居候人は冒険者で店員さん
【警備開始その6】
「模擬試合?」
「はい、現在同じ場所で行なっているんですが、急に出れなくなった人がいまして。その試合だけ不戦勝で勝ち上げあるか検討しましたが、どうせなら出てみないかと…………ど、どうでしょうか?」
「うーん、そうだね」
憲兵の女性からの申し出を受け考えるように腕を組む【ヴァルキリー】のリーダー。急な申し出に戸惑うメンバーをよそに興味が持ち出てみようか考えている。本人たちの今回の目的はあくまでこの催しで盛り上げることだが、同時に我々は戦い専門の冒険者でもあることも自覚している。
だから返答などせずリーダーの彼女は出ることを前提で口元に弧を作って話を進め出した。
「面白いことになったが、さて誰が出るか」
「え、出てくれるんですか!?」
「勿論だこんな面白いイベントを逃すのは惜しい、なんなら私が出ても構わな───「それだけはやめてくださいリーダー、あなたが出たら私たちの面子が潰れます!」」
試合への出場意思あるどころかとんでもないことを口にしかけたリーダーを止めたのはメディである。別に出たくないわけではないが、ただの試合でいきなり自分たちのリーダーを送らせるような安いプライドなど持ってはいない。
出るならいっそ自分が出ると副リーダーでもあるメディが手を上げようとしたが、そこで先程から不思議なほど黙っていた彼女が勢いよく挙手をした。
「はいは〜〜い!!  私が出たいでーーす!!」
と、挙手をしたのは【ヴァルキリー】の問題児かつ期待のエースのリリィだ。
見た目は立ち振る舞いから子供のような印象がある彼女だが、その実リリィの実力を疑うものはこのチームにはいない。
「本当なら私が出たいが、まぁ仕方ないか」
「あっさり譲るんですね」
そしてリリィに甘くあっさり出場を認めたリーダーに、呆れたように溜息をつくメディ。
苦労人のメディは彼女の出場に若干不安を感じるようだが、その実力は疑っておらず最後は皆と一緒に認めるのだった。
*
「あ、これ美味しいですねヴィットさん」
「そうだな」
昼休憩になったこともあり、一度全員集まったところで食事に入った。
といっても出店の物を食べながら周囲の様子も見ていた。
「偶にはこういう食べ歩きもいいわね」
「カインがいたらもっといいけど」
「うん」
他のメンバーも同じように取っているが、内2人からやはり距離は取られている。ミオとは少しだけうち解けたかもと思ったが、やっぱりまだまだなようだ。……というかカインがいたらとか余計だ。このミオ・ルリコンビめチームの中でも1位2位の問題児な癖にこんな時だけ同時に頷いて息ぴったりだな!
にしても、
「マリアさんたちも色々面倒だったみたいですね」
「ええ、そちらの方と同じだったようですが、随分騒いでいる人が多かったです」
「それも祭りの影響……か」
合流した時にお互い報告をしあったところマリアさんたちの方も迷子の子の保護やおれたちと似た揉めごと処理をしていたそうだ。……何か妙な気がしたが、現状調べようがないので保留しにする。
「ホント、カインがいたらどんなにいいかね〜〜」
おいこら、さっきからカインカイン煩いぞ。そんなにイケメンがいいのか?  何度も言うがあんな奴なんてそのうちホント刺されるぞマジで。
ミオがグチグチ言っている中、リアナちゃんとマリアさんは苦笑して慰めるような目でおれを見てくるので手振りして誤魔化した。
と、カインといえば、
「そろそろ試合が始まる頃だな」
「あ!  そうでした!」
時間的にちょうどいいかもしれない。
声を上げたリアナちゃんもそうだが、他のメンバーも目の色を変えていた。
いや少し違うか、知ってはいたが誰も口にしないから誰かが言うのを待っていたかのようだ。表情には出さないようにしているが、おれの能力はその感情の色を見極める。
仕事中ということもあり好きなカインの試合を見たいなんて言い出せない。
ミオやルリもそんな感じなのは分かっていたが、マリアさんも行きたそうにしているのは今分かった。
これなら───
「警備ついでに見に行くか?」
「「「「───っ!!」」」」
少々強引かもしれないが、おれから切り出せば彼女たちも揺らぐだろう。
「試合となれば見ている人も増える。さっきみたいに興奮して揉める人も出てくる可能性も高い。一応他の警備をする人もいるが、あらかじめ本部に連絡して増援に行けば納得してくれるだろ」
仕事中に何をと周りから言われそうだが、おれたちは警備を名目にちゃんとした理由を伝えておけばある程度は認められるはず。……という感じでアーバンさんに言って責任者の了解を取ってもらうので大丈夫だろう。
「じゃあ、試しに連絡してみるからちょっと待てくれ」
と言っておれはまずアーバンさんに連絡をした。みんなが側にいるのであまりおかしなことは言えないが、察し良いアーバンさんはおれが本部の人と話しているふうを装っている理由にすぐに気付いてくれた。
『了解、こちらで話を通しておく。君たちは試合の方に向かってくれ』
といった感じで早々と許可を取ってくれた。流石街の憲兵の隊長だ、普段は扱き使ってくるが、やはり顔が利くので面倒な状況の時は頼りになる人だ。
そして了解が取れたことをみんなに伝える。
時間までまだ余裕あったが、みんな早く行きたいといった様子だったので早めに移動することにした。
内心ホントに好かれているなぁ、と呆れるおれだったが、こちらも早めに動きたかったので女性陣の早足に対しても特に告げようとはしなかった。
*
「よ、カイン、遊びに来たぞ」
「お、ヴィット!  って、どうしてここに?」
「ん、だから遊びにさ」
移動してから数分後、おれたちは試合が行われている場所に着いたが、そこはすでに人で溢れかえって警備にあたっている人も苦戦している様子であった。
やむなくおれたちも試合の様子を伺うようして見回りをしていたが、それがおれの狙いでもあった。気配を消して人混みに紛れてこっそり舞台上の裏に設置してあるテントに向かった。リアナちゃんだけはおれの移動に気付いた様子ではあったが、特に指摘はしようとはしなかったので無事に控え室にいたカインに会うことができた。
驚くだろうな思ったが、まさに予想通りだった。
武者震いか緊張した様子で待機していたカインの声をかけると、カインは驚き声を上げてまずおれがここにいることに呑気に首を傾げていた。
この野郎、完全に忘れているな?
