オリジナルマスター

ルド@

第9話 師からの餞別と仕事人な2人。

「餞別だ、持って行け」

何年掛かったかも分からない、師匠が造り上げたダンジョンの攻略。
無事に、と言い切れるかどうか怪しいが、修業を乗り越えた俺は、元の世界に帰ろうとしていた。
すっかり馴染んだダンジョン内の自分の部屋の中。突然やって来た師匠がいきなり放り投げた物を掴んで見つめると……。

「何ですか、これ?」

渡された物を見ながら尋ねる。手首に付けれるような白色のブレスレット。シンプルな装飾がされて丸っこい魔石か? が、中心に埋め込まれており、何故か石には銀と黒色が混ざっている。

反射的に問い掛けたが、魔道具なのはすぐに分かった。
ダンジョンの攻略の過程で手に入れた魔法剣。俺には勿体ない代物なのは当たり前だったが、アレを扱っている俺には、これが魔道具なのは識別しなくても理解できた。いや、こういった物の大半は魔道具なので不思議ではないが……。


ただ。


「大した物じゃない。『究極原初魔法ウルティムス・オリジン』の術式が内蔵された改造型の魔道具なだけだ」


残念ながらそのレア度までは、鑑定するのは無理だった。

というか、全然大した物ですよ。
俺の世界からしたら核兵器です。
戦車や戦艦などの近代兵器も真っ青な殲滅兵器です。
どんな魔法か知らないけど、絶対ロクな魔法じゃありませんよね?

「あの……師匠、さすがにこれは受け取れませんよ? こっちならともかく、俺の世界じゃ使い道なんてありませんって。それに俺の魔力量じゃ絶対発動できないでしょう? 持ってたって、どうせ使えないだけですよ」
「まぁ、気持ちは分かるが、ちょっと待て」

非常に受け入れ難い、と手にあるブレスレットを返そうとするが、どうしてか受け取ってくれない。こんな物渡されても本当に困るのだが……。

「安心しろ、それにもちゃんと制限が付いている。お前の状態に合わせてあるから、使えても精々週1回が限度だろう」
「で、魔物を倒す度に解放されていくと。色々と制約が付いている俺のように」
「そうだ。お前の場合は戻った際に起こる、肉体と魔力体の大きな障害を回避する為だが、それも成長と共に解消されていく筈だ。その魔道具も同じように成長していく」

そう言われてもなぁ、結局持ってても困るのは変わらないのだが。
口にはしてないが、顔に出ていたのだろう。師匠がそんな俺の思考を遮るように続けて告げてきた。

「思うところもあるだろうが、まぁ聞けって。そもそもそれは、実験も兼ねた代物だ。魔力量の都合でこっちの通常魔法や原初魔法が扱い辛かったお前でも使える……いや、違うな。お前のようなタイプにしか使えない特殊な原初魔法が入っている。その最新の物がそれだ。ま、タイプとは言ったが、現状はお前にしか無理だろうが」

指で俺が持っているブレスレットを差す。どうやら自身作ならぬ自信作らしい。
しかし、言っていることの前半は何となく理解はしたが、後半に関しては疑問を覚えてつい首を傾げてしまう。……最新など不穏な言葉が混じっているが、そこは隅に置いておこう。

「俺のようなタイプにしか使えないって、どういうことですか? 問題の魔力量が関係ないなら、魔力の少ない俺以外でも使えるのでは? 原初魔法の中には、魔力以外の代償を求めるものある。これもそのタイプってことですか?」

師匠の言う通り、確かに俺の魔力総量は少ない。
2種類の魔力が保持しているが、そのどちらも修業を重ねてもそれほど増えなかった。

師匠の推測では、俺の魔力を保有できる器は一般の魔法使いと変わらない。
だが、元々2種類の魔力を持っていた弊害から、保有可能な器が2つに分けられて小さくなってしまった。

