オリジナルマスター

ルド@

第17話 死神の対話と奇襲対決

「やれやれ、あのホラー娘から撒けたのは良かったが、ジンの奴……こんな場所に飛ばすならオレが到着するまで待ってろよ」

刃達が【不可解な迷宮塔ミスティック・タワー】の攻略を始めて、約10分ほどが経過した頃。

「まぁ、ジークがジンにやった魔道具の反応を辿ってここまで来れたが」

閉じ込める為に利用する地下ダンジョン『44層目』の洞窟内。学園の厳重な警備網を突破し、まどかが仕掛けた迷いの結界もすり抜けて……。

「間近で見るとホント高いなぁ〜」

苦笑顔をして遅れてやって来たトオルは、動かず落ちている目的の塔を見上げていた。

「しかし、魔道具の気配はともかく肝心のジン自身の気配が読め難い。どうでもいいが、マドカも分かり難くなってるな」

ダンジョンである塔の影響か、外からだと気配を読むことに長けたトオルでも、モヤが掛かったように読め難くなっていた。

「他にもバカデカい精霊の気配とか気も感じるが、デカいだけで外からだと位置が定まらない。何処から入ればいいか悩むぞ……ん?」

いっそ大人しく下から入っていくか、などと考え出していたところ。何かが視界に入りふと目に止まる。

「……なんだ? あの穴?」

目を凝らして見ると巨大な塔の4分の1くらいの高さで。
大の大人が潜れそうな大きな穴が空いた壁があった。

「そうか、ここから入ったんだな」

そんな穴を見れば遅れた彼でも理解出来る。
迷うことなく足を踏み入れた瞬間、まだ残っている彼の魔力を感じ取り、自然と全身の筋に力が入った。

「邪魔するぞぉ。ん……この感じは」

当然封じられている6つのチカラの存在や【第一の封印】のことも知っていた。
さらに燃え尽きて灰とった敵らしき残骸から、刃が魔物を倒すのに“鬼殺し”を使用したことを悟った。

不意に脳裏に浮かぶ最悪最凶の魔王──鬼の姿が……。

「──って、それよりも急いだ方がいいか。マジでいい加減合流しないとジンやマドカどころか、あのジークの奴にまで呆れられるという屈辱を味わうことにっ」

苦々しい顔で首を横に振ると視線を奥へと向ける。上に続く階段を確認すると脚を強化して駆け抜けようとした。




「屈辱が……それがどうかしたか?」
「ん? あ、いやー、他の連中ならともかく、あのトラブルメイカーにまで馬鹿にされるのは流石に御免だって話を…………え?」




しかし、背後から聞こえた声によって止まってしまう。……それどころか、あまりに不意なことで敵意もなかった為に思わず軽い調子で答えてしまった。

(……また背後を取られた? さっきのこともあって警戒を強めていた筈なのに……いや、そんなことより……この声っ!?)

背後を取られてしまったが、追いかけて来たあの娘ではない。あの娘からは薄気味悪い触れるだけで危ういような殺気があったが、背後の者からは気配はなく殺気もない。

だから敵と認識出来なかったのか。若い男の声をして尋ねて来たが、それよりも彼はその声に覚えがあった。

自然と顔中から汗が流れ始める。かつての苦い記憶が呼び覚ますと、ここが本当の死に場所かと錯覚してしまう。

「とりあえず戦闘のあった場所を回ってたら予想外の再会だ。今度はいったい何を仕出かしたんだ───異世界の侍・・・・・?」

発せられる声に殺意がないのが余計に怖かった。
寧ろあった方が彼も安心出来たかもしれない。背後の男は特殊なタイプで感情が読み取れないほど危険過ぎる存在なのだ。

「お、お前は……どうしてここに」

緊張で喉が揺れ声音が安定しない。忘れもしない恐怖が彼を硬直させていたが、尋ねるような男の声に彼の意思を無視して顔が男の方へと振り返ろうとする。

(さ、最悪過ぎる! なんで、なんでここにあの死神が居るんだ!? ジークの奴、まさか隠していたのか!?)

心の中の叫びに答える者などいないが、もし彼を送り出したジークが聞いていれば肯定して苦笑してただろう。トオルと彼の相性が最悪なのはジークも知っていた。

圧倒的な恐怖を味合わせる《鬼神》と呼ばれ《魔王》と同じ、感情が読み取れない虚空の瞳をし、冷酷なまで敵を追い詰める《死神》。

初めに出会ったのは、今回と同じような理由で向かった別世界。とある一件の調査をすることになったトオルだったが、途中事件に巻き込まれて好奇心から自ら踏み込んだ結果──彼は出会ってしまった。


そして、ちょっとしたミスをしたばかりに地獄を見た。

超越者とまで呼ばれた彼だったが、《魔王》のような威圧感を放つ彼の猛攻には抗うだけで精一杯だった。

(逃げたい! ここまで急いで来たけど、今は超逃げたい!)