コンサートの件、おれは忘れないぞ?
「遊びにって……。確か外に警備の人がいた筈だけど」
「黙っていたヤツのお灸を据えるからな。これは遊びだぞ───カ・イ・ン?」
「後半のセリフは全部無視か───って、やっぱり根に持ってたか!!」
質問に一切無視した様子のおれに呆れてすぐ顔を引きつらせて後ろに下がるカイン。まぁ、当然の反応かもしれない。この男は手伝いをしたおれにあろうことか、数少ないおれの楽しみを奪ったのだから。逃がすつもりなど毛頭ないのだ。
おれはニコリと微笑んで拳を握りしめて…………一言。
「とりあえず、クタバレ」
「ぎゃぁあぁああああああああ!?」
天誅を送ることにした。気で強化した拳で。コンサートを見られなかった恨みは重い。
……などなど思ったが、こうしてここにやって来た理由を思い出し視線をだらしなく倒れているカインに移した途端。
「…………やっちゃった」
───なにをやってんだと、おれは頭を抱えてしまった。
「はい、現在同じ場所で行なっているんですが、急に出れなくなった人がいまして。その試合だけ不戦勝で勝ち上げあるか検討しましたが、どうせなら出てみないかと…………ど、どうでしょうか?」
「うーん、そうだね」
憲兵の女性からの申し出を受け考えるように腕を組む【ヴァルキリー】のリーダー。急な申し出に戸惑うメンバーをよそに興味が持ち出てみようか考えている。本人たちの今回の目的はあくまでこの催しで盛り上げることだが、同時に我々は戦い専門の冒険者でもあることも自覚している。
だから返答などせずリーダーの彼女は出ることを前提で口元に弧を作って話を進め出した。
「面白いことになったが、さて誰が出るか」
「え、出てくれるんですか!?」
「勿論だこんな面白いイベントを逃すのは惜しい、なんなら私が出ても構わな───「それだけはやめてくださいリーダー、あなたが出たら私たちの面子が潰れます!」」
試合への出場意思あるどころかとんでもないことを口にしかけたリーダーを止めたのはメディである。別に出たくないわけではないが、ただの試合でいきなり自分たちのリーダーを送らせるような安いプライドなど持ってはいない。
出るならいっそ自分が出ると副リーダーでもあるメディが手を上げようとしたが、そこで先程から不思議なほど黙っていた彼女が勢いよく挙手をした。
「はいは〜〜い!!  私が出たいでーーす!!」
と、挙手をしたのは【ヴァルキリー】の問題児かつ期待のエースのリリィだ。
見た目は立ち振る舞いから子供のような印象がある彼女だが、その実リリィの実力を疑うものはこのチームにはいない。
「本当なら私が出たいが、まぁ仕方ないか」
「あっさり譲るんですね」
そしてリリィに甘くあっさり出場を認めたリーダーに、呆れたように溜息をつくメディ。
苦労人のメディは彼女の出場に若干不安を感じるようだが、その実力は疑っておらず最後は皆と一緒に認めるのだった。
*
「あ、これ美味しいですねヴィットさん」
「そうだな」
昼休憩になったこともあり、一度全員集まったところで食事に入った。
といっても出店の物を食べながら周囲の様子も見ていた。
「偶にはこういう食べ歩きもいいわね」
「カインがいたらもっといいけど」
「うん」
他のメンバーも同じように取っているが、内2人からやはり距離は取られている。ミオとは少しだけうち解けたかもと思ったが、やっぱりまだまだなようだ。……というかカインがいたらとか余計だ。このミオ・ルリコンビめチームの中でも1位2位の問題児な癖にこんな時だけ同時に頷いて息ぴったりだな!
