オリジナルマスター

ルド@

第2話 現れる六王と惑わす魔導の力。

「始まりましたミスケル」
「ええ、上手くいけばいいのですが」

聖国王都にある特別な会議室内。そこで各地を見られる巨大な映像用の球を前にシィーナ・ミスケルとリグラ・ガンダールは真剣な表情で見つめる。

ジークが放った雷が合図となったか、各国々が一斉に攻撃を開始していた。
狙うは自国の周りを蠢く魔物の軍勢。量産された対魔法師用のゴーレム兵器。

そして控えている六王。【十二星】《最上神獣級》と呼ばれる怪物たち。

毒々しい紫色の瞳と鱗を持つ蛇──《蛇王》。

獣の頂点に君臨する獅子──《獣王》。

新しく王の一角に加わった暗黒翼を持つ竜──《竜王》。

全部で三体だけだが、どれも巨大かつ莫大な魔力を持っている魔物の王たちだ。

《蛇王》の魔眼は毒を生み出し、《獣王》の牙や爪はあらゆるものを穿ち、《竜王》が吐く息吹きはすべてを吹き飛ばし散りにしてしまう。

しかし、三体のみであるのなら国々も賭けに出ても良いと感じた。

『中立国』、『妖精国』、『聖国』はSランク級の者たちを大量に投入して怪物たちに挑みかかる。他にも名が通った猛者たちも呼んで敵を撃破していく。

「……」
「……」

が、そこで不審に感じた者たちがいた。
共にいたガイが戦況を見つめながら連絡部門に指示を送る中、シィーナとリグラは難しい表情で視線を合わせず口にする。

「いましたか?」
「いいや、私にも見えない」

たったこれだけの会話であった。
視線を画面に向けて何かを探している。そんな二人に不審に思うガイだが、彼も彼で余裕などなく二人なら何かあれば知らせてくるだろうと指示に集中する。

その合間も視線を巡らせる二人。
戦局が進んでいよいよ六王たちも動き出そうとしているが、二人は一切口出しをしない。それは当然想定の内だった為、二人共とくに口を出そうとはしなかった。

だが、未だに視線を巡らせ続けて少々不安そうに眉を潜めてると、嫌な予感をしつつ改めて隣に立つ者に尋ねた。

「……いましたか?」
「……いいや、やはり見えない」

映像球の中で暴れ出し蹂躙しようとする《獣王》の脚を無数の槍や剣で止めた《変幻》、《夜叉》とも呼ばれたバルト・ランサーと気の斬撃で頭部を打った《剣豪》カトリーナ・エリューシオンが豪剣を構える。

獣や鳥、竜を混ぜて人型の合成獣キメラとなる《変幻》が七本の獣手で剣や槍、斧などを構えて、剛の気を解放させた《剣豪》と共に動きを止めた《獣王》に飛びかかった。

戦場を焼き尽くそうと《竜王》が巨大な黒き息吹を出すが、迎え撃つように蒼き竜王と呼ばれた《竜帝》デン・ソードが剣を振るう。黒の息吹きは両断されると狙ったように放たれた《姫騎士》ティア・エリューシオンの聖剣の斬撃と《黒剣》リンの剣撃が打ち消す。
《竜帝》は騎士の姿のまま一部を竜化させると、《竜王》と一騎討ちするように空中で睨み合う。


《蛇王》の魔眼が紫色に輝こうとしたが、それを阻害するように生まれた血に塗られた妖術の障壁と炎の精霊魔法で生み出された障壁が阻む。《死相》ホロウ・スタッフと《巫女》カグヤ・シンドウが前に出て《蛇王》の魔眼を抑えて《剣聖》ゼルダード・クラムが振るう光剣が《蛇王》の鱗を斬り裂く。だが、やはり老いたか威力が足りず喰らい付こうとする《蛇王》。そこをすかさず《炎槍》と《雷槍》の師弟の槍が《蛇王》に押し戻す。


次第に加速していく戦場。まだ始まったばかりであるが、既に頂上決戦と呼べるものへとなっていた。

魔物たちを束ねる六王はまだ半分しか出ていないが、それもまだ想定内。仮に増えたとしても倒さず足留めをすれば問題ないのだ。この作戦で重要なのは出現した六王や《魔王》幹部の足留めだ。撃破を目標にした作戦でもあるが、最大の目標は敵戦力を押し留めることだった。

