居候人は冒険者で店員さん

ルド@

【任務完了その1】

「うっ、そんな……こんなことって」


突如砕け散った魔銃ライフルに驚くロサナだが、続けて襲い来る衝撃波に体を飛ばされ屋上の地面に叩き付けられる。
硬い地面に叩き付けられ痛みで苦悶の表情を浮かべるが、それよりも……と視線を向けて無残にも先端から半分が粉々になった愛銃を見つめて息を呑む。


「いったい何が……!?  ──ッ、いいえそれよりも!!」


だが、悲観している場合ではない。一体なにが起きたか分からないが、スコープ無しの魔眼で見える舞台上では、標的であるカインが観客たちに手を振っている。──勝者として。


「……」


失敗したのだ。暗殺に。
どうして失敗したか、それも分からない。


「……逃げないと」


とにかく今は逃げることが重要だ。暗殺に失敗した以上ここは危険だ。いつ追手が来るかもしれないし、それ以上にこの事態の異常性に賞金稼ぎとしての経験から培った勘が警告を発していた。


(大丈夫、大丈夫……)


急がなくてもまた次に狙えばいい。焦る気持ちを落ち着かせようと前向きに考えるロサナ。
しかし、あの青年の顔が脳裏にぎると、次第に落ち着こうとした気持ちの上へに焦燥感が上塗りされていく。
壊れてしまった狙撃銃をアイテムボックスの袋に回収。自分に関係する痕跡をすべて消した上で、下の階に続く階段を目指して駆けて建物から出ようとした。




一階の出口に差し掛かったところで、微かに背筋に感じた殺気に反応するまでは。




「っ!」


避けれたのは長くこの世界で生きてきた経験のお陰だ。
背筋に感じた殺気に対し思わずその場から飛び退いた結果、彼女が立っていた場所に数本の矢が突き刺さる。位置からして足元を狙った物のようで、直接彼女を討ち取りに来た訳ではないようだが。


その突然の矢の飛来に目を見開くロサナは、出口から飛んできたのを見て相手は外から待ち構えていると悟り方向を変える。外の気配に注意しつつ、一階の他の出口……とは呼べない窓まで駆けていくと勢いよく突撃。破るようにして外に飛び出た。


「っ……!!」


『おおっ!?  なんだ!?』


『どうした!?』


念の為に外の見取りを覚えていたことが功をそうした。
狙撃ポイントを見つけた際に一番に見張られるであろう場所と分かっても見張りが難しい場所は把握していた。
ロサナが飛び出たのは人混みが多い路地付近。本来なら危険な位置かもしれないが、今は祭りの影響で人が多過ぎて、とても派手な真似ができない状態だ。


『…………』


売店もすぐ側にあって店員らしき者たちがポカンとした顔で目を向けている。
現にロサナが出て来たことで、急遽見張っていた私服の憲兵らしき者が数名慌てて近付いて来るが、人混みを掻き分けながらの為時間が掛かっている様子だ。向こうからしても予想外の場所からの登場だったようで、かなり慌てているのが見て分かった。


「ふふふっバイバイ」


そんな彼らを被っていたロサナがローブの隙間から見て微笑む。多少視線が集まってしまったが、慣れた様子で立ち上げると荷物カバンを肩に掛けて人混みに紛れる。
ちょうどその時、部下からの連絡で到着したアーバンが部下の視線から、ローブ姿の狙撃手らしきロサナを見つけたが、人が多過ぎるのが問題だった。


「く……逃したか!」


ヴィットのような高位の探知能力もない、彼の包囲網を潜り抜けて“魔弾の瞳”ことロサナはアーバン直属の憲兵たちの追跡から逃れるのだった。


















ピーー!  ピーー!






