オリジナルマスター

ルド@

第3話 魔導の極みと対峙し合う面々。

「うぉおおおおおお!」

《帝天》の白き雷を纏ったジークが空を飛び帝都の横断。
魔物の大群を荒ぶる雷で死滅させて抜けると、戻って今度は斜めにもう一度横断する。握られている大鎚も振るい手当たり次第粉砕して行った。

「唸れ!! ───“天雷”!!」

そして見つけた魔物を雷で一掃する。この繰り返しである。
空からの攻撃は“神の大鎚ミョルニル”と《帝天》を纏った彼が行なっていた。

『ガァアアアアアア!』
「っ!」

が、中にも手強い存在が混じっていた。
──竜種。恐らく邪竜の《竜王》の類だろう。数匹が現れるとジークに襲いかかる。旋回してジークが避けると同じように旋回して追ってくる。

『ガァアアアア!』
「トカゲ共が!!」

同胞にも当たらない位置にだと、背後を取った一体が黒炎ブレスを吐く。
《竜王》程の威力はないが、邪気を込められた黒炎がジークに迫って来る。

「……っと!? もう───邪魔だ・・・!!」

《帝天》の雷を纏った大鎚を回転させて、雷のシールドで黒炎のブレスを防ぐと、雷に乗って急激に速度を上げて移動。火を吹いている邪竜の上から顎門を大鎚で叩き込んだ。

「閉じてろ! トカゲ野郎がッ!」
『ゴブッ!?』

衝撃で顎門が閉じ流し込まれた雷と、逆流した黒炎が体内で暴れて膨張。
体内から雷が荒れ狂うように外に放出されると、最後に爆炎が漏れ全身から煙を上げて邪竜の一体が落下した。

『ガァアアアアアア!』
「やっぱ怒るか。いい気味だぁ!」

その様子を見ていた他の竜は当然怒り狂う。揃って口に黒炎を溜めて放とうとしているが。

「ま、関係ないがな!!」
『ッ!』

白き雷に扱って空を移動する。一瞬で邪竜たちの真上に飛ぶと大鎚を振り上げる。莫大な量の白の雷が放出されて集まると、両手で持ち邪竜たちへ溜め込まれた雷を落とす。

「堕ちろ!! “撃雷”!!」

出力を上げていき絶えず攻撃を続けるジーク。
怒り狂って状況判断が低下していた邪竜たちは、攻撃をもろに受けてまとめて感電死して落下していったが……。

──シュンッ

「──!」

気配を感じたジークは、咄嗟に背後から頭部を狙ってくる光弾を躱す。
ハッとした顔で振り返ると飛行型の魔獣が多数。種類様々でこちらを狙い距離を取って攻撃をしようとしていた。

「まだまだこんなにいるのか。魔力温存のつもりが……とんだ役を引き受けたか……」

嘆息しつつも“神の大鎚ミョルニル”を構える。
雷を放出させると“神の大鎚ミョルニル”本来の青き雷。《帝天》の白き雷が同時に駆け巡り彼の頭上で形を成して……。

「さぁ大掃除といこうか? 『雷神轟々ライジン』」

雷を纏う青と白の二つの巨人が両腕を組み、睨むようにして魔物たちを見下ろした


◇◇◇


【───ッッ!!】

(大魚だなこりゃ!!)

《鳥王》に集中している《海王》に代わり、帝都周辺の海を回っていたジークは海中に潜む魔物たちと対峙している。
魔法でしっかり呼吸を確保して同じく魔法で海の中を駆け巡っていた。

「『淵天の皇海衣ヘイダル ・ウィザード』! 『魔の淵界へ誘いの杖ヘイダル ・ロッド』!」

姿は海系の魔物の大半が自然界の魚に酷似している。
向かってくる巨大なサメや人喰い貝。タコやイカの姿をした巨大な生物が襲いかかるが、海系の魔物を凌ぐ程の速度でジークは泳いでみせた。

「『淵深界の鎮没流ヘイダル ・ストーム』」

青藍のオーラと錫杖を持つジークは、水系統と闇系統の合わせた融合魔法を発動させる。
海中に生まれたいくつもの青藍の渦。錫杖を振るうジークの動きに反応して渦が移動して魚雷のように接近していたサメなどの魔物を捕まえた。

『ッッー!』

捕獲され際は暴れて逃れようとする魔物だったが、しばらくするとパタリと動きを止める。

(暴れても無駄だ!)

