居候人は冒険者で店員さん

ルド@

【警備開始その7】

試合が始まる直前。
武舞台の周りに設置してある観戦席はすべて満席。
その後ろにも大勢の人が立ち見している。外から来た者や街の住人もこの試合の話を耳にして駆けつけていた。


Aランクチーム【ヴァルキリー】の斬り込みエース。
南のスザク街一の最速ランカーなAAランク冒険者。


この2枚カードに観戦者たちの注目は集まっていた。


「な、聞いたか?  なんか試合相手が変わったらしいぞ」


「なんでも体調崩したって言って部屋に篭ったそうだ。ま、間違いなくウソだがな」


「逃げたか。どうせ相手がただの冒険者じゃなくて学生だから。負けたら騎士団から笑われると思ったんだろ」


「で、ちょうどコンサートを開いていた【ヴァルキリー】に目を向けたってことか」


「試合相手があの【ヴァルキリー】なんだろ?  いくらカインの奴でもヤバくないか?」


「なわけあるか、あのカインだぞ?  街どころか国の中でも最速でランクを上げたんだ。それについこの間AAランクになったんだぜ。あいつならAランクチームの【ヴァルキリー】でも勝てるさ」


「聞いた話じゃリーダーじゃないらしいしな。まず負けんだろ」


観戦者たちの感想は様々である。
試合を放棄した騎士については例外なく低評価。
しかし、入れ替わったことで、できた組み合わせには、全員が大歓迎であった。









「ア・ン・タ・はー!!」
「落ち着け、話せば分かる」
「何が落ち着けだ!  またいなくなって!  いちいち単独行動しないと気が済まないのか!」


人混みに紛れて姿を消したヴィットが戻ってきたところで、顔を真っ赤にして待っていたミオが一喝。相当ご立腹な様子で額に血管を浮かべて睨みつけていた。


「単独って、ちょっと人混みに飲まれただけでその言われようとは……」


ミオの言葉に苦笑いで答えるヴィット。
ふと何か気付いたように視線をミオの後ろへ移す。
彼女から少し離れた場所で残りのメンバーと他の警備チームと思われる人が集まっているのが見える。


どうやら元々警備に当たっていたチームの人と、代表としてマリアが話をしているようだ。
声は聞こえないが、特に怒鳴り合っている様子ではない。おそらく思いのほか人が多いことからちょうど増援に来た彼女らとの配置について相手側のチームが一度相談しに来たといったところであろう。


その話をしているマリアの後ろにリアナとルリが待機しているが、憤慨しているミオに気付いてこちらを見ている。初めは慌てた顔をしていたが、他のチームも見ているとすぐに切り替えて小声でマリアの耳にヴィットが戻ってきたことを伝えていた。


「なぁーにが人混みに飲まれたよ。自分から飲まれたくせによく言う」


「いやいや、結構やばかったって。あの人の波だぞ?  あれはヘタしたら衝突事故が多発するわ、あれは」


人が多かった所為で起きた事故のようにしたかったが、少々大ごとになったかと内心頬を掻きつつマリアたちからミオに向くが、その顔には先ほどよりもより一層、苛立ちの色が濃くなっていた。


「……通信機のスイッチをオフにしていたくせに何が事故よ。ワザといなくなったっていうのはみんな知ってるからそのつもりでいなさい。リアナなんて全然戻ってこないアンタが心配なって何度も連絡したんだから」


「え……」


なんとと言った驚いた顔をするヴィット。
確かに途中で通信が入ると面倒だからと切っていたが、まさか何度も呼びかけられていたとは。しかもこちらが意図的にいなくなったことを察しているふうであったリアナが。


いや、普通に考えれば掛けてきて当たり前かと改める。
それにリアナの性格も考慮すれば、心配して呼びかけてこちらから連絡が来なければ不審に思って何度も掛けてくるのも当然である。


ミオも同じことを考えているようだ。


「ま、さっきまでのこともあるし、どこに行っていたか敢えて聞かないけど。普通姿が見えなくなったら連絡するんだから、不安にさせたリアナにはちゃんと謝りなさいよ」


「わ、わかった。ミオもホント悪いな」


「ホントにね。いなくなるにしても、何か理由くらいつけていきなさいよ」


若干怒気を収まり呆れた眼差しでヴィットを、そして横目で一度リアナを見るミオはため息をつく。本来なら1発くらい引っ叩いてもいいかもしれないが、この男の只者でないのはもう理解している手前、何か訳があるのも分かりたくはないが察していた。


「というかアンタって結構不器用ね。前の話し合いの時もそうだけど、あんなにアンタのことを信頼してるのに心配させてばっかりで」


その時であった。
ミオには聞こえない。
彼女の言葉を聞いた彼の瞳が僅かにブレた途端、カキッ、と何かが切り替わる音がした。


「わりと手先は器用なほうなんだが、人付き合いわなぁ。信頼なんて程遠い・・・・・・・・才能がすべての人生なんて送った所為か。優しさが怖くて無意識に遠ざけようとすっ……、……、……。あ、あの優しさはあんまり経験がないおれには眩し過ぎるんだ」


なのでミオとして辛口のつもりの発言であったが、その言葉は思わぬヴィットの本音を引き出すこととなった。途中で何か言い直したように口にしたが、ミオが気になったのはその前の言葉。


いつものような声色、口調とは異なっていたヴィットの言葉。
ミオは真意を聞かされたのだと思う前に、その声に何か聞き慣れた・・・・・雰囲気があったのを感じて自然と顔を彼に……。


「顔が近いんだが」


「っ!  あっ!」


思考から抜けたところで無意識に顔を彼に近づけていたと驚き狼狽するミオ。
彼の声でハッと正気に戻り素早く離れたが、その衝撃は心臓の音は大きく跳ね上がり彼女を動揺させる。


「な、なんでこんな……」


「どうかしましたミオ?」


何故こんな取り乱すのか。理解できない自分の状態に戸惑うミオだが、その間に話を終えて戻ってきたマリアに呼びかけられて振り向いたことで、その疑問は一旦隅に置くことになった。















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