居候人は冒険者で店員さん

ルド@

【仕事準備その4】

「今日はごめんなヴィット。ミオの奴が」
「別に気にしてない。それに場所も考えず走ったおれが悪い」


その夜、すっかり落ち込んでしまったリアナちゃんとカイン、そしてなんとなく事情を察したアリサさんと少しばかり気まずい食事を終えたところで、寮には戻らずおれの部屋にやって来たカインがまず初めに謝罪を口にしてきた。


やはりというか内容は今日のおれとミオとの出来事であった。


「悪い奴じゃないんだが、どうもオレ以外の男には以前からキツくてな。学園でもよく言い寄ってくる男子と揉めたりしてな」


揉めごとを起こしたのは今に始まったことではない。
そう主張して申し訳なさそうに言うカインだが、おれとしては別にもう気にしていない。


「いいって、ちょっと強引なところもあったが、原因を作ったのはおれだし。……場所考えずにはしゃいだせいだな」


状況的におれも悪いからと言うが、カインは首を横に振ってなおも謝ってくる。


「邪魔したのはお前じゃなくてミオの方……そうだろ?」
「……気付いていたのか?」


カインの口ぶりからバレていたことに気づくおれ。
だが、あんな急に事を起こしていたらおれのことを知っているカインやリアナちゃんは気づくかもしれないな。


「いったい何を感じたんだ?  おまえが普段は忍ように仕事しているから、あんなに慌てた姿は珍しいからビックリしたぞ?」


「確かにそうだな」


ここ最近はそこまでヤバい案件を受け持ったことも、来たこともないからな。


そうして苦笑いを溢すとおれは完全に聞く姿勢に入っているカインに話してみることにした。


「まず初めに言うが誰かは分からない。おれが感じ取ったのはなかなか目にすることのない殺気の悪意だ」


悪意にも種類はある。


殺意を込められたモノ、欲望が込められたモノ、嫉妬、妬みなどが込められたモノ。
上げていけばキリがない、だが大まかに分けるとすれば、人を殺すことに対するモノと己の欲望にまみれた汚いモノの2つが多い。前者も綺麗では決してないが。


そして今回は殺意であるが、これにもいくつか種類が分けれる。
ただ人を殺めることに全力を注ぐタイプ。
人を痛ぶることに喜びを感じるタイプ。


大きく分けるがこれも2パターン存在する。


「誰かを狙っていたのか?」
「多分なそれも相当な仕事人だ。感じ取れたモノからは殺すこと以外の感情は殆どなかった」


尋ねるカインにおれは答えるが、改めて感じ取ったモノのことを考えると少々厄介であった。


先ほど2つのパターンに絞ったが、今回はその中でも前者、しかも純粋なモノに近かった。


殺すこと楽しむ悪意ではなく、確実に敵を殺すためのモノであったのをおれは僅かに感じた感覚だけで把握している。


だが、それは同時にもし敵であれば厄介なことであることを意味していた。


「もし相手がおれたちの守る予定の人たちを狙ってきたら厳しいかもしれない。これは経験からだが、この手のタイプは相当できる奴が多い。もしかしたら不意を突かれる可能性もある」


そう思うとやはり捕まえて顔だけでも見ておきたかったと後悔してしまう。
本当に狙っているか分からない上、まだ証拠などもないので言い分しては無理があるが、それでも知っておけば監視するのも難しくなかった。


仮におれが動けなくてもアーバンさん辺りに伝えて、部下を監視に当たらせれば安心もできたのだ。


「お前の能力を潜り抜けれる程の相手ってことなのか!?  そんなヤバい奴があそこにいたのか!」


説明しつつ暗い顔で思考をするおれを見てカインが驚いた顔で口にしてくる。


おれが駆け出した時点で厄介なことが起きているとは予想はしていたが、その危険レベルがそこまで高いとは思っていなかったようだ。


にしても驚き過ぎな気もする。
おれの能力に関してはかなり信頼している部分があるため驚きを隠せないようだが、それもあまり期待されても困る。


「ま、今回はおれも気づくことができたが、明日は正直自信はあまりない。当日は人も多いし2日目以降も多い。もしそれでさっきの奴が動き出したら」


無数の人の中から特定の悪意を探すのはかなりの難易度である。
以前関わったパーティどころではない、祭り事になれば人も増えるし一緒に面倒な来客も多々やってくるはず。


「はぁ……考えたくないな。チンピラだけならあしらい方も簡単なんだが……」


あらゆる悪意が嫌でも集まってくる地獄の地へと早変わりするのだ。


「守りの人間の沢山でるって話だが、それもどこまで通じるか怪しい。大抵の小悪党なら問題はないが、あの気配の主は簡単にはいかないとおれは思う」


そんな状態でおれの能力が使えるかといえば、それは結構な厳しく無茶な条件であった。


おれの能力は探知に関して万能にも見えるが、能力の関係で大きな欠点がある。


「おれの能力は感覚神経への負担が大きい。しかも人が多ければ多い場所ほど負荷が増えて集まる情報の許容量を越えればパンクする。例えるなら頭の袋に大量の情報の紙が自動で集まって詰まるような感覚だ」


