オリジナルマスター

ルド@

第12話 お茶会と説明会。

【禁術書庫】
『擬似・究極原初魔法』:黙示録の記した書庫アポカリプス・アーカイブ
『登録さているコード』:【魔導王】【剣導修羅】【氷結地獄】【慈愛聖女】【天空騎士】【無双瞬殺】【鬼神大災】
『現在の解放状態』:Level2(次の解放で……)
『使用可能時間』:2分30秒
『再使用可能まで』:残り約120時間




「時間は……やっぱり5日ってところか」

腕時計に戻った魔道具『禁術書庫』の時間を見て、ガックリと溜息を吐く。
ドッと脱力感にも襲われて、移動していた足が思わず止まる。もう安全圏で幸運なことに人も居ないが、こんな膝折れてるところを見られたら絶対変に思われるな。

「よしよし、よく頑張りましたね」

なんて、手ごろな位置に後頭部があったからか、隣で頭を撫でてくるまどかさん。……抱きしめていいかな? 冗談だけど。

「して欲しいのなら、してあげましょうか?」
「────うっ! あ、ん……」
「冗談です」
「がーん」

冗談でした、チキショウ。

……あと便利なことに次の使用可能時間は時計を見れば、把握出来る仕組みになっている。普段は普通の時計だが、魔力を流すと再発動までの時間と選択出来る【コード】が液晶画面のように出てくる。……出てくるのだが。

「はぁ……、いきなり切り札の1つを使ってしまった」
「ですが、お陰で最悪の展開は回避できました。……痛い代償ではありましたが」

うん、これは本当に痛い出費というか、苦いお支払いだよ。
アレは切り札の中でも1番強かった。まどかも知っているだろうが。

「残っているのは、俺自身の手札だけか。しかも使用回数がたったの2回」
「私もいます。いざという時は、塔ごと中の者たちを無にしますから安心してください」
「よく分からないが、おれも塔の連中には用がある。そう1人で背負うことはないぞ?」

まだ会ったばかりだが、ヴィットの言葉は有り難い。
……ただ、まどかさんや。冗談ですね? 珍しく笑みを浮かべているけど、全然安心できない!





まどかが掛けた結界を解いた後、2人を連れた俺は適当な喫茶店で休息を取ることにした。

俺自身はそれほど役立てなかったが、嫌なことに魔力量が少ないから、アレでも結構辛くなる。2人に至っては、『範囲結界』、『精霊の力』、『一級位魔法』と大技連発で消耗が激しい筈。

さすがにそのまま決戦は厳しい。というわけで、手早く静かな場所を見つけたのだが……。

「へぇー、この世界の店ってこんな感じかぁ……。あの四角パネルは魔法の水晶みたいだ、映像が出てるな」

ただ入店の際、完全に連れられる形となった他所の世界のヴィットだけは、少々驚いた顔で物珍しそうに辺りに視線を巡らせていた。

……余程興味が出たのか、テーブルやイス、さらにはカウンター席に置いてあるコーヒーメーカーや並んでいるグラス。他にも洋風の灯や暇つぶしに置いてある本棚にも目を向けて、最後に店員が渡して来たメニュー表をジッと見つめていた。

「ほう? こりゃすごいな!」

まぁ、本人にとってはこっちが異世界だしな。
楽しんでいるなら何よりかな? やけに注目しているけど、元の世界では何やってんだろう? 見た目からして冒険者っぽいけど。

「刃、そろそろ説明をお願いしたいのですが」
「ん、ああ、そうだな」

俺の計算が正しいならまだ余裕があるが、注文した飲み物やデザートをただ待っててもあれだ。
この中で一番把握出来てないまどかにも分かるよう、俺は知り得たことや実行したことについて簡単に説明した。