水系統の鎮静と闇系統の精神干渉の効果で意識を奪っていく。避けて突撃してくるモノもいるが、水の抵抗を感じさせず錫杖を扱うジークによって叩き落される。
受け流され払われると、また同じ青藍の渦を生み出して放ち、向かってきた敵を拘束し意識を狩り取っていく。

(鎮まれ!! 『沈黙沈静サイレント』)

捕縛に特化している《淵天》で深海の魔物を眠らせていった。

「ん?」

そこで上空から無数の黄金の炎が降ってくる。
戦闘している《鳥王》と《海王》の影響か、火の粉が鎮火せず深海にまで落ちてきていた。

「ち、『沈黙を示す淵天の盾ヘイダル・サイレント』!!」

《淵天》で扱う強力な障壁を展開される。渦状の青藍色の障壁で火の粉を逸らしてしていくと、彼が発している魔力に気付いたか、海面の先で《鳥王》の叫びが深海の彼の耳にまで届く。

「気付かれた──ならいいか」

《海王》からは手を出すなと念を送られたが、《鳥王》から狙われる可能性が出た以上、牽制の意味を込めて手を出さない訳にはいかない。

(向かって来るなら、逆にこっちから潰すまで!!)

障壁を解くと海面まで一気に水中移動から浮上。飛び出すと予想通り《海王》のしつこい海流の槍を躱しながら飛行し接近する《鳥王》を目が合った。

【クォー!】
「喧しい焼き鳥が!」

錫杖を振るい迫ってきた《鳥王》の爪を弾く。お返しに錫杖から生み出した大きな輪を投げるが、燃える翼によって跳ね返される。

(《淵天》の沈静効果が通らないのか!?)

青藍の鎖を生み出し渦と共に放つが、回転するように弾く《鳥王》の旋回力と黄金の炎が《淵天》の属性魔力を通さない。

「───その技は!!」

固有スキル『鳥王の金炎焔鎧エルドラード・フレイ』を纏った《鳥王》がそのまま突っ込んで来た。

「ち、くそ……!」

咄嗟に錫杖で盾にするが、続けて飛び散るように放たれた火の粉の散弾がジークを動きを封じる。反動で押されて体勢が崩れたところを《鳥王》がクチバシで突き追撃してくる。

【クォオオオオオオー!!】
「しまっ────」

触れるだけで灰になりかねない金炎の散弾に苦戦するジークを見て《鳥王》がさらに燃え上がる。
全身に纏う黄金の炎の出力を一気に引き上げて、灼熱に燃え上がり太陽の如く突っ込んで来……。

【グゥ……!】
【──ッ!?】

だが、その太陽の矢がジークに届くことはなかった。
離れた場所から海流を飛ばしていた《海王》だったが、《鳥王》が標的をジークに移したことを感じ取っていた。

【グゥ……】

自分を無視された形となったことで《海王》が一層憤慨する。
固有スキルでもある【圧】を最大に引き出して、固有スキルの『海王の暴殺牢獄グラヴィティション』が太陽の如く燃え上がって突っ込む《鳥王》を空中で捕獲した。

熱すら外に出さないほどの力で押し留めて見事に邪魔してみせた。



「───“融合”」



そして火の散弾攻撃が止んだことで自由になったジークが反撃に移る。
纏っていた《淵天》を解いて全身から水系統と土の属性魔力を放出させ、そこから分けて出すようにして闇属性、光属性、無属性をほぼ同じ分だけ引き出して、水属性と土属性に合わせて融合させた。

(クジラが作ってくれたチャンス。無駄にはしない!!)