敵の戦力は確かに圧倒的だったが、それはすべて《魔王》デア・イグスがいたからだ。
六王に関しても従わされているというのが大きい。《蛇王》、《竜王》は別かもしれないが、少なくとも《鳥王》、《海王》、《幻王》は話が通じる相手だ。会話こそ無理だが、正気にさえ戻れば人を襲うようなことはしない筈だ。

なので六王についてはそこまで危惧はしてなかった。
シィーナとリグラは焦り出しているのは、戦いが始まってしばらく経っているのにも関わらず、未だ姿を見せない幹部メンバーたちだ。

情報では直前まで率いていた筈の幹部たちが突如全員が姿を消していた。考えたくはないが、恐らくこの場よりも重要な場所へ急行したのだろう。

そしてそこは何処か。
少し考えれば答えなどすぐに分かる。

「幹部たちは《魔王》の方へ戻りましたか。なるべく抑えておきたかったんですが、やはりあの子たちに任せることになりそうですね」

もちろんそれも想定に入れていた。
可能な限り戦力は送っているが、果たして《魔王》まで辿り着けるかどうか。
できれば自分も向かいたかった彼女だったが、万が一にもこちら側が墜ちるわけにはいかない。

なにより弟子を含め彼らも成長した。
今なら共に同じ場所で戦える筈。そして弟子もまた前よりも強くなった。今度は確実に勝つと言って飛び立った彼を見たのだ。

(信じてますよジーク)

心の中で弟子の言葉を胸に抱いて、彼女は真っ直ぐな眼差しで戦いが繰り広げられる映像球を見つめる。いざとなれば自分も参戦する準備を整えながら、戦局がいつ覆るかも分からない荒れ狂う戦場に意識を集中させた。


◇◇◇


ジーク・スカルスが使用した原初魔法『奇術師の極意イリュージョン』は分身魔法のようだが、正しくは魂に干渉し扱う魔法だ。

人型の魔力体を生み出してそこに自身の魂を上書き。本体とリンクして擬似自我を植え付けることで独断のようでしっかりと本体で操作できる分身体を生み出すことが出来る。
つまり分身体は応用技なのだ。

本来の用途は別。『奇術師の極意イリュージョン』が扱うのは分身だけではない。魂を干渉させ組み合わせることで他の奇術も披露することが可能だ。

「な、なぁ? 本当に大丈夫なのか?」
「問題ない」

困惑した様子で尋ねるトオルにジークは素っ気なく答える。もうお叱りは終わったので任務開始となったが、どういうわけか彼らはまだ海岸に居る。というのも遅れて来たジークが何故か座り込んで何かをし始めたから。

その何かが理解できないトオルは真っ先に問いかけようともしたが、さっきまでの動揺したのが嘘のように真剣な表情でいる彼の雰囲気に慄いて言い出せず、体調の心配を口にするだけで精一杯であった。

「け、けどジーク。貴方さっきから抜けてない? その言ったら悪いけど、魂的な……何かが?」

言っている自分も自信が持てないか、疑問符でおずおずと告げるサナ。普段は彼に対し知り合いの中でもっとも素っ気なく、時に敵意も向ける彼女まで戸惑いの様子である。

「何よこれ……霊体スプリット、いえ魔力体が分裂してる?」

彼女の視界に胡座あぐらをかいて瞑想するジークがいる。一見それだけにしか見えないが、高位の魔導師でもある彼女には明らかにそんなレベルではないと気付く。感知が難しく目でも見えない。ソレが体から抜けていくが、気付いただけでそれ以上のことは分からない。

(もう一つの魔力の肉体である魔力体は本来身体から抜けない筈。しかも分裂してる? なんで? 数も分からないしそれぞれが独自に動いてる?)

王族直属の魔導師にまで上り詰めて、一般の常識とは違うであろう魔法の領域に立つ彼女さえ起きている光景に目を疑ってしまっていた。

だが、それだけ現在起きている現象が現実離れしているとも言える。高位の魔導師で知識がそれなりにある所為か、魂が関係していることを見抜いたが、魂を扱う魔法は基本禁呪術に該当している。目の前の青年がそれを理解していない筈がないが……。

「ね、ねぇ? 貴方さっきからそれって……」
「いま集中している。悪いがちょっと黙ってくれ」
「っ……! ごめん」

実はこうして彼と組むのは初めてな為、こういう時の彼を知らないサナはやや辛辣な対応をする彼に少々怯んでしまう。
それはまるで大人バージョン鬼教官状態の師に睨まれた時のような気分。昔と違い彼の正体は既に知っているが、ジークも同じ気を発せれるのだと分かるとどうも悔しい気持ちにもなった。

それは怯んだ自分か、それとも彼に対してか。

(……やっぱり経験かしら? 昔よりは強くなれたと思ったけど、まだ追い付けてないというの?)

