オリジナルマスター

ルド@

第10話 魔道具の秘密と場外戦。

「アレはジークの空間魔法か? 他に手がなかったといえ、また派手にやったなぁー。……やらかしたのはオレだけど」

巨大な空に浮く塔の消失。残っているのは晴天の空で、ほんの微かに浮く雲のみ。
その瞬間、周辺からは響くほどのざわめきが響き渡った。

それはそうだ。地上を支配しかねない程の巨大な存在の消失だ。驚くなと言うのが無理がある話だ。

まさに神の如き奇跡────『神隠し』だ。
ジークが所持ていた魔道具も同じ名前だが、こちらの方が合っているとトオルは感じた。

「ジークも心配していたようだが、ちゃんと使えているようだ。ま、確認出来たし、良かった良かった」

あれほどの巨大な物を何処に飛ばしたか知らないが、魔力残滓を見る限りこの空間に影響は出てない。……などなど、自分のしたことについて、苦し紛れなフォローを口にする。

トオルでも感じ取れる程度に再現されたジーク・スカルスの魔力。
刃が扱う元の世界と異世界の2種類を注ぐことで、使用可能になる魔道具『禁術書庫』に刻まれた、擬似的な原初術式『黙示録の記した書庫アポカリプス・アーカイブ』の能力。

他者の魔力体を術式に変換して登録することで、魔力そのものを再現する能力の1つ。
さらに、その魔力体に刻まれている術式、スキルを『禁術書庫』のレベルに合わせて、再現して扱えるようになる。

場合によって精霊の力や気も再現することが可能で、登録された対象によっては、同時に力も再現することが可能であり、刃は膨大なジークの魔力を呼び出して、消費することで空間魔法を再現した。もちろん得られる力は、全てではないが。

あいにく、今の刃が再現出来る領域は初期状態なために狭いが、よく知っている師のジーク・スカルスの能力が登録された【魔導王】なら、たとえレベル1の状態であっても魔法もスキルも非常に高くて便利だった。

ただし現在使えるのは、ジークが使い慣れていた空間魔法のいくつかと、スキルの一部のみ。
使用時間も2分半しかなく、魔法やスキルも使える回数が限られている。さらにジークの能力を再現する際に魔力量も再現しようとすると、他の再現が出来なくなってしまい、出来ても1つか2つに絞られるリスクがある。

しかし、解放することで得られる膨大な魔力と空間魔法は大きく、他の登録された【コード】よりも刃は使い易いと感じていた。

「どうせなら、オレのスキルで斬ってくれたらいいのにな」

などとトオルが残念そうに言うが、刃が聞いていたら「あなたの斬◯剣スキルがこの世界で使える訳がないでしょうが!? 人に向けても使えないし、頑丈な物でもいくら弁償させられるか、考えただけでも怖いわ!!」と冷や汗を垂れ流して叫んだに違いない。






「……ところで、そろそろ諦めてくれないか?」
「君こそ大人しく投降してくれんか? こちらも結界の先が気になる。さっさと捕まってくれるなら手荒な真似もしない」

そして追いかけて来た男に言うが、男も肩をすくめて諦めろと告げてくる。
こちらに来てから、トオルとしても想定外なことがやや多いが、これについては彼も想像の範囲外であった。

「悪いがオレも出遅れてる派なんだ。これ以上の遅れは大人の威厳にも関わってくる。申し訳ないが行かせてもらうぞ」
「あの塔を両断した男を見逃せと? それこそ無茶な話な上、街を守るこちらにも誇りがある。行かせるわけにはいかない」
「やはり安易だったか、こりゃ威厳どころか説教しか待ってないな」

嫌そうに顔をしかめるトオルの前に立ちはだかる男は、結界を突破しようとしていた集団の1人だ。

彼よりも強面な顔で年も上に見える。先ほど相手した女性たちのスーツに似た男性物のスーツを着て、刀を取り出して構えていた。

トオルが放った気と斬撃に気付き彼の前に現れた。少しだけ相手したが、すぐに厄介だと感じたトオルはその場から逃走しようとしたが、こうして見事に回り込まれてしまった。

「なにより、私の部下2人をいいようにした相手でもあるんだ。見逃すなど最初からあり得んだろう?」
「あー、やっぱりあの剣士の師か、服装以外に剣術が似てるから、もしかしたらと思ったが……」
「ああ、弟子だ。それも優秀な子だ」

嫌そうに睨むトオルと獲物を見るような男の視線がぶつかり合う。
場所は移動して何処かの神社に変わって、騒ぎの所為か付近には誰も居ない。

「これ以上待つのも無駄だか、なら捕縛ついでに借りを返させてもらおう」

神主には申し訳ないが、男────神崎かんざきけんは、有り難いと心の中で感謝した。

「他の部下には、結界の方を任せた。桜香君を負かした腕、この目で見せてもらうぞ!」

ニヤリと笑みを浮かべて、踏み込んだ拳が仕掛ける。
間合いを詰めた瞬間、握っている刀を峰持ちにすると左首元から斜め下へ斬り下ろした。

「ふ、避けるか!」
「っ、容赦ないな!?」
「あれほどのことを成し遂げた相手だ。加減などしてどうする?」

首を狙った一太刀をトオルは、鞘ごと抜いて僅かに出した刀の腹で止める。
右膝で拳の腹部を押して退がらせる。後方に跳んで距離を取ろうとするが、すぐさま飛ぶように駆けた拳に間合いを詰められそうになる。

「逃がさんと言っただろう!」
「アンタみたいなのと相手している場合じゃないんだ!」

嫌そうにして剣を抜く。先程の件もあり出来れば避けたかったが、前に相手した女性剣士の師である。僅かに対峙しただけだったが、手を抜けば危うい相手なのだと、いち早く理解した。

(よし、壊れたらジンに弁償を頼もう!)