にしても、
「マリアさんたちも色々面倒だったみたいですね」
「ええ、そちらの方と同じだったようですが、随分騒いでいる人が多かったです」
「それも祭りの影響……か」
合流した時にお互い報告をしあったところマリアさんたちの方も迷子の子の保護やおれたちと似た揉めごと処理をしていたそうだ。……何か妙な気がしたが、現状調べようがないので保留しにする。
「ホント、カインがいたらどんなにいいかね〜〜」
おいこら、さっきからカインカイン煩いぞ。そんなにイケメンがいいのか?  何度も言うがあんな奴なんてそのうちホント刺されるぞマジで。
ミオがグチグチ言っている中、リアナちゃんとマリアさんは苦笑して慰めるような目でおれを見てくるので手振りして誤魔化した。
と、カインといえば、
「そろそろ試合が始まる頃だな」
「あ!  そうでした!」
時間的にちょうどいいかもしれない。
声を上げたリアナちゃんもそうだが、他のメンバーも目の色を変えていた。
いや少し違うか、知ってはいたが誰も口にしないから誰かが言うのを待っていたかのようだ。表情には出さないようにしているが、おれの能力はその感情の色を見極める。
仕事中ということもあり好きなカインの試合を見たいなんて言い出せない。
ミオやルリもそんな感じなのは分かっていたが、マリアさんも行きたそうにしているのは今分かった。
これなら───
「警備ついでに見に行くか?」
「「「「───っ!!」」」」
少々強引かもしれないが、おれから切り出せば彼女たちも揺らぐだろう。
「試合となれば見ている人も増える。さっきみたいに興奮して揉める人も出てくる可能性も高い。一応他の警備をする人もいるが、あらかじめ本部に連絡して増援に行けば納得してくれるだろ」
仕事中に何をと周りから言われそうだが、おれたちは警備を名目にちゃんとした理由を伝えておけばある程度は認められるはず。……という感じでアーバンさんに言って責任者の了解を取ってもらうので大丈夫だろう。
「じゃあ、試しに連絡してみるからちょっと待てくれ」
と言っておれはまずアーバンさんに連絡をした。みんなが側にいるのであまりおかしなことは言えないが、察し良いアーバンさんはおれが本部の人と話しているふうを装っている理由にすぐに気付いてくれた。
『了解、こちらで話を通しておく。君たちは試合の方に向かってくれ』
といった感じで早々と許可を取ってくれた。流石街の憲兵の隊長だ、普段は扱き使ってくるが、やはり顔が利くので面倒な状況の時は頼りになる人だ。
そして了解が取れたことをみんなに伝える。
時間までまだ余裕あったが、みんな早く行きたいといった様子だったので早めに移動することにした。
内心ホントに好かれているなぁ、と呆れるおれだったが、こちらも早めに動きたかったので女性陣の早足に対しても特に告げようとはしなかった。
*
「よ、カイン、遊びに来たぞ」
「お、ヴィット!  って、どうしてここに?」
「ん、だから遊びにさ」
移動してから数分後、おれたちは試合が行われている場所に着いたが、そこはすでに人で溢れかえって警備にあたっている人も苦戦している様子であった。
やむなくおれたちも試合の様子を伺うようして見回りをしていたが、それがおれの狙いでもあった。気配を消して人混みに紛れてこっそり舞台上の裏に設置してあるテントに向かった。リアナちゃんだけはおれの移動に気付いた様子ではあったが、特に指摘はしようとはしなかったので無事に控え室にいたカインに会うことができた。
驚くだろうな思ったが、まさに予想通りだった。
武者震いか緊張した様子で待機していたカインの声をかけると、カインは驚き声を上げてまずおれがここにいることに呑気に首を傾げていた。
この野郎、完全に忘れているな?
コンサートの件、おれは忘れないぞ?
「遊びにって……。確か外に警備の人がいた筈だけど」
「黙っていたヤツのお灸を据えるからな。これは遊びだぞ───カ・イ・ン?」
「後半のセリフは全部無視か───って、やっぱり根に持ってたか!!」
質問に一切無視した様子のおれに呆れてすぐ顔を引きつらせて後ろに下がるカイン。まぁ、当然の反応かもしれない。この男は手伝いをしたおれにあろうことか、数少ないおれの楽しみを奪ったのだから。逃がすつもりなど毛頭ないのだ。
おれはニコリと微笑んで拳を握りしめて…………一言。
「とりあえず、クタバレ」
「ぎゃぁあぁああああああああ!?」
天誅を送ることにした。気で強化した拳で。コンサートを見られなかった恨みは重い。
……などなど思ったが、こうしてここにやって来た理由を思い出し視線をだらしなく倒れているカインに移した途端。
「…………やっちゃった」
───なにをやってんだと、おれは頭を抱えてしまった。
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