《淵天》に似た属性色である青藍よりも濃い藍色のオーラ。
海を支配する《海王》と似ているが、その海さえも飲み込んでしまう無限の底を作り出す奈落の力。

「今度のは重いぞ? 奈落に落ちろ!!」

最強クラスの融合属性の一つ《天海》。《帝天》のような荒々しさや《天王》のような支配力も感じられないが、揺らめくように流れる《天海》オーラにもまた他の二つのような異質な気配が感じられた。

そして纏った瞬間、彼の真下を流れていた海流、海そのものが沈む。
大穴が空いて彼を避けてそこまでの海流が地割れのように裂けていた。


「“我が道を行く王の激震”────『天海王の蹂躙ポセイドン』」


大海を凌駕し大地をも制するチカラ。
海と大地のエネルギーを膂力に変換させて拳を打ち出した。
空中で止まっている《鳥王》から離れた位置であったが。

「砕けろォ!!」
【ッ──!!】

大気を破壊して次壊すら引き起こす程の一撃が《鳥王》を粉砕する。
すぐさま再生することになるが、待っていたかのようにジークは拳を打ち鳴らす。

「まだ足りないか、再生するならさっさとしろ。何度でも眼が覚めるまで・・・・・・・粉々にして魂まで粉砕し切ってやる」
【グゥー……!】

耳元に《海王》の抗議するような念が聞こえてくるが、無視して再生する《鳥王》に目を向けた。

「カッ!」
【クォー!】

憤怒の瞳を宿したソイツを目が合った瞬間、ジークの“大海大地を震わす拳”と“金炎の爪”が激突した。周囲の大気を震わせて互いに拳と爪を振るいぶつかり合った。

【グゥー!】

当然ように《海王》は不満の息を吐いた。
邪魔するように前方へ【圧】を放って、自分もと言わんばかりに水中から彼らに向けて海流を操作した。


◇◇◇


「どうなってるんですかこれは!?」
「それはオレも聞きたいんだがなぁ!? ロリの探知魔道具ならアイツを捕捉出来るんじゃなかったのかよ!?」
「煩いですよ中毒者! 私だって戸惑っているんですから酒臭い息を吐かないでください!」
「この状況でもオレには辛辣だなぁオイ!?」

帝都にある滅びた帝城。
そこに用意された作業室内に映っている映像の魔道具の前で、技師でありながら《雷龍》の異名を持つピンク髪の女性ミーア・ホーガと《泥酔》の異名を持つ元冒険者バイク・コールが頭を抱えている。

一人しかいない筈のジーク・スカルスが何人も現れていた。

自分もいったい何を見ているんだと、ミーアは設置している魔器が故障したかと目を凝らしてみるが……。

「念のために聞くが、映像機器の故障とかじゃないよな?」
「……いえ、寧ろ正常に機能しているようです。現に空間移動をした対象もしっかり捕捉してますし」
「ていうことは……全部分身ってことか? まぁアイツの魔力量を考えればこの数も納得はいくが」
「それが、それもちょっと違うようなんです」

映し出されているのは帝都全体の各地点。点滅している光はジーク・スカルスの魔力の反応である。他にも魔力の高さも多少は測ることも可能であるのだが……。

「仮に分身魔法だとしたら本体よりも魔力が少ない筈なんです。彼の保有する莫大な魔力量を考えるならこれだけ増やせばより目立つんです。でも、こうして捕捉出来ている彼の反応の全部からは、同じ分だけ・・・・・の魔力量しか出ていません。多少の誤差があってもおかしくないのに大小もなく反応している全部から確かに彼だと証明できるほどの魔力量が出てるんです」

「……は? じゃあ、この反応してるアイツらはなんだって言う──っ!」

訳がわからんと額に手を当てるバイクが目を見開く。途端、背後に生まれた気配に気付き嘆息混じりに振り返り……。

「……本当に困った人ですね」

ミーアはすぐには振り返らなかったが、映像で反応している彼の点滅の一つが帝都の中心地へ。

───城。正確にはこの場所へ侵入して来た。

「不法侵入ですよ。ジークさん・・・・・
「久々だなぁミーア? 背伸びた?」
「ええ! 伸びましたとも! あなたも相変わらずですね!?」

空間移動を使ったのだろうか、久々にからかってくるジークに失礼だと憤慨する。

(私の目が節穴ではなければ、この彼は本物の筈。……センサーは他の彼も本物だと反応を示してる。……これはどういうこと?)