別に超えたいなど無茶なことを考えているわけではない。チカラの差が才能云々ではないことなど彼女も分かっている。

けれど、彼に対する負けん気が彼女を突き動かしたのも事実。幼馴染の彼女が彼に惚れ込んでいることもあってか、何年経っても対抗心がどうしても消えず今なお残ってはいたが……。


「まぁ──こんなもんか」


しかし、ジークがそんな彼女の心境を察するかどうかは別だ。
生憎と今の彼にあるのは、やり残した過去の清算のみ。突き動かしているのは、護りたいものがあるから目的があるからだ。

(十〜十二くらいが維持の限界数か。使用可能な原初も一〜二ぐらいだが、まぁ今回は質よりも数だ)

万の軍勢を倒すこと自体はそれほど難しくない。彼一人でも力をフルに活かせば六王を全部相手することも可能であろう。だが、その先の帝都を根城にする《魔王》だけは不可能だ。

成長した今の彼の魔力総量なら消耗もそれほど気にする必要はない。だが余計な体力、精神的な消耗はなるべく避けた方がいい。

しかし、彼の魔力は向こう側にバレてしまう。空間を移動して隠密で動くのは難しい。どう考えても彼が帝都──《魔王》の下に乗り込むには陽動が必要だった。

だから手っ取り早い方法はないか、数年が経ち多少は常識を学んだ筈の彼は、万を超える魔物たちを倒し、なおかつ帝都全体を惑わせ大混乱して乗り込む方法として──“質より数”と“助け合いの精神”を借りることした。

「待たせたか? さぁ来い」

もっとも助けを求めるのは二人だけではない。
拒否権もなしの一方的な利用であるが、言葉をかけると海の方から良い反応が返ってきた。

最もそれを感じ取れたのは彼のみだが。

「よし、行くぞ」
「「へぇ? ──っ!?」」

そして準備を終えたジークが立つと、待機していた二人に呼びかけて出発。
茫然とする二人を無視して海岸を飛び降りた。

「どうした? 来ないのか?」
「いや、来ないかって、ジークこいつは……」

──ように見えたが、その体は落下することなく宙に浮いている。
真っ先に浮力の魔法を使用したのかと二人は思ったが、到着した時から使用する強化魔法以外、彼から魔法が発現されているように見えない。

単純に感知出来てないだけと思われたが、不意に視線を下に向けたことで、その疑問に対する答えが一瞬で判明する。

絨毯のように敷かれた波が視界に入ったからだ。

「そんな! 波、いえ海が支配されてるなんて……! こんなの、いくら貴方でも……っまさか!?」

なんと荒れている波が一箇所だけ、足場となって彼の足元で敷かれている。
しかも全体を見てみると足場となった一箇所だけではない。荒れていた海全体が先程とは異なる揺らめきをしていた。

【……】

そして戸惑ったサナからハッと察した声が漏れる中、海の先で大きな渦が発生。そこから異様な存在感が漏れ出すと、荒れていた波が生き物ように蠢き渦の周りで踊り出す。そして大渦が大きなり中心から闇のような深き穴の顎門が開くと、踊っていた波が動きを止める。

【……】

『『……ッ!?  ッ!?  ッ!?』』

すると偶々遠くの方で飛んでいた魔物たちに意識を向ける。まるで敵か獲物でも捉えたかのような蠢く波が一斉に動き出す。触手のように掴むと大渦の中心、顎門のように開いて闇の底へ落とす。海の魔物も潜んでいたようで、海から操り引き上げるとそれらも大口へと導いていく。

【ボリボリ、モグモグ……】

波が打ち鳴る音に紛れて魔物たち断末魔が聞こえたが、それも僅かな間のみ。大渦の中心で響くのは猛獣の咀嚼の音。骨ごと砕いて波の音にも負けず落ちてくる獲物を喰うていた。