情けないと言われても構わない。トオルは全力でここから逃げ出したかったが……。

「なぁ? 聞いているか? とりあえず……こっちを見ろよ」

背後の彼は困った風に言うとさりげなく、トオルの肩にポンと手を乗せたところ。
トオルの中で断末魔のような叫びが響き渡る。

(ウゴカナイ肩ァアァアアァアァァァァッ!? なんでもない感じに言ってるけど、殺意しか感じない! 絶対イラついている口調だぞっ! 振り返りたくねぇ! でも肩も動かねぇええええええええええええ!?)

振り返りたくない、振り返りたくないと心の中で叫ぶが、そもそも抵抗らしい抵抗などしたらその時点でジ・エンド。

もはや実力の有無の問題ではない。それもあるが、それ以上に……。

「……っ」

など、走馬灯のように過去を振り返っている間にも体は動いていく。
本心では絶対振り返りたくないのだが、残念ながら許されそうな雰囲気は一切ない。

というか拒否権など最初から彼にはない。
背後の彼に関してはトオルは低姿勢で対応するしかなかった。

というわけで、しばらくすると無意味な抵抗と呼べない抵抗の後。

あっさりと振り返ってしまった彼が見たのは……。

「───話せ、とは言わないが、自主的な説明がないなら、その首から上がいらないと判断するが構わないか?」

凍ったような無の感情が込められた瞳が呆然とする彼を捉えると、なんでもない感じでとんでもないことを言ってみせる。

優しさ慈悲などは一切ない。
クイと首を傾げて男はトオルに尋ねて来た。

「……分かった言うから、分かりやすく言うから────どうか介錯は勘弁してくれ」

この世界に入っていろんな相手と遭遇して来た彼だったが、しかし一度たりとも投降はしなかった。

だが、ここに来てダントツで出会いたくない男ナンバー1な死神と遭遇。これまでない絶望感と共に、彼は自分の不運を呪わずにはいられなかった。





不可解な迷宮塔ミスティック・タワー】──『25層目』


『まもなく来ますか』

この階層を管理する赤い老魔法師のツファームは、下の階層から上がって来る存在を感知していた。

『皆の者、用意はいいか?』
『『──ッ!』』

入り口である大きな扉を見張る。
そして、部下である武器を持った魔物たちに指示をする。

二足歩行の赤いリザードマン、鋼鉄の鎧を纏った騎士型のゴーレム、赤く硬い鱗のワイバーンなど、炎耐性が強く炎強化された魔物が100体以上待機していた。

『25層目』は武器庫であり、製造場所でもあった。
『最下層』は魔物を生み出す場所であるが、こちらは完全な武器製造工場として使われている。

素材である金属が溶けてフロア全体を赤き川のように流れている。熱に耐えられる鉄網が足下に敷かれ、その真下でボコボコと泡を立てて、石のような鋳造機に到達する。

流れているマグマがある時点で灼熱地獄とも言える。
しかし、このフロアはツファームの戦闘用のスペースでもある。溶けている赤き川や造られた剣や槍、斧などを構えた魔物達を含めて老魔法師の手札であった。


『ふふふっ、さぁ来なさい侵入者達』


卑しい笑みと共に両手から歪んだ魔力が流れる。
置かれている刃物系の武器が引き寄せられる。
流れている赤い川が波を打って揺れると、蛇のように起き上がり老魔法師の両端に配置された。

抜かりのない万全の配置だ。
スモアやエラと違い、ツファームは敵を侮らず常に用心を怠っていなかった。

『──っ、来るか』

しばらくすると入り口の扉が開く。
待機していた魔物達が一斉に構えるが、すぐには突撃させない。
敵もなかなか戦略を練るタイプのようだ。オーガのようにいきなり攻撃して来ることはない筈。確実に狙えるように入って来た対象を、包囲出来る位置まで引き寄せることにした。

ちなみに入って来たの小柄な少女が1人。
念の為、門の外に意識を向けて魔力を探るが、感知出来るのは目の前の1人のみだった。

(ふむ、……どうやら下でエラを足止めする為に何人か残ったようだ。小娘1人というのは少々怪しいが、『四神使い』と共に1度は我々を倒した1人だ。油断せず確実に仕留めるか)

1人だけということに違和感を覚えるが、力量が見た目通りではないのは嫌と言うほど理解している。
予定通り相手を包囲出来る位置まで誘導すると、ツファームは魔物達に念話で伝えて攻撃を控えさせる。

「……」

そうしていると、無表情の少女はツファームと待機する魔物達を視認する。
そして自動で閉じていく門を背に、ゆっくりとした歩みで奥へと入って来た。

『よく来ましたね侵入者よぉ』
「……」

挑発気味にツファームが告げるが、少女は眉一つ動かさず歩を進めるだけ。

(っ、もう少しです。あと少しこちらに来てもらえれば、その無関心な顔も恐怖と絶望の色に塗り替えてみせましょう!)