さらに悪影響は続いてしまったのか、本来鍛えれば増える筈の魔力総量が殆ど増えることがなく、器は見習いの子供の魔法使いよりも小さく、この歳まで止まってしまっていた。

など、当時説明されたことを思い出していると、まだ気にしていたのか、ふと投げかけた問いに若干申し訳なさそうにして、師匠は目を伏せていた。

「そのことについては、こちらにも責任がある。思わぬ形でお前にそんなモノも棲みついてしまった。何とか改善出来たらと思ったが、……結局それほど変わらなかった」
「それでも少しは上がりました。それに諦めていた魔法使いの道に、また歩けるようにしてくれました」

それに酷い話ではあったが、納得する部分もあった。

子供が勉強の為に用意された初級魔法。
少な過ぎる魔力量から、俺はそれしか使えなかった。
向こうの世界では、上の中級魔法を覚えるにしても、初めに大量の魔力を消費しないと取得が出来ない。だから俺の魔法使いとしての道は断たれ、俺はみんなから・・・・・逃げるようにジィちゃんの家に引きこもった。

「あのまま腐り落ちる筈だった俺を師匠は拾ってくれた」
「……」

師匠達に会えたお陰で立ち上がること出来た。前を向くこと出来るようになった。

原因が師匠達にあったとしても、俺にとってはもう過去のことだ。
恩こそ感じても恨み辛みなんて少しもない。……地獄のような修業コースに関する恨みについては別であるが。

「異世界の魔法も全然使えませんでしたが、それでも鍛えていただいたお陰で、別の道を見つけること出来ました。本当に感謝しています」
「魔法の道と言っても邪道の道かもしれないぞ? 向こう側でも間違いなく、はぐれ者として扱われる」
「だとしても、俺の……俺のような人間には、こっちの方が合ってます」

邪道なのは否定しない。だけど身に付けたことに後悔はないし、しっくりきたのも事実だ。
向こうに戻ってどうなるか、全く分からないが、こちらでの修業で得た物は、決して無駄にならないと確信していた。

「そうか……」

そんな俺の言葉を聞いて何か感じたか、目を閉じて黙り込む師匠。しばらくして閉じていた目を開けると、微かに困ったような顔して頷いてくれた。

「なら……それもきっと役に立つ。邪道な魔法使いに相応しい、2種類の魔力で扱える奇跡の1種だ」
「奇跡ですか?」
「ああ、もし扱えたら本当に凄いぞ? オレが封じたお前の6つのチカラと同等以上だと思っていい。何せそれは……」

そうして、師匠は手に持つ魔道具に宿っている、魔法について説明してくる。
2種類の魔力が必要で自分にしか使えない原初魔法だと聞いて、出来れば使いたくないと思いつつも、俺は黙って耳を傾けた。





「仕方ない、とりあえずこの場は退場してもらうか」

何故かトオルさんの不始末を負うことになった。
倒れ出す塔の先端がとうとう40度近くまで傾いて、今にも落下しそうになっている。
既に俺は地上から離れていたが、地上から騒然とした人々の悲鳴が聞こえてきそうだった。

「『異次元のディメンション……」





「はぁはぁ……」

だが、そんな悲鳴のような騒めきも、数秒後にはどよめきへと変わる。
発動の為に掲げた手を下ろした俺は、息を切らしつつ空の景色を見てうんうんと頷いた。

「質量が尋常じゃなかったけど……なんとか、なった」

汗で出るほど暑苦しいが、白いローブを着て銀の瞳と髪をした俺は、もう空と雲しか残っていない・・・・・・大空を見上げた後、一変した地上の喧騒につい視線が移った。

というかホント汗が止まらない。
魔力以上に精神力の消耗が激し過ぎた。

「おっと……」

同時に今度は自分の体が傾いて落ちそうになる。
擬似の究極原初魔法ウルティムス・オリジンで変化した状態だと、相性の問題か【天地属性】が上手く使えない。炎の噴射による飛行もやめていたので、落ちそうになっていた。

「はぁ、不便だな」

……足裏に魔力を乗せて、空気を蹴って上手く調整する。
普段は炎や風を扱えるので使わないが、魔力操作に慣れている俺は問題なく上空に留まる。出来ればすぐ地上に降りたいが。