「よしよし、良い子だな。喰わせてやるからちゃんと頼むぞ?」

【ゴクゴク……】

その様子にジークがうんうんと頷き笑顔で話しかけると、渦の奥で何かを飲み込むような音が返ってくる。なんとも不可思議な光景だが、一応コミニケーションは取れているようだ。

「「……」」

ただ、そんな光景を見ていた二人は沈黙しながら頭痛でも覚えたか、揃って頭を抱えて何故自分たちが選ばれたのか、今頃になってようやく気が付いたのだ。

「よしっ! じゃあ移動しながら作戦を伝えようか」

常識を覚えた筈の元超越者だったが、常識外れな無茶苦茶な思考は未だに健在だった。

海の方へ鳴り響いた雷鳴と雷がそれを証明するかのように、目を閉じそうになるほど眩く高々と鳴り響いていた。



◇◇◇



「──妙だのぉ」
「何がです? 《大賢者》?」

場所は北の大陸。かつては最強の『帝国』と呼ばれたネフリタス。
《魔王》が支配した魔物たちが徘徊したことで、民の大半が姿を消し廃墟とも呼べる帝都にある塔の一つ。

眉をひそめて首を傾げるクロイッツ・ガーデニアンに《天魔》シルベルト・オッカスが尋ねる。周りに対する警戒も緩めないようにしながら。
ガーデニアンは別であったが、シルベルトは本来王都を攻める魔物の軍勢を六王と共に率いていたのだ。

それが急遽ガーデニアンからの通信で空間魔法を使って、帝都にある監視塔にそれぞれ配置することになった。この場にはシルベルトとガーデニアンの二人のみだが、他の幹部の面々も別れて帝都の外を監視していたのだが……。

「海の方は静かになった。飛行型と潜水型の魔物の大群を徘徊させた筈が」
「……そういえば。けど彼処は《海王・・》の根城にさせてますし魔物も数多くいる。いくら攻撃の手数が多い《魔導王》でも正面突破は控えるのでは?」

言われてみて海の違和感に気付いたシルベルトだが、気のせいではないかと首を横に振るう。老師の言葉に反論するつもりなどないが、海からの侵入はまずないというのが彼の高い予想だった。

「しかも地の利を得た《海王》が見張ってるんですよ? 消耗戦になるのは避けられない相手が潜んでいる場所を通りますかね?」

引退した筈の《魔導王》が動くことは最初から想定していた。
なので対応策は色々と立てていた。仮に攻めてきたとしても遅れを取られないように。

「やはり想定通り空間魔法で侵入してくるのでは? こちらが察知できることを想定して一気に《魔王》様の場所まで攻めて、他の超越者が我々の前に阻む可能性が一番高いと思われます」

もっとも空間魔法を得意とする《魔導王》。
だとすれば帝都を囲う見張りの魔物の軍勢も意味もなさない。なら我々がそこを補うように配置していれば……。そう考えていたシルベルトだが。

「……いや」

サングラス越しに海の方を見つめるガーデニアンだったが、何か感じたか一層眉を歪ませると老体を動かしてシルベルトの前に立つ。

「どうやらどの想定にもない手を選んできたようだ。どうやったか知らんが、海の戦力はほぼ意味を無さなくたったようだのぉ」

「? それはどういうこっ、……?」

老師の言葉の意味が分からず疑問符を浮かべ尋ねたが、そこでシルベルトも感じ取ったか。老師が向けている視線の先を訝しげに見つめていると、ようやく海が異変を起こしていることに気が付いた。
その時だ。

ドドドドォォォオッッーー!!

海の向こう側で離れた塔からでも見えるほどの高く巨大な水柱。
霧飛沫も起こして辺り一面が景色が一変する。霧状の煙が天高く昇るのが見え、爆音とその衝撃は離れていた帝都全体に轟き、街に群がる魔物や幹部たち、そして王室の玉座に座る《魔王》にも伝わる。

が、それを視界に取られていた二人は何が原因で引き起こされたのか、離れた状態の中でもハッキリと目撃する。
巨大な水の爆発と同時に出てきた巨大な魚類の顔を見た途端、二人の表情が険しいものと驚愕のものへと変貌した。

「っム!」
「!? これは! どうして!?」


◇◇◇


【──グゥゥゥゥゥゥ!!】




──《海王》。

六王の一角にして海の王者。
攻撃的な《獣王》とは対象的に穏やかな性格をして正体は青藍の巨大な鯨。王者などと呼ばれているが、実際人を襲うことも殆どなく、秩序を乱し海を汚す海賊や魔物に絞られる。