そう、憲兵たち彼らの包囲網から逃れることはできた。




「頼めるか?  位置は────」


しかし、はどうか、既に配置に着いたであろうか。


「可能なら生きたままがいいが」


通信機で連絡をしつつ視線を試合が行われた舞台の近くで、こちらからでも見える建物へ向ける。
さすがに建物ということ以上は見て分かる筈もないが、微かに太陽の光で何かが反射しているのが分かる。


それだけで彼が準備が整ったのだとアーバンは理解したところで。




『任せてください。一撃で決めます』




なんとも頼もしい返事と共に舞台付近の建物から、誰にも気付かれないように速度で翔け抜けていくのは光だ。




スザクの街の上空を通過するように、銀の流星が飛来したのだ。




***




「がっ!?」


それはようやく追跡の気配も消えて、完全に撒いたかと安堵し掛けた直後だった。
そのまま人混みに紛れ続けながら安全を確認しようとしたが、突如背中から強い衝撃が走り前に倒れてしまう。初めは誰かが鈍器でも打ってきたのかと感じたロサナだったが、その次に体を弄るようにして後ろから両腕を縛ってくる何かに慌てて振り返った。


「ちょ、何して……ッ!?」


まさか堂々と強姦行為か、それとも憲兵が置い付いてきたかと思ったが、視線の先には誰もない。


「へ?」


いや、何事かと周りの人たちが見ているのは分かるが、その視線の先は少々自分からはズレている。それが縛っている腕の部分だと気付くと同時に、首がキツイが強引に後ろの腕の部分を見たが。


「え、え?  な、なんなのこれって?」


最初はワイヤーかロープの類かと思われたが、彼女の腕を縛っているソレは銀色だが、ワイヤーにしては随分太く金属にしてはロープのように柔らかい。
そしてロープにしては、肌に当たる感触は金属のように冷たく、見た目自体も金属のそれであった。


(手錠の類?  まさかマジックアイテムの?  それにしては魔力が全然見えないのだけど)


魔眼持ちの彼女は魔力を見ることができるが、腕を縛り上げている金属のロープから一切の魔力が流れていない。


「ああ〜〜アンタもしかして何かやらかしたかい?  そりゃヴィットの“クリアストーン”で出来た“グレイプニル”じゃないか」


「え? グレイプニル……?」


どうにか外せないかと腕を捻らせていたが、それを見ていた街の人らしき中年の男性から声が掛かる。ローブの所為で男か女かイマイチな声のかけ方だったが、強引に声のする方へ顔を向けたことで、ローブの内側から見えるロサナの魅惑的な美貌に目を剥いて戸惑ってしまう。


「ッ……お、おお、軽くて桁外れの強度のある天然石で凄いんだが、その異常な硬さのせいで加工が一切出来んって、鍛冶屋も加工屋も投げ出した残念素材だ」


ここの辺りでは珍しくない石だったこともあり、話し出す男性も含め、近くにいた街の者たちも一緒に頷いている。中には鍛冶屋の者もいて苦い顔で同意していた。


「けど、ヴィットだけは別だった。どんな手を使ったか知らんが、誰も見向きもしなかったそいつ・・・を加工しただけでなく、自在に操れるように改良したんだ」


そこまで言い切ると今度は隣にいた鍛冶屋の男性が、その話に呆れたようにロサナに警告した。


「言っておくが逃げない方がいいぞ?  それを使っているってことは逃亡中ってところだろ?  無茶苦茶な機能が良いから街では仕事と緊急時以外じゃ使わないって、前にアイツが言ってたし、目立つから使う機会も少ないんだよ」


「おーーい!  憲兵さん!  こっちこっち!」


もう囚われているロサナのことを犯罪者として捉えた発言だが、他の者たちから否定的な言葉も視線もない。慣れたような動きで理解していない見物人たちを遠ざけて、近くに憲兵を呼んでいる。