鉄槌の雷でも浴びせようか真剣に考えるが、どうせ戦闘になっても勝ち目はない。すんなり対話ができたことや空間魔法が使用された時点で普通の分身では出来ない。

背後の彼こそが本体だとミーアは思いたいのだが……。

「ふぅー、それでどうやったんですか? 分身魔法でもこの数は普通おかしいですよね? というかあなたが本物ですか?」

心の中にある疑念が彼女を決定付けさせなかった。

あはははははは・・・・・・・! これならどう見える? なぁ? お二人さんよ?」
「……」

ニヤリと笑みを浮かべて昔のような作り笑いをするジークに、ミーアは間違いなく本人だと推測でもない心の内にある直感が言っていたが……。

(直感もアテにならないレベルの分身だと言うことですか? ここまで強力な魔法は原初でも非常に珍しいタイプですかね?)

同時に不信感も否めない。いくら彼女の直感が本物だと訴えていても、彼の魔法がそれを凌駕出来ないという保証が一切ない。……寧ろ出来る方が納得してしまうくらいだった。

「はぁ……ジークよぉ」
「おお、バイク。お前もしばらくだな。まだ酒飲みがやめられないのか? 朝とか昼とか以前にもう──」

ドンッと重く鈍い音と同時に部屋の入り口から騎士甲冑が数体入って来た。
一度口を閉じ入り込んでくる全身鎧の騎士たちに一瞥したジークは、先程のバイクのような嘆息の息を吐いている。

「戦だぜ? 戦えるのか?」
「知らねぇのか? オレの異名を」

笑みで返すとバイクは懐から酒のボトルを取り出すと一気に呷る。
程良く酔いが回ったか良い笑顔で、腰に差していた武器。鎖で繋がられた棍棒を二つを構えた。

「ああ、よく知っているさ。───「このうつけが・・・・・・」」
「……うえ? ───ゲッ!? 嘘っ!?」

そしてジークの姿が霧と光に紛れて消失。
次に出現した金髪の妖艶色香を放つ魔女が彼らの前に現れた。
同時に彼女の中心に凄まじい魔力の渦が発生。妖艶な顔とは裏腹に冷気の如く冷め切った殺気を放っていた。

「この飲んだくれが……! 覚悟は出来ているだろうな?」
「勘弁してくれよ……! アンタまで出張って来るのかよ!?」

《妖精魔女》シャリア・インホード。

「そなたらだけは私が直接手を下さねば気が済まんのだ。特にバイク。そなたは覚悟しておけ? 私の下で現役の冒険者でありながらこんな馬鹿なことに加担しおって……!」

ジークと入れ替わるように現れたシャリアは、普段の陽気な雰囲気は一切なく、憤慨した様子で酔っ払いのバイクを睨み付けている。

「そなたにはそれ相応の罰をくれてやる。一生酒が飲めんほど徹底的に恐怖を与えて、己のしたことを一生悔いさせてやるわっ!!」
「超恐ろしいことを言うなぁ!? てか、飲めなくなったら死を選ぶわ!!」
「だったらくたばれ戯けが!!」

怒気も隠さず魔女の杖を握り締めてシャリアは言い放つ。
《魔王》が引き起こした大戦もそうだが、最も許せないのは自分のところギルドに所属していた者が世界征服などにいう、ふざけた大戦に加担したことだった。

「しかも、よりにもよって友を狙っている連中の仲間だとは……!! 王都での一件も、ここで精算してもらうぞバイク!!」

盗賊や犯罪者などとは規模が違う。
それらも許せないことだが、戦争に加担して世界を混乱させ大勢の人間を苦しめた彼ら行為を、シャリアは決して許せなかったのだ。

「マジでどうなってんだよ……。サラッと入れ替わりやがった……!」

冷め切った怒気を当てられた所為か、一瞬酔いが覚めて冷たい血流が体全体に巡るバイク。
まさかのギルドマスターの登場という予想外の展開も原因だが、本気状態とも言える大人の姿をした彼女が目の前にいることも理由である。

「その状態のアンタとだけは戦いたくなかったんだがな!?」

ウルキアで長いこと冒険者でいた彼は知っているのだ。
この姿をしたシャリアこそが《達人》の中でもSSランクに近いと言われた《妖精魔女》の本当のスタイルだということを。




「《妖精魔女》さんですか」

酔いで緩んでいた頰が一気に引き締まるのを感じる中、隣で冷静に。だが内心動揺しているミーアから口が開かれる。

「恐らく特異の原初魔法でしょうか? 分裂それぞれが本体であり分身体。分身を触媒にすることで入れ替えの転移を行えることも可能と。なかなかレアな魔法を所持していたんですね彼も」
「そなたもだろ? 量産型のゴーレムとは考えた。対魔法戦用をこれほど増やすとは大した技量だ……だが」