無反応に少しばかりイラとしながら、止まることなく近寄る少女を見て口元に弧を描く。

そして、あと数メートル。
このまま包囲網まで引き寄せようとした。

「“黒き妖精の使いよ”、“空へと舞って我が道を示せ”」

『──ッ!? 精霊魔法!?』

ところが、寸前で少女──まどかが片手を前に出す。
即座に詠唱を済ませると彼女の周囲に何羽もの黒き蝶が召喚された。

「『暗闇に潜む黒き蝶ダーク・バタフライ』……さぁ、踊りなさい」
『やはり貴方も精霊使いですか! ですが、それでも此処はこちらのテリトリー! 使役出来る精霊の数も限られている筈! 持久戦に持ち込めば確実にこちらが──』

四方に飛んで行く黒き蝶を見ながら、ツファームは動じず仕掛けようとする。魔物達も反応してすぐさま彼女を囲うと、一斉に刃を向けて襲い掛かろうとしたが。


「勝つ───と思いましたか?」
「……っ!」


ここに来て初めて笑みを見せたまどか。
迫って来る魔物の群れに一切動揺せず、真っ直ぐにツファームを視線を合わせる。
間違いなくこちらが有利の筈の状況なのに、何故か胸騒ぎをするツファームは攻撃を仕掛けようとした配下の魔物達を呼び止めようとしたが。


ドンッ!!!! という激しい地響きがフロア全体に伝わる。

突撃しようとした魔物達とまどかの前で流れる赤い川が爆発。水面が突如隆起して下の地盤が砕ける音がすると。

『『……ッ!?』』

驚いた魔物達が一斉に爆発した川の方に視線が行く。
だが、振り向くと持っている武器から小さな衝撃を感じる。何かが当たったか、不思議そうにそれぞれ武器に視線を送ると。

『『……?』』

まるシールのように張り付いた小さな魔法陣。剣の腹や槍の持ち手、巨大な斧の刃や棍棒の先端に付いて。

「『火炎弾ファイア』」

パチンとスナップを鳴らす刃の合図で、一斉に魔物が持っている武器を破壊して爆発した。
生憎と魔物に対してダメージは少ないが、それは問題ではない。

(よし、陣形が崩れた。次は……こっちの番だ)

いつの間にか天井に張り付いた・・・・・・・・刃がその様子を観察し、まどかとアイコンタクトを取ると。

身体強化ブースト』────“仙沈センジン

「──“舞え、黒き鱗粉よ”」

コクリと頷いたまどかが『暗闇に潜む黒き蝶ダーク・バタフライ』を操作。
四方に飛んでいた蝶達の羽から輝く黒き鱗粉が舞う。包囲している魔物の上空で降らせると浴びた対象はビクッと体を震わせる。

────精神干渉系の闇の鱗粉。
浴びた魔物──特にリザードマン、ワイバーンはフラついくと行動制限された。

「『土石壁アース』──『剣撃形態ブレイドモード』」
『『──ッ!』』

降り立つと片腕に土魔法で作り出したトンファーを装着する。持ち手以外の長い棒の部分は大きめの刃になっており、近場にいるリザードマンの首を斬り裂く。

「『銃撃形態バレットモード』」

困惑した他のリザードマンを即座に出した左手の魔法銃で狙う。雷の弾丸が1体に当たると縫うように他の魔物へ。1発だけで5〜6体を倒してみせた。

『ギャァアアアア!』
『……!』

しかし、見ているだけの魔物ではない。騎士型のゴーレムとまどかの魔法の被害を受けてないリザードマンが迫って来る。
ゴーレムは拳を振り炎系のリザードマンは火を吹こうとしたが。

(背後4時の方向から騎士が、7時の方向からリザードマンのブレスか!)

死角からの攻撃を刃はしっかり察知していた。
それもその筈、彼の視界には駆けて来る騎士と咆哮のようにブレスを吐くリザードマンが映っている。
さらに合わせるようにして他のゴーレムが武器を持って迫って来るが、刃は落ち着いた様子で周囲の敵すべてを把握していた。

「っ」

まずは駆けて来たゴーレムの拳を避ける。振り返るとその頑丈な鎧に鋭い視線を送り。

「ふっ!」
『──ッ!?』

瞬時に両腕を斬り落とす。土魔法で作り上げた金属のような刃だが、同じく金属である筈の腕の関節部分を綺麗に斬ってみせた。

ガシッ

「悪く思うなよ」
『……? ──ッ!?!?』

そこから両腕を無くしたゴーレムを刃はトンファーを装着する手で掴む。
迫って来る炎へと引っ張り盾にして受けさせた。

『ギャアア!?』
「それじゃ、次だ」

耐性はあったが火だるまになるゴーレム。刃は無視して離れた場所で驚くリザードマンを雷の魔法銃で狙い撃った。

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