だから祭りの日では極力、力は使わないのがベストであるが、今回はそれも厳しいかもしれない。
あの気配の狙いが分からない以上、仕事を受けている以上、能力無しはリスクが高過ぎる。


けど可能であればやはり使いたくはない。
あの能力を盛り上がっている人混みの中で使ったら、数分で頭が破れてしまいそうだ。


「そういえば前にあった、シュバルツの一件の時も相当やばかったな」
「街に呪愚の花粉の木を持ち込んでソレが大暴れした時か?」


ふと思い出したことを口にするおれ。
突然の話の切り替えであったが、カインも覚えていたようだ。
まぁ、その件でギルドがおれに目をつけてアリサが事務を辞めたからな。覚えていて当然か。


「ああ、あの時も緊急時で仕方なかったが、おかげで呪愚の花粉を浴びて死にかけそうになったアリサさんを助けれたしな」


だが、可能ならあの痛みだけはもう体験したくないとおれが軽いノリで告げる。


するとカインはまた申し訳なさそうな顔をして俯いてしまった。


「……すまない。またオレが頼りないばかりに」


再び落ち込んだ様子で呟く。
あの一件でも毒に侵された姉を助けることができず、その為に倒れそうなったおれに対して今でも悔やんでいたカイン。


「そ、そこまで自分を責めることはないって!  おれだってその後動けるまで守ってもらったしさ!  結果一緒に倒せれたじゃないか!」


落ち込ませるつもりはなかったが、どうやら逸らした話題が不味かった。
慌ててフォローに入るが、カインの表情は次第に暗くなっていく。


「さっきの話だってあくまで仮にだぞ?  確証は何にもないんだ、単純に祭り事にイラついて殺意を放っただけかもしれないし」


「けど、そいつはお前の存在に気付いて逃げたんだろ?  ただのチンピラならお前の視線に気
付くとは考えにくい」


「確かにそうだが……」


些か甘い考えかもしれない。
カインにバッサリ言われてつい深く考えてしまう。


もしアレが殺しのプロの者であれば、確かにこっちに気付いて逃げたことも分かる。


殺気の中に歪んだ感情が含まれていなかった理由も分からなくもない。


だが、1つ分からない。
なぜ相手はあの時あの場所で殺気を放った?
すぐに振り返ったが、別に揉めているようにも見えなかった。


だがそんなおれの疑問の答えが浮かぶ前に、カインが結論付けてしまう。


「間違いなく顔を見られるのを恐れたんだ。だとしたら明日何かするかもしれない!  念の為、明日警備のリーダー人と会って話しておく!」


よく見ると握り締めている拳から血が出ている。
余程悔しいのか身体中から何もできなかった自分に対する怒りのオーラが漏れ出していた。


警備リーダーが誰なのか知らないが、カインのランクを考えれば信憑性があると思って動いてくれるかもしれない。
そう思うとランクが低いままなのも少し考えものかもしれないと、おれは口にはしないが感じてしまう。


そうして決断したカインを見て、そろそろこの話もお開きだと寝る準備でもしようかと腰を上げたところで、カインが自分の手を見ながら呟き出した。


「あの時から……オレは全然変わってない。けど強くはなったはずだよな?」
「ああ、十分強くなってる」


自信が持てないのか、口調に弱気が混じっている。


だが、これは嘘ではない。
あの頃も凄いと思ったが、今のカインも十分過ぎるほど強い。


あと2〜3年、あるいは5年も経てば想像もできない戦士になっているとおれは確信していた。


「だから勝てよ。明日の試合」


だから、今はおれに任せておけ。
お前が自分に不安を抱いている間はおれがカバーしてやる。


「大勢の前でやるんだ。ヘマしたら承知しないぜ?」
「ふっ、任せろ兄弟!」


街を全部守るなんて大層なことは言えないが、それでもお前の大事な家族ぐらいは絶対守ってやるからさ!


【うん……!】
【そのとおり!!】


そしてカインには聞こえない、彼女たちからも返事が届く。


今回は2人の女神さまもやる気満々なようだ。
だったらこちらも期待させてもらおうかな?





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