感心したようにミーアに言うが、笑みを浮かべてシャリアは杖を振るう。
すると床に輝く魔法陣が描かれる。ゴーレムたちへの対応策として彼女もまた用意していたのだ。

「召喚の魔法陣?」

職業柄術式を見るのが得なミーアは、すぐにシャリアが用意したそれが何の魔法陣かを読み解くが……。

「では頼むぞ。クーよ」
『ふふふ、遂に我の出番か!? 待ちくたびれたわ!』

「…………」

出現したソレを見た途端、切迫した状況も忘れて彼女は絶句した。
嫌そうにしていたバイクも呆然として、微かに後退りシャリアの前に召喚された巨大なソレを見上げて息を呑んでいた。

「何だぁ? そいつは……」

全身が茶色く毛深い皮膚を持ち丸っこく巨大な肉体。
剛力のような腕と先の爪を持ち口元からは猛獣の牙が見える。

「いや、待って? ……もしかして以前、森の奥に棲んでるって言って警戒されてた……!?」
『ふふふふふふっ』

世間一般の知識からは少々大きいが、彼らの知識が正しければ自然界の動物である……筈だった。

(『王』にも届くと言われた守護獣!! 情報じゃジークも手こずった怪物っ!!)

ウルキアの守護獣こと熊のクー。
かつては《暴君》とも呼ばれた怪物が今、魔女と共に世界を脅かす者共に牙を剥いた。

「マジか、よ」

ウルキアに住んでいたが、ミーアは知らなかった。だが、冒険者であったバイクはもしやといった顔で頰を引きつらせる。

「最悪だ」

ウルキアの森で派手に暴れたことがある《暴君》の噂も、彼は知っていたからだ。


◇◇◇


原初魔法『奇術師の極意イリュージョン』とは、使用者と同一の霊体を生み出し操るものだ。操るということは、それ自体を変化させ利用することが可能ということだった。


分身と違うのは、霊体として分裂したが、本体と繋がっていることだ。霊体を通して魔力が共有される・・・・・

だからすべてのジーク・スカルスの魔力量は同じですべてが本物と言っていい。実際の本体は一人だが、各個体で魔力量を操作することも可能。
あえて同じにしたのは敵の動揺と特に魔法の知識の高いガーデニアンと技術者であるミーアたち目を欺き、疑念を抱かせて彼の存在をより印象付けさせる為。


相手が探知できることを彼は利用した。
集中力を乱して徹底的に追い詰める為に。


後は器である肉体を作れる方法さえあれば何人も用意することが可能だが、『奇術師の極意イリュージョン』を覚えたジークはその先も目指した。霊体から肉体化へ。霊体状態のまま肉体化を行えるようにした。

そして、突然ジーク・スカルスが複数出現した。
ミーアが仕掛けた彼の対応の魔力探知魔道具に複数反応があったのは、直前までただの霊体のみして飛ばしていたから。ただの霊体状態の場合、生命維持に必要な最低限の魔力量より遥か下、よりゼロに近くても行動可能だった。


ガーデニアンは《海王》に掛けた呪縛を彼の魔法では解除できなかった筈だと言ったが、彼が行ったのは居眠り状態だった鯨を拳骨で起こしたようなものだ。
霊体の状態で《海王》の肉体のさらに奥になる《海王》の魂に接近。接触と同時に霊体を活性化させることで“電気ショック”に似た衝撃を浴びせ《海王》を起こした。事前に《帝天》の雷で弱わせたことも大きい。縛りが弱まれば支配も弱まる。

興奮状態で目覚めた《海王》自身に呪縛を力任せに解かせたのだ。

ただし万能でもない。何人も生み出される訳でもない上、数を増やすごとに制約が掛かってしまう。
そのうちの一つは、分身体が使える原初魔法の回数。分身体一体のみであれば制約も厳しくないが、現在生み出している分身体は十近く。入れ替わって煙のように消失しているのは限界の回数以上の使用をした結果だ。二つ目からは発動後の原初『奇術師の極意イリュージョン』が解けてしまう。