「結論から言うと別空間に閉じ込めた」
「閉じ込めた? アレだけの巨大な物を? 何処にです?」

可愛らしく小首を傾げるまどかを見ながら、ヴィットにも視線を向ける。
ちょうど届いたアイスコーヒーを口に含んで、さらと口にした。

「学園内にあるダンジョンだ」
「っ!?」
「……その学園のダンジョンっていうのは?」

僅かに目を見張り見つめてくるまどか。
よく分からないが、彼女の表情を見て今度はヴィットが首を傾げて尋ねた。

「俺の通っているのは魔法学園なんだ。……俺自身は普通科だけど、そこにはダンジョンが存在する」

学園にあるのは『地下ダンジョン』。
100階まであるそうで、ソロでもパーティでも80階までクリアすると卒業資格を取れる。

攻略には興味はないが、そのダンジョンこそ俺が入学した理由だ。
普通科なので優先されてはいないが、楽に魔物を狩れる場所が提供されているのは非常に良い。……魔法科の桜香や連中から度々絡まれて面倒だが、俺自身の成長にはどうしても必要になる。

「俺が使った空間魔法は、座標さえ覚えていれば移動出来る魔法だ。ダンジョン内のある階層の座標は覚えていたから、そこに飛ばしておいた」

勿論師匠の魔法だからこそ出来る芸当だ。普通ならこんな無茶苦茶なことなんて出来るわけがない。

「選んだのは、階層自体が洞窟みたいな場所だ。凄いデカい空間だが、あの塔を飛ばすには高さが足りない筈だから身動きは取れないだろう」
「でもこの場所に来た時のように、また空間を移動されたらどうするんですか?」
「ああ、だが今すぐは不可能だ。あの塔を飛ばした際に読み込みスキャンをしたが、内部では結構面倒なことが起きているようだぞ?」

まどかの言うことも納得出来るが、俺はハッキリないと否定する。
不思議そうな目をするまどかも分かるが、内部の状態を知った俺としては、あの状態で不用意な空間移動したら、それこそ自殺行為にしか思えなかった。





『おのれェ……!』

学園の『地下ダンジョン』に飛ばされた塔の中枢部。ダンジョンの核である聖櫃が置かれた場所だ。
教会ような内装をした場所で、シャドウは苛立ちを隠そうをせず、祭壇に置かれている聖櫃をダンダンと何度も叩いていた。

『しっかり機能しないか! 一体なんの為の核だ!? こんな訳の分からん場所など、さっさと脱出しないか!』

しかし、何度も叩かれ魔力を込められても聖櫃は反応しない。
外側の結界に関する機能は生きているが、それ以外……特に空間移動の機能が破損していた。刃が送ったダンジョンの内部から脱出することが出来ないのだ。

『これでは神格の儀式も行えない! くそ、どうすればいいんだ!?』

しかも、肝心の目的すら達成が危うい状況である。
既に治っている腕を振り上げて、祭壇を叩き割りそうな勢いで殴る。勿論その程度で壊れるような物ではないが、背後で控えていた配下の者達は気が気ではなかった。

『我が主人よ』

刃達にやられた筈の赤い老魔法師のツファームが声を掛かる。跪いて決して顔を上げようとしない。
さらに背後には巨体ゴブリンのスモア、ダークエルフのエラが控えているが、2人とも濃い色の所為で分かりにくいが表情が暗い。理由は言わなくても明らかだった。

『無理だったか』
『申し訳ありません、任務どころか無様にも帰って来てしまいました』
『いや、無事に戻って来たのなら問題ない。『召喚されし虚像レプリカ』の機能も不安だったが、しっかり機能してくれたようだ』

だが、暗い表情な配下達に対しそれほど苛立った様子はなく、仕方ないと寧ろよく帰って来たとシャドウは安堵していた。

召喚されし虚像レプリカ』とは、彼らが支配するダンジョン【不可解な迷宮塔ミスティック・タワー】の能力の1つ。

登録した者がダンジョンと同じ空間で戦闘する際、身代わりとなってダンジョン内部で復活が可能。ダンジョンマスターでもあるシャドウがその気になれば、一瞬のうちに復活することも可能だ。

