一同「「「「「会長、我等に粛清の許可を!!」」」」


会長「……駄目だ、許可できん」


会員一同「「「「何故ですか!? 会長!!」」」」


会長「楓様ファンクラブ校則第6条」


会員一同「「「「───!! 我等ファンクラブ一同は、どのようなことがあろうと決して楓様を悲しませてはならない」ビシッ!!


会長「そうだ。残念ながら楓様は、あの男と親しく話している。もしこれを妨害すれば、優しい楓様は、きっと悲しんで仕舞われる」


会員一同「「「「ぐっ!!」」」」


会長「しかし、妨害は認められないが、それ以外は別だ」


会員一同「「「「ッ───!!」」」」


会長「あの者がもし楓様に危害を加えようとしたら、我々の出番だ。楓様ファンクラブ校則第13条」


会員一同「「「「楓様に危機が迫ったら、命を懸けてそれを排除するっ!!」」」」


会長「皆の者よ、その怒りは、溜めておけ。決戦の時まで」


会員一同「「「「ハイ!!」」」」




周りの学生達「「「「(背中から炎が視える……)」」」」




*零が通う学校の生徒達は、異常な光景に対して慣れている者が多い(変人が多いから)。

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