もはや足を引っ張りに来たとしか思えない決意を胸に。刀を抜いたトオルは、迫ってくる拳の刃を弾く。

それもただ弾いただけではない。気の圧を乗せた重い衝撃波を加えて、耐えようとした拳の上体を揺らして傾かせた。
両断することも出来たが、さすがにそれは駄目だと加減する。男のように峰で斬ることも考えたが、豪剣な自分ではあまり関係ないな、と断念するしかなかった。

思ったよりも強い衝撃と剣を持つ腕に掛かる重み。上体が後ろに倒れそうになる拳だったが、その衝撃以上に腕に掛かった異常な程の重圧に目を剥く。

「耐えるか、やっぱりやるな」
「っ……!? なんだ、この一撃は!?」

すぐさま魔力で腕を強化したことで無事に済んだが、一瞬手首どころか腕ごと持っていかれるような感覚に襲われ、内心冷や汗が出ていた。

(この男、魔法剣士ではないのか!? 鋭さ以上にとんでもない剣圧だっ!)

それも腕だけの話ではない。
目の前の男が自身よりも数段上な剣豪なのかもしれない、という恐ろしい可能性に。

警務部隊の隊長という立場だけなく、日本でも有名な魔法家系で神崎家の当主でもある拳。
そんな自分を超えているのか、悪寒で冷たくなる背筋を微かに震わせた、拳は感じ取ってしまった。

(まさか臆したと言うのか!? この私が!?)

負けることなど許される訳がない。試すような目から、強敵と前にした決死の瞳となる。
巡回させている身体中の魔力を高めて、魔力体に取得されている『一級位魔法』を発動させた。

「────“天を轟く雷天龍よ”、“我が刃となって咆哮せよ”!」

詠唱を唱えると刀から青白い雷が迸る。刀全体を隠すように覆うと、剣の形状となった雷の剣が生まれる。

それを拳は両手持ちで握ると、握った状態のまま両手を離す。

「『雷天の龍魔剣ライテンノリュウマケン』!!」

雷で出来た二刀の青龍刀を構えて、拳はトオルを鋭く睨むと……。

強化した脚力で、その場から消えるように跳躍。
今度は刃を向けて瞬きする程度の間に、背後に回り込むと横薙ぎの一閃を繰り出す。

「────」

だが、目で追うこともなく、背中に剣を盾のように回すことで一閃を防ぐ。その際に流れ込んでくる龍魔剣の雷に手首から体全体まで痺れたが、気で活性化した彼には麻痺効果は通じない。

流れるように体を横に捻って弾く。さらに後ろを体を回す要領で横薙ぎ。風の太刀『断斬ダンザン』の型で刀を振るう。

(っ、防御は危険か!)

トオルが振るう横薙ぎの射線に、立つのも危険と感じたか。後方に退がると同時に脚で地面を蹴る拳は横に回避する。

そして振るわれたトオルの刃から鋭い風の刃が飛ぶ。
予想通り回避したことで拳は無事であったが、ちょうど拳の後ろにあった巨大な数本の木は無事では済まなかった。

「な、んということを……」

幸いと言うべきか、神社の外まで斬撃が飛ぶことはなかったが、神社を囲うように並んでいる巨大な木類。斬撃を射線にあった数本が横にスパンッと斬れてしまった。

そして綺麗に伐採された木切れを見て、唖然とする拳は次第に青ざめていく。
もし避けなかったら自分がああっていたかもしれない。そう感じると心も落ち着かなくなり、やらかした男へ責めるような目で睨んだ。

「この罰当たりがっ! さっきのこともそうだが、やはり狂剣使いか!!」
「そっちも神社を壊そうとした癖に狂剣言うなっ! その雷剣も十分危ない物だろうっ!」

心外だ! と言わんばかりに剣を構えて、駆けようとするトオル。放った『断斬ダンザン』は確かに凶悪な斬撃を起こす剣技だが、男を斬るつもりなどないトオルはすぐさま否定したかった。

「心配ない。仮に壊れても我が家でしっかり弁償させてもらう!」
「ボンボンか!? 面倒クセェな!!」

しかし、それよりも早く持っていた片方の剣先を向けた拳。
口にした内容には問題しかないが、自身で弁償するだけマシだと思ったのだろう。


「撃て────“雷龍の息吹きドラゴン・ブレス”」


そして剣先から発光して、青龍刀が雷の龍へと変化する。
膨大な魔力を得て出現した雷の龍は、その大きな顎門から巨大なエネルギーの塊である、青白い雷の砲弾を放つ。

「おいおい、寺ごと吹き飛ばす気か!?」

ギョとした様子でトオルが叫ぶが、既に砲弾は放たれた後。迫り来る巨大な雷の塊に対して、咄嗟に動けなかったトオルは緊迫した顔で見つめる。

トオルの背後に建つ、巨大な神社。
それを丸ごと吹き飛ばせれる巨大な雷の球。
その前に立つトオルなど障害にもならない、容易く飲み込んでしまう程の馬鹿デカい龍の息吹き。

『一級位魔法』に相応しい一撃が、思わず立ち止まったトオルに襲い掛かった。


「────やれやれ、だな」


しかし、立ち止まったのは、後ろの建物を気にしたからである。
あちらの世界で何度も何度も死線を潜り抜けてきた彼にとって、この程度の危機など取るに足らない危機とも呼べない。





小さな壁だった。


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