ただし、複雑な条件も存在しさらに機能自体が不安定となっている。……再度の使用は困難だった。

『お手伝いすることも出来ず歯痒い限りです。……無礼な質問ですが、原因をお聞きしても良いですか?』
『分からん、修復機能は生きているようだから直してはいるが……』

主人の重苦しい声音を聞く限り、修復も簡単ではないようだ。祭壇の聖櫃を操作して打開案を見つけようとしているが、思うようにいかない様子だ。

それなのに見事に失敗した自分が腹立たしいか、跪いた姿勢のまま体を震わせるツファーム。……そしてふと思い出したか、ついハッと顔を上げてしまうが、主人のシャドウへ話すべきことがあった。

『主人、新たに現れた四神使いですが、妙なことに我々のことを知っていたんです。彼の世界に侵入したエラのみならまだしも、私やスモアのことも知っている風でした』
『……なんだと?』

失敗したことにもさして気にしていなかったシャドウだったが、配下のツファームの言葉に動かしていた作業の手が止まる。
跪いている配下に目を向けて考えるように腕を組む。

『最初は揺さぶりでも掛けてきているのかと思いましたが、どうも本当に知っているようで……彼だけ、センサーの攻撃範囲を読み切っていました』
『む、お前の攻撃をか? 確かにアレは初見で回避するのは難しいが、……どうして漏れた? その四神使いに何かしら情報入手する能力でもあったのか?』
『分かりません、情けない話ですが、それを確かめる前にやられてしまいました』

そこで上げていた頭を下げる。塔の消失に動揺していたとはいえ、言い訳しようもない失敗した。あの時我を忘れた自身がツファームは憎くて仕方なかった。

『この塔を消したこの世界の者も大変危険ですが、我々の情報を知っている四神使いは特に危険かもしれません』

だが、私情を挟むのは後回しだ。仕える主人にしっかりと自身の危惧を伝える。最後に処分を受けることになったとしても、忠誠心に一切の揺らぎがないツファームは、それも運命だと受け入れていた。

ところが……。

『た、たぶん……それは私の所為かも。あの四神使いに情報が漏れた原因』
『む?』

ツファームの報告に眉をひそめて考えるシャドウだったが、恐る恐るといた感じでエラが手を挙げる。……まるで悪さを仕出かした子供のように。

『貴方の所為とは……もしやエラ、あの四神使いに尋問でも?』
『い、いや、そういうんじゃなくて……その前に、あの男と……』

振り返ったツファームが問い掛けると、言いづらそうにして目を泳がせてしまう。しかも、どうしてか次第に涙目になっていくではないか。プライドの高い彼女からしたら、非常に珍しい姿だった。

そして、何故そんなにビクビクしているか分からず、シャドウとツファームは揃って首を傾げていた。





「おれが奴らのことを知ってたのは、あのエラって言うボインなダークエルフから聞き出したからだ」

そう言って切り出したヴィットに俺とまどかは顔ごと視線を向ける。
一応俺の話も一区切り出来たので、情報共有も兼ねてヴィットが知っている敵の情報を聞かせてもらうことにした。……あとボインは重要なのか、なんかゴミを見るような冷たい目になっているまどかがいるんだけど。

「聞き出したってことは、拷問でもしたのか? もしかしてそれであんなに睨まれていたのか?」

だとしたら納得がいくなぁ。なんてヴィットの言葉を聞いて思ったのだが……。



「ん? ああ、違う違う。聞き出したって言うのは、彼女自身ではなくて、彼女の────を────で心の中にある記憶から吐かせた」

『……』



そして、なんでもない風に訂正を口にしてくるが、突然の関係ない話になんてするから、まどかの表情に光が消えた。


……ヴィットさん、ほぼ初対面の女の子相手にセクハラ発言はマズくない? 冗談にしても笑えないって。

「ん? 偉く真面目だぞ? おれの異能で心の隙間に入るには、痛みか催眠か羞恥に苦しませるぐらいしかないからな」

うん、なんとなく分かるが、それでも普通の尋問とかじゃダメなの?
というか貴方、アイツらと遭遇した時にも思ったが、そういうキャラだったの?