さらに分身体たちと本体が繋がっている弊害か、分身体が使用している原初魔法は他の分身体や本体も使用することができない。

分身体がやられて本体にダメージが返ってくることはない。ただし膨大な術式量を誇る原初系は『奇術師の極意イリュージョン』とでは相性が悪かった。

ただ代わりに彼が扱う“専用技スキル”と“技法”には相性が非常に良かった。
“融合”も併用することで彼自身とほぼ同レベルの攻撃力を持った戦力を投入することできた。


『策を巡らせたということかァ? お前にしては随分無茶な手……いや、寧ろらしいか?』
「らしいかどうか知らないが、策は策でも愚策かもな」


そうして帝都の城にある皇帝の玉座。
そこで胡座をかいて座っている男が口元に弧を描き突如現れた者へと向ける。

堂々とした歩きで男の眼前に立つと同時に姿を現した三人も背後で控えていた。
計四人のジーク・スカルスが《魔王》の玉座の前に登場したことで、帝都での戦いはいよいよ最大の佳境へ進もうとしていた。

『クククッ! 随分面白いことをしている。霊体を操る技法とは前にはなかったな』
「準備も代償も手間取ったが、必要だった。この時のために……お前に話があるんだ《鬼神》」

手元に銀剣を呼び寄せて構えるジーク。
背後の者たちも同じように剣を構えている。各々異なる属性の身体強化を纏って《魔王》と対峙すると。

『知らないのかァ? 今のオレは、《魔王》だぜェ?』

笑みを浮かべる《魔王》は暗黒のオーラを出して座ったまま見据える。全身から真っ黒なオーラに包まれ微かに見えるのは白髪と赤い眼光。纏っているオーラの一部をマントのように扱って、姿だけなら魔族のそれと同じかそれ以上の風貌に見えていた。

発する存在感も間違いなく、すべての生き物の頂点に立つ。
何度もシミュレーションしたが、やはり本物の方が危険度を肌で感じられる。
改めて無謀な挑戦となることをジークは嫌々ながら感心しつつ、やはりアイリスの案に乗るしかないのかと、未だ来ない彼女の連絡を待つ。

「どっちでも一緒だ《怪物モンスター》。お前はもう人間とは呼べない」
『元から人外扱いだったがな。……で? そんなオレに一体何を話すんだ?』

どうでも良さ気だが、暇つぶし程度には聞く耳があるようだ。
内心《魔王》の気まぐれな思考に感謝しながら、脳裏で必死に思考を加速させる。

展開、戦術、時間を整理し照らし合わせていく。
必要なのは時間だろうが、タイミングも重要。
他で戦う自分や彼らの戦局も気にしつつジークは本題に入った。


「今や崩壊しそうになっているこの世界の補強とバランスを守る為のアイデアさ」


◇◇◇


遂に各地でバラけていた戦力同士が対峙して、戦の火が爆炎のように巻き起こった。

──海では《海王》と《鳥王》そして《天海》を纏ったジークが激突。
《魔王》の呪縛で未だ精神が操られている《鳥王》を倒し正気に戻す為、ジークはいよいよ奥手を披露する。

──帝都の監視塔付近では、《剣導》と《氷結魔女》が《賢者》と《天魔》に挑もうとする。

《剣導》であるトオルの二刀の妖刀が《天魔》の魔剣と聖剣と激突。二刀流使い同士の戦いが今始まる。

《妖精魔女》の同じ魔女の称号を受け継いだ《氷結魔女》サナの魔法が繰り出される。だが相手は元最強の魔導師で《賢者》と呼ばれて『派生属性』も扱う猛者であった。

──帝都の城内部では、《妖精魔女》と守護獣《暴君》が《雷龍》と《泥酔》に牙を剥こうとしている。
《妖精魔女》のシャリアが繰り出す光と精霊の魔法が二人を惑わし欺く。《暴君》のクーが固有スキルが発動しゴーレム供を一掃する。


そして静かに動き出す六王最後の一角。
不滅にして無敵と呼ばれた魔人──《幻王》。

それに迎え討つのは最強クラスの二名。
金色の翼と風を纏う刃が魔人を斬り裂く。


ジークと《魔王》デア・イグスも衝突して帝都での戦いは、今まさに激烈の如く荒れ狂い始めていた。

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