だから彼の魔法で《魔王》の呪縛から解放されて正気に戻った《海王》は、真っ先に海を荒らした魔物を喰い潰した。長い間縛られていたことに対するストレス発散もあっただろうが、結果として《海王》は解放してくれたジークと協力することを選んだ。

そして魔法で意思疎通がし易くなり、ジークは簡単なお願いを《海王》に頼むと《海王》もすんなり内容を受け入れ了承したというわけだ。

【グゥ……】

そうして現在。
北の大陸付近で思いっきり背中から潮を吹く。
大きな水の爆発が起きて、これで周囲に轟いている筈だ。《海王》は視線を動かすことなく常に発している超音波で遠くの帝都の様子を、そして側に浮いている彼の存在を認識して「こんな感じでどうだ?」と意思を鳴き声で伝えると。

「ああ、十分だ。お陰で結構楽ができたし、敵も場所がだいたい分かった」

【……】

「分かってる。奴らが来たらそっちに譲ってやる。けどその中にもし年寄りのグラサンが出て来たら、俺がそいつをやるからそいつだけには手を出すなよ?」

【ッ……】

言葉が通じるか以前に耳がないようなのですべて念話で伝えている。
水爆と言ってもいいレベルの巨大な水飛沫を眺めながら、念押しにと彼が言うが《海王》は不満そうな反応を返してくる。どうやら自分たちを操った集団は全員、自ら始末をつけたいようだが。

「不満そうにするな。他はくれてやるって言ってんだから妥協してくれよ。それに正気に戻した借りがまさか雑魚狩りと共有探知だけで済むとか思ってんのか?」

【グ……?】

「甘い甘い、貸し借りはちゃんと同じ分だけ返さないとな? わざわざ手間がかかる解除をしてやったんだ。そのくらい……っと、来たようだな」

【グゥ……】

などと念話で話し続けているとジークが気付く。『短距離移動ショートワープ』を使用してその場から移動する。
《海王》も当然気付いたが、同時に不満そうに息遣いをして海流を操作。

【クォー!】

飛来してきた巨大で神々しい火の鳥──《鳥王》に向けて何本も生み出された海流の尾を放つ。

火の鳥も飛びながら両脚の爪で迎撃する。海流の尾を切り裂いて急接近し、一気に《海王》の背中を切り裂こうとしたが……。

爪先が微かに触れそうになった瞬間。
伸びた脚先が《海王》の皮膚を拒絶するように逆方向に曲がってそして折れた。
《鳥王》が微かに呻くように鳴き退こうしたが、《海王》の眼力が《鳥王》を既に捉えていた。

ボキボキボキボキボキッ!  
グチャ、グチャ……!

《海王》が操る超重力の圧力が《鳥王》の肉体を四方から押し潰す。
そこから追い討ちをかけるように火の粉となって崩れて海に落ちていく《鳥王》の残骸に向けて、《海王》は海流の尾を操作し《鳥王》の残骸を海に叩きつけた。

さらに魔物たちを喰い尽くした時ような深き大穴の顎門で海流ごと残骸を飲み込むが……。

【……!】

黄金の爆炎が閉じようとした顎門を破り高々と舞い上がった。

【クォー!】

蘇生能力によって《鳥王》が海から羽ばたく。
黄金の炎を纏った姿はまさに不死鳥。
《鳥王》の誇りとも言える大きく翼を広げて、海面の生き物を見下ろした。


そして空の王と海の王が睨み合う。
六王同士の対決が今始まろうとしていた。


◇◇◇


海で睨み合っている王同士が激突した衝撃は、離れていた帝都内にまで届いていた。

余波にって建物が揺れて崩落しかけていたものは崩れ落ちる。既に人がいない為、廃都なっているが、飛行魔法でそこまで飛んでいたジークは苦笑しつつ、怪物同士が暴れているであろう向こう岸の海へ視線を向けていた。