「はぁはぁ、厄介な能力もあるようだったが、あそこに飛ばしたし、しばらくは問題ないか」

この状態だと魔法に対する解析能力が数段跳ね上がる。
だから師匠が扱う空間魔法を使用して、塔全体を指定の場所へと飛ばす寸前に、塔に関する解析も済ませていた。

その際に覆っている結界の能力や塔────ダンジョンその物の情報も流れてきたが、当分は危険なことに発展はしないだろう。あの空間に閉じ込めて置けば、しばらくは放っても動けない筈だ。

それよりも。

『あの方とアジトを何処へやったっ!?』
『許し難い行為です、死をもって償いなさいっ!!』

「やっぱり、来るよね」

呆然と見ているしかなかった敵さん2人が、すごい殺気と憤怒な形相で迫って来た。
何が起きたか理解できなかったようだが、俺が何かしたのは理解したらしい。ま、手をかざして立派な塔が消えたら誰でもそう思うか。

「戦えなくはないが……ちょっとしんどい」

それぞれ異なる方法で空を飛んでいる。
見た目がエロいダークエルフは鞭を構えて、背中に紫色の妖精のような羽を振るわせて来る。
老けた赤い魔法使いは、地上から一直線に飛んで来る。何らかの方法で空間を歪めて、見えないエスカレーターのように自動で移動していた。

『“毒々しいの棘”────“毒なる薔薇の鞭ポイズン・ローズウィップ”っ!!』
『“原形崩壊ゲシュタルト・ダウン”』

あの巨漢の怪物にも引けを取らない気迫。
触れるとヤバそうな紫色の鞭と空間を歪める何かが迫って来る。
まともにやり合えば俺も厳しい。
間違いなくAランク〜Sランク相当の敵だった。


「やっぱり俺には厳し過ぎたか……、そういう訳で頼みますわ。お2人さん・・・・・


なのでタイミングよく動いていた、2人に任せることにする。
この状態の俺も出来なくはないが、頑張り過ぎると後に響くので、ここは2人に委ねて見た。

「やっと、私の出番ですか。任せてください、一瞬で終わらせましょう」
「なるほど、おれの出番でもあるわけか。……ボインな方はそっちに任せるよ」

気付かぬ内に奴らの背中を捉えるように、地上と上空から動いていたヴィットとまどかが仕掛ける。

いつの間にか出していた銀色の弓と矢を構えていたヴィット。矢の先を空間を利用して移動する老けた魔法使いに、狙いを定め終えている。

ダークエルフのように背中から妖精のような黒い羽を出したまどかも、人差し指と中指で銃のような構えをして、ダークエルフの背中を捉えていた。

『────ッ!? いつの間に!? しかも、その羽はまさか地獄の……!?』
『────なんと! 四神使いの破魔の矢か!?』

ダークエルフの女も真っ赤な老けた男も激情して察知出来てなかったか、それぞれ狼狽した顔で慌てて振り返って目を見開いていたが……既に遅い。

2人の必殺攻撃の方が直前で硬直する、彼らに届いていた。


「────“刻み込むは黒印の一射”『闇色に穢れた弾丸ダーク・スナイプ』」
「────“銀浄の流れ星シューティング”」


瞬間、まどかが扱う闇系統の『一級位魔法』の銃弾と、ヴィットの銀の矢が同時に敵の背中に命中する。

その一瞬、ダークエルフの女の周りから出て来た、精霊と思われる紫の蜂たちが庇おうと間に入ったが、無数に増えた闇の弾丸に守り切ることが出来ず、抵抗も虚しく女の体に貫通力の高い弾丸が貫く。

魔法使いの真っ赤な老人の方も、咄嗟に歪めていた空間を操って障壁代わりにしようとしたが、障壁をまるで砂か粉雪か、飛来する矢が届くと共に音もなく崩れて、まるで意味もなく飛んできた矢を通してしまった。

なんという手際の良さか、俺が隙を作ったのもあるかもしれないが、大した合図もなくこの2人は難なく仕留めてみせたよ。

「凄い手際だよ2人とも」

……ただ、任せてみた俺が言うのも失礼かもしれないが、容赦ないな。
つい、ぶるっと震えたよ、超怖。

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