「女性が相手だと、どうもなぁ。正直戦うのも抵抗がある。残念なことに催眠は使えないし」

そういう問題か? 女性なら余計ダメじゃないのか?
だったらそっち方面にも抵抗はないのか。催眠使えなくて残念がってるし。

「で、怪しいなって思って呼び止めたら、いきなり攻撃してきてさ。捕まえる口実がすぐ出来たけど、なんか向こうはオレのことを凄く警戒して苦労した」

平然とそこで・・・聞き出す人が相手なら、女性なら絶対警戒する。近付くこと自体避けていたんじゃないか?

「な、なんというお人でしょうか……、あのダークエルフを捕まえて調教を……!?」

驚愕の声音でまどかも俺の側まで離れている。嗚呼ああ……お願いだから大人しててくださいね? あと調教とは言っていないからあくまで尋問だからね?

「捕まえて見たら、なんか他にも盗もうとしていたらしくてな。尋問が検討されたんだが……、手っ取り早くオレに任された」

おい、即決過ぎないか、何故任せるか!? 任せた人は絶対男だろ!

「おれの異能は相手の心を読むことが出来る。心のバランスが崩れて無抵抗な状態であることが条件だが、あのボインはすっごい強情でな。……色々試した」

試すなよ!? 何をしたか聞きたくないが、さっきまでの人と同一人物とは思えないほど、やり切った顔をしている。

「色々と試したんですか……!? この男、一体何者……!? まさか変態王の血族……!?」

変態王って何ですか、まどかさん!? 何を想像したか知らないがちょっと待とうか!? とりあえず落ち着こう、その魔法はさすがに危険過ぎる。この変態どころか店の人たちごと建物が消えるからっ!

「で、最後に知り合いの愛用してるフライパンでようやく崩壊してな。心の中にある記憶領域に入り込んで色々と搾り取ったわけよ」

ごめんなさい。フライパンの意味が分かりません!
フライパンをどうしたら相手の意識を崩壊させることが出来るんですか!? 俺の知っているフライパンと明らかに違う気がする! ……ていうか、フライパンを借りた人にはぜったい謝りなさい! 利用法は知らないが、絶対まともな方法じゃないよな!?

「フライパンをフライパンしたのですか……!? なんという技量の持ち主でしょうか……!?」がくがくぶるぶる

想像豊かなまどかさんがガクガクブルブル震えてる!? 一体フライパンで何を想像したと言うんだ!? 微かに聞こえたけど、フライパンをフライパンしたってどういう使い方だ!? 技量って何!? フライパンはフライパンじゃないのか!?
俺がまだガキだからか!? 封しているけど一応20歳は過ぎてるんだぞ!? たぶん!

そうして、俺とまどかがそれぞれ異なる驚きの反応をしていると、説明に集中していたヴィットが不審に思ったか、俺たちの様子を見て首を傾げたが……。

「? どうした、そんなに変な顔をし────っアッツツツツツツっっーーーー!?!?」

突然彼の頭が燃え上がって、頭上から冷水が出てびしょ濡れとなるハプニングがあった。
……空耳かな? 【天誅ゥゥゥ!!】なんて2人の女性の声が聞こえた気がした。

そして、ヴィットの話をまとめると捕まえたのち、部分的に情報を抜き取ることに成功したらしい。
だが、仲間の不注意で逃走されてしまい、最終的にあの空の塔で他所の世界に逃げられたそうだ。

他の仲間は知らないらしいが、彼の中の精霊は察知していたので、追いかけることが出来たらしい。
で、この世界に入るとちょうど、俺たちがあの塔に落ちた巨漢と戦っているのが見えて、こちら側に加勢したのがこれまでの流れだった。

やや遠回りな説明だったが、ここでやっと俺たちも内容を呑み込むことが出来た。

「って、なんか、2人の目がさっきと違って冷たい気がするんだが……?」

ただ、その説明までの間にあった余計な話の所為で、彼に対する評価が最底辺まで落ちてしまったが……。
本当にあの頼れそうな冒険者と同一人物とは思えないわぁ。

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