陽動にして彼は反対方向から飛んで来ていたのだ。

「じゃあ、そろそろこっちも始めるか? 老師」
「ふん! 見てくれは多少成長したようだが、中身はまだ小僧のままか。その笑みは昔のままだのぉ、スカルスよ?」
「そういえばお二人は教師と生徒の関係でしたね。僕とも王都の試合以来かな? 久しぶりだね元学生さんだったジーク・スカルス君」
「黙れ《天魔イケメン》。ギルさんからお前の顔をボコボコにしていい権利を貰っているから覚悟しろよ?」
「あー、やっぱり先生は怒ってたかな?」
「生かして捕らえなくていいって言われた」
「ハハ……ですか、やはり研究所で《剣豪》さんを傷物にしたのは不味かったかぁ」

こちらを見つめる二人へ声が届くように言う。
姿は見えてないが、ここまで移動した時点でジークはしっかり把握していた。

「でも本当に意外だよ。まさか馬鹿正直に正面から来るなんて。……いや、《海王》を囮にしているから馬鹿正直という発言はちょっと違うかな?」

「バカ者なのは間違いなかろう。して、どうやって手懐けたかのぉ? ぬしの魔法でも奴の“死の呪縛”は解けんと思ったが……」
「原初を沢山保有しているそうですから、いくつかを使ったのでは?」
「王が扱うのは圧倒的な支配力だ。小僧のソレもまた支配力に繋がるチカラだが、アレは魔力が原点だ。今や魔力という枠から外れた王のチカラを消し去るのは簡単ではない」
「勝手に話しているところ悪いが、呪縛を解いたというより解かせたようなもんだ。答えを言うつもりはないが、日々成長するのさ。そう、俺たちは」

そして風の如く現れた《賢者》クロイッツ・ガーデニアンと《天魔》シルベルト・オッカスと出会う。二人とも武装しており杖と二刀の剣を構えていたが。

「俺たちは? ──む!?」

彼の言葉に引っ掛かり覚え、訝しげに首を傾げたガーデニアンだったが、そこで視界に映っていた筈のジーク・スカルスの姿がブレる。無属性の魔力が体から光り出して彼の姿を隠した。



「本当は俺がやりたかったがしょうがない。じゃあ……「交代だジーク・・・・・・」」


──と、光とブレが収まった瞬間、まるで手品のように彼の姿が変わる。
見た目だけを変えた変装ではない。声も変わって魔力も気配も違う。さっきまでその場に居たジークではない。完全に別人がその場に立って彼らと対峙していた。

「ッ!?」
「遅え……」
「っ……!」

咄嗟にシルベルトが剣を抜こうしたが、気付けば自分の首元に刃が添えられていた。目でも捉えれない速度で、薄い気の刃を纏った刀を握り締めた男が不敵な笑みを向けている。あっという間に生死を握られた状態となったが、やはり彼も剣士か。

シルベルトも笑みで返して死闘となるであろう、強敵手トオル・ミヤモトを見つめた。

「動くなよ《天魔》」
「へぇー、君か《剣導》」
「ミヤモトか!? ぬしも来ていたか、昔と見た目どころか気配も全然違うから気付か──ぬ? とういうか、さっきまで小僧だった筈が何故?」


「────俺がどうかしたか?」
「っ!? どうことだ!? 二人? 分身!? いや、確かに本物だった筈が……!」

若侍の和服姿をしたトオルの登場。発する気の質も以前とは大違い驚くガーデニアンだったが、入れ替わるように消えた筈のジークが再び登場し驚きが困惑へと変わる。

空から降りてきた彼の姿を掛けているサングラスを外しそうになる程、目を凝らしてこっちが本物な筈だと見極めたのだが……。

「じゃあ、こっちは任せる」
「ああ、任された。お前もしっかりやれよ?」
「ああ──「ヘマしたらただじゃおかないから」」
「ッ! ルールブ……だと!? どうなっとる!? 分身と入れ替えの空間魔法か!? だがさっきの奴も……分からん! 本当にワシでも分からん原初系の魔法か!?」

また同じようにブレて光に包まれると女性の声が返ってきた。サナとも入れ替わったことでガーデニアンの脳裏に浮かぶ疑問符がさらに増えたのは言うまでもない。

元々ジークの魔力を感知出来て、その上で彼が本物だと瞬時に見極めていた。それも新たに出てきたジークも含めてである。

しかし、その長年の経験で身に付いた洞察力を裏切るように二度も入れ替わった。変装でもないのは間違いなく、空間魔法を使っての入れ替わりだと思われるが、ガーデニアンはまるでその場にいたジークが魔力源となって、彼女たちを移動させたようにも見えた。

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