「まったくお嬢ちゃん馬鹿だね。何したか知らないけど、この街でヴィットちゃんにちょっかい出すなんて無茶なことするね」


「ああ、アイツの索敵網は街全体で裏路地も知り尽くしている。逃げようなんてムリムリ」


「それにカイン君ともお友だちだからな。Aランク以上の実力者を2人相手するようなもんだよな」


「え?  あの2人って友達だっけ?」


などなど、憲兵が到着するまで動けないロサナの警戒しつつ、そんな会話する街の住人たち。
本当に慣れ切っているのか、腕の拘束のみロサナが身動ぎしても反応しなかった。腕
に魔力を流して強引に“グレイプニル”を破ろうとしているのが分かっても。


「っ!?」


失敗に終わることが分かっていた。
だから腕に込めた魔力が霧散してしまった感覚に狼狽するロサナを見て、苦笑しながら1人の男が首を横に振った。


「だからムリなんだってよ。そいつは頑丈なだけじゃない、魔法使いには厄介極めりない『魔力も通さない』特殊な石なんだ」


なんだと!?  と男のセリフに驚いた顔で目を見張るロサナ。
そん馬鹿なことがあるかと何度も腕に魔力を込めてるが、すべて霧散するだけ。それどころか魔眼以外、ほぼ外に魔力を放出する魔法はすべて放出前に霧散してしまう。


「そんな……」


「ま、そういうことだ」


信じらない話だが、この“グレイプニル”は魔力を通さないだけでなく、魔力そのものも封じる効果があるようだった。
見た目が惚れ込んでしまいそうな顔立ちの所為で、少々不憫に感じてしまう一部の男性。
しかし、他の厳しい顔をする男性や女性陣から、冷たい眼差しを向けられてしまい慌てて視線を逸らす。


ヴィットが冒険者して1人で活動するようになってから、もう何度もこういう場面に遭遇してきた街の住人たち。
安全性の高いヴィットの“グレイプニル”の性能を知っている所為で多少気が緩む部分もあるが、確実に暴れそうになる相手を拘束するヴィットの手際には、いつも感謝している。


だからこそ冒険者として些か良くない噂があっても、昔から彼を知っている街の者たちはそれほど気にしていなかったりするのだ(代わりに原因となったギルドマスターに対して、不満の声を漏らす者が多かったりした)。


そんな感じでいつのもことだと・・・・・・・・判断して、見張りをする住人たちの元へ。
部下を引き連れてやって来たアーバンが到着。
無事に確保された狙撃手と思われる女性を見て安堵の息を出すと、部下に指示しながら通信機をオンにして連絡をした。




***




「終わったか」


その様子を離れた建物の半開きにした窓から、視力を強化して見ていたヴィットが呟いた。
手元には銀色で出来た頑丈そうな弓が握られており、彼がいつも腰に下げていた銀の鎖は、半分になっていた。


一仕事終えたとヴィットは、ほっと息を吐いたが。


【全然出番なかった!!】


【不満不満!!】


そんな彼と逆に大いに納得がいかないといった、彼女たちの抗議の声に響き渡る(ヴィットのみだが)。
その声にヴィットは肩を竦めて頼らなくてゴメンゴメンと謝罪すると、掛かってきた通信機を耳に寄せた。




こうしてAAランク相当の賞金稼ぎ、“魔弾の瞳”が引き起こしたカイン暗殺未遂は、ヴィットとアーバン率いる直轄の憲兵たちによって、暗殺失敗とその狙撃者の確保という形で無事に終わりを迎える。


騒ぎも特に発生せず街の住人にはいつものことだと、告げたことでパニックも起こらず、その後も無事に祭りは続くのだった。










*因みに一番危険な場面に立っていたカインには、ヴィットもアーバンの特に感謝も苦労に対する言葉も無く、舞台上には放置の近い扱いにショックする涙目のカインだけが残っていた。その様子に試合したリリィに会場の者たち、それにパーティーメンバーも不思議そうに首を傾げていたが、唯一事情をなんとなく察した妹のリアナだけは、「ヴィットさんらしいなぁ」と不憫そうに兄を見つつ苦笑するのだった。



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